マイナー能力者が往く異世界記   作:じろー

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申し訳ありません。お待たせしました。
最終戦前の一時ではありますが楽しめていただけたなら幸いです。


第84話

 全ては恙無く進行した。

 鈴音以外の作戦関係者は決勝戦で会場の賑わいが最高潮を迎える中、喧騒に乗じ別の地下ルートを通り離脱。

 発見されてしまった地下拠点の1つも京が探りを叩き潰したことで敵の行動が遅れに遅れ、再び侵入される頃には痕跡も残さず全ての兵器を撤収、別の場所に移動することに成功する。

 全くに順調であった。

 

「ハッ! ……つまんねぇの」

 

 現状を京は鼻で笑う。

 こういう事象に対してイレギュラーであってこその自分、同業者だからという建前と突き付けられたメリットに黙ったままの京はそう面倒臭そうにぼやくしかなかった。

 所詮自分がここにいてもいなくてもこの流れは確定事項、綿密な計画の完成度、そしてこの場の流れ、それはけして変わらない。ならばなんらかのイレギュラー、この流れに一石を投じられることで京の干渉を可能にできないかとも思っていた。

 が、それももう終わった。その芽を京自身が悉く潰した。まだ京は鈴音の味方でいるつもりだから、自らの手の届く範囲の障害は取り除いた。

 たった1つの気掛かり、それを除き概ね問題はないのだ。

 

「ま、いいんだけどねぇ」

 

 どちらにせよ計画の成功失敗に関わらず見届けるだけで京には絶対的な得がある。性分として手を出したいと思うだけでそれにはなんの意味もない。いや、京のすること自体に意味はなかったか。

 それも京はちゃんと理解している。だからこそ今の今まで何もしていない。

 

「どうかしましたか?」

 

「……いや」

 

 ブツブツと何かを零していたのにハカセは気付き、京に問いかける。それに京もまたはぐらかす様に顔を逸らした。

 現在時間、学園祭2日目21:00、あと3時間で3日目が始まろうとしていた。

 学園中が賑わう中、その片隅の人がいない公園で京達は集まっていた。これが最後のミーティング、武闘会での下準備を終え、あとは本格的な作戦が3日目に始まる。

 ハカセに京、そして龍宮に加え、そこには更にサポートとして茶々丸もいた。メイン設計をハカセが行い技術提供という形で鈴音が手を貸していたらしい。つまり茶々丸もまたこの計画には欠かせないものなのだろう。

 計4人、公園で誰とも会話という会話もなく静寂が過ぎる。皆ただ鈴音という計画者を待っていた。

 

「やぁやぁ、待たせて済まなかったネ」

 

 そこに遅れてやっとのことでこの計画の首謀者がやってきた。

 

「在籍していた研究会とか店に別れを済ませてきたヨ、今日がこの時代私の最後の日になるからネ」

 

 随分と余裕があるなと京はそう詫びながらこちらに近づいていく鈴音を見て、思う。

 

「やっぱり帰られてしまうんですね……、やっぱり寂しくなりますねー……」

 

「そうです超、ここで皆と一緒に卒業しても」

 

「そういうわけにはいかないヨ。私が帰るべき場所、本来の居場所は未来ネ。これを逃せば帰れない以上、ここに踏み留まるわけにはいかないネ」

 

 別れを惜しむハカセと茶々丸、そしてそれをやんわりと断る鈴音、傍から見れば仲間同士の別れを惜しむ仲睦まじいシーンに見える。それに横から口を出す程京も空気を読めないわけではない。

 だが思うだけなら勝手、京はそれを冷ややかな目線で眺めていた。

 

 こいつは何を言っているのだろうか

 

 何故誰も突っ込まないのか、別れという事実に気を取られていないだろうか。

 超鈴音は既に帰るという選択肢を取っているのはおかしい。

 この計画が成功すれば世界、地球は盛大に混乱する。それを鈴音はできうる限り調整し、摩擦が起きないようにするのではなかっただろうか。計画の結果起きる出来事に鈴音は責任を持って対応に当たる。そういう話になっていたはずだ。そして、この計画が終れば鈴音の未来の情報など何の役にも立たない。そして、鈴音以外で世界の調整などという大掛かりなことはできない。彼女に帰るという選択肢は存在しない、できない。

 ならば何故か。

 もしも、鈴音が帰るという選択肢を選べる場合、それは……。

 

「……」

 

 京は目の前に映るものが酷い出来の茶番にしか見えなくなっていた。

 京の心に溜まっている蟠り、その答えは既に喉元まで出掛かっている。

 もどかしい。

 京は目を逸らすことでこの感情を一時落ち着かせるに至った。

 

「武闘会では少々予定外の事態があったが上手く対処できた。つまりはこれからの予定に変更はないネ」

 

 時間は18:00、それから全ては始まる。

 学園の各所に配置してあるロボット軍団2500体が世界樹から漏れた魔力の溜まり場所、魔力溜まりに侵攻、占拠する。同時にハカセが長時間の詠唱を開始、占拠した魔力溜まりの魔力を使い強制認識魔法を発動させる。

 説明するだけなら複雑な工程を踏まない作業だ。だがこれには多くの問題が内包されている。

 1つ、魔力溜まりの1つでも敵に死守されると強制認識魔法は不発で終わる。

 2つ、ハカセの詠唱、大儀式魔法は開けた場所、つまりは目立つ場所で行わなければならない為、敵に捕捉され易く、一斉に叩かれかねないこと。

 それに鈴音は多くの対処をしなければならない。

 ロボット軍団は陽動、メインで攻めに往くのは龍宮、この日のために用意した強制時間跳躍弾"B・C・T・L"を使い敵を未来に飛ばし無力化、魔力溜まりを守る魔法先生を駆逐する。

 鈴音はハカセの護衛、サポートとして学園上空の魔方陣で待機。

 茶々丸は敵の防衛能力を削ぐ為に学園警備システムにハッキング、無効化し結界などを全て落とす。

 敵としては守り易く、攻め易い。勝利条件としては簡単なものだろう。

 だからこちらは最高の布陣、用意をして臨むのだ。

 突然の襲来、奇襲で魔法先生の半分は落とせる。あとは物量に物を言わせ押せば自然と片がつく。唯一の問題だったタカミチという最大戦力も京が潰してしまった。作戦開始までに回復することはない。

 

「まぁ、こんなところネ。私達は学園内ではお尋ね者、作戦開始までは皆目に付かないようにどこかに潜んでいて欲しいネ」

 

 そう言って鈴音は締めくくろうとした。

 その時

 

「順調そうだな、超」

 

「調子が良さそうだネ、不死の魔法使い(マガ・ノスフェラトゥ)

 

「あぁ、大いに良好だ。お前の計画にも別件で期待している」

 

 高みの見物する気満々のエヴァンジェリンは箒に乗りながらそこにいた。

 浮いている。つまりは魔法を使っている。世界樹の魔力の影響、溢れ出す魔力を充填してほんの少し魔力が元に戻ったのだ。

 

「それで一体私達に何の用ネ?」

 

「最後の激励というやつだ。それと……」

 

 エヴァンジェリンはそういうと舞うように箒からフワリと落ちると、京の腕をつかんだ。

 

「こいつを少々貸してもらおう。約束だからな」

 

 それにギョッとしたのは京であった。

 

「おい、まだ3日目じゃないじゃないか、明日ってお前は言ったろう」

 

「3時間もすれば明日だ。細かいことを気にするな」

 

 京の正当性を伴った反論もエヴァンジェリンの理不尽に切って捨てられた。

 そこそこなダメージを貰っていた京は3時間でも寝て休みたいと思っていたのにそうはいかないようだった。

 仕方がないと項垂れる京を引っ張りながらエヴァンジェリンは最後に振り返る。

 

「ぼーやを頼んだぞ、超」

 

「彼には迷惑を掛けるが、全てが終わった後ネ。ネギ坊主に渡したカシオペアには罠を仕掛けてある。私の計画の全貌を知るころには彼は未来に跳ばされているネ。彼はそもそも3日目を迎えることは無い」

 

 そんな罠があったのかと京はここで始めて知った。確かにそれならば納得がいく、彼を大事な者として助けつつ計画には手を出させないように布石を打っている。鈴音らしい隙の無い計画だ。

 これで京の疑惑は解消される。

 

「どうだかね」

 

 ことなどない。

 それを言ったのはエヴァンジェリン、京の心を代弁するように否定していた。

 ああいう類、馬鹿みたいな信念、勇気、気合がある奴は易々と終わることは断じてない。経験則として散々苦い思いをしてきた教訓だ。意表をついて、まさかと思えるほどの方法で、凄まじい運を以って奴等はそれを乗り越えてくる。

 本当にその罠は完璧なのか、穴は無いのか

 

「私の計画は完璧ヨ」

 

「フッ、精々気張れよ」

 

 それ以降、エヴァンジェリンは振り返ることは無かった。京を引きずりながらその場を後にする。

 そして最後に鈴音からエヴァンジェリンに後姿に声を掛けた。

 

「くれぐれもなにもさせない(・・・・・・・)ようにお願いするヨ」

 

 それにエヴァンジェリンは片手を挙げることで応えるのだった。

 

 

‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡

 

 

「待て、待て、引っ張るな」

 

「ならシャンと並んで歩け」

 

 引き摺られるようにエヴァンジェリンに同行する京は少し待てと静止を求める。

 もう既に鈴音達の姿は見えなくなっていた。

 

「……何だ一体?」

 

「用意ってもんがある。これで付き合うといっても格好がつかないだろうが」

 

 ほらと京は手を広げて自分の身形を強調した。

 上から下までスッポリと黒いローブに身を包んだ京、学園祭でもなければ少女を連れまわしている不審者だ。

 せっかく誘われての連れ立っての付き合い。流石にこれが頂けないのはわかる。それに対してちゃんと用意も怠ってはいなかった。

 

「なんだ、意外とわかってるじゃないか」

 

 感心したようにエヴァンジェリンは頷く。

 だが実際問題でこの格好を変えるというのは少々無理がある。正体を隠すためにこんな格好をしているのに、相応の格好をする場合、特徴的な素顔を晒すことになるからだ。

 それもエヴァンジェリンはわかっていて妥協点として突っ込まなかったし、無理をさせることはなかった。

 どうするのかとエヴァンジェリンは目と口で問う。

 

「で、どうする?」

 

「こうする」

 

 完全な素顔の京を知っているものは限りなく少ない。精々がすずか程度である。

 変相などしなくても、京は既に変装染みたことをしているから。

 京は徐にローブを脱ぎ、丁寧に畳んだあと脇に持つ。そして自分の髪を掴むと

 

「……はぁ!?」

 

 持ち上げた。

 そこには右顔を除けば短髪の青年が立っている。

 右手には先程まであった腰まで届く長い髪、要はカツラであった。

 それに素っ頓狂な声を上げたのはエヴァンジェリンである。

 

「取るのは久しぶりだ」

 

 京には能力として、数多くのパートナーが存在する。そして一番初めに仲間になったのがこの宇宙生物"ボウグ"である。度を越えた実直で寡黙な性格の為、今の今まで言葉を交わすのも数度だが初めの仲間としての信頼は厚かった。

 今現在は動かせることもなく、ほぼ仮死状態に近い状態である。

 髪が長かっただけ顔の輪郭もすっきりとし、前と比べれば爽やかに見える京はパッと見では絶対に気付けない。

 

「俺の相棒でね、今はちょっと調子が悪いみたいで動けないけど髪のような生物なのさ」

 

「なる……ほど…」

 

 口を引き攣らせながらエヴァンジェリンはそれを受け入れた。

 優しくローブで包み、小脇に抱え、懐から露天で買ったお面を出す。

 それを右顔が隠れるように斜めに被ると準備は終った。

 

「どうだ」

 

 そう胸を張る京だが実際大したことはしていない。カツラをとってお面を被っただけだ。だが意外と有効に見えるのも確かだった。

 

「ふむ……、まぁ及第点か」

 

 神妙そうに京の上から下まで見つめるとエヴァンジェリンは頷く。

 合格点のようだった。

 そして最後のダメ押しにエヴァンジェリンの隣にいたチャチャゼロを肩車するように乗せると準備は万全となる。

 こうして、エヴァンジェリン曰くデートとやらが始まったのだった。

 

 

 それからはほぼ遊び呆けだった。

 学園祭は昼夜問わず騒がしく賑やかに行われる。

 なんだかんだで女性の付き合い方はメイシェンで慣れていた京は大した粗相をすることもなく進んでいった。

 600年も生きているくせに見た目の年齢の名残もあるのかアトラクションに食指を伸ばしたり、かといえば雰囲気を重視したレストランを選んでみたりと捉えどころがなかった。

 次第に付き合いという形だった京も久しぶりに訪れた娯楽に嵌りつつ、楽しんでしまっている。

 3日目に突入し昼を越え、そして夕方に差し掛かった。

 

 

「……もうこんな時間か」

 

 京は時計を見て作戦が差し迫っていることに気付く。

 

「ここまで、かな」

 

 そして、終わりを告げたのも京だった。

 

「中々楽しかったよ。お前はどうだ?」

 

「あぁ、こういうのは久しぶりだったしね。俺も楽しめたよ。ありがとう」

 

「誘ったのは私だ。礼を言うのは私だろうが」

 

 エヴァンジェリンは京が断れないとみて一方的な約束を切り出したのだ。逆に礼を言われるとなれば面食らってしまう。

 だが純粋に京はエヴァンジェリンに感謝を、久しぶりに色々な事を忘れて楽しめたことを感謝した。

 そっぽを向いたエヴァンジェリンに京は苦笑しつつ、その場を後にしようと背を向ける。

 

「それじゃ、これでさよならかな」

 

 これが終れば京は学園にいる必要性がなくなる。もうエヴァンジェリンと会うことは当分ないだろう。

 

「いくのか?」

 

「あぁ、やることやってくるよ」

 

 少しだけ名残惜しさがあった。それはどちらも、楽しい一時だったからだ。

 これより世界を変える作戦が始まる。二の足を踏んでなどいられない。

 そして、京にはやることがあるから

 

「お前はどう動く?」

 

「特に指示はないかな、遊撃ってところかね」

 

 各々が適所に出張っているため京にはやることというのは特にない。好きに動きサポートせよということだった。京にはそれが性に合っているし異論はない。

 

「余計な事はするなよ」

 

「ハハ、まさか」

 

 ジロリと睨まれるも京は笑って流し、去っていく。

 こうして2人は別れたのだった。

 

 

‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡

 

 

 計画は始まった。

 

 出鼻を挫かれる形となって。

 

「……ほらみろ、それみろ」

 

 京の予想は的中した。

 学園の外れ、エヴァンジェリン宅の近くで京はそれを眺めていた。

 ロボット軍団の進行を1つのイベントとして逆に宣伝、ロボットを無力化する為の武器を配り、数千という客を巻き込んだ乱戦に持ち込まれてしまった。

 学園に侵入する前に半数以上のロボットが潰されていく。これでは魔法先生を抑えられない。

 これは強襲、だが待ち伏せされるように開始と同時に妨害された。それは既に読まれていたということ、知られていたということ、計画の漏洩は防いだはずなのに。

 だがその可能性に1つ京は心当たりがある。

 

「ネギ・スプリングフィールド」

 

 奴は未来に飛ばされた。しかし罠を仕掛けられていたとはいえカシオペアは健在、ならば更に過去に飛ぶことも可能なはず。ネギはなんらかの方法でこれを可能にしたのだ。そして、未来で一連の流れを知ることとなれば対策を立てることなど容易に過ぎる。

 鈴音の計画は完璧ではなかったのか、結局自分の蒔いた種で足元を掬われる結果となっている。

 いや、違う。

 そうではなく、全てが計画通りだとしたら?

 全てのピースが繋がった。

 ネギにカシオペアを渡す一件、鈴音が帰ると言い出した件、完璧な計画、過去改変。

 なるほど、わかった。わかってしまった。

 彼女がなにをしたかったのか、京との違いがわかった。

 

「……」

 

 彼女は、この計画を成功させる気が無い。正確には計画が全て終り、結果的に失敗ならそれでいいと思っている。計画自体の遂行が目的であり、その結果は二の次なのだ。

 手段と目的の逆転、それは京と同じことが言える。

 たった1つの違い。

 

 求めるものの差。

 

 京は1つの流れを変えるために自ら手を出し、その流れを無理やり変える。

 鈴音は1つの流れを変えるために一石を投じる。

 差とは結果を今に求めるか、未来に求めるかの差だ。京は変えたという事実が欲しい。鈴音は未来を変える布石を打ちたい。

 傲慢であるか、身の程を知っているかという違いだ。

 鈴音は自らの行為が未来を変えられると信じていた。同時にそれを打ち破りよりよい未来の可能性も考えていた。自分の限界は地球を混乱に貶めることでの別の犠牲を付き物にしたもの、やむ得ないと考えているだろうし覚悟もしている。だがもし自分を止めることができるだけの可能性を持つものにそれを託せるならそれが最良としたのだ。

 彼女の大事な人物、ネギは武闘会でその片鱗を見せた。そして、鈴音の罠を乗り越えて自らの計画を潰すのならもう未来は変わったようなもの、確実に成長したであろうネギはこの一件を糧にして別の未来を切り開く。

 自らの望みを更に昇華できる人物に託し、自分はその布石として一つの壁として立ち塞がる。それが未来に対して一石を投じる行為になるのだ。

 例えネギが落第点だとしても計画は成功、未来は変わる。自分の計画が失敗しても、また未来は変わる。この作戦が発動した時点で彼女の勝ちだ。

 

 京は結果を求める改変者、鈴音は未来に一石を投じる介入者。

 

 たった1つの僅かな違い。だがそれは決定的に違う差だ。

 1つの前提条件が崩れた。予定調和は終った。

 

「ハハ」

 

 彼女が自分と違うというなら是非もない。彼女に味方する建前が消えた。計画はもはや拮抗状態、いやおそらく鈴音は負けるだろう。なによりきっとそれを鈴音は望んでいる。

 彼女が提示した条件は破格だ。何より京を抱き込むためにした契約は鈴音のみにしか効力を為さない。京が何をしようと問題はないのだ。それは彼女の誠意であり、それ故に京も了承した部分もある。だがそれを踏み躙ることにも一切の躊躇もありはしなかった。

 

「さて、いきますか」

 

 自らの方針に移るとしよう。

 ゆっくりと歩を進める。その先には一進一退の攻防、未来を賭けた戦いが始まっていた。

 これは是非とも自分も混ぜてもらいたい。これほどまでに大きな出来事は当分来ないだろう。そして、京の目的を満たすには十分過ぎる場だ。

 さぁ、ぶち壊そう。

 

 

「待て」

 

 

 邪魔が入った。

 闇夜から、森の影から声がする。それはこちらに声を掛けると小さな足音とともにこちらに近寄っていた。

 月明かりに照らされ、その人物が正体を現す。

 

「……エヴァンジェリン」

 

「まだそんなところにいたのか、祭りは始まっているぞ?」

 

 僅かに笑いながら、エヴァンジェリンは京に立ち塞がるようにそこにいた。

 どうして彼女がここにいるのか、なんとなくわかる。京について共にいた日があまりないにも関わらずこちらのことをよく察していた。

 だからきっと

 

「あぁ、だからこれから助けに向かうのさ」

 

「ハッ!」

 

 京の上辺だけの言葉にエヴァンジェリンは一笑した。

 

「違うだろう? もう味方する気もないくせに」

 

「あぁ、ハハ、敵わないなぁ」

 

 やっぱり、京の考えなど見透かされていたか、そう頭を掻きながら苦笑する。

 だが責められることでもない。

 

「見切りを付けただけさ」

 

 京はそう悪びれもなく答えた。

 以前に言われた通り、見限っただけ、今のこの計画になんの意味も意義も見出せなくなったから、自らの行動原理に従い動くだけ。

 茶番に付き合うほど暇ではない。

 

「あちらに付くのか? 正義の魔法使い共に」

 

「まさか」

 

 敵の敵は、また敵だ。どちらにも付かない。京は1人だけで、あの2つの組織に横槍を入れる。

 

「やる気が無さそうだから、乗っ取ってやるだけさ」

 

 魔方陣は組まれている。詠唱も始まっている。京はそれに少し手を加えればいい。

 鈴音達を倒し、ネギ達を倒し、計画を代わりに自分が遂行する。ただ1つ違うのは、京がこの改変を終えた後、その責任を負う気が全く無いという事だけだ。

 幸いにしてこの儀式魔法に介入、改変する能力を京は持っている。

 

「代わりにやることやってやるだけさ、問題ないだろ?」

 

 ニヤリと笑ってそうのたまう京は完全にいつもの京だった。

 

「ハハハハハハハ!」

 

 その答えにエヴァンジェリンは大笑いし

 そして

 

「ふざけるなよ」

 

 そう睨み付けるような顔で切り捨てた。

 

「これは奴の道、超鈴音が始めた戦いだ。そしてその相手をぼーや達に選んだ」

 

 全ては鈴音が始めたこと、その帰結は負けるにしても勝つにしても彼女の手によって終わるべきものである。そして、その相手を鈴音はネギに選んだ。未来を変える行いが、この計画が正しいか、間違っているか、それを問う戦いとなった。

 故に

 

 

「無粋な真似をするな。お前に出る幕はない」

 

 

 致命的な言葉だった。

 

「ク、ハ」

 

 初めて言われた言葉だった。

 

「クク、ハハはハハハハハハハ!!」

 

 いつか言われるだろうと思った。

 京の行う全てに意味はない。それは1つの流れを変える行動であって、その行動自体に確たる意味もないからだ。

 余計なことをするな。邪魔をするな。無粋なことをするな。

 全ては決まった流れ、それに手を出すことこそ余計で無粋で邪魔な行動だ。

 だから、もしそう言われたら、こう答えようと思っていた。

 

 

「知ったことか」

 

 

 京はそれを笑って無視した。

 だからどうした。それがなんだ。自分には関係ない。

 余計なこと、そんなことはわかっている。邪魔だというなら排除してくれて結構。無粋だというなら止めればいい。

 

 ―――それができるなら

 

 

「お前は奴の味方か?」

 

「心情的に奴に肩入れしているだけだ」

 

「……そうかい」

 

 エヴァンジェリンは京をこれから一歩も先に行かせる気がない。

 ならばやることは1つしかないだろう。

 

「なら、悪いけど突破させてもらうよ」

 

「それはどうかな?」

 

 今の彼女はたとえ少しだけ魔力が戻ったとしても最弱状態なのに変わりはない。今の京を相手取ることは不可能と言っていい。

 だがエヴァンジェリンの余裕ぶりはその事実を窺わせることはできなかった。

 ふとエヴァンジェリンは空を見上げる。

 

「……きたか」

 

 パキンと何かが割れる音がした。

 それと共に発生する圧倒的な存在感、それは湧き上がるようにエヴァンジェリンから発せられていた。

 ゆらゆらと半透明な何かがエヴァンジェリンに纏われている。

 それはかつて多く見てきたもの、魔力だ。

 

「完全復活といったところか」

 

 フフとエヴァンジェリンは笑う。

 ここにきて些細な壁だと思われた者は、最大級の壁となって京に立ちはだかった。

 

「……どうやった?」

 

 それに京は疑問を口にする。

 エヴァンジェリンに組み込まれた封印は相当な物だったはず、二重に封印を掛けられた彼女がそれを自力でこじ開けたということはあるのか

 

「なに、予め決まっていたことだ」

 

 得意げに、当然だというようにエヴァンジェリンは答えた。

 

「私に掛かったを解くには掛けた張本人であるサウザンド・マスターの血縁の血が大量に必要、それもぼーやの特訓の授業料として結構な量を徴収させてもらった。そして、超の今の計画、茶々丸が防衛結界を落とすと同時に私に掛けられたもう1つの封印結界も落とした。今の学園は大量の魔力が漂っている。これだけの要素が揃えば後は自力で突破するなど易いものさ。まぁ……」

 

 そして、京を見てエヴァンジェリンは笑う。

 

「お前に封印を緩めてもらわなければここまで早く解除することはできなかったがな」

 

「なるほど、ね」

 

 つまりは間が悪かったということか

 

「行かせない。お前はここで私とデートの続きでも洒落込もうじゃないか」

 

「しょうがない、少しだけだ」

 

 お前に時間を掛けている暇などない。だがそうも言っていられない壁だ。

 前回はあっという間に畳み掛けられてしまった。その真の実力を京はまだ知らない。

 だが、おそらくは今まで京が戦ってきた中でも相当に上位、五本の指には入るだろう。

 

「今の私に敵うとでも思っているのか? 前回は手も足も出なかったのに」

 

 そう挑発するように、だが事実を口にされる。

 だがそれに答えるように京は口を吊り上げた。

 

「勿論、手はあるさ」

 

 こんな日の為に、手は用意してある。

 彼女を無力化するために、倒すために、それ相応の手札は用意した。それに京は負けず嫌いだから。

 何より彼女は勘違いしている。彼女が知るより京はもっと強い。

 

 さぁ

 

「いくぞ!」

「いくぞ!」

 

 ここに埒外の闘争が始まった。

 




と、最終戦の前まででした。

次回、vsエヴァンジェリン前編、相転移対相転移、刻鋼人機(イマジネイター)最終段階到達(エクストラドライブ・イグニション)

多数の新規能力と既存能力の奥の手のオンパレードになります。
乞うご期待ください。

かなり長くなりそうな気がするので次回の更新は少々遅くなりそうです。申し訳ない。
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