先に逃がした鉄華団を追うため、移動するナデシコ。
「界塚の様子は?」
「……まだ目を覚まさない」
頭に包帯を巻いた韻子に声をかけたスレイン。
ナデシコの中の救急治療室。
心拍モニターからの電子音が鳴るのを聞き続けるしかない二人。
身体中に全身打撲と裂傷、さらには骨折。
何より左目の力を駆使しすぎた代償が大きく、意識が中々戻らない。
「もう伊奈帆のこんな姿、見たくなかったのに……」
「……こいつは、ここで終る奴じゃない。終わらせる訳にはいかないし、それを僕は許さない」
韻子は思わずスレインをみる。
彼が伯爵の赤い服を着ている理由を聞いていなかったが故、思わず警戒する。
黙って退室したスレインは、真っ直ぐブリッジのユリカの元に向かう。
「地球軍の基地ですか?」
「はい、もしくはそれに属した訓練校」
スレインの台詞に色々と察したユリカ。
「進路上に廃棄された地球軍基地があります。そこに……騎士ユニコーンさんとエルエルフさんも連れていってください」
「騎士ユニコーンはわかりますが……エルエルフさんですか?」
「彼も’一人旅団‘と呼ばれる白兵戦のやり手です。それに」
「……僕の監視を兼ねてですか?」
「必要ないと思いますが、そんな感じです。まぁ人数が多い方がやりやすい事もありますから、気にしないでください」
確かにエルエルフならば色々と役にたつかもしれない。それに地球軍製カタフラクトにはあまり慣れていないから、器用な彼は重宝するはずだ。
「わかりました」
それから一時間後、三人は廃棄された地球軍基地に到着する。
ナデシコも艦砲修理のために着陸するが、作業の進捗率が芳しくなかった。
「わざわざすみません二人とも」
「わたしは構わない」
車の後部に座る騎士ユニコーンと、助手席のエルエルフ。
「まぁ、気晴らしにはなる」
車で三人が基地内を散策していると、呆気なく目当ての物が見つかる。
それは伊奈帆が好んで使っている練習機スレイプニール。
「本当にオレンジなんだな……」
「何をいっている?」
「いや、界塚の専用カラーだと思っていたから」
エルエルフは手際よくスレイプニールのシステムチェックを行う。
「やはり使える。軍用機は全て接収されたようだが、練習機となると話が別。この利便性も界塚の策の一部かも知れんな」
「敵の気配はない……エルエルフ、聞きたい事があるのだが」
「どうした騎士ユニコーン」
「何故冥王との戦いで出撃を躊躇っていた?指南殿が不信に感じていたようだ」
一瞬、エルエルフの手が止まる。
「特に気にする必要はない。戦術的判断をふまえ充分考えて対処をすべき相手だっただけのことだ」
「……ユリカ艦長は何かを気付いているようだぞ。何かは知らぬが」
鼻で笑うエルエルフ。正直、時縞ハルトのルーン制限については’ヴァルヴレイヴ隊以外なら‘知られてもいい。自分より知恵の回る人間が多数いるこの部隊では、肩肘を張る必要もなかったのかも知れない。
「その内話す」
それだけ言ってエルエルフはスレインと騎士ユニコーンを黙らせた。
「何やってんのよ!」
格納庫でスレインは韻子に頬を強くぶたれた。
「伊奈帆はあんな状態なのよ……なのにどうして!」
回収したスレイプニールに以前の脱出装置を組み込み、アルドノアドライブを機体にマッチングさせた。
ウリバタケ、キラ、エルエルフ、スレイン、騎士ユニコーンが総出で協力してスレイプニールが元の形以上になる。
さらにアルドノアを利用した追加武装、フリーダムの予備ライフル、エステバリスのナイフ等を付け加えた。
「彼が起きた時に、何も出来ない、戦えないのは、傷つく事より辛いから」
キラがフォローするも、韻子はスレインの襟を離さない。
「僕が道を踏み外した時、界塚に頼みたい事があった。それにはこのオレンジ色が必要なんだ」
「あんた……」
「これから言うことは、界塚には内緒で頼む」
「何やら揉めているようだが」
「気にしないの。それよりムエッタ……怪我は大丈夫?」
由希奈がムエッタを訪れ、メドゥーサの前で話す。
「わたしは大丈夫だ。だが暫くメドゥーサは使えそうにないな」
自己修復に時間がかかるレベルのダメージをおった。
「……ならばメドゥーサがなおるまでの間、わたしは生活班の手伝いをしよう」
それを聞いて剣之介は驚愕する
「ムエッタ殿……!まさか」
「うむ。調理場という戦場に参る所存」
青ざめた剣之介に気付く由希奈。
「……何かあった?」
「……由希奈……この部隊が全滅しても、一緒に黒部に戻ろうな……」
「……だから何があったのよ」
様々な不安要素や思惑を乗せ、ナデシコは基地から離れる。