海上の移動は張り詰めた緊張感のなか厳戒体勢で警戒が行われていたものの敵襲があるわけでもなく、万丈が用意した列車への乗り替えポイントまで何事も無かった。
「万丈さん、うまく陽動もやってくれてる。これで……」
伊奈帆が突如として言葉を区切る。
韻子がそれに気付く。
「どうしたの?」
「宇宙から暗号化された片道の通信が来てる。なるほど、さすが皆城総士。鉄華団の独自ルートを使ったのか」
「内容は?」
「ファフナー隊を一時的に戦力から外して同化現象から身を守る対策に出たようだ。それと」
伊奈帆は眉間にシワを寄せる。
「アセイラム姫とラクス・クライン議長のエフィドルグ化……洗脳を受けているらしい」
「そんな!だって私達が動けるようにしてくれたのは彼女じゃない!」
「恐らくあの後……いや、今は後回しだ。それにスレインが火星騎士と合流してタルシスを手に入れた。奴から相談事もあるようだ」
明らかに無理をしている伊奈帆を、後ろから抱き締める韻子。
「新しいナデシコ、ヴァルヴレイヴ……戦力が増えたのはいいことだけど、懸念材料も増えた」
「ちょっとくらい辛い顔しなさいよ……」
淡々とした伊奈帆の手が僅かに震えた。
雪山をこえるための特別列車に物資や機体を積み込み、移動が開始された。
キラとシン、剣之介と由希奈とムエッタは雪を見た途端に無口になる。
それぞれが雪の中で過去の死闘を思い出しながら物思いにふける。
一方食堂車で偶然にも伊奈帆と韻子、
三日月とアトラが顔を合わせた。
「……三日月。オルガ団長の様子は?」
「まだ部屋に籠ってる」
「多少手荒でも復帰してもらいたい。彼にはやれる事も、やらなければならない事もあるから」
「それはあんたじゃ駄目なの?」
「今は僕でもいい。でも彼には家族を引き連れる責任がある」
じっと視線を外さない両者。
「君達鉄華団はこれから成長する組織だ。決して散らない鉄の華と言う言葉は個人的に気に入ってる。だから前に進み続けてほしい」
「なんか、あんたの言葉聞いてるとチョコの人を思い出しちゃった」
首を傾げる伊奈帆に、三日月は木の実を差し出す。
「あんたはキラって奴とは少し違う感じに見えるね」
「一つ一つの戦場で、現場での考え方は僕は君と同じだ。だけど戦場の先まで見据えた、兵士の未来を含めた考え方が彼には出来る。それだけだ。彼には彼の正義がある…………この木の実苦いな」
「へぇ……まぁ何となくわかった気がする。でもビスケットの仇が出てきたら」
「僕は止めない。敵討ちは僕も経験がある」
韻子が伊奈帆を見つめる。未だにオキスケの事を気にやんでいるようだ。
「……荒っぽくなるけど、オルガの件。やってみるよ」
その僅か数分後だった。
憔悴していたオルガの胸ぐらを掴んで立ち上がらせたのは。
「ねぇ、伊奈帆」
「何、韻子」
「カームも言ってたけど、オコジョの事」
「僕が手を離さなければ、目の前で友達が消える事は無かった。同じことを繰り返すつもりはない。これ以上仲間を失うくらいなら、僕はアナリティカルエンジンに脳を授けてでも……」
「そんな自己犠牲、見たくない!」
伊奈帆は左目に手をやる。
「…………」
「伊奈帆……私達婚約中なのよ。まだこれからがあるんだから、お願いだから……そんな危うい考えやめてよ……」
「……韻子」
「何よ……」
「敵が来た」