竜が辿り着いた幻想郷・外伝   作:ベヘモス

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この小説は《竜が辿り着いた幻想郷》と《チートじゃ済まない》のコラボ小説となります。両方の話を知っていることを前提に書いているので、知らない方はまず二つの作品を読んだ上でこの作品をお楽しみ下さい


外伝その1

「……ココは一体何処だ?」

 

水色の髪の少年<一条要>は、困惑した様子で辺りを見渡していた。

ついさっきまでインフラ整備のされた市街地を友人と歩いていたはずなのに、急に周囲の情景が変われば誰だって困惑するだろうが、今彼が居る場所は現代の日本とは思えない様な場所だった。

彼がいる場所は人気が全くしないただの平原としか言いようが無い様な場所。

草は公園の様に綺麗に刈り取られている訳ではなく伸び放題だが、牧草地の様に家畜を放牧する為の場所と言う感じもしない。

足元の地面には薄っすらと雪が残っているが、溶けて小さくなりつつあるものばかりが、雪とは別に骨の様な白い物が地面から顔を出しているのを見つける。

此処に誰かの白骨体が眠っているのかもしれないが、何にせよあまり長居をしたくない場所なのは確かだ。

 

「アリストテレス……は、家に置いてきたんだった。肝心なときに使えない」

 

要は自身のデバイスに声を掛けるが、買い物に出掛けるだけなら持っている必要もないだろうと言う事で、家に置いてきた事を思い出す。

大きな事件が解決して気が抜けていたとしても、まさかこんな所に迷い込むだなんて予想していなかった。

アリストテレスが居れば今何処に居るのか分かったかもしれないが、居ない物は仕方が無いと頭を切り替える。

 

「……って、そうだ、すずか! おい、すずか何処だ!」

 

要は此処に飛ばされたのは自分ひとりではない事を思い出し、一緒に来たと思われる友人の名を呼んでもう一度周囲を見渡す。

大声を出して友人に呼びかけるが返事はなく、彼女の名前が平原に空しく木霊した。

安否を確認できないのは不安ではあるが、巻き込まれずに難を逃れたのだとしたら、それはそれで安心できる。

今自分が何処に居るのか分からないだけではなく、この見知らぬ場所が本当に安全な世界だと言う保障もない。

もしこの土地で何か厄介事に巻き込まれでたら、それに彼女を巻き込まなくて済む。

自分ひとりがこの地に迷い込んでしまったとしても、よほどの規格外と遭遇しない限りは生き残るどころか討伐する自信があるが、彼女も一緒に迷い込んだと為るとそうも行かなくなってくる。

だから彼女には元の世界で無事でいて欲しかったのだが、要の願いは天には届かなかった。

 

「ッ! すずか!」

 

要は自分が立っている地点から数百メートル離れた所に、パンジーの花の様な深い紫色の髪の少女が倒れているのを見つける。

要は倒れている彼女へと急いで駆け寄り、そのまま抱き起こすが要の心配とは裏腹に少女の顔色はよく、コレと言って目立つ外傷もなかった。

自分と同じ世界に来てしまった事に関しては複雑な気持ちだが、怪我一つしていない彼女を見てホッと一息つく。

 

「はぁ~……。良かった、どうやら怪我はしていないみたいだな」

「う、うぅ~ん…………あれ、ここは?」

「お? 起きたのか、すずか」

「かなめ……さん? いったいなにがどうなって……」

「無理に思い出そうとするな。まずは落ち着いて深呼吸からだ」

「………………」

 

未だ寝惚け眼の少女<月村すずか>は、要に促されるがままに身体を起こし、大きく深呼吸をする。

草原の冷たい空気を肺の中いっぱいに吸い込んでから吐き出す。その動作を数回行うとちゃんと眼が覚めたらしく、すずかは今自分がいる場所を認識して狼狽し始める。

 

「あ、あれ? 私なんでこんな所にいるの? ついさっきまで要さんと街を歩いていた筈なのに……。もしかしてまた誰かに捕まっちゃった!?」

「いきなりこんな所に放り出されて混乱しているのは分かるが、とりあえず落ち着けって」

 

余りにも突然の状況の変化に慌てふためくすずかとは反対に、要は年長者らしくすずかの事を落ち着けて状況の把握を始める。

しかしそんな事をしても分かる事は、此処が薄っすらと雪が積もっている平原だと言う事と、自分たちが買い物の途中で空間の裂け目に飲み込まれてしまった事だけだった。

すずかが持っていた携帯は県外の為殆ど使えず、アリストテレスが居ない今、自分たちが何処に居るのかも把握できなかった。

 

「どうしよう……。携帯が使えないんじゃ家に電話できないし、助けを呼ぶことも出来ないよ……」

「そうだな……。とりあえず、何時までもこんな所でジッとしてるのも性に合わないし、人を探しに行くか」

「え、えぇッ!? で、でも要さん、遭難したときはその場から動くなって言いませんか?」

「確かに遭難したときならな。でもなすずか、俺達は迷子だ。何時救助が来るか分からないなら自分から行動を起こさなくちゃ。…なに、安心しろって。何が遭ってもお前は俺が守ってやっから」

 

そう言って笑いかけてくる要を見て、不安に押し潰されそうに為っていたすずかの表情が少しだけ明るくなる。

 

「要さん……」

「それに疲れて歩けなくなっても俺がおんぶしてやっから安心しろって」

「さ、流石にそれは恥かしいので自分で歩きます」

「そっか? まぁ無理はすんなよ」

「はい、分かりました」

「うっし、それじゃ行くか」

 

要がそう言うと二人は立ち上がり、宛てもなく草原を歩き始めた。

二人に全く見覚えのない場所の土地勘など在る筈もないが、少しでも状況を好転させようと行動を始める。

幸いな事にこの平原の草はそれほど高くはなく、歩きにくさを感じる様な事はなかった。

二人は逸れないように寄り添いながら、右か左かも分からない平原を突き進んでいった。

 

 

 

………

……

 

二人が歩き出してから大分時間が経ち、真南を指していた太陽も大分西へと傾いてきる。

二人は未だに人が居る痕跡を見つけられず、すずかの顔には疲れの色が見え始めていた。

要はまだ余裕を見せているが、疲れ始めているすずかに合わせて歩く速度を大分落としている。

人が居るかどうかも分からないのに、すずかを連れて歩き回るのは流石に無謀だっただろうか?

横目ですずかの様子を窺いながら道なき道を歩いていると、二人の前方に全く舗装されていないあぜ道と何の味気もない木製の立て看板を見つけた。

 

「か、要さん、道ですよ道!」

「それは見れば分かるけど、あの看板なにが書かれてるんだ?」

 

人が使っていそうな道を発見して喜ぶすずかとは反対に、要はあぜ道の傍に立っている看板を気にしていた。

此処が日本なんかも分からずに彷徨っていたから、人を見付けた時ちゃんと言葉が通じるのかと不安に感じていた。

しかし、そんな要の不安を他所にその看板には拙いながらも日本語で―――

 

【博麗神社はこの先の山道を登りきった所に】

 

―――っと書かれていた。

まるで書きなれていない人が頑張って書いたような文字だったが、何処か分からない土地にもちゃんと人が居るのだという確かな証拠でもあった。

 

「はく……れい、じんじゃで良いのかな? 兎に角、神社が在るみたいですよ、要さん」

「……そうみたいだな」

「…? どうかしましたか? なんか難しい顔をしてますけど」

「いや、大した事じゃない。それより、この博麗神社って所に行ってみよう」

「は、はあ……」

 

誤魔化してきた要の返事に釈然としないものを感じるすずかだが、要があぜ道に出て先に進んで行ってしまったため、何も言えずに慌てて彼の後を追いかける。

その一方で要は【博麗神社】と言う名前を見て拭いきれぬ不安を感じていた。

要はこの【博麗神社】を……〝博麗〟の名を持つ少女の事を知っている。

正確に言えば要はその少女と会った事もないし、知っている事など名前と容姿くらいなものだ。

もしかしたら同じ名前の神社と言うだけかもしれないが、もしこの世界が自分の知っている通りの場所だとしたら、元の世界に帰るのがかなり難しくなる。

出来る事なら自分の思い過ごしであって欲しい。そんな気持ちに駆られながら要は、すずかを置き去りにしない程度に早足になってあぜ道を突き進んでいく。

少しの間あぜ道を進んでいると、道の先には大きな山とその頂へと続く山道が見えてくる。

山道入り口の直ぐ脇にはまた木製の看板が設置されているが、何者かに悪戯でもされたのか、文字が潰れていて読むことが出来ない。

 

文字が潰れた看板を見て、二人は人の居る神社が在るのか不安に駆られるが、日も大分傾いてもう夕暮れ間近の為、二人はこのまま山道を登る事にした。

二人が入った山道は、一応〝道〟と呼べる位に整備されているものの、あまり人が通っていない所為なのか雑草が彼方此方に伸びている。

それでも獣道を突っ切るよりは幾分か歩き易いが、やはり人が居るのか不安になってくる。

不安に押しつぶされそうになったすずかは、その不安を紛らわせようと要に近付いて手を握ろうとしたが、タイミング悪く要が何かを見つけたらしく、すずかを置いて山道を駆けていってしまう。

要が見つけたのは山道の先に聳える赤い鳥居。その鳥居には【博麗神社】の文字がはっきりと刻まれていた。

先に鳥居の下に辿り着いた要に少し遅れてすずかも其処に立つと、二人の前には寂れた何処にでもありそうな神社が建っていた。

 

「着いたみたい……だな」

「そう……ですね」

「「……………」」

 

念願かなってやっと人が居そうな場所に着いた二人だが、神社の余りにも寂れた様子に言葉を失う。

時刻はもうすぐ夕方になるとはいえ、誰か彼か人が居るだろうと思っていた二人であったが、実際に辿り着いた神社には人気はなく静まり返っている。

しかし、神社の境内を見渡してみるとキチンと掃除しているらしく、ゴミ一つ落ちていなかった。

 

「キチンと清掃されてるって事は誰か居る筈だよな」

「そうだと思いますけど、凄く静かですね」

「だな。でも、今から引き返すわけにも行かないし、声を掛けるだけ掛けてみるか」

 

そう言いながら要はすずかを連れて神社の本殿前へと進んでいった。

 

「すいませ~ん! ちょっと電話借りたいんですけど、誰か居ませんか~ッ!」

 

要は遠くにまで聞こえる様に大きな声を出しながら、見えもせず、居るかどうかも分からない相手に声を掛ける。

神社から返事が返ってくることはなかったが、本殿の奥から誰かがやって来る足音が聞こえてきた。

神社の奥で何か作業でもしていたのか、その足音は慌しく、若干早足なようにも感じる。

 

「はいはい、誰だよこんな時間に。こっちは宴会の準備で忙しいって言うのに……。用があるなら母屋の方に直接来てくれよな」

 

めんどくさそうにそう言いながら、本殿の戸を開けて二人の現れたのは青い髪の男だった。

実際の年齢は分からないが、見た目は青年にも少年にも見える微妙な年頃にも見える。

一見すれば人畜無害そうにも見えるが、分かるものが見れば彼の中にある異常な力に気づく事ができる。

普通の人間では用いる事のできない圧倒的な力。それは要の中にも存在しているが、要の驚きはもっと別の所だった。

 

「り、リュウ!? お前なんでこんな所に居るんだ?!」

 

要は本殿の奥から現れた青年<リュウ>の姿を見て驚くが、その反対にリュウは首を傾げる。

 

「誰だお前? 俺の名前を知ってるみたいだけど……何処かで会ったか?」

「会ったかって……忘れんな! 前に一度会って手合わせしただろ!」

「手合わせだぁ? 幻想郷で暮らしてればそんなのよくある事だから、相手の事なんて一々覚えてられねぇよ」

「……だったら、空間の裂け目を通って本を回収しにきたのは如何だ? あの後、釣りが如何こう言ってただろ」

「空間の裂け目……本の回収……釣り……あ~思い出した。お前、あの時の変な奴か」

「それで思い出したのかよ……。と言うか変な奴って……」

 

漸く何処で出会ったのか思い出したリュウとは反対に、要は変な奴呼ばわりされた事と、自分との戦いはそんなに印象に残っていなかった事に凹む。

流石の要も化け物呼ばわりされる事はあっても、変な奴呼ばわりされるのは今回が初めてだろう。

自分の力が如何言う物なのか分かっているつもりだが、他人からしたら認識も食い違ってくるんだと思い知らされる。

 

「変な奴が誰だったか思い出せたけど、一体ウチの神社に何の用だ? 要は幻想郷の住人じゃないだろ」

「あ、その……私たち道に迷ってしまったみたいで、電話を貸してもらいたいのですが……」

「電話? ウチにそんなもんはねぇよ。必要だと思ったこともないし」

「そ、そんな……。それじゃどうやって家と連絡すれば……」

 

家と連絡を取る希望を討ち破られ、突きつけられた現実を前にすずかはその場にへたり込んでしまう。

見知らぬ世界に迷い込み、要と二人ずっと歩きとおしで此処まで来たのだ。そろそろ体力的にも精神的にも限界だったのだろう。

打ちひしがれるすずかに要はそっと肩に触れるが、それでもすずかの絶望は拭いきれなかった。

 

「……一つ確認するけど、お前等が此処に来る直前何か起こらなかったか? 何かに飛ばされるとか、空間の裂け目に迷い込んだとか」

「それだったら後者だけど……そんな事を聞いて何の意味が有るんだ?」

「ただの確認だから気にすんな。それとそっちの……えっと……」

「すずかだ、月村すずか」

「すずかちゃんね。確かに此処に君の家と連絡を取る手段はないが、別に帰る手段がないって訳じゃないぞ」

「ほ、本当ですか!?」

「嗚呼。……もっとも、俺が如何にかしてやれる訳じゃないが、今夜の宴会にそれが可能な奴が出るだろうからその時に話をつけてやるさ。だからそんな泣きそうな顔をするなって。大丈夫、ちゃんと家に帰れる」

「はい! ありがとうございます、リュウさん」

 

リュウの励ましに多少なりと元気を取り戻したすずかだが、要はその様子を面白くなさそうに見ていた。

 

「あん? 如何したんだよ、要。なんか変な顔をしてるぞ」

「……別に。ただ、随分と女性の扱いが上手いんだなって思ってな」

「別にそんな事ないだろ。この位普通だって」

「絶対普通じゃねぇよ。てか、〝普通〟の基準がお前並であって堪るか」

「なんか前にも友人に似た様な事を言われた気がするけど……まぁいいか。とりあえず二人共ウチに上がりな。そろそろ日が沈む。要は兎も角、すずかちゃんみたいな年端のいかない女の子に夜道を歩かせる訳にはいかないからな。飯と風呂と寝床くらいは提供するさ」

 

今日は泊めてくれると言うリュウの申し出に、二人は感謝しながらも同時に申し訳なさも感じてしまう。

リュウの申し出は確かに嬉しいし、有り難いのだが、ほぼ初対面の相手に其処までしてもらうのも流石に申し訳ない。

しかし、リュウが言っていた様にもうすぐ日が沈む上に、二人とも飲まず食わずで歩き通してきたからそろそろ空腹も限界に来ている。

特にすずかは体力だけではなく、精神的にも疲弊している事を考えると、どの道何処かで休まなければ為らないだろう。

 

「……それじゃ、お言葉に甘えて今日は泊まらせて貰う」

「嗚呼、そうしろ。……しかし、要でも遠慮する事ってあるんだな。戦ってるときのお前はもっと活き活きしてたぞ」

「うっせッ! て言うか、それとこれとは話が別だろ!」

「はいはいっと。……家に入るには其処のわき道に入って母屋の裏に回ってくれ。今玄関……と言うか台所は修羅場になってるから、そっちに回ると追い出されるぞ」

「修羅場ってなにか? リュウの浮気がばれたとかそんなんか?」

「なんでそうなるんだよ。只単に宴会に出す料理を作るのに忙しいってだけだ。分かったらとっとと裏に回れ」

「へ~い」

「あ、あははは……。それじゃお世話に為りますね、リュウさん」

「はいよ。……それじゃ霊夢たちに話しつけてくるから、あんまり家の中をウロチョロするなよ」

 

そう言うと、リュウは二人を残して本殿の奥へと下がって行ってしまう。

残された二人は彼が指示していた通り、本殿の横に伸びるわき道に入り、そのまま母屋の裏に回る。

リュウが言っていた母屋は、純日本家屋と言った佇まいで、実家が洋館のすずかには珍しい家屋だった。

二人は石段の所で靴を脱いで縁側から家に上がると、縁側部分の廊下がキシキシと音を立てる。

 

「わっ! 廊下が軋んでますよ、要さん!」

「いや、これは鴬張りって奴だろ。最近じゃやっている家も少ないけど」

「へぇ~……。要さんは物知りですね」

「別にそんなんじゃねぇって」

 

照れ隠しなのか、そう言いながら要はすずかから顔を逸らし、そっぽを向いてしまう。

そんな要にすずかは何も言わず、ただ愛しむような眼差しで要の事を見詰める。

 

「おい、二人共そんな所に突っ立ってないで……って、どうかしたのか?」

「い、いや、なんでもねぇよ。それよりも何か用か」

「ん? あぁ、霊夢達に事情を説明してきたから、宴会が始まるまでどっかの部屋で大人しくしててくれ。風呂に入りたいって言うのなら用意するが?」

「いえ、其処までしていただかなくても結構です。色々とありがとうございます、リュウさん」

「別に礼を言われる様な事じゃないが……まぁいいか。それじゃ、宴会が始まるまで待機してもらう部屋に案内するから着いて来い」

 

そう言ってリュウは二人を今は使われていない部屋へと案内する。

その部屋は四畳ほどの小さな部屋ではあるが、埃一つなく綺麗に掃除されているため、待機するだけなら十分な部屋だった。

宴会が始まるまでまだ少し時間が有るとの事で、その間に二人はリュウにこの世界の事を色々と尋ねた。

リュウは嫌な顔せずに質問に応じてくれたが、すずかからしたら俄かには信じ難いものばかり。

この地は【幻想郷】と呼ばれ、人々に忘れられたモノが辿り着く世界だとか、此処には妖怪や神が多数存在しており、人間の方が数が少ないとか、この地には懸念的な結界が張られていて、外の世界との行き来は困難ではあるが稀に神隠しに遭いこの地に流れ着く者もいるとか。

すずかは要から魔法の存在を聞かされていたが、本物の妖怪や神が存在しているとは夢にも思っていなかった。

しかし、自身に流れる血の事や、要が話してくれた魔法の事を考えれば、そう言う存在が実在しても不思議はないのかもっと一応の納得は出来た。

一方要は、リュウの話を聞いても驚く様な事はなく、此処がそうなのかとすんなりと受け入れていた。

要は内包してる力の関係上、すずかよりもずっと幻想に近い立場に居るし、実際に神と出逢ってもいる。なにより、前世の記憶の中に幻想郷の事は多少なりと知っていた。

そう言った経緯から、要はリュウが話してくれたことを疑う事無く信じれたが、一つだけ分からない事があった。

 

「……とりあえず、この世界の事については分かったが、結局お前は何者なんだ? 俺の事を変な奴呼ばわりするけど、お前だって人間じゃないんだろ?」

 

要が感じていた疑問。それがリュウの存在だった。

要が知っている幻想郷にはリュウは存在していない。自分と同じ境遇でこの世界にやって来たのなら分からなくもないが、漠然と彼は自分とは違うのだと感じていた。

だからこそ分からない。彼は一体何者で、どうして此処に居るのかが。

 

「俺が一体何者かねぇ……。それを話すと凄く長いし、何よりも面倒だからパス」

「め、面倒って……。自分の事を話すだけなんだからめんどくさがるなよ」

「俺の場合は一言じゃ語れないんだよ。第一、俺は俺だ。それ以上でも以下でもない」

「…? 意味がわからねぇぞ?」

「分からないならそれでいいよ。…んじゃ、俺はそろそろ霊夢達の手伝いに戻るから、お前等は此処で大人しくててくれ。準備が出来たら呼びに行かせるから」

「あ、おい!」

 

無理やり話を切り上げると、リュウは要の引止めにも応じずにそのまま部屋を出て行く。

リュウが部屋を出て行くとなんとも気まずい沈黙に包まれるが、要もリュウの後を追いかけるわけにも行かず、疑問だけを残したまま大人しく部屋で待つ事にした。

 

 

 

 

 

 

………

……

 

彼が部屋を出て暫くすると、廊下から次々と何者かがこの家に上がり込んで来るのが聞こえてくる。

誰かが家に上がって来る度に、聞き覚えのない優しい声音の女性が応対する声が聞こえ、時折りリュウの怒声が聞こえてくる。

何者かが騒ぎを起こしたのだろうが、怒声が響いても特に剣呑とした感じはせず、彼の怒声も賑やかさの一つになっていた。

家の中も大分賑やかになり、空腹もそろそろ限界を迎えようとした頃、廊下と部屋を別つ障子の向こうに女性と思われるシルエットが映し出された。

その女性は自然な動作で障子の前に座ると、そっと障子を開けて二人の前に姿を現した。

 

「大変お待たせいたしました。宴会の準備が出来ましたので、どうぞこちらに」

 

二人の前に姿を現したのは、瑠璃色の様な色の髪をした物腰柔らかな女性だった。

部屋にやって来た彼女は二人に退出を促すが、二人はその言葉も耳に入らないくらいにその女性に見惚れていた。

要は世間一般的に美人と呼ばれる女性の知り合いがいるが、目の前に現れた女性は彼女等と同じか、それ以上の美しさに驚き。すずかは、美人の姉とは比べられない程の女性らしさを持つ彼女に驚愕していた。

 

「…? どうかされましたか、要様、すずか様? 何やら呆然としておられるようですが」

「ぇ…あ、いえ! 貴女が……その、あまりにも綺麗だったから驚いちゃって」

「まあ、お世辞でも嬉しいです。ですが、今宵集った皆様はあまり気の長いほうでは御座いませんので、お早く」

「は、はい! すみません!」

 

女性にやんわりと促された二人は、若干慌ててその場から立ち上がる。

二人が立ち上がったのを確認した女性も立ち上がると、仕草だけで自分について来るように促し、歩き出す。

二人は女性の後を追いかけていると、障子の向こうに大勢の人影が映し出された部屋の前に辿り着く。

影だけを見るとざっと二十人ちかく居るのでないかと思われる部屋を、女性は臆する事無く障子を開きそのまま中へと入って行く。

女性が障子を開けると、先に中にいた者たちが一斉に女性の方を振り向き、その後ろに居る要とすずかを認識する。

二人の姿を見て小声で「アレがリュウの言っていた迷子か。まだ子供じゃないか」とか、「……へぇ、随分と変わった子ね」とか、「なんだアレは。本当に人間か?」などと呟く声が聞こえてくる。

そんな言葉が耳に入ったすずかは、自分に流れている血の事を思い出し、要の後ろに隠れてしまう。

要は要で今呟いた相手を睨み付けるが、それに反応して相手も要の事をにらみ返す。

部屋の中に不穏な空気が流れるが、それ以上に圧倒的な威圧を感じてその空気も直ぐに霧散してしまう。

一体誰がこんなモノを出しているのか。要は警戒するように部屋の中を見渡してみるが、その発信元は直ぐに判明する。

 

「……お前等、此処で面倒事を起こすつもりなら、それなりの覚悟を決めろ」

 

部屋の上座の壁際で、黒髪の女性と深緑の髪の少女と共に座っているリュウが発した一言。ただそれだけで部屋に居た殆どの奴が畏縮していまう。

要も前の手合わせの時には感じられなかった威圧に驚愕するも、それ以上にリュウが本気になったらどれほどの実力が有るのか気に為ってしまう。

コイツとなら楽しい勝負が出来そうだと思いながら、急に押し掛けた上に泊まらせて貰う手前、下手な事は出来ないなと思い直し踏み止まった。

 

「衣玖もそんな所に突っ立ってないで、二人を連れて早くこっちに来い。始められないだろ」

「はい。申し訳御座いません、リュウさん」

 

一喝するように……と言うよりも、呆れた様子でリュウが衣玖と呼ばれた女性を促すと、女性は申し訳無さそうに頭を下げながら、二人を連れてリュウの元へと向かう。

二人が部屋の中に入ると、すずかは要から離れないようにピッタリと寄り添うが、先ほどの事もあり二人の事をとやかく言う者は誰も居なかった。

女性が二人を連れてリュウの傍によると、其処に居るのが当たり前だと言わんばかりに彼の傍で腰を降ろす。

それに倣って二人もその場に座るのを確認すると、リュウは黒い帽子を被った金髪の女性に声を掛ける。

 

「魔理沙。全員揃ったからもう始めていいぞ」

「お、そうか? んじゃ、堅苦しい挨拶は抜きにして始めるぜ。わたしも早く飲みたかったからな。……てな訳で、乾杯!」

『乾杯!』

 

金髪の女性がまるで挨拶になっていない挨拶をすると、待っていたと言わんばかりにコップを片手に乾杯をする。

一度始まってしまえばもう誰にも止められない。皆が思い思いに集って、出された料理に舌鼓を打ち、注がれた酒を一気に呷る。

さっきまでの不穏な空気など嘘だったかの様に、誰も彼もが宴会を楽しみ始めた。

この切り替えの早さに二人は驚きながらも、瑠璃色の髪の女性が差し出してきた湯のみを反射的に受け取ってしまう。

 

「……って、これお茶じゃねぇか!」

「そうですけど……何がご不満な点でも?」

「いや、不満って訳じゃないけど……宴会だから酒が飲めるもんだとばっかり」

「要さん……。私たち、まだ子供ですよ?」

「それは分かってるけど、中々飲める機会も無いからつい期待しちゃってな」

「はぁ……」

 

悪びれる様子もない要にすずかは呆れるが、一緒の席に居る他の四人は要の発言に驚きもしなかった。

 

「酒が飲みたいなら、そのお茶を飲み干してから適当にもってこい。別に止めねぇから」

「お、マジで良いのか!? 一切遠慮せずに飲み干すぞ」

「別に構わねぇよ。……もっとも、酒を分けて貰えるかまでは知らないけどな」

 

リュウは至極当然な事を言うが、それでも要は久し振りに酒が飲めると大いに喜ぶ。

そんな要の様子にすずかは再度呆れてしまうが、自分が何を言っても止まる訳がないと諦めてしまう。

早く酒が飲みたい要は、湯のみに入っているお茶を一気に飲み干そうとするが、深緑色の髪の少女がジッと見ている事に気が付く。

その少女は、髪の色と同じ緑を基調とし着物の様な服を着ている所だけを見れば、すずかと同い年くらいの少女に見えなくもないのだが、頭から生えた鹿の様な角が否応無しに彼女が人間ではないと分からせてしまう。

此処は妖怪や神が暮す幻想郷。鹿の角を生やした少女が居てもなんら不思議はないのだが、流石に物珍しげに見られているのは居心地が悪い。

 

「……俺になんか用か?」

「いや、別に。お主なんぞに興味は無いが……成る程。確かにコレは竜の言うておったとおり変な奴じゃな」

「初対面の人間にいきなり失礼な事を言う奴だな。えっと……」

「あぁ、そう言えばまだ自己紹介もしておらんかったな。しかし(わらわ)にコレと言った名は無い。呼ぶときはたっちゃんと呼ぶが良い」

 

深緑の髪の少女はそう言って、自己紹介にもなっていない自己紹介をしてくる。

それを受けて要とすずかはどう反応すれば良いのか分からず戸惑ってしまうが、たっちゃんと名乗った少女はそんな事気にもせず、視線だけで瑠璃色の髪の女性に合図を送る。

 

「自己紹介が遅れました。わたくしの名は永江衣玖と申します。以後お見知りおきを……」

「あ、これはどうもご丁寧に」

 

瑠璃色の髪の女性<衣玖>のきちんとした挨拶に、二人は反射的に頭を下げてお辞儀をしてしまう。

衣玖の挨拶が終わると、今度は黒髪の女性の視線を送るが、彼女は衣玖と違い凄く面倒くさそうに溜息を吐く。

 

「この神社で巫女をしている博麗霊夢よ。ま、よろしく」

 

凛々しさを感じさせる黒髪の女性<霊夢>は、衣玖と違い本当に簡素に挨拶をするだけで、二人にコレと言って興味を示さなかった。

衣玖に負けず劣らずの美人ではあるが、彼女とは全く正反対の性格の為、別の意味で畏縮してしまう。

二人の対応の違いに戸惑いながらも、要とすずかは自己紹介をして顔を合わせたばかりの三人に挨拶をした。

 

「竜に関しては既に挨拶をしておるから省くとして、話を戻すぞ。要よ。お主、身体の中で何を飼っておる」

「あ~……話して聞かせるほどの事じゃないんだが……駄目か?」

「駄目じゃ。竜が客として向かえておるから何もせぬが、気にするなと言うのは流石に無理がある。じゃから話せ」

 

物珍しげに見ていたたっちゃんの視線は一変し、今度は鋭い眼光で要の事を睨み付けて来る。

とても少女の物とは思えない眼光に、流石の要も一瞬たじろいてしまうが、直ぐに気を取り直して考え始める。

この少女は自分の中にいる存在の事に気が付いている。それはもう疑いようのない。

それにこの世界ならこの存在を話してしまっても問題はないと思うが、一つ気掛かりなのはすずかに聞かせても良いのかと言う事だ。

今後、すずかとの付き合いがどうなって行くのかは分からないが、それでも今はまだ仲の良い友人として過ごして行きたい。

何時かこの力の事を話す日が来るのだとしても、それが今日で無くても良いのではないのか等と、らしくもない事を考えてしまう。

如何したもんかと色々と頭を悩ませていると、隣に居るすずかがそっと要の手を握ってきた。

 

「…? すずか?」

「要さん。私、もっと要さんの事を知りたいです。ですから、話してください。貴方の事……」

「……………」

「大丈夫です。私、要さんが何者であっても嫌いになったりしません。だから聞かせて下さい」

「すずか……」

 

真剣な眼差しを向けてくるすずかに、要もその手を振り解く事ができずに見詰め返してしまう。

そんな二人の様子をたっちゃんとリュウが面白いモノを見る様に眺めている。

 

「くっくっくっく。随分と慕われておるではないか。その少女もそう言うておるのじゃ、さっさと話すが良い」

「……上から目線って言うか、なんか偉そうなのが気に為るな」

「実際に偉いんじゃから仕方があるまい。ほれ、さっさと話せ」

「ったく、仕方がねぇな」

 

要はめんどくさそうに溜息を吐きながらも、要は自身の中に内包している存在の事を話し始めた。

水星に住むという究極生物。攻勢生物としては次元違いの力を誇る存在<ORT>。

何故自分がそんな存在を内包しているのかに付いては話さなかったが、ORTが如何言う存在なのかは包み隠さずに五人に語り聞かせた。

 

「―――とどのつまり、俺の中には地球外生命体が居るって訳だ。……これで満足か?」

「うむ、それだけ聞ければ十分じゃ。……しっかし、良くそんなモノを内包して平気でおるな。普通じゃったら魂を押し潰されてお主の存在なぞ消されておるぞ」

「さ、サラッと恐ろしい事を言う奴だな。て言うか、今の話を聞いてなんとも思わないのか?」

「何を言うておるやら。流石に何も思わぬと言えば嘘になるが、その程度なら恐れるに価せぬわ。第一、そんなんで恐れておったら何千年も竜の友なぞやっておれん」

「……おいコラ龍神。テメェ喧嘩売ってんのか」

「妾は事実を言ったまでじゃ。お主の出鱈目な強さの所為で、大抵の輩は恐ろしくも無いわ」

「出鱈目とか言うなら、俺を引き合いに出すな!」

 

ORTの事を話してもなんとも思わない二人に、要は驚けばいいのか呆れれば良いのかよく分からなくなる。

だが同時に、リュウがORT並みの力が有ると聞いて彼の実力に益々興味が湧いてくる。

本当なら今此処で手合わせを願いたいところだが、流石にそう言う空気ではないと察して自嘲した。

 

「まぁ竜の事は置いておくとして、中々に面白い話を聞かせてもらった。そのお礼に妾が美味い酒をご馳走してやろう」

「お、本当か!?」

「うむ。着いてくるが良い」

 

そう言ってたっちゃんが席を立ち上がると、それに続いて要も喜びに満ち溢れた様子で席を立ち上がり、たっちゃんの後に続いた。

要が席を立ち上がるのを見て、すずかも席を立ち上がろうとしたが、酒を飲みにいく要について行く訳にもいかず、押し留まってしまう。

喜び勇んでたっちゃんに付いていく要にリュウは呆れて溜息を吐くと、リュウも急に席を立ち上がる。

 

「あれ、リュウさん。何処かに行くんですか?」

「あぁ。二人が帰るための算段をつけにな。素直に首を縦に振るとは思えないが、なんとかするさ」

「アンタも大変ね。この二人の為に態々其処までするなんて」

「これ以外に方法が無いんだから仕方が無いだろ。……ま、霊夢の方も宜しく頼むわ」

「はいはい。アンタも頑張んなさいよ」

 

端から見ると何を指しているのか分からない会話だが、リュウと霊夢の二人には通じているらしい。

お互いのことが分かっているからこその会話。すずかは二人を見て漠然をそう感じていた。

要はたっちゃんについて行ってしまい、リュウも席を外した事ですずかは完全に手持ち無沙汰になってしまった。

初めて会った二人と如何話を切り出せば良いのかわからず、何も出来ずに困っていると急にお腹の虫が鳴った。

此方に来て何も食べていなかったのだから仕方が無いとは言え、お腹が鳴ってしまった事にすずかは顔を赤くして下を俯いてしまう。

 

「すずか様、こちらをどうぞ。わたくし達のことは気にせずに、お召し上がりになって下さい」

「あ、ありがとうございます……」

 

衣玖が差し出してきた料理に、すずかは消えてしまいそうな位に小さな声で礼を言ってから、その料理を手にする。

差し出された料理は特別豪華なモノと言う訳でもなく、どれもコレも片手で抓んで食べられる様なものばかり。

行った事は無いが、居酒屋で出る料理と言うのはこんな感じなんだろうと思いながら、すずかは手にした料理を口に運んだ。

 

「あ、美味しい……」

 

手にした料理を食べて出た感想はそれだけだった。

料理を食べたら味付けが如何だとか、食感が如何だとか色んな感想が出てくるはずだが、すずかの前に出された料理はただ〝美味しい〟の一言に尽きてしまう。

空腹だった所為もあるかもしれないが、この料理たちにはそれ以外の感想が不要な様に思えてしまったのだ。

 

「お口に合ったようですね。それは良かった」

「あの、これって何て名前の料理なんですか? ウチでは食べた事無いです」

「ん~別に名前なんて無いわよ。ありあわせの材料で適当に作ったモノだから」

「て、適当に作ったんですか!? こんなにも美味しいのに!?」

「褒めてくれるのは嬉しいけど、この位毎日ご飯作ってれば誰だって出来るわよ」

「……………」

 

なんて事はないと言いたげな霊夢に、すずかは思わず絶句してしまう。

確かに料理は知識だけではなく、技術や経験なども必要になってくるものではあるが、友人の姉と同い年くらいの女性がこれ程の料理を作れるようになるには、どれ程の経験を重ねればいいのか想像もつかない。

これ程の腕前がありながら、飾る事無く〝なんでもない〟と言い切れる霊夢に、すずかは尊敬の念を懐いた。

 

「……凄いですね、霊夢さんわ。私は料理なんて殆ど作った事がありませんから、こんな美味しい料理なんて作れませんよ」

「別に大した事じゃないけどね。それにしても、料理を作ったことが無いって……普段は何処で食べてるのよ」

「家に作ってくれる人が居るので、普段はその人に全部任せちゃってます」

「ふ~ん。……ま、人任せにするなとは言わないけど、そんなんじゃあの要って奴に逃げられるわよ」

 

霊夢が言って来た何気ない一言に、すずかは思わず座ったまま前のめりに倒れてしまいそうになる。

 

「な、なんでそうなるんですか。別に私と要さんは付き合ってませんよ」

「あら、そうだったのですか? 大変仲が宜しいようでしたので、わたくしもそう言うご関係なのだとばかり」

「た、確かに仲良くさせてもらってますし、気になっている人ではありますけど……そう言うのはもっと大きくなってからにしようって」

「……ふ、甘いわね。そんな悠長な事を言っていると、他の女に掻っ攫えるわよ。第一、向こうにもアンタを選ぶ権利が有るって事を知りなさい」

「ッ!?!?!」

「ちょっと、霊夢さん」

「だって事実じゃないの」

「それは……確かにそうかもしれませんが」

 

衣玖と霊夢が言い合っているが、それも聞こえない位にすずかに衝撃が走っていた。

かつて自分は要に初デートの時に告白まがいの事を言われている。でもその時に要は〝誰かと付き合ってもいいと思える年齢になったらきにしてくれ〟と言っていた。

その時返したすずかの返事は、要が魅力的な男性になっていたら気にするようにすると返事をした。

自分も要もまだ子供だし、そう言うのはよく分からないから気にもしていなかったけど、確かに相手にも自分の事を選ぶ権利は有る。

要の周りにはすずか以外にも可愛らしい子は沢山いるし、彼女達が大きくなったらきっと魅力的な女性になるに違いない。

コレからの長い人生、彼女達以外にも沢山の人と知り合って行くだろうけど……その中で自分は埋もれずに居れるのだろうか。本当に魅力的な男性に成長した要に振り向いてもらえるだろうか。そんな漠然とした不安がすずかに襲い掛かる。

もし要が自分以外の女性を付き合うところを想像すると、堪らなく嫌な気分になってしまう。

 

「霊夢さんはもう少し言葉を選んで下さいまし。貴女も恋愛は苦手な方なんですから」

「そ、それは今は関係ないでしょ!」

「あ、あの!!」

「ん? なによ」

「お……お二人の様に魅力的な女性になるには如何すればいいんでしょうか!?」

「「……はい?」」

 

すずかは顔を真っ赤にしながら、言い合いをしていた二人に助言を求める。

こんな事を聞くのは余程恥かしいのか、すずかは顔を真っ赤にした上に瞳に涙を溜めていた。

そんな彼女に助言を求められた二人は顔を見合わせた後、小さく微笑んですずかの方を向き直った。

 

「そうねぇ……。まず初めに言っておかなくちゃいけない事は、私も衣玖も自分が魅力的だなんて思ったことは一度もないし、その為の努力なんてしてないわよ」

「え、そうなんですか?! そんなにお綺麗なのに!?」

「はい。わたくしも霊夢さんも特別な事は何もしていません。ただあの方にとって好ましい女性でありたいと思っているだけです」

「あの方って……もしかしてリュウさんの事ですか?」

「はい。わたくしと霊夢さんが心よりお慕いしているお方です。あの方が好いて下さるのであれば、それで良いのです」

「つまり。アンタは〝私たちの様な自分〟じゃなくて、〝要に取って魅力的な自分〟になれば良いのよ」

「要さんに取って魅力的な私に……」

 

要に取って魅力的な女性像と言うのはよく分からないし、本当に自分が要の事が好きなのかも分からない。

でも、何もせずに流されるままに毎日を過ごしているよりもずっと良い。

これからの人生で要との関係がどうなっていくのか分からないけど、今は只この気持ちに正直になって過ごしてみよう。すずかは二人の話を聞いてそう思った。

 

「蓼食う虫も好き好きって言うし、私たちみたいになっても、あの要に取って如何写るかは分からないじゃない。だからアンタは、要に取って魅力的な女性になれば良いのよ」

「はい! 大変かもしれませんけど、頑張ってみます!」

「ん、いい返事ね。……よし、人外を好きになった者の先輩として、今日はトコトン相談に乗ってあげるわよ」

「ありがとうございます、霊夢さん! ……ところで人外ってリュウさんの事ですか?」

「その通りです。あの方は人ではなく名前の通り竜族の方ですから」

「へぇ~そうなんですか。…………って、えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ!?」

 

宴会の席にすずかの驚いた声が響き渡る中、たっちゃんと共に席を離れた要はと言うと―――

 

「んぐ…んぐ…んぐ……ぷはぁ~ッ! うっしゃ、俺の勝ち!」

「くあ~また負けた~」

「萃香を負かすとは……やるなお主!」

「ふはははははは。まだまだいけるぜ!」

 

―――たっちゃんに紹介された鬼の少女<萃香>と飲み比べをしていた。

酒を飲ませてくれると案内された当初は、酒なんて持っていない萃香を紹介されて要は訝しんだ。

萃香も萃香でいきなりやって来た要の存在を怪しんだが、たっちゃんの仲介もあり、酒好きの二人は意気投合して萃香が持っている瓢箪の中身を飲ませてもらっている。

萃香の瓢箪には酒虫(しゅちゅう)と言う存在の体液が塗布されており、これのお陰で良質の酒を飲むことが出来る様になっている。

人間が作った酒とはまた違う味わいの酒に、要は本気で瓢箪を譲って欲しいと頼むが、流石にそればかりは断られた。

 

「しっかし良いな、その瓢箪。マジで欲しい」

「はっはっはっはっは。幾ら詰まれてもコレだけは絶対に譲らないぞ。最近じゃ酒虫を見つけるのも簡単じゃないんだから」

「まあ、アレも一応は精じゃからな。そう簡単には人前に姿を現さないのも無理はない」

「くそぅ……。俺の世界にも居ないかな、酒虫」

「居たとしても要じゃ絶対に捕まえられないって。捕まえても握り潰すにだろうし」

「なんだとーって、言いたいけど実際にそんな気がするから何も言えねぇ」

「「あっはっはっはっはっはっはッ!!」」

「……今のは笑うところか?」

「あ、リュウ。わたしの所に来るなんて珍しいじゃん」

「まぁちょっとな」

 

若干げんなりしたリュウが要達の元へと来ると、彼はそのまま腰を下ろして萃香に自分のぐい飲みを向ける。

それを見て萃香はいきなりやって来たリュウに何も言わず、瓢箪に入っている酒を彼のぐい飲みに注いだ。

 

「それでリュウ。八雲との話はついたのか」

「まぁな。…ったく、本当にアイツの相手をするのは疲れる」

 

余程その相手と話をするのが嫌だったのか、リュウは自棄酒の様に萃香が注いだ酒を一気に飲み干す。

その飲みっぷりに要も思わず感心してしまうが、リュウはそんな事気にせずに近くに転がっていた未開封の酒瓶の口を開ける。

 

「お、今日は随分と飲むね。そんなに紫の相手は嫌だったか」

「嗚呼。アイツは話が回りくどい上に長いんだよ。要達を元の世界に返すってだけで、なんであんな無駄話に付き合わされなくちゃいけないんだ」

「お主がそんな愚痴を妾たちに零すとは……。今回はよほど面倒だったんじゃな」

「龍神、今回〝は〟じゃなくて今回〝も〟だ」

 

そんな風にリュウが愚痴を零していると、隙間を縫うようにしてリュウに向かって何かが飛んで来る。

風を切って真っ直ぐ飛んで来るそれを、リュウは振り返る事無く片手で受け止め、そのまま後ろへと投げ返した。

しかし、リュウが投げたそれは後ろに飛んでいくこと空間の裂け目に飲み込まれ、何故か要の真後ろに出現し無関係な彼の後頭部に直撃した。

 

「あだッ!? いってぇ~な、なんだよ当然」

「只の石ころじゃ。如何と言う事は無い」

「石ころって……大人の拳ほどの大きさが有るんだが?」

「お前なら平気だろ。俺のテラ=ブレイクを受けて生きてるんだから」

「え、なにそれこわい。要って話に聞く以上に化け物だね。わたし等鬼でもアレは死ぬって」

 

萃香はおどけた風に言っているが、傍で聞いていたたっちゃんは完全にドン引きしていた。

 

「えっ? あの技ってドン引きされるほどに危険な技なのか?」

「お主が生きておる事を考えると、竜も手加減しておったのじゃろうが……全力で放てば神で在ろうと問答無用で滅ぼす技じゃからな。普通の手合わせで使うような技ではない」

「おいコラリュウ! 今の話は如何言う事だ!」

「聞いての通りの事だが、生きてるんだから問題は無いだろ」

「お前は相手が生きていればそれで良いのか!?」

「吸血鬼並みの再生力を持ってる癖にグダグダ言うな」

「……妾はレミリアからあの技を受けて二日は動けなかったと聞いておるがな」

「あの時はまだ完成してなかったからノーカンだろ」

「「「……………」」」

 

サラッとトンでもないことを言ってくるリュウに、流石の三人も引いてしまう。

リュウはそんな三人に気が付いていながらも弁解せず、自棄酒の様にどんどん酒を呷っていく。

珍しくハイペースで飲んでいるため、既に一本飲み終えており、何時の間にか萃香の酒に手を出していた。

 

「あーッ! わたしのお酒ーッ!!」

「別にいいだろ。無限に湧き出してくるんだから」

「だからって勝手に飲むなー!」

「なら、お前の酒を頂いてるぞ」

「事後承諾なら良いぞ」

「それなら良いのかよ!?」

 

二人のやり取りに思わず要がツッコミを入れると、何時の間にかリュウの背後に霊夢が居る事に気が付く。

しかし自己紹介をした時の凛々しい雰囲気は何処にもなく、酔っ払っているのか顔は赤く、若干子供っぽい雰囲気を醸し出している。

 

「……来たか」

「へっ? 来たってなにがだ?」

 

要はリュウの呟きの意味を聞いてみるが、その返事が返ってくる間もなく―――

 

「リュウーッ!」

 

―――霊夢は子供が親に甘えるみたいに突然リュウの背中に抱き付いた。

余りにも突然の出来事と、さっきまでとは全然違う霊夢の姿に要は驚き、目を丸くする。

しかし、驚いているのは要一人だけで、萃香やたっちゃんだけではなく抱きつかれたリュウも驚いた様子は見せなかった。

 

「ったく、いきなり抱き付いてきて如何したんだ、霊夢」

「んっとねぇ……えへへへ、別になんでもない」

「何でもないのに抱き付くなよな。危うく酒が零れるところだったぞ」

「だってリュウのせなか居心地がいいんだもん」

「居心地がいいって……。やれやれ、俺はお前の抱き枕じゃないんだがな」

「そう言いつつも、受け止めてくれるリュウがすきー」

「はいはいっと」

 

そう言いながら手馴れた様子でリュウが霊夢の頭を優しく撫でると、霊夢は目を細めてそれを甘受する。

リュウの手馴れた様子にも眼を見張るが、それ以上に霊夢の豹変ぶりには驚きの余り言葉を失ってしまう。

 

「……たっちゃん。霊夢さん、一体如何したんだ?」

「ん? 見ての通り竜に甘えておるんじゃよ。何時もの事じゃから気にするな」

「い、何時もの事って……アレ、酔っ払ってるんだよな」

「うむ。重度の甘え上戸じゃな。霊夢の性格上、普段から竜に甘える事なぞ出来んから、その反動かどうかは知らぬが酒に酔うとあぁなるのじゃ」

「凄い反動だな……。それにあんなに酔っ払うなんて、もしかして酒に弱いのか?」

「いや、人間にしては強い方じゃと思うが……今回は些か早いな。普段はリュウのペースで飲むから気にしておらんが……はて?」

 

たっちゃんは霊夢が酔うペースが速いと、若干おかしな所で首を傾げるが、その理由も直ぐに分かった。

霊夢がリュウに甘え始めて少しすると、今度はすずかが要の傍へとやって来ていた。

すずかも霊夢同様に酔っ払っているのか顔が赤く、何処と無く気恥ずかしそうにしている。

要に対して何かしようとしているのだが、踏ん切りがつかないのか、言い出すことも動き出すことも出来ずに居る。

そんな決心の付かないすずかに、衣玖はそっと近付いて彼女の背中を優しく押してあげた。

 

「大丈夫ですよ、すずかさん。自信を持って」

「そ~よ~。アンタはかわいいんだから、いけるって」

「……ありがとうございます、せんぱいがた! わたし、がんばりましゅ!」

「せ、先輩?」

 

自分が傍を離れている間に一体なにが遭ったのか。それを問う間もなくすずかは要の前に座り込む。

座り込んで少しの間モジモジとしていたが、漸く決心が付いたのか、すずかは要へとにじり寄る。

 

「かなめさん……」

「ど、如何したんだすずか……」

 

何時もとは違うすずかの雰囲気に、要は思わず後ろへと引き下がってしまう。

しかしすずかはそんな事など気にも留めず、すこしづつ要へとにじり寄っていく。

 

「わたし、かなめさんがなにものでもかまいません。だから……」

「だ、だから?」

「わたしのこと、だきしめてください」

「なんでそうなるんだーッ!!」

 

間違いなく酔っ払っているであろうすずかの発言に、反射的に要は叫んでしまった。

どうやらすずかと霊夢は会話が弾むに連れて、相当量のお酒を飲んでいるらしく完璧に出来上がってしまっている。

霊夢は酒に弱いわけではないが、自分と同じ人外を好きになったものがいて内心嬉しかったのだろう。

その為か、珍しくテンションが上がってしまい、すずかにも酒を飲ませた挙句、この様な事を持ちかけたのだ。

しかし、その場に居なかった要にそんなことが分かるわけもなく、突拍子も無いこの状況では混乱の余り叫んでしまうのも無理ないが、それが不味かった。

要の叫びをすずかは拒絶を受け取ってしまい、その場にへたり込んで涙を零し始める。

 

「……そう、ですよね。わたしなんかじゃかなめさんの、ゆうじんAでしかないですよね」

「いや、お前は一体何を言っているんだ?」

「わたしなんて、なのはちゃんのようにあかるくないし、アリサちゃんのようにげんきでもないし、フェイトちゃんのようにびじんじゃないし、はやてちゃんのようにはっこうしょうじょじゃないですものね」

「いやいやいや、ちょっと落ち着けすずか。何を言いたいのか全然分からないぞ」

「いいんです、いわなくて。……せんぱいたちがいっていたとおり、じょうきょうにあまえてなにもしなかったわたしがわるいんですから」

「だ~か~ら~ッ! ちゃんと俺の話を聞けって!!」

 

酒に酔い暴走を始めたすずかを前に、要は何を如何すれば良いのか分からず、ただ声を荒げるしか出来なかった。

この状況じゃ誰かに救いの手を差し伸べて欲しいとまで思ってしまうが、この場に居る者達は我関せずどころか、もっと性質の悪い奴ばかりが集まっていた。

 

「あ~ッ! かなめひどいッ! せっかくすずかがゆうきをだしたのにッ!!」

「……要さん。貴方も殿方でしたら、すずかさんの事を抱き締めてあげるべきではないのですか?」

 

リュウに抱き付く霊夢と、当然の様にリュウに寄り添う衣玖を筆頭に、宴会に参加していた者たちが一斉に要を非難し始める。

本来なら今日出会ったばかりのすずかを庇う理由など何処にもないのだが、この場にはお祭り騒ぎには眼のない者ばかりが集っている上に、宴会の参加者の大半が女性だ。

縁も所縁もないすずかのなけなしの勇気に感銘し、それを受け止めなかった要に思うところが有るのだろうが、非難を受ける要からしたら堪ったものじゃない。

宴会の席でいきなり抱き締めてなどと言われるとは思ってなかったし、それを受け止める覚悟なんてそう簡単に出来るもんじゃない。

だからこそ要は、一旦すずかを落ち着けて話し合いをしようとしたのだが、酔っ払いにその様な理屈が通じる筈もなかった。

 

「かなめさん。わたしじゃ、かなめさんのりそうにはなれませんか?」

「だからそう言うのはもっと大人になってからで……。リュウ、ちょっと助けてくれ~」

「……悪いけどパスで」

「なんでだよ!? 手を貸してくれたっていいじゃねぇか!!」

「だってめんどくさいし、自分の恋路くらい自分でなんとかしろよ」

「こ、この薄情もーんッ!!」

 

あっさりと自分の事を見捨てたリュウに、要が暴言を吐くが……他人の手を借りようとした要に、更に非難が集中する。

 

「要よ、お主も男じゃろ。その位自分でなんとかしてみぃ」

「抱き締めるくらい簡単だろ。ほれぎゅ~っとしちゃえって、ぎゅ~っと」

 

非難されながらも煽ってくるこの状況に、要は四面楚歌と言う言葉を思い出す。

退路も無く、周りには敵しかいないこの状況で、要はただすずかから逃げる様に後ろに下がるしかなかった。

力を使えば此処から脱走するくらい訳も無いが、そんな事をしでかしたら間違いなくリュウが激怒する。

リュウと戦えるならそれはそれで悪くないと考えるが、後々の事を考えると流石にそれを実行するわけにも行かない。

要が後ろに下がるたびに、すずかも獲物を追い詰めるように少しずつにじり寄っていく。

次第に追い詰められていく要は、ついに壁際にまで追い詰められてしまい、本当に逃げ場をなくしてしまった。

 

「かなめさん……」

「と、兎に角落ち着こうな、すずか? そう言う事はちゃんと考えられるようになってからって言っただろ?」

「かなめさん……。わたしのくちびる、もらってくれませんか?」

「さっきと言ってる事がちげーッ!?」

 

再びの要の絶叫など誰も耳を貸さず、すずかの大胆発言に誰もが驚き、声を挙げる。

外野が好き勝手言いながら騒ぐ中、すずかは少しずつ近付いて要と唇を触れ合おうとする。

酒に酔っているとは言え、赤らんだ頬に潤んだ瞳はとても少女が出す色香とは思えず、要も思わず生唾を飲み込んでしまう。

要の中の体内時間が圧縮され、周りの音が遠ざかり自分の心臓の鼓動がやけに大きく聞こえてくる。

すずかが眼を瞑り、もう少しで要と唇が触れ合おうとしたその時、突如としてすずかが意識を失い、要の膝の上に倒れこんでしまう。

 

「お、おい、すずか!?」

 

要は慌てた様子ですずかを抱き起こすが、当の本人はとても気持ち良さそうに寝息を立てている。

いきなり倒れこんで心配した要だったが、気持ち良さそうに眠っているすずかを見て、安堵の溜息を零す。

 

「よ、良かった~……」

「なんだよ、キスしないのかよ。ちぇーつまんねぇの」

 

金髪白黒の発言を皮切りに、今の騒ぎを見物していた者達は思い思いに不満を漏らしながら、好きなように輪を作ってまた酒を飲みなおす。

好き勝手なことを言ってくる連中に要は握り拳を作るものの、それを相手にぶつけるような真似はしなかった。

 

「ど、どいつもこいつも人の恋路で遊びやがって……」

「別にあそんでなんてないわよ。私たちはしんけんにすずかの恋をおうせんしてるものです!」

「そうですよ、要様。貴方はもう少し彼女との将来を真剣に考えてくださいまし」

「いや、だから、そう言うのはもっとちゃんと考えられるようになってからで……」

「「そんなのはただの逃げよ/です!!」」

「ぐぅ……」

 

強気に出てくる二人に要は何も言い返せず押し黙ってしまう。

自己紹介をした時は、こんなにも押しの強い女性だなんて思いもしなかったが、すずかを焚き付けたところを見るにそうでもないのだろうと、要は考えを改めた。

 

「くくくく……。災難だったな、要」

「うるせぇぞ、リュウ。そう思うんだったら手伝ってくれても良かっただろ」

「これやっからそう怒るなって」

 

そう言ってリュウが投げ渡して来たのは、まだ封を開けられていない一升瓶だった。

もしかしたら何処かの銘酒なのかもしれないが、今の要にそんな事を気にしている心の余裕はなかった。

要はリュウが渡してきた瓶の口を無造作に指で圧し折り、杯に注ぐ事無くそのまま一気に呷った。

 

「……そんな事よくやるなぁ」

「うるせぇうるせぇ! こうなったら自棄だ、今日はトコトン飲んでやる!!」

「付き合ってやる気はねぇから、勝手に飲んでろよ」

「お前に言われなくてもそのつもりだ!!」

 

さっきの件で溜まったストレスを発散するように、要は止まる事無く次々と酒を飲み干してく。

そのペースに誰もが倒れないかと心配になるが、直ぐに人外なんだし気にしなくても大丈夫だろうと考えを改める。

要の自棄酒が何時までも続く中、宴会も盛り上がっていき、夜の闇もどんどんと深まっていった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

………

……

 

自棄酒で神社の酒を飲み尽くし、そのまま眠りに付いた要が眼を覚ますと、其処は神社の母屋ではなく見慣れた自分の部屋だった。

 

「あ、アレ? リュウ、たっちゃん?」

 

あの宴会で知り合った者の名を呼んでみるが、返ってくる返事は無く、部屋は静寂に包まれている。

外を見てみるとまだ日も開け切っておらず、まだ夜の気配を強く残していた。

隣りで眠っていたすずかを起こさないようベットから降りるが、幾ら考えても何時帰ってきたのかが思い出すことが出来ない。

狐にでも化かされたのか、それともただ夢を見ていたのか、思わずそんな事を考えてしまうが、あの出来事は決して夢などではないと確信できる。

だからこそ、何時の間に戻ってきたのか分からずに首を傾げると―――

 

「お、なんじゃ起きてたのか」

「爺ちゃん」

 

―――要が起きた物音に気付いたのか、要の祖父が部屋に顔を出して来た。

 

「連絡も入れずに何処をほっつき歩いているのかと思ったら、まさかその年で夜遊びしておったとは……。全く呆れた奴じゃ」

「別に夜遊びなんかしてねぇって。……ところで、俺達を部屋に運んでくれたのは爺ちゃんか?」

「まぁの。二人が家の玄関先で倒れておったから、儂が二人を運んだんじゃ。感謝せいよ」

「そっか……。ありがと、爺ちゃん」

 

結局いつ自分が帰ってきたのか分からず仕舞いだが、自分達を運んでくれた祖父に要は素直に感謝する。

しかし、そんな要の気持ちとは裏腹に、祖父は底意地の悪い笑みを浮かべる。

 

「感謝するのは構わぬが、ちゃんと言い訳を考えておるのか?」

「い、言い訳ってなんだよ。別に疚しい事なんてしてないぞ」

「お主はそう思うかも知れぬが、連絡も入れず夜遊びした挙句、月村の譲ちゃんを連れまわしたんじゃ。婆さんと月村の当主は相当腹を立てておるぞ」

「………………」

「まぁ、殺される様な事にはならんじゃろうが、ちゃんと言い訳を考えておくんじゃぞ。ではな」

 

祖父は伝えておくべき事を伝え終わると、要の返事を待たずにそのまま部屋を出て行った。

祖父が言っていた事が本当なら、この後に待ち受けるのは異端審問並みの話し合いだろう。

その事を考えると要の胃がキリキリと傷み始めるが、此処で腹痛を堪えていても事態は何も好転しない。

兎に角今はあの二人を説得するだけの言い訳を考えないと、明日の朝日が拝めるかも分からない。

何かいい案はないかと部屋の中をうろうろとしいると、ふとポケットの中に何かがは言っている事に気付く。

要はポケットに手を突っ込んで取り出してみると、ポケットの中からは二つに折り畳まれた一枚とお守りが出て来た。

一体何の紙か分からないまま開いてみると、中にはこう書かれていた。

 

【すずか。色々と大変だろうけど、そのお守りあげるから頑張んなさいよ】

                         幻想郷の素敵な巫女より

 

【要。今度ウチに来るときはなんか土産を持ってこい。でないと龍神の奴がうるせぇ】

                         守護の竜神より

 

「……………」

 

紙の内容を読んだ要はなんて言えば良いのか分からず、その場で頭を抱えてしまう。

守護の竜神と書かれている部分は、先に書かれていた何かを消したような後が有るが、今の要にはその様な事は如何でも良い事だ。

 

「あ、アイツ等……。人の気も知らないで暢気に言いやがって……」

 

手紙を読んでなんとか搾り出した一言。この手紙を使ってあの二人に言い訳できないかと考えるが、直ぐに無意味だと悟り別の案を考え始める。

言い訳を必至になって考える要だが、それと同時に当分はあの世界に行きたくないなっと思うのであった。

 




竜「……さて、如何だったでしょうか? ウチの作者が無い頭を捻って作った小説は。まぁ、こんなに長くなるなんて流石に予想外で―――」

要「おいコラ。何いきなり始めてるんだよ、まずはちゃんと趣旨を説明しろ」

竜「ちっ。ウルセェな。……え~改めましておはこんばんちわ。《竜が辿り着いた幻想郷》の主人公のリュウだ」

要「同じくおはこんばんちわ。《チートじゃ済まない》の主人公の要だ」

竜「今回の後書きはは俺達二人が座談会形式でこのコラボの裏話を暴露していくぞ。メタ発言も多々出てくると思うが、本編とは全く関係のない事だから気にしない方向で」

要「……しっかし、後書きで暴露話をやるってどうなんだろうな?」

竜「んな事は気にするな。んじゃまずは、このコラボを書くことになった経緯から話すか」

要「経緯って言っても、俺の所の作者が先にコラボを書いて、その返礼代わりじゃなかったか?」

竜「確かにそうなんだけど、実はウチの作者は前々から他の方とコラボしたがってたんだよ」

要「えっ? そうなの?」

竜「嗚呼。それでお前の所とコラボしてもらったから、自分でも書きたいって思って連絡入れて許可貰ったんだよ」

要「へぇ~……。そんな思いがあったのは流石に知らんかった」

竜「一応、ウチの小説の後書きに書いてたりするけどな。んじゃ次、今回の話の内容に付いて」

要「なんだんだよ、今回のアレは! 特にすずかのは酔っ払ってるにしても酷いぞ!!」

竜「落ち着け要。今回のアレは……」

要「アレは……なんだよ」

竜「ウチの作者がやりたいことを詰め込んだ結果だ」

要「ふ・ざ・け・ん・なッ!!」

竜「そうは言うけど、すずかの酒癖についてはお前の所の話を元にしてるんだぞ」

要「…? 如何言う事だよ」

竜「三十話辺りですずか達が酒を飲んで、酷い酒癖を披露した回があっただろ。あの話を読んで作者が〝……すずかの酒癖ってウチの霊夢に似てるんじゃね〟って思った結果がアレだ」

要「なんだそのしょうもない理由はーーーーーッ!!!」

竜「ウチの作者は思いつきだけで話を書くから、しょうもないのは何時もの事だ」

要「な、なんか釈然としねぇ」

竜「第一、お前の作者さんもキャラ崩壊を推奨してくれてるんだぞ」

要「……ちょっと俺の作者と話と付けて来る」

竜「それは終わってからにしろ。んじゃ次、今回の話を書くに辺りボツになった案に付いて」

要「ボツ案? そんなのもあるのか?」

竜「二つほど有るらしい。まず一つが俺と要の殺し合いで、もう一つは俺と要の共闘だってよ」

要「共闘はともかくとして、殺し合いってどんな展開になる予定だったんだよ」

竜「あ~っと……作者から渡されたメモによると、要が何らかの理由で俺を切れさせて、変身してでもお前を殺しに行くって言う展開になる予定だったらしい」

要「俺としては戦うのは歓迎なんだが、一体何をさせられる予定だったんだろ……」

竜「作者の脳内では、要が釣りの邪魔をするか、霊夢とのデートを邪魔するかのどっちかになる予定だったらしい」

要「デートはまだしも、釣りの邪魔をされた程度で切れるなよ」

竜「ふっ。俺の楽しみの邪魔をする奴は、地獄に落ちて永遠に詫び続けるがいい」

要「う、うわぁ~……」

竜「ちなみに共闘の方では、要の世界に何らかの神を召喚して神殺しをする予定だったらしいぞ」

要「神殺しって……お前の作者さんは何を考えてるんだ」

竜「さぁ? アイツはその手のネタを色々と出せるから、気分次第でルシファーと戦わされたかも知れねぇぞ」

要「それ、神様じゃねぇだろ」

竜「気にすんな。んじゃラスト。今回の最後に渡したお守りについて」

要「そういやなんだったんだアレ? 何処にでもありそうなお守りだったけど」

竜「まさにその通りとしか言いようの無い、何処にでも売られているような何の変哲も無いお守りだ。ただ、ウチの神社のお守りって事で生地には《博麗神社》って書かれてるけどな」

要「なんの目的で渡したんだ?」

竜「あ、ねぇよんなもん。お前等がウチに来たって言う証みたいなもんだ」

要「………………」

竜「さて、要は絶句しているみたいだが、そろそろ話すネタがなくなってきたな。本編がもうちょっと短ければ後書きの量も増えたんだが……こればっかりは仕方が無い」

要「本編の長さに反比例して後書きが長くなるのもどうかと思うぞ」

竜「それもそうだな。んじゃ、今回の所はコレでお開きって事で」

要「次にお前と会うのは……何時になるだろうな」

竜「さぁな。ただ、お前が管理局に勤めるようになったら合う事はなくなるだろうけどな」

要「…? なんでだよ?」

竜「俺は自身の感情を優先するタイプだからな。管理局みたいに法や秩序を遵守する組織とは性格的に上手くいかないって作者が」

要「あ~……確かにそれじゃ仕方が無いかもしれないな。……でも、個人的な付き合いは別だろ」

竜「まぁな。どの道、先の事なんて俺達には分からないんだし、なるようになるさ」

要「そうだな。……それじゃ、縁があったらまた会おうぜ」

竜「嗚呼。次ウチに来るときは酒ぐらい持ってこい」

要「子供に酒を買わせるなよ。……確かに買いたいけど」

竜「くくくく。外の世界ってのは色々と大変なんだな」

要「うるせぇ! てか、幻想郷が色々とおかしいだけだ!!」

竜「それは否定しない。……んじゃ、暴露座談会はこれでお開き。無駄に長くなった小説を読んでくれてありがとうな」

要「俺達の本編の方も宜しく頼むな」

竜・要「「それじゃ、またな」」
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