「ジャスト3分だ、いい夢見れたかよ……なーんてね、ハハハ」
鏡に罅が入ったように世界が割れた。
崩れ去る。虚構の、夢の世界が消える。
割れた世界の外側で京は三日月のように歪んだ口元を隠しもせずに嘲笑の笑みを湛えていた。
良い夢は見れたかと、その夢幻はどうだったかと
「っ……ぁ…」
その事実に、現実に楓は数瞬理解が追いつかなかった。
果たしていつから、そうそれは分身が見破られ顔面を掴まれた時、蛇の目が合ったときだ。
楓は呆然と立ち尽くす。それを受け入れられるまで。
「幻……覚……」
「理解が早くて助かるよ」
今まで自分の見ていたものが辿っていた時間が全て幻覚だったという事実、あまりのリアルさに疑いもしなかった。そして、それだけの時間を自分は無為に無様な様を晒していたのだ。
本当ならその間に止めをさせた。
なら、何故。
「疑問かな? でも訝しがる事もない。なにせ……」
ゆっくりと京は楓を指差した。
「もう布石は打ったから」
聞こえないだろうか、死神の足音を、鐘が鳴り響くような反響音を。
リィン。
耳鳴りがした。
楓の中で、音がする。それは幾重もの音が重なって体中に響き渡っていた。
京が打った布石、そしてそれを完成させる二撃目、それを食らえば詰む。
楓はそれを直感した。
「ならば、拙者がやられる前にやるだけでござる」
「ハハ……、無駄だよ」
楓は虚空瞬動によってその場から掻き消えた。
同時に現れる4体の残像。
しかし
「もう全部視えてる」
徐に振るった右腕が楓を掴んだ。
軌道、動き、その全てを目視で捉えきられている。
――――太臓もて王サーガ より 安骸寺悠、
「グ……」
「貰い眼」
首を捕まれる格好となった楓、京のフードから覘き、一際赤く光る目が見えた。
赤い3つの勾玉文様の目、名称は異なれどそれはどこかの世界であったという忍ばない忍者が使うという眼。
「無駄さ、これでも切り札だったんだ。切らせたからには勝たせてもらうよ」
それが楓の動きを完全に見切った眼か、そう理解する。
だがこれはそのほんの一端、反則クラスの力の一部に過ぎない。
楓は見られていた。無数の目に。
朱の五方星の模様の眼。
明滅する涙の文様の眼。
蒼く淡く光る眼。
朱の十字模様の眼。
虹色の色彩を持つ眼。
眠り姫を守る茨の眼。
万華鏡のように模様が重なり合った眼。
京の体のそこかしこにその眼はあった。
それら全てが魔眼。
1つ1つが圧倒的且つ強力無比な力を秘めている。その1つだけでも楓を封殺するには余りある程に。
京の体のあらゆる箇所にそれは現れたのだ。
100や200ではその数を把握することはできない。
千の魔眼の化物。
能力名:
体のどこからでも千対の魔眼を発生させることができ、それは死角というものすら存在しない。
「気張ってくれよ。これも仕事のうちなんで……ねっ!」
そのまま京は楓を宙に放り投げた。
今日の仕事とは場の盛り上げ、最後は派手に終らせてこそなのだ。故に敵である楓にも頑張ってもらわないことには始まらない。
「……舐められたものでござるな」
「あぁ、実際終ってる」
楓に更なる力が、隠している力でもない限り勝負は見えている。
そして、最後に余裕を持ってチャンスを与えた京に苛立ちを感じながらも楓はそれに乗った。
楓はそのまま宙に着地、足場に溜めていた気を開放することで虚空瞬動を行い京に詰め寄った。
京もまた楓に向かって跳躍する。
その時、既に16の分身が京を囲んでいた。
だがそれはもう破られた攻撃、破る手など無数にある。
「――――
16の連撃は全て空を切った。
やったことは単純明快、自身の戦闘リズムを急激に変化させ、「機」を外し、攻撃の全てを外させたに過ぎない。
相手からは残像に攻撃しているように見えるだろう。これは楓の分身と非常に似ている。ただそれをカウンター技として限定的に行っているに過ぎない。
そして、京は楓本体の懐へと入り込んだ。
布石は打った。「眼夢」、名称は違えどどこかの世界の奪還屋が使ったという蛇の眼、それを放つ前に楓の攻撃を弾いた時、それは行われていた。
そして、それは体内の反響増幅した衝撃波と外部からの
「――――
奥義の二段構えのコンボ。
楓の体内で鐘の音が聞こえると同時、京の
「ガハッ!?」
外部からの衝撃波、内部からの衝撃波、それは互いに共鳴増幅し、全身が爆発したような感覚に襲われただろう。
それを食らった瞬間、楓は血を吐いて昏倒した。
京は着地すると同時、墜落する楓を受け止める。
薄くではあるが息はあった。
それに京は満足そうに口を吊り上げながら笑う。
「なに、死にゃしない。ただ1日くらい寝込んでいて欲しいだけだから」
先に交わした約束など正直に言えば無きに等しいものだ。
どちらがその約束を破ったとしても得るものはあっても失うものなどない。約束、契約とは双方に信頼または利害関係があって成立するもの、楓が勝ち出て行くならそれが最良、負けたとしてもその約束を楓が守る必要性がまるでない。それがわかっていて彼女もそれを飲んだのだ。
だから、彼女が目を覚ましたところでもう全てが始まっているというなら問題ない。くらいには威力を抑えたはずだ。たぶん。本当なら京の放った右腕が貫通している。
一言京はそうは残して、崩れ伏す楓に踵を返し、その場を後にした。
「二転三転、そして四転! 激しい戦いを制したのはツキムラ選手! 準決勝進出だー!」
司会の声を聞きながら京はその場を去っていく。
「これにて一件落着、ってね」
目先の問題を片付けて京は最後にそう締め括ったのだった。
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「ふぅ……」
舞台から降り、京は一息着く。
盛り上げられただろうか、自分は観客を沸かせる為のパフォーマンスなどできない。それなりに戦って、それなりに勝つか負ければいいと思っている。そこだけが少し心配だった。
能力の采配を少々間違えたかと思う。
これはまほら
だが計画にはこれ以上ないほど効果がある戦闘だ。
それに対して少々自分は地味すぎたかと思う。ピンポイントの暗示、遠目にはわかりにくい魔眼、観客からはパッと見でなんだかすごい武芸者、程度の認識しかされていまい。
もう派手にビームでも飛ばしていた方が幾分か仕事をこなせていたのかもしれない。
「なんだ。難しそうな顔をして」
「ん? もうちょっと上手くやれたかなってね」
「ふぅん」
突然話しかけられるも、その声色から誰かをすぐに察し、そちらを向くまでもなく京は答えた。
エヴァンジェリン、彼女は京の隣に現れ、京の言葉に適当な相槌を打つ。
「私から見ればお前の圧勝、出し惜しみし過ぎて長引いただけに見えたが」
「俺はこの大会のサクラ要員だからね。すぐに終らせては駄目なんだよ」
しょうがないだろうと京は肩を竦める。
実際全ての手札を曝け出していれば即終ったであろう。だが京は絶対にそれをしない。まだ全盛期と比べればそう多くない能力の数、この先も考えれば余裕を持って臨みたいところだった。
「今度はあの女のところに付いているのか」
「あぁ、不本意ながら」
京が計画をその首謀者から聞いてメリットを提示されなければ、もしも他経由で計画の情報を手に入れていれば狂喜満面の笑みでぶち壊しに着ただろう。
「ふむ……」
少し考え込んだような顔をしてからエヴァンジェリンは京に馬鹿にしたような哀れなような子供を見るようななんともいえない目線で京を見た。
「丸め込まれたな馬鹿め」
「うぐっ……」
言わんこっちゃないとそのまま続けられる。
京の胸にグサリと言葉の刃が突き刺さった。
ついでに溜息まで吐かれて、エヴァンジェリンはフンと鼻で笑う。
「奴がやろうとしていることは知らんが精々頑張ってみるがいいさ、私は関与しないという事になっている」
「段取りはいいんだな」
「あぁ、それなりな謝礼が用意されてるからな」
フフ、と意味深にエヴァンジェリンは薄気味悪く笑った。
やはりというか鈴音は危険極まりない障害になるかもしれないエヴァンジェリンの対策も打ってある。流石にぬかりというものが無いのだろう。それだけに先のカシオペアの一件だけが気掛かりだった。
やはり何かがずれている。
ちょうどいいと京は口を開く。
「なぁ、1つ聞いていいかな?」
「なんだ?」
もしかしたらエヴァンジェリンには京の疑問に対する答えを持ちえているかもしれない。
1つ希望を持ちながら京は質問を投げる。
「超鈴音、どう思う?」
「随分と要領を得ない問いだな、私の主観で答えろというのか?」
「あぁ、それでいい」
京が感じているのはなんともいえない違和感、それに確たる問いは用意できなかった。
エヴァンジェリンはそれに悩むまでもないというように即答で返す。
「私とは違った意味で大した悪人、犠牲もやむなしと切り捨てられる辺りは相当なものだろう」
そして、とエヴァンジェリンは続ける。
「お前との違いは、奴の方が身の程を弁えていると言ったところか」
「……なるほど」
京が求めている物としてはやはり違う答え、だが真に迫るものだったかもしれない。
エヴァンジェリンの答えに京は多少得るものがあったのか、感心した様に相槌を打つ。
また一つ、答えに近寄れた気がした。
そんな時、一際大きな轟音が会場から響き渡った。
「おおっとー! 何やら高音選手の背後にス○ンドのようなスゴイのが現れましたー!」
その音に京とエヴァンジェリンはそちらの方に振り向く。
もう既に次の試合が始まっていたようだった。
ネギと高音と呼ばれた少女が戦っている。
が、それよりもだ。
「ぇ、あれアリなの?」
「武器と詠唱の禁止だ。それさえ除けばあの程度も許容範囲なのだろうさ、まぁ、奴のことだ。無粋なことは言うまい」
そう言われてしまえば京は難しい顔で唸るしかない。
高音の背後には3mはありそうな巨大な影でできた人型、それが高音の動きにリンクするように動き、リーチ、威力の面で相当に強力になっている。
そして、派手だ。超派手だ。微塵の自重も感じられない。
あそこまで目立ってくれるなら自分が地味だと悩むのも気鬱で終ってくれそうだと若干ホッとする。
そんな京とは裏腹に若干満足そうにエヴァンジェリンはその試合を眺めていた。
「どうですか、あなたの弟子の出来は?」
「まぁまぁだな」
いつの間にか例の如く音も気配もなく、最初からそこにいたようにクウネルがエヴァンジェリンの隣に現れていた。
もう慣れたものなのかエヴァンジェリンは驚きもせず冷静に返す。
「しかし、妙な育て方をする」
「なんだ? 私の教育方針に文句でもあるのか?」
「滅相もない」
若干不機嫌そうになったエヴァンジェリンは横目でクウネルを睨み、クウネルは両手を上げてとんでもないと降参の意を表した。
京はそんな2人のやり取りを聞きながらぼんやりと舞台の戦いを眺めている。
「あなたから見てはどうですか? あの少年は」
そこで今度は自分に振るのかとめんどくさそうに顔を向ける。だがそんな機微もフードの影に隠れて意思表示は伝わらなかった。
しょうがないので少し、考える。今まで単なる障害としか見做していなかった少年の事を。
正直に言ってしまえば彼はアレだろう。最近になって気づいた。みなまで言うつもりはないがたぶん間違いない。
それとは別に京がネギをどう思うのかといえば、こう答える。
「めんどくさそうだ」
多くの意味を含めて京はそう零した。
戦った場合、性格、彼を取り巻く者、京の今後の障害として、そういった意味でである。
結局のところそこまでの興味の対象にはなっていないということだった。
「私としては興味深いですが……、心の歪みといい実に私好みだ」
「相変わらず趣味が悪いな」
「性格悪いなぁ」
クウネルが自分のネギに対する評価を下したところで京とエヴァンジェリンは興味の焦点とするべきところが既におかしいことに、それをご機嫌に語るクウネルに突っ込んだ。
丁度そこでネギが高音に肉薄、完全に自分の間合いに入れ一撃を入れたところで試合が終了した。
「さて、次は私の番か」
少し伸びをしながらエヴァンジェリンは言った。
次の対戦相手は確か刹那だったか
「あなたはどこまで戦うつもりなのです? ネギ君を倒されてしまうと正直困るのですが……」
言われてみればエヴァンジェリンがこの試合に出る理由もわからない。
「あぁ、ぼーやの修行の成果でも見てやろうと思ったが私がやらんでも十分成果は見れたし結果もまぁ及第点、概ね大会には満足している。後は最近日和ってきてる愚か者に喝を入れてやろうと思ってな」
「相変わらずのお節介ですか」
「フン、気に入った奴だけだ」
エヴァンジェリンはそっぽを向いてそう言う。
白と黒のローブで素顔さえ見えない得体の知れない人物2人を間に挟む形だったエヴァンジェリンは遠巻きにネギ一向の関係者達から見られていた。
またなと手を振って彼女はその場を後にする。
しかし、半ばで足を止めると横顔だけ振り向いてあまりよろしくない類の笑顔を見せた。
「ぁ、そうだ。お前、そこの変態に勝たなかったら明日付き合ってもらうからな」
「えぇ、喜んで」
「お前になど言ってないわ!」
違うところからの返答にエヴァンジェリンは地団太を踏んだ。
結局、京の返答を聞くことなくエヴァンジェリンは会場に行ってしまう。
それに困ったような顔をしているのは京だった。
「随分と気に入られていますね」
「さぁ、同族だからっていうのもあるかもね」
京はクウネルの茶化しを適当に流して顔を逸らした。
なんだかんだで拉致られた後もよくしてくれている。実際京はエヴァンジェリンに悪い感情というものは抱かなかった。
理由は定かではないが気に入られているというのもきっと間違いではない。
始まる対戦、喝を入れると言って、勝つと明言していないということは実際勝利に拘ってはいないのだろう。彼女自身封印の為に最弱状態、ここまでこれただけ喝采ものだ。
そして、問題はこの次の試合、目の前のクウネルとの試合である。
「困りましたか? なにせ勝つ気が無いのですから彼女の要求を呑むしかない」
「なんだ。わかるのかよ」
次は準決勝、京が勝ったら駄目な気がする戦いだ。だが目の前の男も得体の知れない身、どっちが勝とうと結果は変わらないのかもしれないがサクラ要員である京が決勝に立ってしまうのは流石に頂けない。
見るからにやる気なさげな京にクウネルも気付いているようだった。
結局のところ京は負ける気満々で負けるということはエヴァンジェリンに付き合わないといけないということである。
「まぁ、せっかく誘ってもらったんだ。別に条件付けなんてされなくても受けるさ」
どうせこれが終れば3日目の夜まで雲隠れだ。
何かと理由を付けられて鈴音に同行しているよりかは遥かに有意義である。
「まぁ勝つ気はないけど」
京は勝つ気はまるでない。
だが
「手を抜く気はないんだ」
最後に京はそうニヤリと笑った。
勝つ気はなくとも無様にやられるつもりはない。
それに安心したようにクウネルもにこやかに笑った。
「それはよかった。戦いは相互理解の近道ですから」
「俺はちっともあんたに興味ないんだが」
京の突込みにもフフフと笑われ流されるだけで、やっぱり苦手だなと京は思うのだった。
‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡
「さてやってまいりました! 常識外の展開! 波乱のバトル! いよいよ本大会も佳境を迎え始めました! 準決勝の始まりだー!」
司会の言葉に会場は沸いた。
エヴァンジェリンの戦いが終わり、いよいよ京の番が回ってくる。
会場はさらに人が入り、熱気がこちらにも伝わってきそうなほどの賑わいだった。
「ではさっそく、ベスト4に入った2人の対戦者にご入場していただきましょう!」
司会がバッと大げさな手振りで入場口の1つに手を向ける。
「白いローブに身を包み、口元は余裕の笑み! 常に圧勝を飾る何もかもが謎に包まれた謎の人物! クウネル・サンダース選手の入場だー!」
そこにはいつの間にかクウネルが立っていた。
姿も見せず、突然現れたような格好にまた会場も沸く。
そして
「対するは黒いローブに身を包み、口元には不敵な笑み! 数々の強者をなぎ倒す様は鬼神の如き! ツキムラ選手の入場だー!」
ゆらりとクウネルとはうって変わってゆっくりと歩を進める京。
それにまた会場も沸く。
「白ローブvs黒ローブ! 果たして勝つのはどっちのローブだー!」
クウネルと京が位置に付く。
クウネルはにこやかに余裕の笑みを口元に湛え、京は口元を吊り上げるように不敵な笑みを湛えている。
姿だけは対照的な2人の戦い、会場はつい先程とは違い静まり返った。
そして、始まる。
「FIGHT!!」
動いたのは全くの同時だった。
京はクウネルに指差すように手を向ける。
それに対し、クウネルは添えるように京に向かって手を向けた。
「フフ……」
「 『跪け』 」
次の瞬間、轟音が発生、会場が砂煙に包まれた。
騒然となる会場。
そして、煙が晴れる。
「へぇ」
「ほぅ」
2人の対戦者は同時に感嘆の声を漏らした。
京の強制命令は耐えられるどころか効いていない。意味を成していなかった。
クウネルの見えない何かを叩きつけ押し潰すような魔法攻撃、本来なら球状のクレーターができているはずの京の場はドーナツのように京の周囲2mは何事もなく残っていた。
2人の小手調べ、だが本気の一撃は不発に終る。
「面倒な攻撃だ」
「面白い力ですね」
おそらく重力を操っているのだろう。そうでもなければ最後の能力が自動発動などしない。
つまり、これは
「ふっ…!」
クウネルは京と相性が悪いということだ。
京は即座に行動を開始、まだ会場に残る煙を突っ切り、クウネルに真っ直ぐに向かった。
それに対し、クウネルは両手を広げ、周囲に無色の魔法障壁を発動する。それは覆うように球形に囲われ突破うするしか方法がない。
造作もないことだ。
「
両手を深く引き絞り、そこから打ち放つように両腕から
それはクウネルの魔法障壁に触れ、ガラスが砕け散るように破砕する。
だが同時にクウネルは京に向けて攻撃後の隙を狙うように手を向けていた。
京はそれを見てニヤリと笑う。
京の用意していた能力は計4つ。
メイン能力、超絶の技巧を誇る格闘術、
奥の手、なんちゃって写○眼もどきとなんちゃって邪○もどきを使う最強の眼、
そして
第一サブ能力、全ての攻撃を強大化させる攻撃補助の
最後は果たして何であろうか
攻撃を補助する能力があるならば防御を補助する能力が必要、そう京は考えた。
――――マルドゥック・スクランブルよりディムズデイル・ボイルド、
京の周囲に凄まじいGが掛り、陥没していく。
だが無駄なのだ。
京はそれを無視して突き進む、それは全て何かが避けさせるように京のいる部分だけは何も起きなかったのだ。
「やはり……」
お前も重力を使うのか、そうクウネルは2回目の自分の攻撃の不発にそれを理解した。
京はクウネルの攻撃を掻い潜り肉薄、そこに一撃を見舞おうと蹴りを放つ。
「 ドカンッ! 」
だが
「フフ、お互い遣り辛いですね」
それは空を切った。
違う、違う。確実に当たっていた。だがすり抜けた。
「チッ……!」
その場にはいられないと京は即座に飛び退く。
同時に考える。一体何が起こったのか、京の攻撃を透かした正体を。
判断できる材料は既にあった。それに対する答えはおそらく
「お前、そこにいないのか?」
「えぇ、ご名答です」
クウネルはにこやかにそう答えた。
京の命令、それは相当な精神力があれば耐えられるものである。が、それはけして弱いものではない。どれだけ鋼の心や信念を持とうとそれなりな重圧や眉を潜める程度の負荷は掛かるのだ。まずそれが効かないというのが既におかしい。
暗示が効かないということは、敵は限りなく機械に近い精神構造をしているか、はたまたロボットか、そこにいないかということになる。耳を塞いでも無駄な攻撃なのだ。京の暗示を防いだという可能性は無い。
数度の会話の中でいくつもの可能性は限られた。
そして、最後の攻撃透化、それを見てしまえば憶測の1つも立つというもの。
つまり、目の前の男は遠隔操作で動いている自身の分身のようなものではないか、ということである。
クウネルの答えによってそれはほぼ当たりだとわかる。
それに京は
「反則くせぇ」
愚痴を漏らした。
クウネルの重力魔法が限りなく京に効かないように、京の攻撃もクウネルにダメージを与えることは不可能ということだ。
今の4つの手札では有効打は存在しない。
制限が無ければ、アレが魔法で操っている物なのなら数式魔術で繋がりや存在を解いてやることもできるし、超火力の攻撃で消し去ることもできる。対処は可能だった。
今の格闘戦主体の京では相性が悪いなんてものじゃない。ヴェルゼンハイムと戦ったときの事を思い出させ、京は顔を顰めた。
「フフ……、どうしますか?」
その事実にクウネルは最初から気付いていた。京が重力攻撃を尽く中和、無効化しているのが少々予想外な程度でクウネルの優位は揺るがない。
クウネルは余裕の笑みを崩さない。
ならば京の目標はあの笑みを崩すといったところだろう。
「やるだけやるさ」
さて、さて、さて
あの薄ら笑いを消してやる為に京はどうするべきか
打撃は効かない。遠隔操作の分身である以上ダメージを与えるという意味が無い。ならば、一撃で消し去るレベルの強打、打撃の範疇ですらない渾身の一撃を放つしかない。
4つの能力で勝てないなら、重ねるまで。
「次はこちらからいきましょう」
背後に音も無く、クウネルは現れた。
だが流石に何度も同じ事をされれば問題なく対処できる。
右手の甲には目玉が現れており、背後という死角をカバーしていた。
クウネルが実体化した右腕を振るう前に京の回し蹴りが決まった。
「まぁだろうとは思ったけどさ……!」
だがクウネルは右手を実体化したまま腹に直撃するはずだった蹴りを透化する。
器用に動かすものだと感心すら覚える。この大会では反則なんて生ぬるいほど常識外れだ。
そして、クウネルの攻撃は終っていない。その拳には重力の能力が付与されている。それは京の張った重力フィールドを中和、貫通するに至る。
「っ…!」
その拳を食らい京は弾き飛ばされる。
京にできることはクウネルにもできる。遠隔で攻撃できるだけクウネルの方が重力使いとしては数枚上手だ。
こちらからの攻撃は全て透かされる。適当な攻撃は無意味、そしてアチラからはやりたい放題だ。
「次の手はありませんか?」
相手の動き、詰め寄り方は正しく京の傍に
「ち…ぃ……!」
一発が効く、一撃にかなりのダメージがあり京にダメージが蓄積されていく。
舌打ちと共に京はそれに耐えるしかない。
チャンスが来るまで、柄でもないが今の自分にはそれしかなかった。
「先の襲撃は私も見ていましたが、あの君と戦いたかったですね。この場ではそれが限界ですか」
「無茶言うなよ」
それができれば苦労はしない。
だが舐められたものだ。
クウネルが宙に浮き、そして手を上げると同時に10mはあろう黒い重力場の球体が5つ発生する。
「それでは出力勝負と参りましょう」
クウネルはそう言って手を振り下ろした。
「ハハ」
きた。
京は両手を耳にあてがう。
それと同時に球体は舞台を巻き込み、押しつぶした。
「これは一体何なのかー! 黒い球体がツキムラ選手を押し潰したー!」
ベチャリとカエルが潰れるような音で京は潰れた。
「ム……」
ふとクウネルはその姿に疑問を浮かべる。
京の張っていた重力フィールド、あれは実際大したものだ。大砲ですら貫けない。だが同じ重力の攻撃でなら、更に深い重圧を掛けることができるクウネルが勝てる。
クウネルとしては重力フィールドで一時的、一瞬の時間を稼ぎ予想外の反撃を見せてくると踏んでいた。
それが今、目の前で潰れている。が、疑問はそこではない。一瞬でも今の攻撃を掻い潜るだけの隙を作り出せることのできたフィールドを張らなかった。
何故か
「……………………………………………………………………………………………………」
静まり返る会場で、司会とクウネルだけがその僅かな声を聞くことができた。
「俺は強い無敵だ最強だ絶対無敵常勝無敗負けなど無い最強だからそう俺は強い強い強い強い強い強い強い強い強い強い強い強い強い強い強い強い強い強い強い強い強い強い強い強い強い強い強い強い強い強い強い強い強い強い強い強い強い強い強い強い強い強い強い強い強い強い強い強い強い強い強い強い強い」
京はゆっくりと超重力下の中で立ち上がった。
ミシリと体のそこかしこから軋む音が聞こえる。
凄まじいGが掛かっても京はさも平然そうな顔をしていた。
「アナタは……」
自分を暗示に掛けたのかとクウネルは喝目した。
両手を耳に当て、自身の声を自分に反響させた。絶対の自信という暗示、それは脳のリミッターを外し、一時的なブースト状態を自身に掛ける。
痛みすら麻痺させた決死攻、それが最初の布石。
そして、これが第二の布石。
高磁発生装置を超限定的に絞る。それは右手のみ、射出口のようにそれは発生させる。
「いくぞ」
多数のサイボーグの特殊機能を要求される為に単純な体術しかできないのだ。
だが1つ、多数の能力を重ねればそれはできる。
磁場を腕に纏わせて
体を窮極の域にまでブーストを掛けて
それは完成する。
京はその腕を天に突き立てるように振り上げた。
「大 理 不 尽 パ ン チ!!!」
そこでクウネルの余裕の笑みは崩れた。
腕を振り上げると同時に重力の球体は消し飛ぶ。
舞台の周りの池は波となり観客を襲い。全てを巻き込んだ衝撃波を発生させる。
正式名称、電磁加速パンチ、電磁力で拳を加速し、衝撃波を発生させながら拳圧を飛ばす特級威力の拳である。
その場に場外に退避してクウネルはそれを避けた。
その顔からは冷や汗が流れているようにも見える。アレを食らえば幻影だろうが簡単に消し飛ぶ、それはクウネルの本意ではないだろう。
それに舞台から退避するというのは些か良い行いとはいえない。ルール上、舞台内で戦わないといけないのだから。
一矢報いたと京はニヤリと笑う。
そして、司会に向き直り、こう言った。
「降参」
とまほら武闘大会終了です。
あと数話で今回の章は終わりとなります。
あぁあと1話でやっと……
ちなみに、
原作名:太臓もて王サーガ
ジャンル:漫画
使用者:安骸寺悠
能力:
あらゆる世界、どこかの世界にあったという魔眼という魔眼、その全てを扱うことのできる能力。
体のどこからでも千対の眼を出すことができ、本気で使えば理不尽なほど強力。
と太臓もて王サーガでした。
ただのギャグ漫画、ジョジョネタが異常に盛り込まれたジョジョネタ漫画とでも言うような作品。
ジョジョの作者が人気投票に入っているなど色々はっちゃけた歴史があります。
作品名:マルドゥック・スクランブル
ジャンル:漫画&映画
使用者:ディムズデイル・ボイルド
能力:
四肢と脳に高磁発生装置を備えることで任意の方向に擬似的な重力を発生させることのできる能力。
壁や天井などを足場にすることができ、立体的な移動を可能にする。
また重力フィールドを張ることができ、それは大砲ですら弾き飛ばすほど強力堅固な守りの盾になることもできる。
とマルドゥック・スクランブルでした。
最近映画があると知りました。面白そうですね。
どこか退廃的で、印象深い作品です。
カジノ編で終るとは思わなくてちょっと残念な作者です。
面白いので是非読んでみてください。