竜が辿り着いた幻想郷・外伝   作:ベヘモス

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約一年ぶりに外伝を投稿。今回コラボはNCドラゴンさんの『ハイスクールD3~悪魔の実の能力者は転生する~』です。NCドラゴンさん、コラボありがとうございます。
そして今回も長くなりましたが、文字数でいうと約17500字です。……うん、そこまで多くは無いな。


外伝その4

「……何処だここ。森の中か?」

 

サファイアブルーの髪をした長身の少年『竜成ルフト』が目を覚ますと、見覚えの無い森の中だった。

何故こんな所に居るのか分からないまま辺りを見渡すが、周囲は暗く碌に森の中を見る事が出来ない。

ルフトが空を見上げてみると、木々の間から綺麗な星空を見る事が出来る。

星空が見えた事にルフトは慌ててズボンのポケットから携帯を取り出すと、時刻は既に夜中の九時を回っていた。

 

「もう夜なのか……。一体なんでこんな所に俺は居るんだ?」

 

ルフトはどうして自分が森の中に居るのか思い出す事は出来ないが、記憶がなくなる直前の出来事なら思い出す事ができる。

鍛練の帰り、何時もより若干遅い時間に帰路に着いていた彼は、友人たちと共に家に向かって歩いていた。それは何時もと何も変わらない日常の風景だが、異変は彼の足元に起こった。

友人たちと話しながら歩いていると、急に足元に在るはずの地面が消失し、空間の裂け目の様なものが出来た。ルフトはその裂け目の中に落ちてしまい、意識がなくなる直前に聞こえてきたのは友人達の叫び声だった。

 

「……きっと皆に心配を掛けてるよな。早いところ帰らないと」

 

残してきた者達に心配掛けまいと、ルフトは急ぎ元いた場所へ帰る事を決意するが、今彼が居るのは暗い森の中。

友人達に連絡が取れないかともう一度携帯に眼を向けるが、森の中に居るからか、携帯の電波は〝圏外〟と表示されている。

此処に居ては携帯は使えそうに無い。そう判断したルフトは溜息を吐きながら携帯をズボンのポケットに仕舞い込む。

連絡を着けられないこの状況で一体如何するべきか。遭難した場合はその場から動かず、救助が来るのを待つべきではあるが、自分でも何処にどうやって飛ばされたのかも分からないのに、誰かが助けに来てくれるとは余り思えなかった。

再度周囲を見渡してみても、自分が落ちてきた空間の裂け目の様なものは見当たらない。

このまま此処に居ても埒が明かないと判断したルフトは、自らの足でもと居た場所に変える方法を探す事を決める。

 

この暗い森の中、闇雲に歩き回っても体力を無駄に消耗するだけだと判断したルフトは、瞼を閉じ、見聞色の覇気と呼ばれる力を使って、周囲にいるモノの気配を感じ取り、周辺を把握する事にした。

最初ルフトは生い茂る木々を見て、今自分がいるのは広大な森の中だと思っていたが、見聞色の覇気を使って今いるのは山の中腹だという事を理解する。

人の手が殆ど入っていない山の中には多様な動物達が生息しているものの、人の気配は一切無い。

ルフトは見聞色の覇気の範囲を広げ、この山全域にいるモノの気配を感じ取ろうとしたとき、山の山頂に底知れない何かが居るのを感じ取った。

山頂に居る気配は全部で四つ。その内の一つは自分よりも弱いものの、残りの二つは自分と同じかそれ以上の力を持っているようだ。

感じ取った気配の内三つは女性のようだが、ルフトが底知れないと感じ取ったのはその女性達ではない。

山頂の四つの気配の中で唯一の男性。その男性の気配にルフトは困惑していた。

 

「……なんだこの男。実力が読み取れない?」

 

ルフトが使っている見聞色の覇気。それは相手の気配をより強く感じ取る力。

これを使えば視界に入らない相手の位置、その数、更には相手が次に何をしてくるのかさえも分かってしまう。

多くの戦いを潜り抜けてきたルフトは、見聞色の覇気で読み取った気配から相手の大まかな実力を理解する事ができるが、山頂に居る男の気配からは相手の実力を読み取る事は出来なかった。

相手の強さがどれ程のモノかなのかだけではなく、相手と自分の差はどれだけ有るのかすら分からない。

過去に例を見ない存在にルフトは首を傾げていると、いつの間にか自分の直ぐ傍に新しい気配を感じる。

ついさっきまで居なかった筈の気配にルフトは驚きつつも、瞬時に臨戦態勢を整え新たに現れた気配の方を振り向く。するとそこに居たのは、腰に届く位の金の髪に、黒を基調とした服を着ている14~5歳くらいの少女が立っていた。

 

「こんばんわ。……ねぇ貴方は食べてもいい人間?」

 

突然現れた少女にルフトは目を丸くして驚くが、ルフトが驚いているのは少女が自分の背後を取ったことではなく、少女のとんでもない発言だった。

ルフトもコレまでに多くの女性と面識を持って来たが、初対面でいきなり〝食べてもいい〟かなどと尋ねられたのはコレが初めての事だ。

ルフトの友人のエロスなら性的な意味で捉えたかもしれないが、少女は文字通りの意味で食べられるのかと聞いてきている。

 

「その服装、外の世界の住人でしょ? 幻想郷の住人じゃないなら食べても問題ないよね」

「幻想郷? それがこの土地の名前か。……でも、人食は趣味が悪すぎるぞ」

「趣味じゃない。私は人食い妖怪だもの、貴方達が牛や豚を食べるのと同じ感覚で私も人間を食べる。それで貴方は食べてもいい人間? それともリュウの知り合い?」

「竜?」

 

少女が言った〝リュウ〟と言う単語。その言葉にルフトは自分に宿っている力の事を想起するが、目の前の少女に自分の力の事を知っているはずはないと結論付ける。

 

「……いや、知らないな。誰かの名前か?」

「リュウを知らないなら、やっぱり外から来た人間。それなら食べても怒られない」

 

そう言って少女は嬉しそうに笑うが、その可愛らしい笑顔にルフトは寒気を感じてしまう。

彼女は本当に自分を食べようとしているのだと理解したルフトは、この場から逃げるために後ずさりを始める。

 

「ここで食べ散らかすとリュウが怖い顔をするから、場所を変えてから食べてあげる」

「……生憎と、俺は君のご飯になるつもりはない。剃ッ!」

「あ、逃げた」

 

命の危機を感じたルフトは、六式と呼ばれる超人的体技の一つ〝剃〟を使い、まるで消えたかのようにその場から瞬時に移動する。

目の前で獲物が忽然と姿を消した事に少女は驚きもせず、ルフトが逃げていった方角を見据えていた。

そして少女はルフトを追いかける訳でもなく、自身の目の前に闇を作り出してその中へと潜っていった。

一方ルフトは、剃を使って山の斜面を一気に駆け下り、山を離れてもなお走り続け、やがては何も無い草原へと辿り着く。

かなりの距離を一気に走りぬけたルフトだが、疲れた様子は全く見せておらず、息も切らしてはいない。

草原に辿り着いても周囲への警戒を止める事は無く、辺りを見渡しているが……草原にいるのは小さな虫達だけ。先ほどの少女の姿はなく、他に襲い掛かってきそうな存在も確認出来ない。

少女から逃げ切った事にルフトは小さな溜息を吐き、人の居そうな場所を探して歩き始める事にした。

先ほどの少女の話を信じるならば、この幻想郷と呼ばれる土地にも人はいると判断したからだ。

どのくらい歩けば辿り着くのか分からないが、まずは話の出来そうな人間を見つけることにした。

見聞色の覇気を使いながら歩いていればその内見つかるだろう。そう考えながら草原を歩いていると、突然何かがルフトの足に絡み付いて動けなくなる。

何事かとルフトは自身の足元を見てみると、そこには闇で出来た人間の様なものがルフトの足にしがみ付いていた。

 

「なッ!?」

 

予想だにしない出来事にルフトは目を丸くするが、闇で出来た人形は更に増え、ルフトの両腕、両脚、更には腰にまでしがみ付いて動きを封じてくる。

ルフトは纏わりつく人形達を振り解こうともがくが、拘束は思いのほかキツく、簡単には振り解けそうになかった。

それでも何とか振り解こうともがき続けていると、ルフトの目の前に闇が現れ、その中から先ほどの少女が姿を現した。

闇の中から現れた少女を見て、ルフトは一瞬ヤミヤミの実の事を思い出してしまうが、直ぐにその実は関係ないと思い直す。

同じ能力を持った悪魔の実は二つと存在しないし、動物(ゾオン)系でもモデルが同じ悪魔の実は二つも存在しない。

だから彼女とヤミヤミの実は関係ないと結論付けるルフトだが、今現在自分を拘束している闇の人形は彼女に関係していると言う事も理解する。

 

「剃に追いついてきた……って感じでも無さそうだけど、一体どうやって」

「べつになにも。ただ闇から闇へと移動しただけ。日中はここまで出来ないけど、今は夜だから。暗闇さえ有ればなんだって出来る」

「………………」

「また逃げられても困るし、まずはその喉から噛み切ろう。太くて硬そうだけど、きっと味は良いよね」

 

ご馳走を目の前にした子供の様に目を輝かせながら、少女はルフトに近付いていく。

人形の拘束を振り解こうと必死にもがくルフトだが、少女が手を向けると人形達の力は更に強まり、ルフトは身動き一つ取れなくなってしまう。

ルフトの直ぐ傍にまでやって来た少女は浮き上がって、まるで恋人に抱きつくかのように首に手を伸ばし、そのままルフトの首に噛み付こうとする。

身動き一つ取れなくなったルフトは喉を食い千切られる前に鉄塊を使い、自分の肉体を鉄の硬度にまで引き上げて守りに入る……が、少女の歯は鉄の硬さを物ともせずルフトの喉に食い込んだ。

ルフトは喉を噛み付かれて息苦しさと痛みを同時に味わうが、少女は突然目を丸くしてルフトから飛び退いた。

 

「う、うえぇ~……。ま、不味い……」

 

ルフトから飛び退いた少女の第一声。それは本当に不味そうな声だった。

眉間に皺を寄せて舌を出す少女の姿に、ルフトは助かったと思いながらもそこまで不味くはないだろうと思わず思ってしまう。

自分で自分の肉を食べることなんてまず無いから分からないが、そこまで不味そうな顔をされるのもなんだか複雑な心境にもなってしまう。

ルフトはそんなズレた考えを振り払うように力の限りもがくと、今度は簡単に人形達を振り解く事が出来た。

少女の力が弱まったからなのか、それとも単純に拘束する気が無くなったのかは分からないが、どちらにせよ厄介な拘束が解けたことに変わりは無い。

ルフトはこの間に少女から逃げてしまおうかとも考えていると、草原に何者かが近付いてきている事に気付く。

気配を感じ取った方角に目を向けると、そこには青空の様な青さの髪と目をした青年が月をバックに空に浮んでいた。

 

「そんなところで何してんだ、ルーミア」

「あ、リュウ」

 

ルーミアと呼ばれた少女は、空に浮んでいる青年の事をリュウと呼んだ。

リュウはルフトの方を見て訝しむ様な視線を向けるが、それも一瞬の事。直ぐに視線をルーミアの方に戻して、彼女の傍へと降り立っていく。

 

「なんだ食事の最中だったか。邪魔しちまったかな」

「うんん、別に。あの子に少し噛み付いたけど、色んな味が混ざっていて不味かったし。それでリュウは何で此処に?」

「霊夢の奴が急に誰かに見られてる気がするとか言い出してな。変なのが紛れ込んだのかと思って、念のために見回りしてたんだよ」

「そうなんだ」

 

ルーミアと親しげな様子で話すリュウだが、ルフトは彼への警戒を強めていた。

新たにやって来たリュウは、山でルフトが感じた底知れぬ気配の正体であったからだ。

見た目だけなら空色の髪の好青年と見えなくも無いが、人食い妖怪と親しげに話しているところや、見聞色の覇気で感じる気配からして、ルフトは得体の知れない彼に警戒し続けている。

 

「それでルーミアは如何するんだ? あの……なんだ、デカ物? いや、身長がデカイだけだからノッポで良いか。あのノッポを食べるのか?」

「あんなの要らない。硬いだけならまだ食べられるけど、あんなに不味い人間食べたくない。リュウにあげる」

「いや、あげるって言われても俺に人食の趣味は無いんだが……」

「私は要らないからリュウの好きにしたらいいよ。それじゃ私は他の獲物を探してくるから、またね」

「おう、きぃつけてな」

 

リュウがそう言うと、ルーミアは足元に広がる影……いや、闇の中に沈んでいき、姿を消す。

見聞色の覇気を使っても彼女の気配を感じる事はできず、ルフトは彼女は完全にこの場から姿を消したのだと判断した。

こうして草原にはルフトとリュウだけとなったが、リュウはルフトの方を振り向いて面倒臭そうに溜息を吐いた。

 

「はぁ~……で、お前さんは何時まで警戒をしてるつもりだ」

「……気付いていたのか」

「そんだけ露骨に警戒してれば気付くっての。馬鹿にしてんのかテメェ」

「いや、そう言うつもりは無いんだが……」

「まぁなんでもいいや。それでお前は外来人みたいだが、何処の出身だ」

「駒王町だ。それがどうかしたのか」

「くおうちょう? 知らない名だな。言葉の響きからして日本の町なのは分かるが……。もしかして並行世界の住人か。だとすると一番面倒臭いな」

「面倒臭いって何が」

「お前を元の世界に送り返すのがだよ。ただの幻想入りなら直ぐにでも帰してやれるってのに」

 

心底面倒臭そうに溜息を吐くリュウとは対照的に、ルフトは彼の言葉に驚きながらも歓喜していた。

今何処に居るのかも分からない世界に飛ばされ、帰る方法も分からず困っていた所にリュウがやって来て、元の世界に帰る方法を知っていると言うのだ。喜ばない方がどうかしている。

 

「……どうやったら帰れる。俺は皆の前で空間の裂け目に落ちたんだ。早く帰って安心させてやりたい」

「まぁ落ち着けノッポ。待たせている奴がいるから早く帰りたいって気持ちは分かるが、今は無理だ」

「無理だと?」

「あぁ。お前が只の外来人なら今すぐにでも送り返せるが、並行世界から来たとなるとそうはいかない。八雲の奴に道を作ってもらうしかないが、俺はアイツと仲が悪いんでな。人伝で頼みに行くしかない」

「それならその人に今から頼みに行けば―――」

「今何時だと思ってるんだ。んな事出来るか。龍神の事だから今頃酒盛りでもしてるだろうし、頼みに行くとしても明日の朝になる……が、アイツは俺と違って何かと忙しいからな。行っても直ぐに頼みを聞いてくれるとは思えん。アイツ等だって見ず知らずの他人の為に動きたくないだろうし、長くても一週間くらいは見てもらわないと」

「一週間もか……」

 

話を聞いたルフトの感想としては、一週間は長すぎるというものだった。

一週間もの間、一切連絡が取れずに心配を掛けてしまうのは心苦しいが、それでも帰る目処がついたのは素直に嬉しい事だ。

本音を言えば直ぐにでも帰してほしいが、一週間くらい我慢すれば帰れるのならここは大人しく我慢しよう。ルフトは自分自身にそう言い聞かせるが、リュウが次に言った一言がルフトの我慢を超えてしまった。

 

「ま、並行世界と言っても多少の時差は有るからな。この世界で一週間でも、帰ったら数ヶ月経っていたなんて事もありえるから、覚悟だけはしておいてくれ」

「……ちょっと待ってくれ。今なんて言った」

「多少の時差があるってところか?」

「そうだ! ここで一週間過ごしたら向こうじゃ数ヶ月経っていたなんて、そんな事ありえるのか!?」

「信じられないかもしれないが、過去にそう言う事例があったんだよ。数ヶ月ぶりに友人に会ったと思ったら、向こうじゃ数年ぶりだって言われたんだぞ。お前の世界でも同じ事が起こるかもしれないだろ」

「それは……確かにそうかもしれないけど」

「まぁ絶対に数ヶ月経つとは言い切れないし、もしかしたら此処で一週間過ごしても向こうじゃ一日も経っていない可能性だってある。そこまで深く考え込む必要はねぇよ」

「………………」

「とりあえず、そこのあぜ道を真っ直ぐ進んだ所に人里がある。その里に命蓮寺って寺があるからそこに泊めてもらえ。あそこの僧侶は完全平等主義者だから、お前みたいなヘンテコな奴でも受け入れてくれる筈だ。あとはそこで気長に待ってろ」

 

それだけ言うとリュウはルフトに背を向け、人里とは反対の方へと歩き始める。

人里とは反対の方角に彼の家が有るのだろうが、ルフトはこのままリュウを行かせる事は出来なかった。

剃を使い、一瞬でリュウを追い越したルフトはリュウの道を阻むように立ちはだかる。

 

「……何のつもりだノッポ」

「ノッポじゃない、俺の名前は竜成ルフトだ。それにこのままアンタを行かせる訳にはいかない」

「行かせる訳にはいかないって、お前は俺にどうして欲しいんだよ」

「俺を今すぐ元の世界に帰らせてくれ」

「だからそれは出来ないって言ってるだろ。聞き分けのねぇガキだな。一週間くらい大人しく待てねぇのか」

「此処で一週間も過ごしたら向こうじゃ何日経ってるか分からないんだろ。そんなの待てるか!」

「……それじゃ如何するつもりだ」

「アンタを力尽くで従わせる。そして元の世界に帰る!」

「俺を力尽くで従わせる? テメェごときに出来るのか?」

「やってみなくちゃ分からないだろ! 獣厳(ジュゴン)ッ!」

 

ルフトは拳を弾丸の様な速度でリュウへと向けて繰り出す。

間合いも十分に詰められ、常人ならば避ける事もできない様な拳をリュウは難なく掴み、拳を繰り出した勢いを殺す事無く、ルフトを後ろへと投げ飛ばした。

ルフトは拳を掴まれただけではなく、後ろへと投げ飛ばされた事に驚愕しながらも、直ぐに体勢を立て直し難なく地面に着地する。

そして直ぐに追撃に備えようとしたが、リュウはルフトに攻撃をする素振りも見せず、再び家へと向かって歩き出していた。

リュウはルフトの事を脅威だと、敵だと認識してはおらず、煩わしい子供を適当にあしらった程度にしか考えていなかった。

その事に気付いたルフトは奥歯を噛み締めながらリュウを睨みつけ、消えた様に見えるほどの爆発的な脚力を持って空へと跳び上がる。

空を蹴るという荒業を使って浮き上がり、上空でリュウに狙いを定めたルフトは空を蹴ってリュウに飛び掛る。

 

「鉄塊〝砕〟!」

 

飛び掛った勢いのままルフトは自身の肉体を鉄の硬度にまで高め、そのままリュウに向かって蹴りを繰り出す。

巨大な鉄の塊が空から急降下し、激突したモノを粉砕するかのような勢いで繰り出された技だが、リュウはこの技も躱し、ルフトの足を掴んでそのままルフトを地面に叩き付けた。

地面に叩き付けたときの衝撃で、足元の地面は砕けてしまい、リュウは眉を顰める。

ルフトは肉体を鉄の硬度にまで高めたお陰でダメージは殆どないが、またしても攻撃を避けられてしまった事に内心動揺してしまう。

相手も覇気を使えるのだろうか、ルフトは思わずそんな事を考えてしまう。

そんなルフトの考えなど知りもせず、リュウはルフトの足を掴んだままぶん回し、力任せにルフトの事を放り投げた。

力任せに放り投げられたルフトは体勢を立て直す事ができず、地面に2~3回バウンドしたあと勢いのままに転がり漸く止まる。

ルフトは追撃がこないように後ろに跳ぶ様にして立ち上がるが、やはりリュウからの追撃は無く、当の本人はただ面倒臭そうにルフトの事を見ていた。

 

「なぁまだ続けるのか? 俺は家族に早く帰るって言ってあるから、あんまり時間を掛けたくないんだよ」

「それなら俺を八雲とか言う人の所に連れて行ってくれ。そうすれば俺も攻撃はしない」

「だから俺はアイツと仲が悪いって言ってるだろ。アイツの家に言って説得するほうが時間が掛かるんだよ、その位察しろ」

「察せられないからこうしてアンタを従わせようとしてるんだろ! 嵐脚〝線〟!」

 

ルフトはその爆発的な脚力を使って蹴りを繰り出し、線の様に真っ直ぐ飛ぶカマイタチをリュウに向けて繰り出した。

リュウはそのカマイタチを受ける事無く横に逸れて躱すが、ルフトは続けざまに次の技を繰り出そうとしている。

 

「嵐脚〝凱鳥〟!」

 

続けざまにルフトが繰り出した技は、先ほどの〝線〟と違い、名の通り鳥の様な形をしたカマイタチがリュウへと襲い掛かる。

超低空を飛んでいく鳥はリュウの両脚を切り落とそうと迫るが、リュウは空に飛び上がる事でそれを難なく回避してみせた。

〝線〟に続き〝凱鳥〟も避けられてしまったが、ルフトは特に落胆もしていなかった。

寧ろ此処までは狙い通り。ルフトは最初からあの二つの技がリュウに当たるとは思っていなかった。

 

「嵐脚〝龍線〟!」

 

ルフトが三つ目に繰り出したカマイタチ。それは〝線〟の様に真っ直ぐ飛びながらも龍の形をしていた。

龍の形をしたカマイタチは、真っ直ぐ空にいるリュウへと向かって飛んでいくが、リュウは〝龍線〟も難なく回避してみせた。

この程度ならさっきの技と何も変わらない。そう不思議に思っていたリュウだが、その疑問は直ぐに解消させることに為る。

先ほど躱したはずの〝龍線〟だが、消える事無く飛び続けて向きを変えて再びリュウへと襲い掛かる。

その事に気付いたリュウは再び〝龍線〟を避けるが、またしても龍は向きを変えて襲い掛かってくる。

ルフトが繰り出した〝龍線〟は他の嵐脚と違い追尾が出来る。だから少し避けた程度ではこの技を完全にやり過ごす事はできない。

空中でリュウが〝龍線〟に追い掛け回されている所に、ルフトは更に〝龍線〟を繰り出す。

龍の形をしたカマイタチがもう一つ増え、二頭の龍は左右から挟撃しようとリュウに襲い掛かる。

繰り出したタイミング的にどちらか片方は避けれても、もう一つの方は確実に喰らう。そう確信したルフトだが―――

 

「……ったく、しゃーねぇな」

 

―――リュウが何処からとも無く取り出した剣に、ルフトの思惑は呆気なく崩れてしまう。

リュウは取り出した剣を握り締めると、迫り来る二頭の龍を一瞬の内に両断してみせる。

切り裂かれた二頭の龍は勢いをなくして消滅し、ただの風がリュウの頬を撫でた。

リュウは取り出した剣を肩で担ぎながら溜息を吐く中、ルフトは戦闘中にも拘らず呆然としている。

繰り出した〝龍線〟がいとも簡単に破られて多少のショックもあるが、それ以上にルフトはリュウが取り出した剣から目が離せなかった。

リュウが取り出したのは片刃の大剣。大した飾りも無く、刀身に雲が纏わり付いている不思議な剣。

聖剣の様な輝きも無く、魔剣の様な禍々しさもない。なのにルフトはその剣の刃の美しさに見惚れてしまっていた。

人の手で創られたとは思えない刃にルフトが見惚れている間に、リュウは地上へと降り立ってしまう。

それに気付いたルフトは戦闘中に呆然としていた自分を恥ながらも、頭を切り替えて構えを取る。

臨戦態勢をとるルフトを見てリュウは心の底から面倒臭そうな顔をした。

 

「お前なぁ……まぁ~だやるつもりなのかよ」

「当たり前だ。この程度で諦められるものか」

「そうかよ。……俺としてはお前の都合なんて如何でもいいし、叢雲を抜くつもりも無かったんだが……仕方が無い。叩きのめしてやるか」

「…ッ!?」

 

このとき初めてリュウは戦闘する意志を示したが、ルフトは反射的に後ろに下がってしまった。

ルフトは、自分でもどうして後ろに下がったのか理解出来ないでいるが、多くの死線を潜り抜けてきた彼の勘がリュウの間合いに入るなと警戒している。

 

「面倒だからとっとと気絶させて他所に預ける。……でも、あんまり気ぃ抜くなよ? コイツの切れ味は普通じゃねぇから、腕の一本くらい軽く吹き飛ぶぞ」

「安心しろ、もうあんな醜態を晒すつもりはない! 指銃〝撥〟!」

 

ルフトはその場で指を突き出す。普通なら何も起こる事は無いが、余りにも早く指を突き出したため、指で突き出された空気が弾となってリュウに放たれる。

空気で出来た不可視の弾丸。本来なら肉眼で捉えられる筈はないのだが、リュウは剣を振り払い空気の弾丸を弾き飛ばす。

 

「〝撥〟を弾き飛ばすか。……だったらこれなら如何だ! 指銃〝斑撥(まだらばち)〟!」

 

ルフトは腕が増えたと錯覚してしまうほどの速さで指を何度も突き出し、リュウ目掛けて多数の空気の弾を飛ばした。

空気の弾は一つではなく多数になってリュウに襲い掛かるが、リュウは避ける素振りも防ぐ素振りも見せずにただ剣を構え、ルフトが剣の間合いの外にいるにも拘らず剣を振るった。

 

「……嵐脚〝龍線〟」

 

剣を振るって繰り出したもの、それは先ほどルフトが使った龍線だった。

ルフトは思い掛けない攻撃に驚愕するが、リュウが剣より繰り出した龍線は撃ち出された空気の弾など物ともせず、ルフトへと向かって飛んでいく。

龍線の事を熟知しているルフトは即座に斑撥を止め、相手の攻撃を迎撃すべく嵐脚を繰り出すが、リュウが放った龍線を斬り裂く事は出来なかった。

 

「くそッ」

 

ルフトは月歩を使い上空へと跳んで退避するものの、放たれた龍線はルフトを追いかけ空へと昇る。

自分の事を追いかけて空へと駆け上る龍を前に、ルフトは己が力を使い人ならざる者へと変貌する。

全身は蒼い鱗に覆われ、両手の爪は鋭く伸び、歯には獣の如き牙が生える。

背中からは一対の翼が現れ、臀部からは蒼い鱗に覆われた尻尾が伸びる。

 

「これなら如何だ!」

 

まるでドラゴンの姿をした人間へと変貌したルフトは、迫り来る龍線に向かって嵐脚を繰り出す。

人の姿をしているときは切り裂く事はできなかったが、変異したことにより嵐脚の威力も上がり、リュウが繰り出した龍線を容易く切り裂いてみせた。

切り裂かれた龍線はそのまま消滅するが、龍線に気を取られすぎたせいでルフトはリュウの姿を見失ってしまう。

見聞色の覇気を使い、リュウの気配を感じ取ったときには既に剣の間合いの中に入ってしまっていた。

リュウはルフトの背後を取り、即座に剣を振り下ろすが、ルフトは剃を使ってその場から離脱する。

再び間合いが離れた事で仕切りなおしと為るが、リュウは変異したルフトの姿に眉を顰めていた。

 

「……随分と変わった奴だとは思っていたが、なんだその姿? 蜥蜴人間か?」

「蜥蜴じゃない。俺はヘビヘビの実《モデル:ドラゴン》を食べたドラゴン人間だ。……いや、今は悪魔だからドラゴン悪魔か?」

「……ヘビヘビの実なんて聞いた事は無いが、何らかの方法で後天的に妖怪化した元人間ところか。道理でおかしな気配がした訳だ。人間なのか妖怪なのか竜なのか良く分からん感じがしたからな」

「気配が分かるって事はアンタ覇気が使えるのか」

「覇気? なんだそりゃ?」

「知らないのか。……世の中には引き出そうとしても引き出すことの出来ない奴もいるってのに、天然で習得してるって訳か。一体どんな生活をしてたらそうなるんだ」

「小僧、世の中には知らないほうが幸せなこともあるって覚えておきな」

「小僧呼ばわりされるほど歳は離れていないと思うんだが」

「そう思っているのはテメェだけだ」

 

リュウが煽る様にそう言うと会話はそこでピタリと止まり、次の瞬間二人は同時に駆け出し、拳と剣を同時に繰り出す。

全身を鉄よりも硬いドラゴンの鱗でなら、相手の剣を受け止められるとルフトは踏んでいたが、リュウの剣はルフトの拳に容易く食い込む。

ドラゴンの鱗を容易く斬り裂く剣に驚きながらも、ルフトはリュウの剣を鷲掴みにする。

 

「鉄塊〝(あく)〟!」

 

ルフトは心の中で勿体無いと思いながらも、鉄塊で硬化した腕でリュウの剣を握り潰そうとする。

他の武器ならば簡単に握り潰す事ができるのだが、リュウの剣は幾ら力を込めて握り潰す事が出来なかった。

途方も無いその硬さにルフトは驚愕しながらも、ルフトは即座に頭を切り替え、空いている手の五本の指を一つにくっ付けた様な構えを取る。

 

「五指銃結束〝手砲(ハンズキャノン)〟!」

 

ルフトは一つに纏めた指を弾丸の様な速度でリュウの腹部へと繰り出す。

まともに受ければ腹に風穴が開いてしまうような攻撃だが、リュウはその攻撃を寸前の所で避けてみせる。だが、完全に避けきる事は出来ず、ルフトの指が脇腹を掠める。

掠めただけでリュウの脇腹は裂け、腹から血が噴出すが……腹から血を流してもリュウは顔色一つ変える事は無かった。

ルフトに剣を鷲掴みにされてたまま、リュウは強引に剣を振り抜き、その勢いのまま一回転してルフトの胴を両断しようと剣を振るう。

しかし、リュウが剣を振り切るよりも早くルフトはその場から離脱し、リュウの剣を難なく回避してみせる。

リュウは攻撃が避けられた事に落胆する事も無く、続けざまに剣を振るい龍の形をしたカマイタチをルフトへと向けて飛ばした。

再度ルフトに向けて放たれた龍線だが、ルフトは避ける素振りも見せず、目の前にまで迫ってきた龍を腕の一振りで切り払った。

俺の技で俺を倒す事はできない。ルフトはリュウにそう言ってやろうとしたが、目の前に残っていた龍の残滓が消滅した直後に今度は八頭の龍が同時に迫ってきていた。

 

「なッ!?」

 

突然現れた八頭の龍にルフトは驚愕しながらも、直ぐに冷静さを取り戻して八頭の龍の処理に入る。

龍線を八本同時に繰り出したのなら、逃げ回っても意味は無い。あの剣の切れ味から考えて鉄塊で受け止めるのも不可能。そう判断したルフトは、迫り来る龍を一つ一つ切り裂いて行く事にした。

まるで本物の龍が迫ってきているんじゃないかと錯覚してしまう程の圧力を前に、ルフトは臆する事無く前に飛び出し、一番近くに居た龍を腕で切り捨てる。

ルフトが前に飛び出した事で残りの七体はルフトの横を通り過ぎる事になるが、即座に反転して背後からルフトへと襲い掛かる。

それに対しルフトは振り向き様に嵐脚を繰り出し、射線上にいた二体の龍を両断した。

難を逃れた五体の龍はルフトへと飛び掛るが、月歩を使って上空へと移動し龍達の上を取る。

そしてそのまま下に居る嵐脚を飛ばし、残りの五体を纏めて一掃してみせた。

これで落ち着いて戦える。そう思った矢先、ルフトは背後に殺気を感じて慌てて後ろを振り返った。

しかし、背後には誰の姿もなく気のせいかと思ったが、突如としてルフトの頭上に影が落ちる。

上を見上げてみるとそこには剣を構えたリュウの姿があり、リュウは縦に一回転して勢いを付けながらルフトに向けて剣を振り下ろした。

タイミング的に避ける事ができなかったルフトは、鉄塊を使いながら腕を交差させて武装色と呼ばれる覇気を纏う。

なんとか防御の体勢を整えたルフトだが、リュウが繰り出した剣を受け止めきる事が出来ず、勢いに押されて地面へと急降下していった。

体勢を立て直す事もできずそのままルフトは地面に激突し、何も無かった草原に小さなクレーターが出来た。

 

「くっそ、なんて重い一撃だ」

 

ぼやきながらルフトがクレーターの中から這い上がると、上空にいたリュウも地上へと降りて来た。

リュウは脇腹から血を流し、ルフトも両腕に切り傷が出来ている。

傷の大きさで言えばリュウの方が明らかに大きい筈なのに、ルフトの表情には焦りの色が浮んでいた。

両腕の傷は大した事無いとは言え、攻撃の殆どがリュウに通用していないと言う状況がルフトを焦らせている。

繰り出した攻撃の殆どを防がれ、唯一当たった攻撃も直撃したものではなく、掠って偶然できたもの。

生半可な攻撃ではリュウを力尽くで従わせる事ができないと判断したルフトは、最後の賭けに出る事にする。

両腕から伝わる痛みを無視しながら、ルフトは握り拳を作る。

生半可な攻撃では通用しないのなら、生半可ではない攻撃を繰り出せばいい。

六式の全てを極限にまで高めたものが繰り出せる体技『六王銃』。普通の者ならば絶命してしまいかねない技だが、彼が相手なら致命傷で済むだろう。ルフトはそう判断した。

ルフトにはそれ以上の技もあるのだが、それ等を繰り出してしまっては相手を殺してしまう。

これが決めなければもう打つ手が無い。ルフトの中でそんな思い込み上げて来る。

次で決めてみせると気炎を漲らせるルフトとは対照的に、リュウはルフトから視線を逸らし空を見上げていた。

戦いの最中に視線を逸らすなんて舐められたものだと、ルフトは怒りを募らせるが、リュウの視線の先にはこちらへと向かって飛んで来る黒髪の女性の姿が在った。

 

「霊夢が探しに着ちまったか。……どうやら時間切れみたいだな」

「なんだ、逃げるのか」

「そんな訳ないだろ。ただお前に付き合うのはもうお終いだって言ってるんだ。次の一撃でケリを着けさせてもらう」

「望む所だ。俺もこの一撃でアンタに勝つ!」

「……悪いがそれは無理だ。お前に〝次〟なんて無い」

 

それはどう言う事だ。ルフトは反射にそう口にしようとしたが、ルフトが言葉を発するよりも早く、リュウは一瞬の内に無数の龍を繰り出してきた。

それを見てルフトはまたさっきと同じ攻撃をしてくるのだろうかと考えたが、今放たれた龍たちは直接ルフトに襲い掛かる事は無く、彼を中心に円を描く。

龍たちの奇妙な行動にルフトは困惑しながらも、決着を着ける為にリュウの元へ月歩で向かおうとする。

ルフトが地面を蹴って飛び上がった瞬間、円を描いていた龍たちも一斉に急上昇を始め、風を巻き起こしながら空へと昇っていく。

円の中心にいたルフトは龍たちが巻き起こした風に飲み込まれ、為す術も無く空へと巻き上げられる。

体勢を立て直す事もできず、空へと巻き上げられたルフトは自分を追い越すリュウの姿を目にした。

 

「お前、それなりに硬いみたいだからな。ちぃとばかし本気で行くぞ」

 

月を背にリュウがそう呟くと、まるで彼の思いに答えるかのように剣に纏わり付いていた雲を払って、刀身が光り輝き始める。

光り輝く大剣を握り締めるリュウの姿に、ルフトは純白の鱗を持つ強大な竜の姿を見た。

強大な竜の姿に驚愕するルフトを他所に、リュウは巻き起こった風の中を突っ切り、まるで先陣を切るかのようにルフトの身体を斬り捨てた。

先陣を切ったリュウに続けといわんばかりに、風を巻き起こしていた龍たちも上空から次々と襲い掛かる。

無数の龍たちに全身を切り刻まれたルフトは変異が解け、そのまま力なく地面へと落下していった。

渦状の太刀傷が出来た地面に倒れ伏したルフトは起き上がる事が出来ず、その場で気を失ってしまう。

相手が立ち上がって事無い事を確認したリュウは、剣をしまった後、両腕を伸ばして大きく背筋を伸ばす。

 

「くぁ~……やっと寝たか。ったく、手間取らせやがって」

 

疲れたような、呆れた様な感じでリュウがそう呟くと、黒髪の女性がリュウの傍へと降りてくる。

黒髪の女性は脇腹から血を流すリュウを見て目を丸くした後、呆れた様子で「また随分と無茶をしたわね」と溜息を零した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………

……

 

戦いの後、気を失っていたルフトが目を覚ますとそこは見知らぬ家の一室だった。

現代日本では余り見かける事のなくなった純日本家屋。金属を一切使わずに建てられた古めかしくも、何故か新築の様な新しさを感じさせる部屋。

どうして自分は此処で寝ているのか分からないまま、ルフトは起き上がろうとするが、少し身体を動かしただけで鋭い痛みが全身に走る。

その痛みに驚き、ルフトは体勢を崩して倒れてしまう。

布団を捲って自身の身体を見てみると、全身に包帯が巻かれていて無理は出来なさそうな感じだった。

傷だらけの身体を見て、ルフトは漸く自分がリュウに負けたのだと言う事を思い出した。

 

「……そっか、俺負けたのか」

 

自分に言い聞かせるように小さな声で呟くと、ルフトの胸に悔しさと同時に幾つモノ疑問が湧き上がって来る。

あの戦いから一体どれだけ時間が経ったのだろうか。どうして自分は此処で寝ているのか。あの白い竜はなんだったのか。皆は大丈夫なんだろうかなど、さまざまなモノが浮かび上がり、答えが出ないまま募っていく。

一刻も早く皆の所に戻らなければ。そう思いルフトは痛む身体を押して布団から起き上がろうとする。

全身から伝わる激痛を堪えながら布団から上体を起こすと、何の前触れもなく障子が開いて、綺麗な銀の髪を三つ編みにして、赤と青の二色に分かれた服を着た女性が部屋に入ってきた。

 

「物音がするから何かと思えば眼が覚めたのね。具合は如何かしら?」

「……貴女は?」

「私は八意永琳。竹林に住むただの薬剤師よ。そう言う貴方は自分の名前を言えるのかしら」

「それくらいちゃんと言える。俺の名前は竜成ルフトだ」

「竜成ルフト…ね。良かった、ちゃんと名前が有るのね。リュウは貴方の事をノッポとしか呼ばないから、カルテをどう書くか悩んでいたのよ」

 

永琳と名乗った薬剤師の言葉にルフトは驚き目を丸くする。

自分を此処に運んでくれたのが意外な事にリュウだと言う事もそうだが、相手がちゃんと自分の名前を覚えていない事に愕然とする。

 

「……アイツ、俺の名前をちゃんと覚えてないのか」

「彼が他人の名前を覚えないのは別に珍しくないわよ。私たちも彼と付き合いだしてそれなりになるけど、未だに私の弟子の名前をまともに呼ぼうともしないし」

「酷い話だな。幾らなんでも失礼にも程があるだろ」

「そんなの今更よ。一々気にしていても仕方が無いわ。……そんな事よりも診察をするから、少しジッとして為さい」

 

そう言って永琳はルフトの隣りに腰を下ろし、有無言わさずに診察を始める。

突然診察が始まってルフトも驚きはするが、永琳の無言の圧力に屈して大人しくする事にした。

元々ルフトの容態を身に来るつもりだったのか、診察は驚くほどスムーズに進み、全身に巻かれていた包帯の取替えまで完了する。

 

「……はい、これで処置は完了よ。まだ身体が痛むでしょうから後で薬を出すわ」

「ありがとうございます。……八意さんは薬剤師なのに随分と手馴れているんですね」

「この世界では薬剤師と医者は同じなのよ。……うどんげー! ちょっと来なさい!」

「はーい!」

「……うどんげ?」

 

永琳が廊下に向かって大声を出すと、兎の耳をつけた女学生のような服装をした紫髪の少女がやって来る。

 

「はい、なんですか師匠」

「うどんげ、今から第二薬品倉庫にあるイの五の薬を……そうね、十錠ほど持って来て頂戴」

「分かりました。第二薬品倉庫のイの五ですね、少し待ってて下さい」

「お願いね」

 

紫髪の少女は、永琳の言葉に頷いて返事をすると直ぐに部屋を出て薬を取りにいった。

その後姿を眺めながらルフトは「随分と変わった格好の子だな」と少しズレた事を考えていた。

少女に薬を取りに行って貰っているあいだ時間が出来たルフトは、幾つかの疑問を永琳にぶつけてみる事にした。

 

「……あの、八意さん」

「なにかしら」

「アイツ……リュウって何者なんですか?」

「……どうしてそんな事を聞くのかしら」

「アイツの強さは普通じゃない。俺と戦っているときも全然本気を出そうともしていなかった。人間であの強さを持っているのは少し信じられません。だから教えてください、アイツは何なんですか?」

「………………」

 

永琳は口を閉ざして語ろうとはしないが、ルフトも彼女に視線を向けたまま引き下がろうとしない。

ルフトは彼女が口を開いてくれるのをジッと待っていると、永琳は呆れた様子で小さな溜息を吐いた。

 

「……はぁ。周りから頑固だって言われた事無い? まぁ隠すような事でも無いから別にいいけど」

「それじゃあ……」

「えぇ教えてあげるわ。……と言っても、既に答え出ているのだけどね」

「答えがですか? でも、アイツと戦っていてもヒントになるような物は何も―――」

「戦い方云々ではないわ。彼の名前その物が答えなのよ」

「名前その物が? …………まさか」

「えぇ。彼は幻想の郷に根を下ろし、麓の神社に住み着いた最強の竜神。それが貴方が戦った相手の正体よ」

 

永琳から聞かされたリュウの正体にルフトは言葉を失ってしまう。

ルフトは竜の王と称される存在に会った事はあるし、彼自身もドラゴンに変身できる事から、ルフトにとって竜と言うのは割と身近な存在だ。しかし、竜の神と称されるほどの存在に会った事はなかった。

見た目はただの青年にしか見えないような存在が、まさか竜神だったなどとルフトは想像すらしていなかったのだ。

 

「彼は自分の事を只の竜だと言い張っているけど、只の竜で済ませるには彼の力は絶大すぎる。その所為か周りからは『幻想の守護竜』だとか『白の破壊者』だとか『神殺し』とか色々と物騒な名で呼ばれてるわ」

「ちょっと待って下さい。竜神が神殺しなんて呼ばれるのはおかしくありませんか?」

「確かに普通の神なら変かもしれないわね。でも、彼は良いのよ。元々その為に生まれた存在らしいし、過去に何度か神を滅ぼしているわ」

「何度か神を……。アイツ、そんなに強かったのか」

「名実共にこの幻想郷で最強の存在よ。下手に喧嘩を売らないことね、次はその程度じゃすまないわよ」

「……分かりました。それじゃもう一ついいですか」

「今度はなにかしら」

「どうして此処で寝ていたんですか? リュウが連れて来たってさっき言ってましたけど」

「理由は二つ。あのまま草原に放置して死なれても目覚めが悪くなるからと、此処に連れ込めば傷の手当と一緒に監視してもらえるからですって。……要するに面倒だから私達に貴方を押し付けたのよ。こっちとしても迷惑な話だけど、入院治療費はしっかり請求させてもらったわ」

 

自分が此処に運ばれた実も蓋もない理由を聞いて、ルフトはどんな反応をすれば良いのか分からず苦い顔をする。

相手をするのも面倒だと思われた事を嘆けばいいのか、永琳たちに迷惑を掛けてしまった事を詫びれば良いのか、ルフト自身も分からずに居た。

二人の間に何とも言えない微妙な空気が立ち込めていると、その空気を振り払うかのように薬を取りに行った紫髪の少女が部屋に戻ってきた。

 

「ししょー、言われたお薬を持ってきましたよー」

「良いタイミングよ、うどんげ。貴女にしては気が利くじゃない」

「……その言われ方だと普段のワタシは気が利かないみたいじゃないですか」

「そんな細かい事は気にしないの。さぁ早く寄越しなさい」

「は~い……」

 

少女から袋を受け取った永琳は、中身が合っているかどうかを確認したあと、薬の入った袋をルフトに手渡す。

 

「その薬を朝と晩に一錠ずつ飲みなさい。そうすれば五日で全快するわ」

「ありがとうございます。……あとは元の世界への道が出来るのを待つだけか」

「それならもう開いているわよ」

「えっ!?」

「言い忘れていたけど、貴方が此処に運ばれてから既に三日が経っているわ。その間にリュウが道を開くように手回ししてたみたいね」

「そう…だったんですか」

「今すぐ帰ると言うなら止めはしないわ。後はその薬をちゃんと飲んでいれば治るし、私たちとしてもあんな薄気味の悪いものを何時までも開いたままにしておきたくないのよ」

「……薄気味の悪いもの?」

「えぇ。隣の部屋に有るから、どんなものかは貴方自身の目で確かめればいいわ。…それじゃ退院おめでとう」

 

それだけ言うと永琳は席を立ち上がり、そのまま部屋を出て行ってしまう。

残された紫髪の少女は如何したら良いのか分からず、視線を右往左往させたあと、ルフトに可愛らしい笑顔を向けて脱兎の如き勢いで部屋から出て行った。

その光景にルフトは少し呆然としてしまったが、直ぐに頭を切り替えて袋の中から黒い丸薬を一つ取り出して飲み込む。

すると、全身に走っていた身体の痛みが多少治まり、立ち上がれるくらいには回復した。

まだ走り回れるほどに回復はしていないが、多少なら歩く位の事は出来るだろう。

自身の身体の調子からそう判断したルフトは、永琳が言っていた隣の襖を開けてみる事にした。

隣の部屋と仕切る襖を開け放つと、ルフトの目の前に無数の目玉が浮ぶ紫色の空間が飛び込んできた。

まるで空間と空間の間に隙間が出来てしまったかのような不気味な空間に、流石のルフトも二の足を踏んでしまう。

それでも皆が待つ世界へ帰らなければならない。ルフトはそう決心を固め、誰も居なくなった部屋に一礼をした後、紫の空間の中へと入って仲間達が待つ世界へと帰っていった。




竜「数ヶ月ぶりに書かれたぜ。どうも久し振り、『竜が辿り着いた幻想郷』の主人公のリュウだ」

ル「どうも、『ハイスクールD3~悪魔の実の能力者は転生する~』の主人公の竜成ルフトです」

竜「あ、やっぱりお前が着たのかノッポ」

ル「だからノッポって言うな。ちゃんと名前で呼べ」

竜「だってお前身長たかいだろ。何mあるんだよ」

ル「えっと確か……237cmだ」

竜「高すぎだろソレ。……まぁウチの作者はワンピース世界から来たって事で気にしていないそうだが」

ル「あの世界の住人は背の高い奴が多いからな。……そういえば、今回の話ハイスクールD×Dのネタが無かったんだけどなんでだ?」

竜「あぁそれは単純にウチの作者がハイスクールD×Dを知らないからだ」

ル「……すまん、今なんていった」

竜「だからウチの作者がハイスクールD×Dを知らないって言ったんだ。アイツは原作はどころかアニメも見てないし、漫画版を少し読んだ程度だ。これでハイスクールD×Dのネタを出せって方が無理だろ」

ル「それじゃ舞台が駒王町だった場合、如何するつもりだったんだよ」

竜「そん時はそん時で如何にかするさ。アイツ神話ネタの引き出しを持ってるから、使えそうな悪魔や邪神を暴れさせて、俺と共闘するって流れにでも持ってくさ」

ル「さらっと言ってくれるな……」

竜「まぁこれはこれで楽しかったけど、投稿するのに時間が掛かりすぎたな。ウチの作者の予定じゃ今月中にコラボ全部終わらせるつもりだったのに、これじゃ十二月までにずれ込むな」

ル「一体何があって遅くなったんだ? まさかハイスクールD×Dを知らないからとか言うなよ」

竜「そんなんじゃねぇよ。ただ、今回の話を書き直したのが原因だ」

ル「……書き直した?」

竜「あぁ。最初は全編ルフトの視点で書こうとしてたんだけどな、半分くらいまで書いたときにこれじゃない感じがしたんだと。あのままでも最後まで書けただろうが、このまま書き続けるよりも一度書き直したほうが良いと判断したそうだ」

ル「そ、そうだったのか……。それは大変だったろうな」

竜「その辺は気にしなくていいと思うぞ。アイツは基本的に自分のやりたい事を詰め込むから、多少の苦労は気にもしない」

ル「た、多少……なのか?」

竜「アイツにとっては多少なんだよ。……あ、そうだノッポ。これ請求書な」

ル「請求書? 一体何の請求だよ」

竜「入院治療費の請求だ。50万きっちり支払いやがれ」

ル「ご、ごじゅッ?! 幾らなんでも高すぎねぇか?!」

竜「しらねぇよ。永琳のやつにその額で請求されたんだ。俺ん家だってそんなに金はねぇってのに、なんで他人の入院治療費を払わないといけないんだ」

ル「それはお前が俺の事をボコボコにしたからだろ」

竜「あ? なんか言ったか?」

ル「……なんでもない。ところでコレ分割払いできるか? 今持ち合わせが無いんだが」

竜「出来る訳ねぇだろ。きっちり50万現金で払うか、50万円分の貴金属を差し出すかのどっちかだ。それ以外は認めねぇ」

ル「…………あ、俺急用を思い出した。今回の所はもう帰るな。それじゃ!」

竜「あ、にげんなコラッ!!」
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