「よう、要。ちょっと良いか」
「あれ、リュウじゃねぇか。なんでこんな所に居るんだ?」
師走も終わりに差し迫った今日、水色の髪の少年<一条要>は街中で偶然青髪の青年<リュウ>と再会した。
街で知人とばったり再会するなど稀にある事だが、この二人の場合は少々事情が異なる。
「なんでって随分な言い草だな。俺がこの街に居たら悪いのか」
「そう言う訳じゃないけど、普段は幻想郷に暮らしているだろ。なのに街で会ったら驚くに決まってるって」
リュウが暮す世界は要が暮す世界とは異なる。国や地域が等というレベルではなく、本当の意味で世界そのものが違うのだ。
本来なら決して出会うはずの無い二人が出会うこと事態ありえず、こうして街でばったり再会するなど普通では考えられ無い様な偶然だ。
しかし、リュウも望んでこの世界に来たわけではなく、ちょっとした事情というものがあった。
「あ~……まぁ色々とあってな。八雲の奴に家を追い出されちまったんだよ」
「い、家を追い出されたって……なんか怒らせる様な事をしたのか?」
「してねぇよ。いきなりあのババァがやって来て、〝少しやる事があるから貴方には出て行ってもらうわ〟とか訳の分からん事をぬかして、問答無用でスキマ送りにしてきたんだよ。家が人災で倒壊して大変だってのに、コレだからババァは面倒で困る」
「そ、それは大変だったな……」
言葉の節々に怒りを滲ませているリュウに、要は思わずドン引いてしまう。
前の宴会の時にも近い状態の時はあったが此処までではなかった。
この世界にやって来るまでに何が遭ったのか要には分からないが、少なくとも碌な事はなかったのだろうと容易に想像ができた。
「まぁそんな訳で、こっちの世界に来たってわけだ」
「あぁ、うん、お前も色々と苦労してるんだな」
「あのババァは一度徹底的に叩きのめさないと駄目かなって思ってる。……その後の報復が面倒だからやらんけど」
「お前ならその程度の事どうにでも出来るんじゃないのか?」
「いや、物理的なことだったら良いんだが、アイツの場合精神的にねちねちと責めてくるから鬱陶しいんだ」
「……と言う事は一度はやったんだな」
女性相手でも手加減しない事に要は呆れるが、自分も同類である事を棚に上げていた。
「アイツの愚痴を延々と語るのは簡単だが、折角外の世界に来たんだ。気持ちを切り替えて此処でしかできない事をしようと思う」
「此処でしかできない事ってなにをする気だ? また海で釣りでもするのか」
「それも悪くないけど、外の世界の釣竿でも見てみようと思ってる。前に使ってた奴は家が倒壊したときに駄目になったからな」
「あ~そいつは災難だったな。でも、こっちの世界の金なんて有るのか?」
「八雲の奴が俺をスキマに放り込む時に大金を渡してきたからな。それでなんとかなるだろ」
そう言ってリュウは掌の上に厚い茶封筒と出現させた。
要はその茶封筒を手に取り、袋の中身を確認してみるとピン札のお札が五十枚ほど入っている。
子供が使う玩具でも、偽札と言う訳でもなさそうだが、これ程の大金を一体何処で手に入れてきたのか。
そんな疑問が浮んだ要は茶封筒とよく見てみるが、ヒントになりそうな事は何も書かれていなかった。
この大金の出所を訝しみながら、要はこの怪しい茶封筒をリュウに返した。
「……とりあえずお金は大丈夫そうだな。その大金の出所が凄く気に為るけど」
「あのババァが自腹切るとは思えないし、どっかから盗んできたんだろ。些細な事だから気にすんな」
「些細じゃねぇ、絶対些細じゃなぇ」
「そんな事よりこれから釣具店に行きたいんだが、何処にあるか知らないか?」
「あ? あ~……俺は釣りなんてしないからな。流石に場所までは分かんねぇや」
「そっか。まぁ最初から当てにしてないから良いけどな」
こうなる事は最初から分かっていた。そう言いたげなリュウに流石の要もカチンときた。
「悪かったな、知らなくて。それよりもリュウ、今ちょっと時間あるんだろ? 少し付き合ってくれ」
「いや、これから釣具を買いに行くって言っただろ」
「そんなにかからねぇから大丈夫だって。この前新しく覚えた業の練習に付き合ってもらうだけだから」
「練習ねぇ……。そんなのに付き合って俺になんのメリットがあるんだ?」
「この街一番って評判の釣具店に案内してやる」
「……お前、今さっき知らないって言っただろ」
「知らなくても調べるくらいの事は出来るっての。それでも足りないって言うなら、霊夢さん達へのお土産に出来そうなアクセサリーショップにも連れてくぞ」
「……………」
要にそう言われ、リュウは腕を組んでその場で何かを思案し始める。
要が何かを企んでいる事くらい気がついている。しかし、新しい業の練習をしたいと言うのも嘘ではないだろう。
何処に在るかも分からない店を独りで探すよりも、誰かに案内してもらったほうが良いのも分かっているが、快諾しないのは一重に要の相手をするのが面倒だからだ。
初めて会って戦った時から気付いていたが、要には戦闘狂なところがある。
今はまだそうじゃないとしても、将来的にそうなる可能性がある事を考えると、今の内から付き合い方を考えておいた方が良いに決まっている。
元々リュウにとって戦いとはお互いの命を奪い合う行為であり、自分が楽しむための行為ではないのだ。
だからリュウからすれば、戦いを楽しむと言う事は命を奪い合う事を楽しむと言う事になり、それを理解する事など出来ない。
こればっかりは生まれや、今まで過ごしてきた環境の違いがそうさせるのだから仕方がない事だが、それでも要の練習に付き合うのは面倒な事に変わりはない。
しかし、結局は霊夢たちにお土産を買えると言う事に魅力を感じてしまい、不肖ながら要の提案を呑む事にした。
「……分かったよ。でも、あんまり時間は掛けられないぞ」
「うっし。それじゃ、知り合いに連絡を取るから少し待ってくれ」
「今、時間は掛けられないって言っただろ……」
人の話を聞かない要にリュウは頭を抱えるが、一度言い出した事を撤回する気にもなれなかった。
心の底から〝やっぱり面倒な事になった〟と思いながら、リュウは要の電話が終わるのを大人しく待つ事にした。
………
……
…
要が誰かに連絡を入れて暫くすると、急に世界の色が変わり、この街全体が結界に覆われた。
周囲から自分と要以外の生き物の気配が無くなり、世界の時間が止まったんじゃないかと思ってしまう程の静寂に包まれている。
リュウがこの世界の結界を見るのは二度目だが、この静寂の世界にはどうも慣れそうになかった。
静寂の世界でリュウが色の変わった空を眺めていると、何もない所に四角い枠と黒髪の少年が現れた。
『頼まれたとおり結界を張ったぞ。……全く、僕も事後処理とかあって色々と忙しいって言うのに』
「悪いな、クロノ。でも、全力で暴れるんだから仕方がないだろ」
『分かっている。頼むから結界を破壊する様な事だけはしないでくれよ。街を破壊したら流石に庇い切れない』
「そんなに心配するなって。クロノは結界の維持に全力を注いでくれれば良い」
『……不安だがそうすることにしよう』
黒髪の少年が溜息混じりにそう言うと、四角い枠と一緒に少年の姿が消え去った。
リュウは一瞬、何らかの魔法なのかと思ったが、よくよく考えてみると科学技術の様な気がしてくる。
地球にこんな技術があったのかと感心していると、いきなり要の力が膨れ上がった。
「前戦った時は50%だったが、今回は70%で行くぜ」
「……たった20上がった程度じゃ対して変わらないだろ」
「そいつは受けてみてからのお楽しみだ!」
そう言って要は地面を踏み砕きながら突撃し、リュウに向かって拳を突き出してくる。
リュウは叢雲を取り出し、剣の腹で要の拳を受け止めるが踏み止まる事ができず、後ろに押されてしまう。
「ッ! ……大した力だな。頑丈さだけが取り柄かと思ったぞ」
「上がるのはそれだけじゃねぇけどなッ!」
要がリュウから離れたかと思うと、一瞬にしてリュウの背後へと回っていた。
上昇しているのは頑丈さや腕力だけではなく、速力も上がっているらしく、とても人間が出せるような速度ではなかった。
普通の相手なら背後を取った次点で要の勝ちが決まるが、彼の今回の相手は人外が多数暮している幻想郷からきたリュウ。
人外めいた速度を出そうとも、数多の敵と戦い抜いてきた彼からしたら反応できない速度じゃない。
「貰ったッ!」
「甘い!」
要が背後から繰り出した拳をリュウは即座に反転して叢雲で受け止める。
体勢が悪かった所為で軽く押し飛ばされてしまうが、大したダメージもなく平然としている。
要は直ぐにリュウを追い越し、再びリュウの背後に拳を繰り出す。
しかし、またしても要の攻撃は叢雲によって防がれてしまい、リュウは難なく地面に着地する。
着地した時の隙を狙って要は攻撃を繰り出すが、今度は防がれることすらなく躱されてしまう。
要は地面を抉りながら踏み止まって、即座にリュウの軸足に蹴りを繰り出す。
だがその攻撃も軽く跳んでリュウは回避してみるが、要にとってはそれが狙いだった。
空を飛翔するわけでもなく、軽く跳ね上がっただけなら空中で身動きする事はできない。
その僅かな隙に要は右腕に魔力を収束させ、腕そのものを大口径の弾丸に見立てて拳を繰り出した。
確実に入ったと思われた攻撃だがリュウには届かず、叢雲で意図も簡単に防がれてしまう。
跳んでいた事で殴り飛ばされてしまうが、コレと言って目立つ外傷もなく服に土埃が付く程度。
リュウは直ぐに立ち上がり、服についた土埃を払うが……その姿が要には気に入らなかった。
「随分と余裕じゃねぇか。簡単に殴り飛ばされたくせに」
「余裕って言うか、別に脅威に感じてないからな。確かに腕力や速力は人外めいているし、頑丈さに至っては俺が知る敵の中では最高硬度だ。……でも、言ってしまえばそれだけだろ? お前の戦い方は前にも見たし、戦法が変わらないんじゃ大体の行動は読める」
「て、めぇ……ッ」
この戦いにまるで興味を示さないリュウの発言に要は激怒する。
しかしリュウは、そんな要を見ても弁解することもなく、ただめんどくさそうに要の様子を窺っている。
それが要の怒りを更に膨れ上がらせるが、どれだけ怒ろうともリュウはこの戦いに興味はなかった。
元々リュウはこの世界に買い物しに来ているだけなのだ。店に案内してもらう為とは言え、そう簡単に戦う気になんて為れるわけがない。
リュウは要の練習に付き合っているだけなのだから、さっさと試したい業を試して満足してほしいと言うのが彼の本音だ。
しかしそんな事を要が知るわけもなく、全く戦意をみせないリュウに怒る事しかできなかった。
「……いいぜ、テメェがやる気がねぇなら無理矢理にでも本気にさせてやる!」
「なんかぶち切れてるし……。これだから戦闘狂は面倒なんだよ」
「うるせぇッ! 100%解放だッ!」
要の叫びと共に力が更に膨れ上がった次の瞬間、リュウは要の姿を一瞬見失った。
眼に映っていたのは子供の足で踏み砕かれた大地と、その衝撃で跳ね上がった小さな欠片だけ。
その速さにリュウは一瞬呆気に取られるが、直ぐに自分の足元を見ると既に要は懐に潜り込んでいた。
防御する事も回避する事も出来ず、リュウは要に強烈な一撃を貰い殴り飛ばされる。
リュウは空中で体勢を立て直すが、既に間合いを詰めていた要が追撃してくる。
繰り出してきて来た拳を叢雲で防ぐが、防御など関係ないと言わんばかりの重い一撃だった。
先程までとは比べ物に為らない程の一撃に眉を顰めるが、要はそんな事関係ないと言わんばかりに追撃してくる。
二撃、三撃と要の追撃を防ぐリュウだが、流石に何時までも受けに回っているのは性に合わない。
リュウは反撃しようと叢雲を振るうが、速度は今の要の方が上らしく、何らく避けられ腹に強烈な一撃を貰い殴り飛ばされてしまった。
殴り飛ばされたリュウは空中で静止する事が出来ず、後ろにあった家屋を二棟、三棟と貫いて行き、五棟目で漸く止める。
リュウは滅茶苦茶に為った家の中で、人の姿でここまで強烈なのを貰ったのは何時以来だろうと思い返す。
腹部が陥没するんじゃないかと痛みに、家を貫いたときに出来た幾つモノ擦り傷が痛むが、此処までされてもリュウはまだ要を脅威とは感じていなかった。
リュウは簡単な回復魔法を自分に施し、滅茶苦茶になった家から出ようとすると、要が二階を突き破って襲い掛かってくる。
リュウは大した執念だと呆れながら、即座に反応して要の一撃を躱してみせた。
この瞬間、リュウの思考がスイッチを切り替えるかのように入れ替わり、要の事を倒すべき敵と認識し、この日初めて攻撃に転じる。
回避しても直ぐに踏み止まり、要の首を刎ねようと叢雲に力を込めて剣を走らせる。
絶好のタイミングで繰り出し防がれなかったが、今の要の頑丈さは常軌を逸していた。
力を込めて繰り出した叢雲の一閃だが、要の首に傷一つ付けることも出来ずに受け止められる。
常識ではまず考えられない硬さ。これ程の硬さを持つ相手など幻想郷でも出会ったことがない。
リュウは要の頑丈さに眉を顰めるが、要は逆に漸く戦う気に為ったリュウに歓喜する。
「漸くその気になった。んじゃ、こっからが本番だ!!」
嬉しそうに喜ぶ要とは反対に、リュウは特に反応もせず窓を突き破って外に出る。
要は逃がすまいとリュウを追いかけるが、彼の左手には叢雲とは別の光の剣が逆手に握られていた。
リュウはその場で一回転すると、円状の斬撃が描かれ周囲へと飛んでいき、要を家の中に押し返す。
「……真円『円舞陣』」
リュウが技の名を口にすると、斬撃によって斬られた家が自重に耐えかね次々と倒壊し、要は上から降ってきた瓦礫に飲み込まれる。
一分も経たずに海鳴の住宅街は瓦礫の街へと変わり、街並みが一瞬にして悲惨な姿へと変貌した。
この瓦礫の街を作り出した張本人は周囲の景色に何の興味も示さず、ただ要を飲み込んだ瓦礫の山を眺めている。
しかし瓦礫の山は微動だにせず、周囲にも要の姿を確認する事は出来ない。
普通なら瓦礫の下敷きになったのだと思うものだが、リュウはまだ要を倒せていないと確信していた。
あれほどの頑丈さを持つ者がこの程度の事で倒れる筈がない。リュウの長年の経験がその予想を確信へと変えていた。
何時何処から来ても良いように常に気を張り、警戒し続けていたが……要の登場はリュウの斜め上をいっていた。
リュウの目の前に有る瓦礫の山が吹き飛び、其処から要が姿を現す。それはリュウの予想通りだったが、彼の右腕が在り得ない物へと変貌していた。
どれだけ人外めいた力を発揮しようとも、彼の右腕は普通の人間の腕と全く一緒だった。
しかし今の要の腕は銀に似た色を基調として、縁をコバルトブルーで彩られた篭手の様な何かを纏っている。
それを見た瞬間、リュウは本能的に理解する。人間が持っていいモノでもなければ、人間が振るっていい力ではないと。
要の中に居ると言う水星の究極生物。その力を人の姿を維持したまま具現させると言う無謀。
星の分身とも言える存在を宿しているだけでも驚愕だが、人の姿で力の一旦を具現させてしまった事にリュウは戦慄する。アイツは自分の身体が壊れる事を厭わないのかと。
在り得ない力の具現に戦慄して生まれた致命的な隙。その隙をついて要はリュウの懐に潜り込んでいた。
「……歯を食い縛れ。コレが星の力だッ!」
リュウは咄嗟に叢雲で防御するが、その防御の上からでも途轍もない衝撃がリュウに襲い掛かる。
防御に使った叢雲を押し返され身体にめり込み、その影響で身体の中を傷付けたのかリュウは血を吐き出す。
生身で喰らっていたら腹に大きな風穴が開くであろう一撃に、リュウの身体は軽々と吹き飛ばされる。
後ろに跳んで衝撃を逃がすことも出来ず、リュウは自分が作り出した瓦礫の山に墜ちていった。
普段ならこのまま追撃する要だが、今回だけはそうはせず右腕を押さえていた。
「ぐ、がああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!」
勝利の雄叫びには程遠い絶叫。それは内側から壊れていく痛みに耐え切れずに出た叫びだった。
要が味わっている痛みは、星の分身を人の姿を維持したまま具現させるという無謀を行った代償の痛み。
普通の人間では発狂しかねない痛みを堪えていると、要の心に誰かが直接語りかけてくる。
―どうした、随分と痛がっている様だが―
「うる、せぇ……。心ぱいするなら大人しく従いやがれ」
―存分に暴れろと言ったのはお前だろう―
「確かにそうだけど……」
腕の痛みに堪えながら要は心に語りかけてきた存在<ORT>と対話する。
少し前に起こった事件を解決する際に要はORTと接触し、更なる力を引き出した。
その結果が星の力を纏う《武装・ORT》なのだが、この会話はその副次効果と言ったところだろうか。
端から見れば盛大な独り言を言っている様にしか見えないが、今この場に居るのは自分だけなら気にする事はない。
「……よし、だいぶ良くなったぞ。此処までしないと倒せないなんて、末恐ろしい奴だよ全く」
―回復したのはいいが、気を抜くにはまだ早い。アレはまだ倒れてはいない―
「武装・ORTを受けて倒れてないって、生き物としておかしいだろ」
「おかしくて悪かったな。だが、全うな生き物じゃ
要とORTの会話に口を挟んできたのは、先程殴り飛ばした筈のリュウだった。
無傷の剣を手に、口に残っていた血を吐き出しながら瓦礫の街を確りとした足取りで歩く。
その姿に要はリュウを在り得ないものを見るような眼で見て、歩くその姿に戦慄する。
「お、お前……アレを受けてまだ歩けるのかよ……」
「防御したからな。流石に無傷とはいかなかったが死ぬほどの事じゃない」
「……ハハ。ホントにとんでもねぇ奴だよ、お前はッ!!」
要は今後こそ打ち倒そうと駆け出すが、リュウはそれに対して碌な反応もせず、一枚のカードを取り出す。
そのカードには竜を模した金色の鎧を纏う騎士が描かれている。
あのカードが何なのか要には理解できなかったが、得体の知れない物を取り出されて踏み止まってしまう。
「なんだそのカード? お前のスペルカードか?」
幻想郷の事を知る要は、リュウが取り出したカードをスペカだと検討をつけるが、何かが違う様な気がして為らなかった。
しかしリュウは要の質問に応じず、ただめんどくさそうに溜息を吐くだけだった。
「……本当はこんな所で使う気はなかったんだけどな。ただ買い物が出来りゃそれで良かったってのに」
「おい、俺の質問に答えろよ!」
「あぁ、コレがスペカか如何かって話か? それだったら半分だけ正解だよ。これ等はかなり特殊なんだが一応スペカって事にしてる」
「事にしてるってなんだよ。てか、半分正解ってどういう意味だ」
「それは今から教えてやるが……もう一つ覚えておけ」
「ん? なんだよ」
「存分に後悔しろ。この俺を本気にさせるって事が如何言う事なのか、その身に刻み込んでやる」
殺気を込めながらリュウがそう言うと、彼は取り出したカードを無造作に握り潰した。
「……風竜『ナイト』」
カードの名を宣言すると、リュウの足元から赤いオーラが立ち昇り、彼を包み込んだ。
外からでは何が行われているのか分からないが、赤い柱越しに伝わる気配は明らかに人の物ではなくなっている。
―気をつけろ、要。奴はワタシの同類だ―
ORTが要に警告を出すが、そんな言葉も聞き逃してしまうくらいに要は動揺していた。
今になって考えてみると、要はリュウの事を何も知らない。
初めて会った時から人間じゃない事は分かっていたが、一体どういう存在なのかまでは知らずにいた。
本人も話そうとしなかったし、それを聞く機会が殆どなかったとはいえ、聞かないままだったのは早計だった。
「でぇあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!」
赤い光の柱の中から聞こえてきたリュウの咆哮。それは聞いたものを畏怖させるだけの強さを秘めていた。
光の柱が弾け、中に居たリュウが再び姿を現すが……その姿は明らかに人ではなくなっていた。
上半身は人の姿を留めているが、空の様に蒼かった髪は白く変色し、首に掛かる程度に短くなっている。
しかし背中からは皮膜の無い赤い羽根が生え、下半身は赤い肌をしたかぎ爪の足に変わり、尻の辺りから赤い尾が生えていた。
明らかに人間ではないその姿を見て、要は歓喜か恐怖かも分からず震え上がってしまった。
「どうした小僧。震えているぞ」
「た、ただの武者震いだよ。それよりもさっさと続きを始めようぜ!」
「そうだな。……だが、これ以上は面倒だ。さっさと終わらせるぞ」
リュウの言葉に要は即座に反論しようとしたが、言葉を発することすら出来ずに要は空に打ち上がっていた。
「……はっ?」
あまりにも突然の出来事に要はマヌケな声を出すが、その直後に訪れた強烈な痛みで自分は殴り飛ばされたのだと自覚する。
自分が殴られたのだと自覚しても、何時どうやって殴られたのかまでは分からなかった。
何かしらの魔法を使ったのか、それともこれがあのスペカの能力なのかも分からず、ただ頭が混乱する一方。
しかし、今はそんな事を気にしている場合ではないと頭を切り替えようとするが、顔面・後頭部・背中と三箇所同時に痛みが走り、気が付くと今度は地面に叩き伏せられていた。
「ったく、ホント無駄に頑丈な奴だ。殴っているコッチの手が壊れそうだ」
そう言いつつ要に近付いたリュウは、足元の瓦礫を蹴散らしながら無理やり要を起き上がらせる。
瓦礫と一緒に打ち上がった要を、リュウは渾身の力を込めて腹部を殴り、遠くへと吹き飛ばす。
要は腹部を殴られ、身体をくの字に曲げながら遠くへと吹き飛び、瓦礫の山を数回跳ねて漸く止まる。
立ち上がりながら、どうやって自分を起き上がらせたのか考えていると、要は顎に走る痛みから今度は蹴り上げられたのだと理解する。
さっきとはまるで逆の立場だなと苦笑いしながら、リュウが繰り出した蹴りの速さに驚愕する。
痛みが無ければ何をされたのかも分からない程の速度。普通ならば考えられないことなのだが、コレにはちょっとしたタネがあった。
風竜『ナイト』は攻撃力と速度に特化したリュウではあるが、それだけでは要に認識させずに攻撃するのは難しい。
しかしリュウには『シャドウウォーク』と言う
それを連続で使用され続けた結果、要は自分が何をされたのか分からないまま地面に伏す事になった。
顎に強烈な一撃を貰い、脳を激しく揺らされたため、視界が酷く歪みまともに立つことさえ出来ない。
ORTのお陰で直ぐに治りはするが、それでも今の状態はかなり気分が悪くなる。
それでもなんとかして立ち上がろうとするが、要が立ち上がろうとするよりも先にリュウが来てしまう。
リュウの余りにも冷たい瞳に、要はこの戦いが彼に取ってどれだけつまらないものかを理解してしまった。
力を100%にまで解放し、ORTを武装して纏ってもリュウの心には響かない。
元々戦いを楽しむという考え事態がないんだ。この戦いがつまらないモノだと感じてしまっても仕方がない。……しかし要は諦めていなかった。
本人も何故ここまでするのか分からないが、ただ此処で膝をついたらもう二度とリュウの前に立てない様な気がしていた。
二人が出会ったのはこれが三度目で要がリュウに執着する理由なんてない。……なのに要は膝をつくことだけは拒んだ。
頭の中では誰かが諦めろと囁いてくるのに、心も折れかかっているのに如何しても膝をつく事は出来なかった。
「……何故立ち上がる。そうまでして苦痛を望むのか」
「さぁ…な。如何してかなんて、自分でもわかんねぇよ」
「倒れてしまえば楽になると言うのに……。俺は弱いもの虐めをする趣味はないんだがな」
溜息を吐きながらリュウは要の顔面に認識できない拳を叩き込む。
その一撃に後ろに倒れてしまいそうになるが、足を踏ん張り腰を入れることで何とか堪えてみせる。
しかし、要がどんなに踏ん張ろうともリュウにとってはただ面倒が増えるだけ。
リュウは心底呆れ果てながら、要の脇腹に認識できない蹴りを叩き込んで蹴り飛ばした。
また瓦礫の山に飛ばされるが、今度は倒れこまず両の足で確りと瓦礫を踏み締めた。
倒れる事無く確りと立っている要を見て、面倒だと言わんばかりに盛大な溜息を吐く。
あと何度コイツを殴り飛ばせば終わるんだろう。今の要を見ているとリュウはそう思わずにいられなかった。
いっその事、完全に竜化してこの結界ごとアイツを切り裂いてしまおうか等と考えていると―――
「……なぁリュウ。お前から見て、俺はまだ弱いのか」
―――などと感情の篭らない声で要がそんな事を聞いてきた。
「そんな事を聞いてどうする」
「いいから答えてくれ」
「……正直な事を言えば別に弱いわけではない。しかし、決して強いともいえない」
「……………」
「ORTの力は絶大だ、それは先程の一撃で理解できた。だが、お前がその力に振り回されている。自分が内包した力がどんなモノなのか理解出来ず、制御できずに振り回されているだけの輩を強者とは思わない」
要の質問にリュウが出した答え、それが一体何を意味するのかなんてリュウには分からない。しかしリュウは、自分の思っている事を偽らずにそのまま告げた。
その答えを聞いて要は怒る事も、喚く事もせず確りと受け止めているかのように見える。
リュウの答えを受け止めた上で要は前に一歩を踏み出し、力強い瞳でリュウの事を確りと見据えた。
「……なんの真似だそれは。まさかまだ戦うつもりなのか?」
「ああ、その通りだ。こんな所で膝をつく訳にはいかない」
「俺としてはさっさと膝をついてくれた方が楽なんだが」
「だけどそんな事をしたら、もう二度とお前と戦う事なんて出来やしない」
「そうだな。俺は心の折れた奴と再戦してやるほど暇じゃない。……そう言う輩はあの半人前だけで十分だ」
「だから俺は膝をつかない。お前に負けを認めるのが嫌なんじゃない、心が折れて前に進めなくなるのが嫌なんだ」
要が膝をつかない理由。それは諦めてしまう事への拒絶だった。
今の自分ではリュウを倒すのは難しいのかもしれないが、それを理由に諦めてしまう事なんてできない。
敗北してもそれを糧により強くなっていけばいい。だけど、心が折れてしまったらそれすら出来なくなってしまう。
膝をついたまま前に進むことなん出来ないから、何が遭っても自分から膝をつくような真似はしない。心が折れて諦めてしまうなんて事だけは絶対に認めない。
それが今の要の気持ちだった。決して諦めようとしないその思いにORTが応え、更に力を貸す。
限界を超えて引き出された力だが、それは一条要という存在を内側から壊しかねない行為。
普通ならそんな力は拒絶してしまうものだが、要は前に進む為にその力を受け入れた。
「……俺の思いに応えてくれたのか。んじゃ行くぜORT、最初から負けることを前提に戦うつもりはねぇ。例え倒れるとしてもそん時は前のめりにだ!」
気炎を漲らせ、内側から壊れていく痛みを誤魔化し、眼前の敵を打ち倒す為に己の身体を厭わずに戦う決意をする。
右腕にだけ武装させていたORTを、今度は左腕にも武装させる。
無謀とも愚かともいえるその行為だが、リュウは不思議とそう思う事は出来なかった。
「お前みたいな奴を本物の莫迦って言うんだろうけど……如何してだろうな。不思議と嫌いになれねぇな」
そう言って微笑むリュウの表情は、人間の姿をしてるときに見せる笑みと全く同じ物だった。
だが、そんな笑顔も直ぐになりを潜め、変わりにリュウの手に雲を纏う片刃の大剣が出現する。
剣は刀身に纏っていた雲を払い、リュウの心に応えるかのように剣から光があふれ出す。
「……そういや、その剣って一体何なんだ? 武装・ORTでも砕けないとか普通じゃないだろ」
「あぁ、そういえば教えてなかったか。こいつの銘は『天叢雲剣』。龍王の体内から出土し、友が俺の為に打ち直してくれた世界に唯一つだけの剣だ。神話通りの性能だと思うなよ、今のコイツなら星すら薙ぎ払うぞ」
「それはこえぇな。……でも、今の俺を簡単にやれるとは思うな!!」
高らかに叫び、要はリュウへと向かって突撃する。
足元の瓦礫は限界を超えた要に踏み砕かれ、散弾の様に高速で四散した。
真っ直ぐ自分へと向かって来る要に対し、リュウは叢雲を応戦するが限界を超えた要に易々を受け止められる。
要は叢雲を無造作に払い、がら空きに為ったリュウの腹に拳を繰り出すが、今度はリュウが要の拳を易々を避けてみせた。
そしてリュウは無防備な要の背中に叢雲を振り下ろすが、同時に要がリュウに向けて回し蹴りを繰り出した。
二人の攻撃はお互いにほぼ同時に命中し、繰り出されたときに生じた衝撃に二人して押し飛ばされてしまう。
ほぼ同時に瓦礫の山に激突した二人だが、すぐさま駆け出し、相手を打倒しようと拳と剣を繰り出す。
その衝撃で周囲の瓦礫が吹き飛ばされ、雨の様になって二人の頭上に降り注ぐ。
木材やコンクリートの破片が降りしきる中、二人はそんなのに気にも留めず戦い続ける。
人外同士の戦いを人が作った結界で押さえ切れる筈もなく、海鳴市を覆っていた結界が少しづつ綻び始めた。
『おい、いい加減にしろ二人共! このままじゃ結界が持たないぞ!!』
「「うるせぇ、少し黙ってろ!!」
『なッ!?』
結界が持たないからと仲裁に入った少年に対し、二人は大声を挙げて激昂する。
二人に激昂されて少年は言葉を失うが、そんな事はお構い無しに二人は戦いを続けた。
リュウが叢雲に力を込めると、刀身から溢れる光は更に増大し、巨大な光の刃へとなって剣を覆う。
その状態でリュウが剣を振り下ろすが、要に寸前のところで避けられてしまい、大地に大きな傷跡をつける。
要は反撃とばかりに拳を繰り出そうとするが、リュウは身体を捻って無理やり剣を振るい迎撃しようとする。
要はその攻撃を脇腹に受けてしまうが、身体を両断されることはなく、少し食い込む程度しか切れなかった。
光の刃を食い込ませたまま要はリュウへと向かうが、リュウは即座に光の刃を消して要を迎撃する。
そして再びぶつかり合う拳と剣だが、すこしづつ要がリュウに押され始めた。
只でさえ限界を超えた力を引き出している上に、変身したリュウとの戦いに身体が限界を迎えだしたのだ。
今の要は呻き声を上げる事すら出来ない様な激痛が、身体の内側から全身に伝わっている。
にも拘らず、リュウと戦い続けているのは諦める事を放棄した人間の意志の力。
リュウも要が戦えない状態に有るのは気付いているが、それでも剣を納めないのは要の意思を尊重しているから。
リュウからしたら、相手が自滅するまで逃げ回っていたほうが楽なのだが、その様な勝ち方はリュウ自身が気に入らないし、何より中途半端な形で終わりを迎えれば遺恨が残る。
それが分かっているからこそ、リュウは最後まで要に付き合う決意を固めたのだが……それも終わりを迎える。
「ぐ…が……ッ」
戦いの最中に要の息が急に詰まり、そのまま瓦礫の上に倒れ伏せてしまった。
左右に纏わせていた武装も消えてしまい、溢れんばかりに漲らせていた力も今や見る影も無い。
要はリュウの攻撃を受けて倒れたのではない。ORTの力に身体が耐え切れずに倒れてしまったのだ。
『要?! あ~もう、無茶をする! 兎に角これ以上の戦闘は無理だ。これ以上は結界を維持できないし、何よりも要の身体が持たない!』
「く…そ……」
黒髪の少年のもっともな言葉に、要は悔しさのあまり呻き声の様に声で漏らす。
少年の言う通りこれ以上戦えないのは自分が良く分かっている。だが、こんな半端な形で終わってしまうのが悔しくて堪らない。
なんとかしてもう一度戦おうと足掻くが、しかし身体は自分の意志を裏切って動いてくれない。
少しすればORTの力で身体は元に戻る筈だが、戻った後でもう一度戦おうなんて幾らなんでも虫が良すぎる。
次に何時会えるかもわからない相手だ。決着は着けられるときに着けておきたいのに……身体はピクリとも動かない。
「ぅ…ぁ……」
「……如何した要。お前の限界はその程度か」
「…………ぁ」
疲れ果てた要の耳にリュウの声が届く。
今は首を動かす事も出来ないけど、要は何故かリュウは今の変身を解かずに、自分を起き上がるのを待っている様な気がする。
優しく手を差し伸べてくるわけでもなければ、落胆し罵倒してくるわけでもない。
ただリュウは要が立ち上がることを信じて待っていてくれているのだ。
そう思うと不思議と動かない筈の身体に力が入る。
身体の状態は相変わらず最悪にも拘らず、四肢に立ち上がるための力が沸き起こる。
倒れてしまいそうになりながらも、腕を伸ばし、足に力を入れ、再び立ち上がるために要は足掻く。
端から見ればそれは見っとも無く、滑稽に映るものなのかもしれない。
しかし、この場に今の要を笑い飛ばす者など居らず、その光景を見ていた誰もが固唾を呑んで見守っていた。
「……ぅぁぁぁぁぁぁああああああッ!!」
腹の底から搾り出したかのような要の雄叫び。その叫びリュウは、諦めない人間の強さを見た様な気がした。
「……漸く立ち上がったか。待ちくたびれたぞ」
「わりぃな……でも、これで最後だ」
「あぁ、そうだな」
そう言うとリュウは態々要の間合いにまで自分から踏み込んでいく。
そんな事をしなくてもリュウが使う叢雲は大剣。近付かなくても十分に間合いに入っているのだが、こんな事をしだしたのは歩く事もままならない要への情けだった。
立ち上がったのはいいが、今の状態では先程の様な戦闘が出来ないのは誰の眼から見ても明らか。
軽く小突けば倒れてしまうだろうが、そうしないのはちゃんとした決着をリュウが求めているから。
普段の要なら〝余計な事はするな〟と激怒するだろうが、まともに歩けないのは自分が良く分かっている。
だから要は何も言わず、ただリュウがくれた情けを甘んじて受ける事しかできなかった。
「……礼はいわねぇぞ」
「別に要らん。言われる程の事でもないしな」
十分に間合いを詰めたリュウは、叢雲の切先を後ろに下げ、腰の辺りで構える。
一方要は右腕をORTで武装し、拳を力一杯握り締めて何時でも繰り出せるように腕を引く。
結界を何時まで保てるのか分からない不安定中、二人はお互いの武器に力を込めてタイミングを測る。
もはや黒髪の少年も二人の戦いを止める様な真似はせず、この戦いの行く末を見守る事にした。
瓦礫だらけと為った廃墟の町で、二人は精神を集中し、その時が来るまで力を研ぎ澄ましていく。
力を込められた叢雲はリュウの力に反応して光り輝き、ORTを纏った右腕は圧倒的な力を放つ。
二人の集中力が限界にまで研ぎ澄まされた次の瞬間―――
「「ッ!」」
―――二人は同時に拳と剣を繰り出した。
間合いはリュウよりも要の方が有利で、拳の方が剣を振りぬくよりも若干早く当てられる。
このままならリュウに勝てる。要はそう思っていたが、普段よりも拳の速度が遅い。
限界を超えた上に全身が痛み、使用に激痛を伴う武装・ORTを使ったのだ。普段通りに繰り出せないのも無理はない。
それでも要はリュウを打倒しようと拳を繰り出すが、リュウが剣を振りぬくほうが遥かに早かった。
「神剣『天叢雲剣』」
リュウが繰り出した必殺の一閃。それの一閃が要を薙ぎ払い、太刀筋に入るモノ全てを吹き飛ばす。
その余りにも強力な技に結界が耐え切れずに崩壊し、元の現実世界に戻ってきてしまう。
要は空高く吹き飛ばされ、リュウは変身した時の姿のまま大剣を握り締めている。
一般人に見付かってしまえば大問題に発展してしまうが、リュウは即座に変身を解除し、空から落ちてくる要を回収して直ぐにその場を後にした。
………
……
…
「……あれ、ここは」
要が目を覚まして最初に飛び込んできたものは、町の風景でも自分の部屋の屋根でもなく、鉄で出来た無機質な天井だった。
その天井を見て直ぐに此処が次元空間航行艦船<アースラ>の中だと気付く。
如何して自分が此処で眠っているのかなんて考えるまでもなく、リュウに負けて此処に搬送されたのだという結論に至る。
「よう、やっと起きたのか。随分と長く眠ってたな」
ノックもせず部屋に入ってきたリュウの第一声。余計なお世話だと言いそうに為ったが、時計を見ると確かに長く眠っていたようだ。
部屋に入ってきたリュウは会った当初と変わりない様子をしており、先程まで要と戦いを繰り広げていたとは思えないほど平然としていた。
「そう言うお前は平気そうだな。さっきまで戦ってた奴と同一人物なんて思えないぞ」
「自分で回復魔法を施したからな。それにどんな状況でも俺は俺だ。それだけは絶対に変わらねぇよ」
「さいですか」
イマイチ返答になっていない返事に要は思わず呆れてしまう。
宴会の時のリュウも、戦っている時のリュウも同じ自分だと言いたいのだろうが、それで納得するにはギャップがありすぎる。
その事についてもう少し言ってやりたくはあるが、激戦の後で疲れ果てている為、今の要にそんな気力はない。
「……さて、要も目を覚ましたことだし、俺はそろそろ行くかな」
「なんだ、もう帰るのか?」
「そうじゃなくて買い物だよ。お前のお陰でえらい時間を喰っちまったからな。さっさと釣竿を買って、アイツ等へのお土産を買わないと」
「そっか。……店に案内しなくても大丈夫なのか?」
「この船の連中をおどし……じゃなくて、協力してもらったから大丈夫だ」
「……いま、脅してって言おうとしてなかったか」
「気のせいだ。そんな細かい事を気にしてたら将来禿げるぞ」
「はげねぇよ!!」
必至になって反論する要の姿を見て、リュウは楽しげな笑みを見せる。
笑われた要は面白く無さそうな顔をするが、その顔をも直ぐに引っ込み疲れたような溜息を吐く。
そんな要を他所に、リュウは自分の足元に魔法陣を展開し、湧き上がる光に徐々に包まれていく。
恐らく転移魔法の一種なのだろうが、要には如何してもリュウに言って置かなければ為らない事があった。
「おい、リュウ! 次はゼッテェ負けねぇからな、覚悟しとけよ!!」
指を指して宣戦布告する要だが、そんなのは何処吹く風と言わんばかりにリュウは不敵な笑みを見せる。
「それだったら使うたびに崩壊する身体をなんとかしてみせろ。話はそれからだ」
不敵な笑みを見せながら一蹴すると、リュウは足元から湧き上がる光に完全に包み込まれてしまった。
その光は直ぐに跡形もなく消え去り、アースラの医務室には要だけが取り残される。
一人残された要は、何時に為るかも分からない再戦への期待を胸に、誰よりも強くなる事を決意した。
霊「ウチの作者の中ではORTを完全武装すると仮○ライダー系のキャラにらしいわよ。どうも、今回の後書き担当の霊夢よ」
す「同じく後書き担当のすずかです。……それにしても、どうして仮面ラ○ダー?」
霊「ORTの公式絵を見ながら身に纏った姿を考えた結果だとか。まぁ、アレのコンセプト的に劇場版のボスでしょうけどね」
す「確か〝どうしようもない絶望〟でしたっけ」
霊「そうらしいけど、今の要にそこまでの実力を期待するのは酷よね。ナイトに負けちゃってるし」
す「その辺りは書き手の匙加減だと思いますが、その言い方ですとナイトって其処まで強くないんですか?」
霊「弱くはないけど極端に強くもないって感じね。ナイトは攻撃力と素早さが上昇するけどその反面、防御力が変身前と大差ないのよ」
す「それじゃもしかして、今回の勝負は要さんが攻撃を当てる事が出来たら……」
霊「武装状態でなら要が勝ってたでしょうね。でも、変身が解けるだけだから本当の意味でリュウを倒せたってわけでもないのよ」
す「変身が解けるだけって特にペナルティがないんですね」
霊「まぁ暫くはその竜に変身できなくなるけど、他の竜に変身すればいいだけだから無いのと同じね」
す「他の竜も今回のナイトと同じ位強いんですか?」
霊「それはなんとも言えないけど、アンフィニだけは別格ね。アレと戦いたかったら神様を殺せるくらいの実力を身に着けないと」
す「……それ、何の冗談ですか?」
霊「冗談じゃなくて本当の事よ。ウチの本編で実際に二度ほど神殺しをやってるし」
す「なんか、強さの度合いが私の理解を遥かに超えている気がします……」
霊「アイツ等の強さを理解できたら人外の領域になると思うから、分からないままの方がいいわよ」
す「その口ぶりだと霊夢さんは分かっているみたいに聞こえますよ」
霊「実際にアンフィニと対峙した事あるし、普通の人間じゃアイツの傍に居られないわよ」
す「本当にさらっと言ってくれますね。……私も人間止めたほうが良いのかなぁ」
霊「何言ってるんだか。……それじゃ今回の後書きはここまで」
す「あれ? 今回は随分と短いですね」
霊「本編が長いって言うのと、前回のコラボの後書きが長すぎたって反省した結果らしいわよ」
す「そうなんですか」
霊「と言う訳で、今回はここでお開きよ」
す「此処まで読んでくださり有り難う御座いました」
霊「次は本編で会いましょう……って、次回も私の出番ないんだった」
す「え、えぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ!?」