1話-最愛の人
連邦軍の息のかかった軍事組織ギャラルホルンにより、エルトリウムは地球への侵入を拒まれた。
元よりエルトリウムは圧倒的に大きすぎるが故に大気圏突入の予定もなく、地球内での戦闘になればエフィドルグやその他諸々よりも被害を増やしてしまう確率が高かったからだ。
艦内にあるスーパーエクセリヲン級戦艦での突入予定があったのだが、現れた部隊に足を止められる形になる。
「我々は宇宙軍の介入を一才認めていない。ここを通っていいのは連邦軍の機体登録を確認出来るモノだけだ」
地球外縁軌道統制統合艦隊の後ろにはギャラルホルン、つまり地球連邦軍の上層部が絡んでいる。それはエフィドルグ等の敵勢力が潜んでいる可能性のある相手であり、油断出来るモノではなかった。
ここで手をこまねいている訳にもいかず、急遽エルトリウム内での将校会議が開かれる。
「タシロ提督。現状の戦力で押し通る場合の所要時間は?」
「時間も何もあるまい。あちらはMS隊のようじゃし。ガンバスターだけで一秒~二秒で証拠も遺さずやれる」
「でもそれではダメですよね……」
「提督。エルトリウム前方にボソンジャンプ反応を確認しました」
総士と伊奈帆、キラと万丈とエルエルフがモニターを開くと、それを覗き込むユリカとルリ。
「こちらはネルガル重工、テンカワ・アキトだ。着艦を許されたい」
「機体データ照合。間違いありません……アキトさんのエステバリス、ブラックサレナです……」
端末で確認するルリの手が震え、ユリカは涙を流しながらペタンと床に座る。
「アキト……ほんとにアキトなの……?」
「……ごめんユリカ……待たせた……」
着艦の許可が降り、ブラックサレナがエルトリウムの中に。
格納庫で待ち構えているのはイズミ、リョーコ、ヒカル、ウリバタケ。さらには剣之介達の姿も。
ブラックサレナから降りてきたアキトに対して、いきなりリョーコが走り寄り、殴り付ける。
「ばか野郎!お前、ユリカやルリを泣かせ過ぎだ!皆に心配かけすぎなんだよ……」
「……ごめん……ありがとう……リョーコちゃん」
アキト達がユリカとルリを格納庫で待つ間に、剣之介が彼に近付く。
「なんとか会えたな剣之介。」
「テンカワ。無事に地球の近くに来られたのだな。何よりだ。」
「それで剣之介。君の嫁さんは」
「まだ嫁じゃないですけど、白羽由希奈です。ユリカさんにはお世話になってます」
「……どうも、ご丁寧に」
気恥ずかしいアキトはぎこちない表情でいる。すると僅かに顔や至るところから光の筋が表れる。
「あぁこれ?昔人体改造というか実験台にされてね。感情が高まるとボウッと光るんだ。漫画みたいだろ?」
「はぁ」
由希奈はアキトの奥底に影があるのを感じ取ったが、それよりもユリカが走ってきてどうなるかが気になっていた。
「前よりも表情が豊かになったな」
ムエッタがアキトに声をかけた。
「ムエッタ……お互い様だろ。そういや万丈は?」
「呼ばずとも来るさ」
アキトは周りを見渡す。
「ナデシコが撃沈された情報は‘鉄華団’の火星本部から聞いていた。だから準備をしていたんだが……」
言いかけ、背後の扉が開くのを感じ取り、振り向く。
「アキト……アキトアキトアキトアキト!!やっと会えたのねアキト!」
ダイビングヘッドバッドの様な体勢でユリカが全速力でアキトに飛び込む。
「グッハァッ!」
公衆の面前で女が男を押し倒し、馬乗りになる。
「もう離さないし逃がさない。どこにも行かせない!お墓の下にだってついていく。いつか二人で長屋に……ッ!!」
捲し立てるユリカを、アキトはキスで黙らせた。
「……二人じゃないだろう?三人だ」
「あ」
ユリカの背後に呆れ顔のルリが。
「アキトさんの屋体はウリバタケさんに改装してもらって地上にありますし、チャルメラも吹けます。またもとの生活に戻りましょう」
「ルリちゃんもごめん。迷惑かけた」
「何言ってるんですか。これからもでしょう」
「……レシピを手離したこと、実は後悔してた」
「今はユリカさんが持ってますから、色々片付いたら営業再開しましょう」
「お前の屋体にミノフスキークラフトとディストーションフィールドをつけておいたぜ」
ラーメンの屋体だよな?
ウリバタケの言葉には誰もつっこまない。
「アキト……味覚はもう大丈夫なの?」
「平気だ……いつか一緒にバサラの歌を聞こう。そして」
リョーコや他のナデシコクルーに対して。
「皆にラーメン作りたい」
「いや、いらない」
苦笑いするアキトを遠くで安心した様子で見つめる万丈。
それに気付いた剣之介も同様の表情を見せることに。