「 『跪け』 」
グシャリと音がした。
古菲が京との距離を半分に詰めたとき、京の一言が炸裂、突如として凄まじい重圧が掛かったように石の地面に倒れこむように沈んでいく。
「い、一体何が起こったァ!? 距離を詰めようとした古菲選手、バランスを崩すように地面に沈んだー!」
この能力の種を今何人が見破っただろうか、おそらくまだ誰にもバレていない、判断材料が少なすぎる。
京のこの先手など、この補助能力の副次効果に過ぎず、本領はこんな小細工ではない。
「相手が悪かったな」
その一言と共に京は一足に飛び出した。
単純なほど、脳みそが筋肉であるほどこの能力は効いてしまう。単純に相性が悪すぎた結果だ。
「ヌグ……」
ググ、と重圧から気合で脱しようと起き上がる古菲、しかし、次の瞬間、瞬きするよりも早く京は古菲に肉薄するように接近していた。
いざ――
第一能力、まほら武闘大会でメインを張る主体能力、その一つ目を京は開帳した。
それはサイボーグの対サイボーグ格闘術、格闘大会にこれ以上の能力はあるまい。
――――銃夢 LastOrderよりガリィ、
「
「くぁっ!」
京の掌底打ちが古菲の胸部に直撃した。
ただの掌底ではない。衝撃波を内部に浸透させ内部破壊を行う技、それが
同時に、掌底自体の威力も並大抵ではない。そのまま押し出されるように古菲は吹き飛び、舞台の外縁まで飛ばされる。
「む……」
京は僅かに顔を顰める。
不意打ちで動きを止めてからの強打の一撃、完全に決まった。だが僅かに感触に違和感があった。
なにかしたか
目を向ければムクリと立ち上がる敵の姿が見える。
「いやぁ……、効いたアルヨ」
古菲はヨロヨロとしながらも舞台に戻る。
京が肉薄した瞬間、もう避けることも捌くことも不可能だと瞬時に判断、硬気功によって自身の防御力を上げなんとか耐えたのだった。
しかし、完全に防御できたわけではない。体に伝わった衝撃は全身を麻痺させ今でも膝が笑っている。硬気功を使用していなければその場で終っていただろう。
「なら、もう少し本気で打っていいかね……?」
「望むところヨ」
肉の体では本気で打てばミンチになるだろう。それだけに手加減が微妙にわからなかった。
「往くヨッ!」
「応」
これで終ってはつまらない。
古菲に先手を譲り、来いと手を招く。
それに答えるように、古菲の姿が消えた。
「へぇ……!」
瞬動、いや、あれは活歩という奴か、原理は同じでも名称が違うものは多い。
京はこれは数度見ている。それに対する回答も持ち合わせていた。
瞬間移動とも思えるそれは、超高速の踏み込み、単純に直線距離の移動しかできない。そして、この舞台は十数mほどの枠しかなく、活歩の連続使用による回り込み、撹乱などはできず大分行動に制限が掛かる。つまり一足のみの移動の予想で十分。
ならば
「破ッ!」
「ふっ!」
カウンターを取ることもできる。
京の後ろ斜め45°、そこに古菲はいた。つまり京の死角だ。
この程度なんでもない。伊達に死線を潜ってきたわけではない。
京は体を捻るように反転、そこにいるだろう古菲に右腕を突き出した。同時に死角からの強打を見舞おうとした古菲の右手、その2つは申し合わせたように着弾する。
「…!」
「っ!」
互いの腕が反発しあうように弾かれる。
京はここで
方や衝撃波、対するは気、原理は違えど作用する効能は全くの同じであり、それは互いのダメージを中和し反発させる結果に終った。
ただ1つ、差があるとすれば
「グゥ……ッ」
古菲がダメージを負っている点である。
読み負け、対処の挙動が早かった京がほんの僅かに先を行っていた。そして、ダメージが抜けていない古菲は長くその反発に耐えることができなかった。
グラリと後方にバランスを崩したのは古菲、それに追撃を掛けるのは京である。
反発された反動を利用して体を右に捻り、左拳を古菲に見舞おうとする。
古菲は思う。
終った。避けられない。
これはただの強力な殴打、防御もきっと突き抜けてくる。
いい戦いだった。古菲は目を閉じ、その攻撃を潔く受け終わらせようとする。
だが
「くーふぇさん!」
少しだけ、力が出た。
瞬時に、活歩。
「っ!」
初めて京は目を見開いた。
京の左拳が空を切る。
京の脇を通って、古菲は背後を取ったのだ。
「全く、お前らそういうのがあるからな。あぁ、嫌になる」
背後を取った古菲は残りの力で最大の攻撃に打って出ようとする。
右手に全力の力を入れる。
爆裂寸勁、岩をも砕く渾身の一撃である。
京もそれをただで食らうつもりなど毛頭無い。
先の攻撃で弾かれた右手、それは裏拳となって古菲に振り下ろされていた。
「……」
これに対応してくるか、自分でも奇跡としか言い様のない背後への踏み込み、それに更に京はカウンターを合わせてきた。
だがこのカウンターはきっと成功しない。
弱弱し過ぎる。咄嗟に放った一撃、そこに威力も何も無い。
先のカウンターよりもかなり早い。古菲が一撃を京に入れるより格段に早く食らうだろう。
だが、速いだけの軽い一撃だ。
避ける必要もない。
いや、これは防御する必要もないのではないだろうか
「避けんか馬鹿者!!」
エヴァンジェリンの叫びも虚しく、それは古菲に届くことは無かった。
既に京の右手は古菲の頬に触れていたのだから
ドガンッ!
そこで古菲の視界は暗転、第4回戦目は終了を告げるだった。
「解説の豪徳寺さん、いかがだったでしょうか?」
「はい、時間にしても一分間もない攻防でしたが非常に洗練された戦いでしたね。最後の一撃は物凄い効果音がしましたからね~」
「効果音、ですか……?」
「あれ、聞こえませんでしたか?」
茶々丸と豪徳寺という予選敗退の男の解説が進んでいく。2人のやり取りはどこか食い違いが見られたものの恙無く進行されていった。
勝者が決定されると会場が再び沸いた。主に古菲の敗退を惜しむ声だったが、男ばかりだったのが気に掛かる。
京はゆっくりと歩み、倒れ付す古菲のところまで進んでいく。
「ん……ぁ…」
古菲は薄っすらと目を開け、朦朧としながら起き上がろうとする。
「……」
そこに黙って手が差し出される。京の手だった。
日の光がバックにあり、フードの中を覘くこともできなかったが古菲は今だ正体不明である謎の男の好意に応え手を取った。
「世界は広いネ。楽しかった、いい戦いだったアルヨ」
「あぁ」
古菲が京の手を掴んだ事を確認すると起き上がらせるように宙に引っ張る。
ヨロヨロとぎこちなく立ちながらも古菲はもう動けそうだった。
古菲は握っていた手をグーパーさせながら少しだけ首を傾げた。
「会ったことあるカ?」
「ハハ、初対面だよ」
一瞬引き攣った笑いをしながらも背を向け、京は僅かに手を振ってその場を後にするのだった。
舞台から降りるとそこにはエヴァンジェリンがいる。
「随分と余裕だったな」
「そう見えたかね? 結構ギリギリだったんだよ」
実際、短い戦いだった。
初めの京の不意の一撃によるダウン、その後は古菲との攻撃の応酬が2回、京の行った攻撃は計5回しかなく、時間にして30秒あるかといったもので、京は一切の無傷、要は圧勝という結果に終っていたのだった。
あれはあれでギリギリだったのだ。自分は4回目の攻撃で決めるつもりで、それを空ぶったときは焦りもしたものだ。お陰で初撃だけにするつもりだった2つ目の手札を切らざる得なかった。この2発で予測の1つや2つ立てられただろう。
京の戦う相手は大概底力を持ち、逆転を狙ってくる。油断しなかったのが勝因だろう。
「余計な事言わないで欲しいね、あれ避けられたら結構やばかったよ」
「ふん、そう思ってもいないくせによく言う」
避けられていればもう1つ、もう一手の能力か、切り札を切るところだった。
それは面白くない。
まだまだ試合は終らないのだから。
「そうだ。お前この大会が終ったら後で……」
「ん? ぁ、ごめん、後で」
「ぁ! ちょっと! おい!」
エヴァンジェリンがふと切り出したとき、間が悪かったのか京がビクリと反応、急用ができたようにどこかに走り去ってしまったのだった。
それを呆けた顔でエヴァンジェリンは見送ることしかできないのだった。
「大丈夫ダ御主人、キット機会ガアル」
「ふん……」
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「来たよ」
「うむ、お疲れ様ネ。ちょっと短かったが白熱した良い戦いだったネ。この調子で頼むヨ」
「あぁ。それで、緊急呼び出しの理由はそんなことを言うために呼んだんじゃないだろ?」
「まったく、つれないネ~」
会場を見下ろせるような建物の2階、その薄暗い場所に京と鈴音はいた。
試合が終ってから緊急のアラームが鳴り、急いで駆けつけたのだ。
そうして京はここにいる。
「ちょっと困った事態が発生したヨ。まぁ予想通りなのだが……」
少し鈴音は困ったような顔をした。
「大分早くこちらの拠点とロボット軍団が見つかってしまったヨ。試合内容の中継が早くもバレて探りを入れられて運悪くビンゴされたネ。仕事早すぎヨー」
予想外に早く、こちらの痛いところを探り当てられてしまったようだった。
まだ2日目も始まったばかり、幸先が悪い。
「それで、俺はそれの排除でいいのかな?」
だがその為に京がいる。
完全に沈黙して貰い。外部に情報を漏らすわけにはいかない。まだ間に合うのだ。まだ隠蔽できる。
故に京に白羽の矢が立った。
「潜入したのは式神だたネ。おそらく後から数人て探りに入ってくるはずヨ。それを叩いて欲しいネ」
簡単に潜入された理由はそれかと納得する。
確かに使い魔のような監視、偵察を防ぐことは難しいだろう。
「龍宮は?」
「彼女は別の仕事、この大会を強制中止させない為にチケットを持たない輩を撃退してるヨ」
「なるほど」
なんとなく、見えてきた。誰がこちらの中枢を発見したのかだ。
龍宮がここに近寄らせていないということは式神を送らせたのは選手及び会場内にいる観客の中に学園に属する関西出身の気使いがいるのだろう。
おそらく刹那、彼女しか京に心当たりはない。
そして、とてもとてもめんどくさい事にタカミチが会場内にいる。
地下への、中枢への道はこの会場から続いているのだ。
「アナタはまだ試合がある。できるだけ早く片付けて戻ってきて欲しいネ」
「了解しましたよ、と」
まぁ実際、バレた時点でどうこうしようも無いのは事実、実態を完全に掴ませるまでに時間稼ぎがしたいだけなのだ。少なくとも武闘大会が終るまでは知られるわけにはいかない。
武闘大会が終ればこちらは本格始動まで身を潜めるだけである。捉えられなどしない。
そして、京には時間がない。
次の試合まで少なく見積もって30分程度、その間に京は敵を撃退しなければならないのだ。
正直言って無理がある。
「少し荒らすけど、問題ないよね」
「……程々に頼むヨ」
ニヤリと笑う京に引き攣った笑いで鈴音は了解を出したのだった。
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「まさか地下にこんな通路があったとはね」
「ハイ、私も会場横の塔の超さんの部屋からこんな通路が隠されているとは思いもしませんでした」
タカミチは刹那の式神チビセツナの案内で下水道を移動していた。
麻帆良学園にこんな巨大な地下水路があろうとは長年学園に勤めていたタカミチも知らず、あるところにはあるものだと感慨深い溜息を吐いたのだった。
案内される下水道は整備され、ちゃんとした通路すらある。
「それで君はこの先に何を見たんだい?」
「ええと、機会は苦手なので私にも詳しくはわからないのですがロボットで一杯の格納庫があって……」
「ふむ……」
何らかの研究施設と見るべきだろう。それも秘密の。
やはり超鈴音は要警戒の人物、彼女のクラスの元担任であった自分、できれば信じてやりたいところだがここまで材料が揃ってしまうとそろそろ看過できなくなる。
「とりあえず、その場所に行ってみるしかないか」
「いや、行かせないよ」
聞いた事のある声にタカミチは足を止める。
そこには真っ黒なローブで身を隠した男、そう同じ武闘大会に出ていた出場者の一人だったか
しかし、違和感がある。
「やぁ、学園襲撃以来だね」
「お前は……」
ガサリとフードが取られた。
そこにはタカミチも知る人物、かつて学園にたった2人で強襲を掛けた片割れである。
突然の事態にタカミチは構えた。
「君がここにいるということは今までの一連の事件は超君の計画した事ということかな」
「違う、彼女とは先の一件の時に出会ってね。紆余曲折を経て彼女に協力することになったんだ。本意じゃないんだけどね」
ハハと笑う京、少なくとも京の言うことが本当ならタカミチが思う最悪にはならないだろうと予想する。
だがこれはチャンスでもある。
この一件と先の二つの襲撃の件、それを一気に解決する糸口ができた。
目の前の敵を倒せばそれは楽に達成できるだろう。
「悪いけど先を急がせて貰うよ。地上の大会も観戦したいんでね」
「同感だ。これから俺の試合も差し迫ってるからね。あまり時間は掛けてられない」
そう軽口を言い合う二人。
次の瞬間、二人の姿が消え、轟音が鳴った。
「ここなら本気を出しても多少被害は少ないかな……!」
「あぁ、俺も出し惜しみはしないよ」
そこには拳を繰り出すタカミチとそれを掴み離さない京がいた。
互いに限界まで力を篭めているのかブルブルと震え、拮抗し合っていた。
だが解せないことがある。
前の戦いではこちらの居合い拳は完全に見切られていなかったはず、だが今は完全に見切られて振りかぶった拳を掴まれていた。
「面倒なことになった」
つくづくそう思い、愚痴を零す。
タカミチがわからない能力が多数、先の京の試合と今の現状でざっと3つ、手を隠していたのがわかる。
それに襲撃の一件で自分が負ける原因となった一撃、あれの正体もまだわかっていない。
これは、かなり激しくなるか
覚悟を決める。
互いに一歩も轢かず、粘り合う2人だったがそれを先に切り上げたのは京であった。
タカミチの拳を弾き、後方に下がる。
「お願いがあるんだ」
京がおかしなことを言い出す。ここに来てお願い。
だが表情は挑発にもの。
「不殺を誓っていてね。頼むから死なないで欲しいんだ。なにせ……」
不敵な笑みで京は構えた。
「威力の調整が効かないから」
同時に凄まじいプレッシャーが発生する。
京のものではない。だが発せられているのは京から、まったくの別人に摩り替わってしまったように目の前の敵の雰囲気が変わった。
『次号展開準備完了』
不吉な音が聞こえた。
これは拙いものだ。これは出させてはいけないものだ。
だがもう遅い。
次の京の一言と共に、戦いの火蓋は切って落とされる。
「
……………………
………………
………
「ん、今丁度終ったところだよ」
鈴音が初めに見たのは刹那の式神、チビセツナを京が握り潰しているところだった。
ボフンという軽い音と共に小さな人型だったそれは紙に戻り、消滅した。
京の両腕、背中、足淡く光り、何かが消えていく。それは薄暗い部屋の中で判別することはできなかった。
「一体何をしたらこうなるヨ……」
「地上に被害が無いんだから大目に見てくれよ」
「まぁ、被害がないから何も言うつもりは無いが、対策甘かったかもしれないネ……」
鈴音の最後の言葉まで京は聞き取ることができなかった。
目の前の惨状を前にして、これは真名と自分の2人掛かりで制圧に掛かった方がよかったかもしれないと自分の考えを後悔する。
どうしたらこんな惨状になるのか、問い詰めたいところだった。
地下水路だった場所は一つの大きめな広間になってしまっていた。周りの障害物を破壊して破壊して破壊して広がったのであろうこの場所、しかし、壊れ方がおかしい。
瓦礫1つ落ちていない。
壁にはクレーターや溝が至るところにできているがそれらは全て狂いなく削り取ったのかと勘違いするほどに表面が綺麗だったのだ。
広がった分の、崩れた分の質量が全く足りていない。
「まだ時間ありそうだけど、戻っていいかな」
「あぁ、頑張ってくるといいヨ」
じゃと手を振って京はこの場を後にした。
京が地下に降りてから約20分、それだけの時間の出来事であった。
ピチャリピチャリと足が濡れるのもおかまいなしに鈴音は先を歩いていく。
「とんだ災難だったネ。心から同情するヨ。高畑センセ……」
そこにはタカミチがいた。
もう既に意識なく、白いスーツは真っ赤に染まり、半死半生の様相を見せていた。
死闘だったか、いや、一方的だったのだろう。
京は多少ダメージを受けていそうだったが、それほど大したことはなさそうに見えたからだ。
まだ見せていない何かがあるのか、そういえば手の内は全くわからないのだったか
そう思いながら、鈴音はタカミチを担ぎ、応急治療を施そうと研究室に搬送するのだった。
と、vsクーフェ、タカミチまででした。
麻帆良祭編の能力発動予定は約8です。まだまだ半分も出ていないのでどんどん出して行こうと思います。
次回、vs甲賀中忍、乞うご期待ください。
作品名:銃夢 LastOrder
ジャンル:漫画
使用者:ガリィ
能力:
火星発祥の対サイボーグ戦闘を想定したサイバネティクス格闘技術。
無重力下での戦闘の工夫、武器術を含み、敵の装甲の内から破壊する技を奥義とした数々の強力な技を有している。
と、銃夢 LastOrderでした。
無印編からの派生という形で出てきたこの作品、あくまで1つの要素でしかなかった機甲術が1つのファクターになり、サイバーパンクだったお話がいつの間にか異種格闘漫画になっていました。
ついでに吸血鬼まで出てきて、あれ?と思ったのは私だけではないはず。
ノヴァ博士のような善悪関係ないド外道キャラはなんだか好きです。
サイバーパンクが好きな人はきっと気に入ると思うので是非読んでみてください。