マイナー能力者が往く異世界記   作:じろー

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第80話

「紹介するネ、急遽という事態にはなったが新しく私達の計画に協力してくれる京ヨ」

 

「……よろしく」

 

 学園祭当日の夜更け、夜も明けぬ中、薄暗い一室で京は紹介された。

 その小さな一室の中には京を含め4人の影、それが計画を成功させるべく動くフルメンバーだった。

 京は短く挨拶を終らせ、鈴音の横に佇む。

 

 京はなんだかんだであっさりと学園に潜入することに成功している。

 それもそのはず、京を特定の情報で探知することが非常に難しいからだ。良い意味でも悪い意味でも京はこの世界に縛られない。魔力も気力も存在しない京は勘とか気配とか接近して近寄らなければわからない程度には一般人に映ってしまう。素顔を見られない前提の話だが。それも学際準備の仮装として受け入れられなんの問題も無かった。

 

「話には聞いていましたがやっぱり協力してくれるというのは本当だったんですね、あの……あの時は一体どうやって……」

 

 鈴音の紹介から少しだけ驚いていたようなメガネを掛けた少女はそう京に問いを投げようとした。

 あの時にこちらを伺っていた一人だろうかと京は思う。同時に良く受け入れられたものだとも思い、この組織は鈴音を中心として機能しているのだろうと理解する。

 

「まぁまぁ、個々の友好は後にしてもらいたいネ。とりあえず各々にはあらかじめ伝えてあると思うが新しく彼が入ったことで変更もあるからブリーフィングをしておくヨ」

 

 京が問いに答えようとしたとき、鈴音がそれを遮り一区切りをつけた。

 

「今回の計画、既に多くの不足の事態が発生してるネ。異常気象による世界樹の魔力の早期流出、イレギュラーの発生……、まぁ色々ネ」

 

 一瞬チラリと京に鈴音は視線を移すがすぐに逸らした。

 正式名称「神木・蟠桃」、世界で数えるほどしかない巨大な力を秘めた魔法の樹であり、それは22年周期で溢れた魔力が周囲に溢れ出す。それによる弊害もあるほどで、この計画はその溢れ出した膨大な魔力を利用しなければならない。しかし、異常気象によって1年その周期が早まり予定が少々狂ってしまっている。

 

「気取られないように着々と事を進める予定だたがこちらも少々派手に動く必要が出てきた」

 

 強制認識魔法の全世界規模での発動、最大限効果を齎すには布石が必要なのである。強制認識魔法といえどそれは実際微々たる効果だ。"魔法なんてあるはずない"という気のせいにさせてしまう魔法を"魔法があるかもしれない"という疑問系に変える程度の魔法なのだから。それは大きな違いかもしれない。だが現実ではその効果を発揮させるには長い時間が必要になるだろう。

 その為の布石、それは情報の流布、魔法があるかもしれないという認識を確信に変えさせる情報、それが必要なのだ。

 本来は麻帆良を主とした周辺に少しづつ噂程度に情報を流し下地を作る。そこに強制認識魔法と併せればそれは事実として受け止められることだろう。それは事を起こすまでその真意を誰にも気付かれず、気にも留められない。

 が、魔法樹の早期魔力流出が原因でそれが行えなくなった。

 それに対応するために鈴音も派手な手に打って出るしかなくなったのである。

 

「まほら武闘会を開催するネ。その為に武闘会系のイベントは全て買収、統合させてもらった。抜かりは無いヨ」

 

 鈴音の手、それは一瞬にして魔法を暴露する一手だ。

 

「宣伝もする予定ネ。大々的なイベントになるヨ。私はその一部始終をネットに暴露してやるネ」

 

 それこそが布石、下地となる重要な作戦となる。

 ネットに流したところで合成だ特撮だと微塵も信じられないだろう。だが一度強制認識魔法が発動すればそれは逆転する。一瞬にして魔法は存在すると認識されてしまうのだ。

 

「賞金も奮発したネ。大会の膨大な参加者の中には魔法使いもいる。彼等には私達の布石を彩って貰うとするヨ。ただ魔法使いがあまりいない可能性もありえるネ。ぬるい格闘戦など中継しても無意味ヨ。保険に真名に出てもらう予定だったのだが……」

 

 鈴音はもうし訳なさそうに最後のメンバーの一人、龍宮真名に目を向けた。

 

「代わりに彼に出てもらうね」

 

「は……?」

 

 ボーっと流し聞きしていた京は寝耳に水だと驚き、鈴音に目を向けた。

 そこにはニコリと笑顔の鈴音がいる。

 

「イレギュラーも多発して、この先もどうなるか怪しいネ。真名には私とハカセの警護を含め臨機応変に動いてもらいたいヨ。彼なら十分に盛り上げてくれるだろうから安心ネ」

 

「契約変更でも構わないよ。一応私も超の考えに賛同している者の一人だ。それに報酬さえもらえれば私から文句を言う道理などないさ」

 

 色黒で長身、どこが中学生なのか疑いたくなる少女、ストイックにやり手の傭兵っぽいことを言っている。

 

 嗚呼、茶番にしか見えない。

 

 何となく、鈴音の考えがわかる。魂胆が読める。

 京は全く、微塵も、これっぽっちも信用されていない。いつ何をしでかすかと戦々恐々とされている。

 協力を得たという建前があるとはいえ京はこの学園内ではお尋ね者である。それを外に出して、態々事態を混乱させる要素は無いのだ。かといって、内部で守護を任せるにはリスクがあり過ぎる。

 鈴音は京を飼い殺しにしたい。自分の目の届く範囲に置いておきたい。手を出させる余裕を与えたくないのである。

 それは多少のリスクを犯しても実行しなければならないことだった。

 既に京の来る前に話がついていたなと京は思った。

 

「1000万はちと惜しいが……」

 

 ちょっと本音が漏れている。

 

「それが終ればあとは簡単ネ。世界樹が本格稼動する学園祭3日目夜、私達がこの日の為に作ったロボット軍団を駆使して魔法先生達を鎮圧、強制認識魔法を発動させるヨ」

 

 それが早々上手くいくとは誰も思っていない。

 まほら武闘会の中継、ネットの流布によって主催者の鈴音は相当に警戒、いや、その時点で敵と認識され捕まえに来ることだろう。限界まで警戒された状態で鈴音達は事を起こさなければならない。乱戦は必定だろう。

 

「まぁ、流れとしてはこんなところネ。まほら武闘会の開催と同時に魔法先生達からも警戒、最悪こっちの要所に探りを入れられる可能性もあるヨ。その場合はロボットに撃退させるが、人によっては2人に排除を手伝ってもらうからそこのところはヨロシク」

 

「了解」

 

「……わかった」

 

 抜かりはない。完璧とまではいかないがこの作戦は覆りのないものだろう。その為に鈴音はこの日の為に準備し、計画を練っていたのだから、天才と呼ばれる彼女に隙があろう筈がない。

 京としてはつまらない。とてもつまらない。

 万事問題なく事が進むのであれば京が手を出す隙はおそらくないだろう。それほどに警戒されてしまっている。何か対策があると考えていい。

 

「以上。まほら武闘会は2日目から、本格的に動き出すのはそこからになる。まぁ各々自由に行動していて構わないヨ」

 

 そう締め括り、鈴音は解散を告げた。

 皆が散っていく中、京もフラリとどこかへ足を運ぼうとした時、ガシリと肩を掴まれた。

 

「あなたは私の護衛ヨ。こんな美少女と一日中べったりなんて役得ネ!」

 

「……あぁ、はいはい」

 

 引き攣った笑みで京は了解した。

 京にはその可愛らしい笑みが策士の笑みにしか見えない。造りが美少女だからか、その憎らしさに拍車が掛かっている気がする。

 こう人間は嫌いではないが苦手だと京は思った。

 

 

‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡

 

 

「ム、見つけたネ。科学の力舐めるんじゃないヨー」

 

 それから数時間後、京は鈴音と共に敵、魔法先生達の動きを探っていた。

 敵の配置、行動を読んでいなければこの先の不測の事態に対処できるかわからない。

 プロペラにカメラが付いたようなロボットを飛ばし、その映像がノートパソコンに映りだされる。

 そういえば京都襲撃のとき見たことあるなこれと京は思い、やはり鈴音はこちらを相当前から知っていて丸め込みにきたのだと、学園襲撃時の事を後悔した。

 鈴音の隣にはハカセ、2人で覗き込むように画面に食い入っている。京も遠巻きに画面を見た。

 

「ぉー、ぉー、揃い踏みで」

 

 そこには多くの、数にして10名強の魔法先生がいた。

 その中には京が半殺しにしたのもちらほらと見える。魔法の恩賜なのか既に復帰しているようであるタカミチの姿も見えた。

 そこには魔法先生であるネギと小太郎、刹那の姿も見える。

 

「とりあえず今映っている魔法先生が特に強い奴等ヨ。最終日は真っ先に潰しに掛かるネ」

 

「実際問題ロボットを抜かせば戦える戦力は3人だろう? ロボット軍団が太刀打ちできなかったらどうするんだ?」

 

「尤もな質問ネ。私もロボット程度で騎士団クラスの実力の魔法先生達がどうこうなるとは思ってないヨ。ちゃんと対策は打てあるネ」

 

 そう言ってニヤリと鈴音は笑う。

 

「それは聞いても?」

 

「秘密ネ」

 

 だろうなと京は思った。

 その対策とは京の対策にも用いるものだろうから、深く聞いても答えてはくれないだろう。

 京は指示にだけ従って3日間を過ごすだけになるか

 そう考えていると見つめる画面が砂嵐になり更新が途絶えた。

 

「ぁ、拙いネ」

 

 気付かれたかと鈴音は小さく嘆くと立ち上がった。

 

「魔法先生たちに偵察機がバレました。でも対魔法ステルスをどうやって……」

 

「魔法使いという輩は多かれ少なかれ独自の第六感を持てるヨ。英雄クラスともなればもう勘じゃ済まされないレベルネ。こういう場面の何故どうしてはあまり考えちゃいけないヨ」

 

 やたらと対応が早かったりする理由はそれかと鈴音とハカセのやり取りを見つめながら思う。

 悠長にしている暇はあまりない。こちらに気付いた敵はすぐさま向かってきていることだろう。

 

「んで、どうする? 正直護衛なんだが俺がいちゃ拙い気がするんだが」

 

 そう言う京は頭から爪先まで真っ黒なローブで覆い隠している。この世界ローブ比率が多いのかこれが結構パッと見でわかられないものなのだ。

 だからといって初日で騒ぎを起こすわけにはいかない。京がその場にいて正体がバレようものなら騒然必至だ。

 それに鈴音も頷く。

 

「少ししたら合流するヨ。それまで身を隠していて欲しいネ。ハカセはそこで迷彩掛けて隠れるヨ。ちょっと囮になる、なに上手くやるヨ」

 

「了解っと」

 

 すぐさま京はその場から退避した。

 鈴音は目立つかのように屋上から屋上へ飛び移っていく。

 京は路地の隙間から鈴音の行方に方角を見つめる。

 なんだかしっくりこないなと、京はこの突発的な一件について考えていた。

 そこに一人の影が現れる。

 

「はぁ……はぁ……」

 

「早かったね。気付くのはもう少し遅いかと思ったけど」

 

 余程急いでここに急行したのだろう。そこには息を切らせた小太郎の姿があった。

 それに驚くこともなく、半ば予想通りだと冷めた目で京は小太郎を見つめていた。

 

「久しぶり、って程でもないか」

 

「なんでアンタがここにいるんや!」

 

 小太郎の中で京の株は大分落ちたようだ。かつての程の距離を見出せない。

 京の最初の失敗はなんだったか、今でも忘れていない。嗅覚とかいう理不尽な感覚のせいで自分の存在がバレた時だ。

 男と女の違いはあれど、その存在は小太郎と非常に似通っている。いつか気付かれるだろうとは思っていた。ここまで早いとは思わなかったが如何せん距離が近かったせいだろう。

 あと一人バレてそうな奴がいるが気にしないでおく。

 

「神楽坂明日菜の誘拐」

 

「っ!」

 

「というのは建前で、実は決まってない」

 

 ずっこける小太郎が見えた。

 拍子抜けもいいところだろうがこれは京の偽らざる本心である。

 建前上組織の目的の為に着たがスルーは確定、京がこれから学園でどう動くかというのも未定である。

 理性的でありそうで実は考え無しなところがある京だ。きっとその場の思い付きでかわるだろう。

 

「なんだ。不満か?」

 

「……信じられへん。あんたのせいでどれだけ苦労したと思ってるんや」

 

「ま、だろうね」

 

 京から一切の視線を外さず警戒している小太郎に、京は問いを投げた。

 

「それで俺がここにいると知っている奴は何人いる?」

 

「誰もおらんよ。気付いてすぐに追いかけたから俺だけや」

 

「なんだ、つまらない」

 

 お前だけかと京は溜息を吐いた。

 もし他にバレているのならこの先の雲行きも多少は悪くなったのに、このままなら計画になんら支障はきたさないだろう。

 予定調和など糞食らえだ。

 

「で、どうする?」

 

 そして、最後に京は小太郎にこれからどするか、どういう対応をするか問う。

 小太郎は数瞬悩み、そして答えた。

 

「……何もせん言うんやったら放っておくわ、下手に手出してこの祭り滅茶苦茶されてもかなわんわ、ただし何もせぇへんかったらや」

 

「好きにすればいいよ」

 

 小太郎は学園側に属してはいても能動的に学園の為になるようには動かないだろう。過去の戦闘の結果もある。結局のところ学園襲撃時の学園側の結果は敵を取り逃がしただけでなく多くの怪我人を続出させた敗北といって差し支えない結果だったのだから、その二の舞を連想して、僅かながら京の人となりを知る小太郎が下した決断は放置、触らぬ神に祟り無しといったものだった。

 敵であった京がここにいる時点で何も無いなんてことはないことは小太郎にもわかっている。だがそれを事前に潰せるビジョンを小太郎は持てなかった。それだけだ。何かが起こってもそれは京に関係しているとわかっているだけ小太郎達としては動きやすくなる。アドバンテージがあるとわかっているだけまだいいほうだと思っているからだ。

 

「誓っていい。今回、組織は動いてない。俺個人としての野暮用ってところかな。別段何かしようって魂胆はまだ(・・)ないよ」

 

 そう言いながら両手を上げ敵意の欠片もないことをアピールする。

 

「そういうことにしておいてやるわ」

 

 そう言い残して小太郎は背を向けて歩いていった。

 それを見送った後、京も鈴音の方に向かってひっそりと移動していったのだった。

 

 

‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡

 

 

「いや~助かったヨ。流石ネギ坊主ネ!」

 

「いえ、僕は超さんの担任ですから、当然です」

 

 魔法先生達も鈴音が引っ掛けてきたネギ達が撃退し、一先ずの落ち着きに至る。

 鈴音の本性をネギ達は知らない。上手く使われているなと京は草葉の陰から一連の流れを見守っていた。とりあえず護衛の役目はこなしているつもりなのだ。

 

「でもどうして追われてるんですか? 追われるようなことをしているなら先生として僕も取り締まらないといけない」

 

「まぁまぁ、大したことじゃないネ。ちょっとした好奇心だったのヨ。もうしない」

 

「それならいいんですけど……」

 

 ネギも深い追求をすることはなかった。悪い人間ではないと芯から鈴音を信じている故だろう。

 そんなネギをどこか温かそうな目で鈴音は一瞬見ると、ネギに笑いかける。

 

「窮地を救ってくれたネギ坊主にはこの超鈴音から一つ悩みを解決してあげるヨ」

 

「えと、そんなお礼が欲しい為に助けたんじゃないですし」

 

 突然、鈴音はそんなことを言い出した。ネギもどうしていいかわからずいらないと答える。

 その光景に京は一瞬だけ眉を潜めた。

 

「何子供が遠慮してるヨ! 恩に対する礼儀は素直に受け取っておくのもまた礼儀ヨ! さぁ! お悩みは無いカネ?」

 

「えと、それじゃぁ……」

 

 強引な鈴音の押しにネギは1つ悩みを漏らした。

 曰く、学園祭スケジュールが自分の生徒達との約束で埋まりに埋まり、一人一人と遊ぶにも精々が一時間、ついでに学園警備の仕事も加わりすでに破綻してしまっているという話だ。

 その年にして八方美人にも驚くべきものがある。

 が、実際これは科学の力でどうこうできるものではないのではないかと京は思う。

 しかし、ネギはここに着て驚くべきものを取り出したのだ。

 

「それじゃ、これをあげるね。その問題を解決する科学の結晶ヨ!」

 

「……ありがとうございます」

 

 鈴音が取り出したものは精緻な細工が施された懐中時計、自信満々に取り出されたそれをネギは不思議そうな顔で受け取った。

 

「機能はあとで説明させてもらうヨ、ちょっと屋台の用事もあるからこれでお暇させてもらうネ。じゃ!」

 

 押し付けるものだけ押し付けて、勢いに流されポカンとしているネギ一行を他所に鈴音は颯爽とその場から走り去って行った。

 走っていく方向には様子を伺っていた京がいて、曲がり角を曲がると鈴音はその歩みを止めた。

 

「いや~、危なかったネ」

 

「その割には焦っているようには見えなかったけどね」

 

「策士は顔には出さないのヨ、アナタとの時も私はかなり焦っていたヨ?」

 

「……そうかい」

 

 会話では飄々としている鈴音に京はどうしようもない空虚さを感じる。

 しかし、どうしても気になるものがあった。

 

「なぁ、ネギに渡したアレ、一体なんだ?」

 

 科学の結晶と言ったあの奇妙な懐中時計、それが一体何なのか京は先程から気になっていた。

 

「航時機カシオペア、簡単に言うとタイムマシンネ」

 

「……へぇ」

 

 スッと京の目が細待った。

 久しぶりに抱くこの感覚はなんだろう。

 

「何故、それを渡す必要があるんだ? 危険じゃないか?」

 

 単純に考えて、カシオペアの存在が計画に支障をきたす可能性、それを持つものがネギであるということ、それは危険などという次元ではない。それを鈴音が理解していないはずが無い。

 京は今の予定調和のような失敗する隙のないこの計画をつまらないと思っている。それは実際、京が真に鈴音と仲間だというわけではなく、限りなく傍観者に近い協力者であるからだ。一つ事が大きく動いて欲しいと思うこともある。そこに自分の手が入る隙ができるのなら。

 だが、今の鈴音の行動は不可解極まりない。訳がわからない。自らの計画に不安要素を入れる理由がわからない。京が鈴音の立場なら波風立てないことを優先するだろう。

 京は一つの前提に罅が入った音を聞いた。

 

「恩返し、それじゃ不服かネ」

 

「いや、そう言うならそれでいいよ」

 

 予想通りの答えに京は薄く笑う。

 自分の建前のようなその答えに、とても不快そうに笑う。

 一歩前に、鈴音に近寄った。

 

「ただもう1つ、お前に問いたい」

 

「何ヨ?」

 

 恩返しというならそれでいい。きっとその気持ちも含んでいるのだ。

 その気持ちが計画に支障をきたす可能性を含んでいても、問題ないと思っているのだ。

 

 違うだろう。

 

 

「お前は俺の同類なのか?」

 

 

 鈴音の目を覗き込むように、京は正面から見つめる。

 初めて彼女と会った時、途中から完全に彼女のペースに巻き込まれ勢いのまま全てが流れてしまった。この感覚について考える時間はなかった。

 彼女は、超鈴音は違う。京とは異なる者だ。

 同類だから京は従っている。同類がすることに横槍は刺さないと虎視眈々としながらも傍観を由としている。

 もしその前提が崩れるというのならば

 

「……勿論よ。おかしな事を言う。それはアナタも納得したはずネ」

 

 鈴音は京の目線を外すことなく、真っ直ぐに答えた。冷や汗を流しながら。

 こいつは怒った時こんな目をするのかと思いながら、自分の失態を鈴音は理解した。

 

「先の行為について私は十分に理解しているヨ。それに彼は、ネギ坊主は私にとっても特別な人、そこは目を瞑っていて欲しい」

 

「……そうか、悪かった。もう何も言わないよ」

 

 自分が進める物事に私情をどれだけ挟もうと誰彼から文句を言われる筋合いなど存在しない。

 京の問いは無粋だったか、そう思うことで今の自分の感情を納得させた。

 少なくとも京と鈴音の違い、その答えに辿り着くまではもう何も言うまい。

 

「それじゃ、後は戻って明日からの計画について詰めていくヨ~」

 

 京の思いを知ってかしら知らずか、鈴音は切り替え、軽さ交じりで先を促しす。

 京もまたフッと溜息を漏らし後に続くのだった。

 

 

‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡

 

 

 麻帆良祭2日目、朝。

 

「麻帆良祭ご来場の皆様、まほら武闘会は午前8時より開始になります! 選手の皆様方は選手控え室にお集まり下さい!」

 

 まほら武闘会、その日がやってきた。

 前日の夕方に行われた予選会も京は難なく突破し、当初の予定通り本戦に入り込んだのである。

 そろりと黒いローブを着たまま控え室に入っていく。

 見覚えがあるのがちらほらと、計16人、その半分以上を京は知っていた。要は魔法使いだらけである。これは計画が捗るなと苦笑していいのか笑っていいのかは微妙なところだ。

 だが見たくない顔もいた。

 

「ゲッ」

 

「ぁ、貴様その反応は何だ!」

 

 予選会からいたのは知っていて、見事に相手に触ることなく敵を倒していたエヴァンジェリン、彼女も参加していたのだ。

 会って困るということは無いが彼女もまた京の苦手な一人である。

 ガーッと怒りそうになる彼女を人差し指で静かにとジェスチャーで制し、弁解を始める。

 

「どの面下げてっていうのもあるだろ? 悪かったよ」

 

「ふん、遠慮などせずに会いにくればよかったのだ。全く……」

 

 少しいじけたような口を尖らせて嘆くが、すぐにエヴァンジェリンはニヤリと笑う。

 彼女らしい笑みだ。

 

「まぁ、楽しみは増えた。お互い制限がある者同士、戦えることを祈ってるよ」

 

 京がここにいて、武闘会に参加する時点で大きな制限が発生する。

 今までの能力の使用不可だ。

 武器禁止、呪文詠唱の禁止、その時点で京は終っている。なんでもアリだとしても指名手配犯の武装を曝け出すなどは論外、公の場に出る時点で今までの能力は全く使えないのだ。精々が神の目程度、しかし、それも戦闘の役に立つかといえば否である。

 それをエヴァンジェリンはすぐに察し、手を振りながらその場から離れていった。

 

 それから第1回戦、第2回戦と着実に試合は消化されていく、京は4番目だ。

 どの戦いも一方が瞬殺するという圧倒的な戦い。既に人間離れしている戦いであった。

 京も京で魅せねばならない。

 

「お待たせしました! 只今より第4回戦を始めます!」

 

 司会者の少女のアナウンスが会場に響く、試合が始まろうとしていた。

 両者は会場の正反対の場所から登場する。

 

「今大会大本命! 前年度ウルティマホラチャンピオン! 古菲選手入場です!」

 

 同時に舞台が盛り上がった。

 見たことがある。京都襲撃時に京に一撃加えた少女だったか。

 結局のところ強力に任せてしまったためその戦闘力はわからないが弱いわけはない。

 

「対するは黒いローブで表情すら見えない謎の人物、ツキムラ選手です! 白ローブのクウネル選手と関連性はあるのか!?」

 

 揺ら揺らと靡く黒いローブに身を隠し、京もまた会場へと現れる。

 前の世界でも大会は経験した。自分がというわけではないが、自分と共にいた少女がだ。

 まさか自分がこういう場に出るときがあろうとは、そう感慨深く思う。

 そう、こういうのは楽しまなければ損だ。

 

 抜かりは無い。事前準備は終っている。

 4つの能力の追加、その手札で京はこの武闘大会に挑む。

 メイン能力1つ、補助2つ、奥の手1つ。それが京の手札、果たして1回戦目でどれだけの手札を開帳させられるだろうか。

 

 ニヤリと京は笑う。

 さぁ、試合の始まりだ。

 

「それでは第4試合……! Fight!」

 

 試合開始の合図、それが始まった瞬間であった。

 古菲はこちらに接近しようと地を蹴り、こちらに速攻の接近を行ってこようとする。

 だが遅い。

 京の常套手段、十八番とは不意打ち、これに尽きる。

 例え相対していようともそれは行える。意識の外からの予想外の攻撃、それは先手という形で放たれた。

 

 京は古菲に右手の指を向け、「一言」、こう言うだけである。

 

 

「 『跪け』 」

 

 

 古菲は地面にめり込んだ。

 始まりのゴングが鳴った瞬間だった。




初めに断っておきます。唯我独尊のアブノーマルな王様の能力ではありません。
これからバトルして戦って戦闘しっぱなしで送らせていただきます。

次回、対サイボーク格闘術vs中国拳法
乞うご期待ください。
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