「本日は第29回た学会全国大会にお集まりいただきありがとうございます。今年は話題のアニメーション映画「正解しないカモ」の舞台である墨田区民センターの開催です。昨年の西葛西から一年、早いですね。申し遅れましたわたくし司会の花沢一瞬です。よろしくお願いします。ここでた学会名誉会長で作家の山野辺武蔵先生からご挨拶をお願いします」
「昨年から4人が研究の犠牲になってしまいましたが、た学会には新しく5名の頼もしい方々が入会してくれました。年会費の、120万円を払って。その探究心は賞賛に値します。ようこそ、た学会へ。叩きつけたくなる書籍批評学会へ、ようこそ!」
「それでは早速、叩きつけ新人賞からの発表です。ノミネート作品は、【ご近くのうさみくん】」
歓声。
「【金融庁も戯言を】」
嬌声。
「【ガルウイングパントマイム】」
無言。
「明らかに人気の差がわかりますねぇ」
「略称が人気作品と同じとか、叩かれる素質がありますね。三作品とも、読んでみて、なんじゃこれは、で多くの方が本を叩きつけたそうです」
「炎上狙いは褒められたことじゃあない」
「それでは叩きつけ新人賞は、……ドキドキします。
【君のはな。】!」
「イェス!」
「おめでとうございます。おっとブーイングが止まりません」
「叩きつけたくなったんでしょうねぇ、おっと早速叩きつけている」
「この作品はね、美しい作画、わかりやすいストーリー、成功が約束された作品なのに最後の一文で叩きつけたくなるという、た学会のお手本のような作品です。ギミックの観点では……、映像をご覧ください。ラスト、290ページを読む。「せやけど、君のはなぁ……」、おおきく振りかぶって、「君のは、なんだよ!」叫んでぶん投げる。ここからですね。オーロラみたいなきれいな尾を引いて、あぁ、途中で2つに分かれましたよ?」
「売り上げが200億円突破の大ベストセラーですね」
「叩きつけると流れるBGMもやたら売れましたね。旧海さんです」
「どうも旧海です。この作品の北くんと初美ちゃんにはモデルがいるんだけど、この前三人で飲みました。「あれ俺達がモデルだろう?」「私たちにも何かギャランティないの?」。二人は口々にそういうから、「それなら私特製、作品内のあれをプレゼントしよう」、って言ったの。そう、口噛み酒。そしたら北くんが言うんだ。「君のはなぁ……」って。どうもありがとう」
「叩きつけられた彗星が掃除されるまでしばしお待ちください。しかし山野辺先生、今年は豊作でしたね。ノミネート作が三割増ですよ」
「た学会も来年が30回目の開催だからますます叩きつけに拍車が掛かるといいですな」
「山野辺先生の活動はいかがでしたか?」
「私は二冊出しました。【神杯(かんぱい)】の79巻と最終巻です。そろそろ再開できそうですよ」
「床が穴だらけです(笑) 次に、叩きつけ功労賞のノミネート作品です」
「功労賞ってあったっけ?」
「偉大な功績を納めつつ、鬼籍に入った方への栄誉賞です。なにせ四人亡くなっていますからね。1作目は、森欄外先生【ライ姫】。海上にはお嬢さんがお越しになっています」
「ポヨ太郎がアレ過ぎてドイツ式の叩きつけを皆しちゃうんですよね」
「先生、ドイツ式投げつけって第二次大戦以降禁止されたんではなかったですか?」
「あの戦争を風化させてはならないというメッセージかもしれません」
「2作目はあぶく川μ(みゅー)之介先生【ラッパ】、奥様がいらしています」
「この作品だけ作風がまるで違ってまして、要するにあの吹奏楽アニメのパクリだと言われていますね」
「あのさぁ、逆。ラッパの連載開始は20年も前だよ?」
「それは、失礼しました。ではどうしてノミネートされたんですか?」
「久仁子と瀬奈の百合を全面に出していたのに、全国大会後にそれぞれ男ができて爛れたからだね」
「ラッパより尺八のほうがうまい、と。そして、叩きつけるといい音がするんです。せーの」
ぱふっ
「何度聞いても笑点だね、これ」
会場爆笑。
「それでは映えある叩きつけ功労賞の発表です。夏目紡績【ぼっちやん】。若社長、さあ前へ」
「ありがとうございます。会長も喜んでいると思います」
「ぼっちやんは夏目紡績の歴史を赤裸々に書いたエッセイです。いきなり紡績業界に飛び込んだ話や、赤字、たぬき爺との軽快な言い合いが人気を博しました」
「夏目先生にはお世話になったよ。若社長、一言いただけますか」
「夏目紡績は御徒町に本社、国内8箇所に事業所と長野、茨城、愛知に工場を持つシェア4位の紡績会社です。一昨年会長念願の一部上場も果たしました。2億2000万円を投資した新型紡績機で生産量は1.6倍、コストは30%減、環境面では厳しい国際基準もクリアしています。1月20日までインターンシップの募集も行っています。第二新卒も大歓迎」
「山野辺先生……、これは?」
「奥付の文書ですな」
「奥付?」
「夏目紡績は常に人材を求めています! アットホームな職場で初心者でもへぶあ」
「叩きつけられましたな。さすが紡績会社製だけあって見事なタペストリーが若社長の周りに咲いている」
「【ぼっちやん】の正しい使われ方が出ました。そのタイトルに惹かれた読者の多くがぼっち、つまり社会に迎合しない方々ですが、最後まで読んだらブラック企業の求人が載っているとは皮肉です」
「そもそも夏目社長は過労死だし」
「憎しみのこもった叩きつけで会場が混乱しています」
「例年のことだ。」
「メディアミックス賞の前に、話題賞として特撮映画【シン・ゴメラ】についてですが先生ももちろん」
「はい。何度も」
「ノベライズ版が話題になりましたねえ」
「無人はとバス爆弾24分の1スケールモデル爆弾ノベルだろ? バスの屋根や床やサイドばかりか座席、タイヤ、エンジンや荷物置き場までびっしりと文書が書いてある」
「これまでのあらゆる本は平面を読む、でしたからね。そもそもどこをどの順でかがわからない読者多発です」
「それで叩きつけたら爆発しちゃうから困ったもんだね」
「本来の用途はバスを後ろに引っ張って怪獣に向けて手を離す、ですよ皆さん。た学会との約束です。変な素材と言えば、先生の神杯最終巻。あれはなんなんですか?」
「パイだね。クリームパイ」
「叩きつけるための本ですよね、あれはどう見ても」
「その逆だよ。絶対に叩きつけられないという自信があるからパイに印刷してもらったのさ。パイ生地一枚一枚に79冊分の答えが載っている。出てから半年経つが、私は未だにあのパイをぶつけられたことはないよ」
「さすがですね。すでに180刷りというのも大記録じゃないですか」
「毎日焼くからね」
「は?」
「パイだからね」
「……では、メディアミックス賞の発表です。文字書籍以外のあらゆる叩きつけ作品を対象としています。ノミネート作品は、東立社洗濯機【Beat it up!】!」
「洗濯機でしょ? 叩くんですか?」
「しみ抜きのたたき洗いがこれまでの洗濯機と段違いだそうですよ」
「洗濯板の時代のやり方を機械が再現しつつあるねえ。この【洗濯機】と【カツオ】は本当に何度も何度もノミネートされているから強い」
「あとは【頬】とかですね。宗教の教義になるからと未だにノミネートを辞退しています」
「次に、週刊文冬から【真実】」
「これは今年を代表しますねぇ。次々と真実を明るみに叩きつけてきた」
「週刊誌なんて叩かれる側なのに、文冬だけは叩いてましたからね。ジャーナリストの鑑です」
「叩くとホコリが出るんだよなあ」
「今年は【電撃○庫Magazine】は残念ながらありません」
「そうなの? あの連載、前に新人賞取ったじゃない」
「出版社や将棋連盟や角界から、た学会に正式に抗議が来まして……」
「冗談の通じねえ連中だな」
「あと、電子書籍版を叩きつけてiPadが割れたという苦情も来ています」
「電子書籍はた学会の敵! 第1回の大賞では像が踏んでも戦車に撃たれても壊れない腕時計があったじゃない」
「あのデジタル時計ですね」
「電子書籍端末はあれくらいの強度を目指しなさい。でないと叩きつけられない」
「それでは、叩きつけメディアミックス賞の発表です。……【前知事】!」
「やっぱり!」
「【前知事】おめでとうございます!」
「私は、今年いちばん叩かれたと思っています。何よりも、その引き際の悪さと器の小ささ、意地汚さで周囲から叩かれまくりました」
「ノミネートされた段階で、相当色々と叩きつけられたんじゃないんですか?」
「まあ、あるっちゃあるんですがね」
「無人はとバス爆弾24分の1スケールモデル爆弾ノベルですか?」
「さすがにあれを叩きつけられたら花火になっちまいますよ。はっはっは」
会場爆笑。
「流石に情けない、って妻がね、ちょろまかした税金で自分も散々豪遊できたっていうのにさあ。叩きつけられちゃったよ。三行半。いやあ、私も上手いことを言うね。ここで会場の皆さんは手を大きく叩くべきだよ」
「先生、前知事から離れてヘルメットを被ってください」
「かぶるから渡す時叩きつけないでくれ」
「四方八方から無人はとバス爆弾がっ!?」
爆発音
「さすが、汚い花火だ」
「それはそうと、毎日焼いてるんですか?」
「焼く? 何を?」
「パイです」
「そりゃあ日持ちしないものだからね。焼きあがりは毎日違うから、乱丁や落丁は大目に見てほしい」
「苦情はないんですか?」
「あったよ」
「叩きつけ事案じゃないですか」
「パイが美味しくてもう一度買わないと結末まで読めなかった、ってのが来た」
「なるほど」
「栄えある叩きつけ大賞の発表です。この大きなトロフィーと副賞の1200万円は誰のものになるのでしょうか。ノミネート作品は、今日出たすべての作品となります。ドキドキします。……【神杯】!!」
「俺ー! ウィナー!」
「コングラッチュレーション!」
「なんだとこのやろう」
「鬼!悪魔!人でなし!」
「山野辺金返せ!」
「神杯が山野辺先生に叩きつけられます。いかがですか先生?」
「作家として本望うべっ」
「それでは山野辺先生が【神杯】まみれになっているところでお開きです。次回は佃島でお会いしましょう」
完
「山野辺先生、今年は本当に佃島ですか?」
「そうだが?」
花沢がそろそろ予約をしたいと言ってきた。毎年この時期になると、じゃあノミネートを始めようかと相談と言う名の作家仲間を集めたTRPG大会をするのが恒例となっている。
「実はですね、先生。うへへへへ」
「なんだ、やけに機嫌がいいじゃないか」
「12月29日、取れたんですよ」
「取れた? って、もう役所は閉まっている時期じゃないか。佃島のホールも無理なんじゃないか?」
「ですから、ほら」
封筒の中から出てきたのは、二つの球体。そして、日本政府承認のハンコの押された書類の束だった。
「まさか?カドが?」
「そうです。ヤハクィザシュニナ氏のご厚意によって、カドの角スペース予約が取れましたよ!」
「いったいどんな手を使ったんだ君は」
「ちょっと、ね」
第30回た学会の全国大会は、超巨大立方体[カド]の角スペースでとんがった論議が繰り広げられそうである。
「真道、見てくれ」
「なんだこれは」
日本政府、ヤハクィザシュニナとカド関係者に提供されている国家公務員宿舎の一室を異方人が訪ねてきた。
「学術研究の学会とやらにカドを貸し出すことにした」
「学術研究ねえ」
ぱらぱらと概要、これまでの全国大会をまとめた冊子に目を通す男の目は笑っている。
「ザシュニナ、こいつらはジョークで学会をやっている連中だ」
「なんだと」
「遊び、の概念がわかるかもしれない。行ってくればいい」
「いい」
30回記念大会に、ゲストが参戦することが決定した瞬間である。
追補・完