ビスケットの死によって鉄華団の士気が一気に落ちている中、タンカーの甲板に寝転がるキラの姿が。
それを見付けた剣之介。
「……お主、大丈夫か?」
「剣之介か……ちょっと……ね……」
「ビスケットの件。鉄華団以外にも哀しむ者が多いな……まったく。何故この様な辛さが、今の時代になっても続くのか」
「君は昔の侍だったね……」
「某は火星でビスケットの妹達と農場を手伝っていた事があったのだ。残されたあの娘達の泣顔が目に浮かぶ……」
キラはうつ向く。
「剣之介は……戦場で敵に情けをかけることは悪いことだと思う?」
「……よく解らん。ビスケットの死も、俺が敵を逃がそうとしたのが原因かも知れぬ」
「僕は戦場であっても出来る限り人は殺さない。その誓いは曲げるつもりはない」
「……」
「殺せばいいじゃん」
キラと剣之介は驚いて背後からの三日月の声に振り向く。
「そんなだから、仲間を殺される。仲間を殺されて皆が哀しむ。敵になったやつを全員殺せば戦いが終る。それだけだと思うけど?」
淡々した口調に、剣之介は身震いする。もし三日月と同じ考えであったなら鬼として殺そうとしたゼルや、敵だったムエッタを自らの手で殺め和解することも無かったのだ。
「三日月……」
「殺されたから殺して、殺したから殺されて、それで最後に平和になるとでもいうのか?」
立ち上がったキラは強い口調で言うと、三日月は表情一つ変えずに。
「なるよ。そのための戦いなんだから。あんたらだって何人も殺してるでしょ?臭いでわかる」
「いやそんな考えでは戦いは終らない。憎しみの連鎖を絶つ事と命を奪うことは一緒に考えでは駄目だ」
思わず剣之介も立ち上がる。
「二人とも少し落ち着け。何を熱くなっている」
「三日月・オーガス……やはり君とは相容れない」
「なら戦って俺を止める?あんたのやり方、正直理解できないし相手になるよ」
「もし無闇に人を殺すことを続けるのなら……僕が、君を討つ……」
三人のやり取りに気付いた騎士ユニコーンが走ってくる。
「どうした。何をもめているのだ」
「別に」
三日月は腕のミサンガの臭いを嗅いでから、木の実を食べつつその場を後にした。
「……」
「キラ……妙な気は起こさぬように頼むぞ」
様々な思惑の中でナデシコ地上降下部隊と鉄華団はタンカーで海を渡り、雪山を特別列車を使用しての移動計画になった。
ただ、先の戦闘で鉄華団団長オルガ・イツカが精神的ショックで一時的に指揮権を界塚伊奈帆に預ける事になった。
「まずいな……」
剣之介の報告を受けた伊奈帆がシンと話す。
「そうでよね。いつ地球軍の追撃やフェストゥムが来るかも分からない状況で、仲違いだなんて」
「二人の出撃は避けてもらいたい。戦場でのどさくさでやりあわれても困る」
伊奈帆は顎に手をあて。
「キラさんはもっと冷静な人だと思っていたけど、正義感が強すぎるからかな……」
「このままでは……どうする?」
シンは戸惑う。
「今のオルガ団長は使い物にならない。あの人はどうだろう……」
伊奈帆の視線の先にいる、甲板で腕立て伏せをしているガンダムパイロット、昭弘。それを眺めているラフタの姿。
「昭弘さん。少しお話が」
「む……」
「ほら昭弘。ちゃんと挨拶」
「あ、あぁ……」
上半身裸で筋骨粒々の巨漢が汗を拭きながら現れた。
昭弘に説明すると、少し困ったような顔を見せる。
「……言っとくが俺は三日月と同じ様な考え方だ。」
「……やはり鉄華団はそうなのですね……」
「宇宙ネズミ……ヒューマンデブリには生きる手段が限られるからな。自分の居場所を勝ち取るには邪魔者を排除、殺すのが常識だ」
ラフタは昭弘の台詞に悲しげな顔を見せる。
「だが……」
少し考えて、間を空けてから。
「キラ・ヤマトの考え方は嫌いではない」