魔法少女リリカルなのはstrikers~自称一般局員の少年~ 作:ウェルト
今回はこの作品での初めての戦闘描写ですが、期待しないでください
訓練を開始する前になのはから自己紹介をするように言われた。
書類に記載されていた情報と昨日の訓練を見学して得た情報だけでは分からないことも、直接対面すればある程度は分かるようになる。本来ならば昨日の内に自己紹介をしておくべきだったのだろうが、昨日はまだ僕が正式に機動六課に所属されていないということもあり自己紹介はしなかった。
とはいえ、ティアナのように前から知り合っている者は除く。また、頻繁にお世話になるだろう相手にも既に挨拶を済ませたので例外だ。
「今日から皆の訓練に参加することになったシュレン・ガルディン三等空尉だ」
可能な限り印象を良いものにする為に、僕にしては少し大きな声で自己紹介をする。
第一印象というものは仕事をするに辺り重要なもので、良い印象を持たれればそこから良い関係は生まれてくる……とレルデが言っていた。
まぁ、簡潔過ぎる自己紹介でも、がやがやと色々なことを言うのに比べたら良いだろう。
それになのはは訓練の準備などで今はここにいないが、戻ってきた時にスムーズに訓練を開始できるようにも簡潔な自己紹介の方が良い。
「ランスターを除いたメンバーのことは書類を見ただけで詳しくは知らない。だから、この場では名前だけで構わないから自己紹介を頼む」
ランスターを除くと言われて、三人はランスターから聞きたそうな表情をしているが、それを堪えて僕に対しての自己紹介を優先するようだ。
最初に青髪の少女が一歩前に出てきた。名前はスバル・ナカジマ。階級は二等陸士で、ランスターの訓練校時代の相方だった人物だ。
ランスター曰く『馬鹿真っ直ぐでドジで体力馬鹿で食いしん坊』とのこと。
「スバル・ナカジマ二等陸士です! よろしくお願いしますっ!!」
そんな彼女は僕よりも明らかに大きな声で自己紹介をしてきた。
予想よりも大きな声だった為に少しだけ驚いたが、元気があるということは悪いことではないので一々何かを言うつもりはない。
寧ろ、良い印象として捉えるべきだろう。
そして、次に前に出てきたのは赤い髪をした少年とピンク色の髪をした少女だ。
「エリオ・モンディアル三等陸士です。これからよろしくお願いします!」
「キャロ・ル・ルシエ三等陸士であります。この子はフリードです。よろしくお願いします!」
エリオ・モンディアル三等陸士とキャロ・ル・ルシエ三等陸士の情報は前の二人に比べて詳しい訳ではない。ただ、知っていることとすれば昨日見学した時に得た情報と二人の保護責任者がフェイト隊長であるということだけだ。
ランスター達に比べてみて体格は明らかに小さいが、だからと言って訓練の手を抜く気はない。
管理局は人手不足が深刻と言っても良い為、利用できるモノは利用するようにしている。その為に、子供だからと言って手を抜いて良い訳ではない。
まぁ、死んでしまったら元も子もないが、そうならないようにサポートはするつもりだ。
「正直に言って僕がこの場所に立っていることが不思議に思っているが、それでも可能な限り皆の手本となるように努力していこうと思う。皆には才能として素晴らしいモノを僕以上に持っている筈だ。だから、それを開化させるように努力して欲しい」
先に言うべきこととしてはこのぐらいだろうか。
今はまだ未熟と言うべきなのだろうが、ここにいる全員は磨けば光るモノを持っている。それを開化するようにするのが僕達の仕事で、努力していきたいと思う。
最も、すぐに僕程度の実力は超えてしまうのだろうが。
「それで、質問がある者はいるか? あるのなら高町教導官が戻ってくるまで答えよう」
「はい! ティアとはいつ知り合ったんですか?」
手を上げて質問したのはナカジマ二等陸士。
やはりというか、予想通りの質問だった。
「ランスターとは小さい時に出会って、少しの間だけ一緒に過ごしたことがある。
詳しいことまで知りたいのならランスター自身に聞けば良い。とはいえ、ランスター自身が素直に答えればの話だが」
「……シュレンさん、それはどういう意味ですか?」
「あの頃、大泣きしていたのは誰だったか? 記憶力が悪くて思い出せないな」
「ちょっ!? シュレンさんっ!?」
ランスターにとっては爆弾とも言える言葉を放つ。
確か、ナカジマ二等陸士などの年頃にとってはこの手の話は興味を持つものだと聞いたことがある。事実として、現にナカジマ二等陸士はランスターに対して期待しているかのような目で見ている。
「スバル! 私は聞かれても答えないわよっ!!」
「そう言わずにいいじゃん。答えてもさ」
会話からもランスターとナカジマ二等陸士が仲が良いことが分かる。
僕としては昔のランスターとは随分印象が違うので、少し驚いているが彼女が楽しんでいるようなので良いとしよう。
楽しんでいるということを彼女は否定するだろうが。
「あー、もう、ホントに訓練前から何言ってくれるんですか?」
「僕なりの緊張の解し方なのだが迷惑か?」
「迷惑です。モノすっごく」
悪意が無かったと言えば嘘になるが、それでも緊張を無くすために言ったのは事実だ。
とはいえ特命隊の隊員には今のような言葉を言ったことはない。そもそも、あの部隊の者は緊張という言葉とは無縁な者ばかりだ。
それに、僕の言葉はあの部隊では大して意味もない。
「高町教導官も丁度戻ってきたから、そろそろ訓練を始めよう」
慌てているランスターを置いて、僕は戻って来ているなのはへと意識を向けた。
「……えっと、ごめんね、シュレン君。今日の早朝訓練は昨日と違って模擬戦をすることにしたよ」
しかし、僕の言葉を遮るようになのははそう言った。
となると、今日も僕は見学のような扱いになるのだろうか。それとも模擬戦とは僕とFW陣の間で行うのだろうか。
少しなのはの言葉だけでは完璧に理解はできない為、彼女に説明を求めた。
「ヴィータちゃんからの提案なんだけど、まだシュレン君の実力を知らない人が私を含めて多いと思うから模擬戦で知らしめようみたいな?」
「成程、大体は理解できた。そうなると、相手はヴィータか?」
「そうだよ。よく分かったね」
確かに悪いことではないとは思う。
特命隊という部隊の名は色々と知られているが、多くの者は外見だけで中身までは知らない。事実として、昨日のランスターは僕が特命隊所属だということは知っていたが、部隊長代理を務めているということまでは知らなかった。それにランスターが知っている情報も僕と関わりを持っていなければ知らなかったと思える。
そのような意味でも、少しでもシュレン・ガルディンを理解してもらう為に模擬戦というのは悪くないことだと思う。
……とはいえ、それはこの模擬戦がヴィータからの提案ではなかった場合の話だ。
「つーわけだ。コイツ等にも色んな意味で良い経験になるだろうからな」
「…………」
内心では僕の能力を見せる良い機会などとは思っていないのだろうが、戦いたいと思っているのならやろう。しかし、僕とヴィータが模擬戦をしてどのような結果になろうと納得できる訳ではないだろうが。
正直に言えば、今ヴィータが考えていることがまったく分からない。
それを理解する意味でも模擬戦は受けた方が良いだろうか。
◇
シュレンとヴィータは訓練場で少し離れたところから向き合っていた。
ヴィータは既にバリアジャケットの展開を終えているが、シュレンはまだ行なっていない。
「……セットアップ」
シュレンが小さな声で呟き、バリアジャケットが展開されていく。
展開を終えたシュレンの外見は黒色のロングコートに黒色のスボンと言った黒を中心としたものだった。
所々に紅色も見られるが、それでも黒一色と言える程に黒いものだった。
そして彼の両手には二丁の拳銃が握られていた。ティアナと同じタイプのデバイスだろう。
「ヴィータの好きなタイミングで来い。それに合わせる」
「そうか」
ヴィータは少しだけ時間を置いて、開始の合図を送った。
「……いくぞっ!!」
開始早々にヴィータは鉄球を取り出し、それをデバイスのグラーフアイゼンで打ち出す。打ち出された鉄球はシュレンを標的として進み、同時にヴィータは挟み撃ちのような形でシュレンの背後に回り込む。
それに対してシュレンは二丁の拳銃の標準を向かってきている鉄球と回り込んでいるヴィータに合わせた。背中に目がある訳でもないのに前後から向かってくる標的に対して、少しのズレもなく標準を合わせている。
そのことに一瞬驚き、シュレンが楽な相手ではないと確信することができた。
そのまま魔法弾を放つかと思っていたが、シュレンは狙った二つの標準を外して横に跳ぶ。前後で挟み撃ちにされるよりは自分が動いて、挟み撃ちの状況から抜け出した方が目標を確実に狙えると思ったのだろう。
そしてその考えは正しかったようで彼の拳銃から魔法弾が放たれた。
「……シュート」
放たれた二発の魔法弾は鉄球とヴィータ自身へと向かう。
魔法弾は打ち出した鉄球を弾き返すが、ヴィータへと向かった弾はグラーフアイゼンを盾のようにして防がれる。鉄球を弾き返す程の魔力を使ったにも関わらず、簡単に打ち消されてしまった。
そのことから当たり前のことだが、グラーフアイゼンの耐久力は相当なものだと判断する。
「防御が硬いな。簡単にはいかないか」
「当たり前、だっ!」
ヴィータとしては勢いを殺さずにシュレンの懐に入りたかったところだった。
そうすればこの模擬戦の主導権は握ったようなもので有利に進められるからだ。しかし、彼はヴィータと一定の距離を保つようにしている為にそれは難しい。
今の行動から考えてみても自分の速度を上げたところで、恐らく簡単に処理されて状況は変わらないだろう。
それならば、どうすれば良いか。
答えは自分が一番知っていた。
(――力で強引に押し切るッ!)
グラーフアイゼンを振り切り、相棒の名前を呼ぶ。
戦い方からしてみてもシュレンは強引に攻めてくるタイプではなく、どちらかというと慎重に攻めてくるタイプだ。
そんな相手に対して、こちらも慎重に行くというのはヴィータにとって分が悪い。
それなら力で強引で押し切って、相手のペースを崩せば良い。
「グラーフアイゼン! カートリッジロード!」
《Raketen form 》
その声に合わせてグラーフアイゼンの形状が変わっていく。
ただのハンマーのような形から、最終的に一方にはロケットの噴射口のような物が付いていて、その反対側は先程よりも鋭く攻撃特化した形になる。
形状変化を見ていたシュレンはヴィータと一定の距離を保つのを止めて、逆にヴィータに近づいていった。攻撃特化した形になったということはその分だけ小回りが効かなくなっていると判断したからだ。
それは間違いではない判断だった。だが、既に形状変化を終えているヴィータにとっては格好の的だった。
「ラケーテン!!」
ロケットの噴射口から凄まじい勢いで炎が噴き出し、その勢いを利用してヴィータが動く。
その動きは先程よりも比べ物にならない程に速く、攻撃範囲内にシュレンが入るまで数秒も掛からなかった。
しかし、攻撃範囲内に入ってもシュレンの瞳は何一つ動じることはない。
「……シュート」
もう一度小さな声でそう言いながら魔法弾を放った。
目標は近づいて来ているヴィータにではない。シュレンの真下、つまり地面に標準を定めて引き金を引いた。
「……っ!?」
ヴィータもこれは予想できなかった。
魔法弾が地面に放たれたことで煙が舞う。その為、一度攻撃を止めた。否、攻撃を止めなければならなかった。
煙が舞っていてはシュレンの姿を目視できないからだ。
それに加え、敵の姿が確認できていない中ではあまり闇雲に動くべきではない。闇雲に動いても攻撃が届くとは限らない上に、不意を突かれる可能性もあるからだ。
考えた通りに煙から魔法弾が現れ、向かってくる。
とはいえ、その程度のことは予想できていた為に慌てることもなく魔法弾を打ち消す。それに仮に予想していなかったとしてもヴィータ程の能力があれば問題なく打ち消すことができただろう。
しかし。
「いつまで煙を見ているつもりだ?」
――その声は今の自分の真上から聞こえた。反射的に跳んで逃げる。
反射が早かったということもあって魔法弾が直撃することもなかった。しかし、先程までは確かに煙の中にいたというのに、いつから彼は自分の真上に移動したのか。
それと、煙の中から魔法弾が放たれてから移動するまでの時間があまりにも早すぎる。
そこでヴィータはシュレンの魔法のタイプをもう一度考えた。
(……シュレンはティアナみたいに魔法弾を曲げられんのか?)
それもかなり精密に。
確か、再会した後にシュレンはティアナと出会っていたとも言っていた。それならティアナに魔法を教えた可能性もある。
それならば彼にとって魔法弾を自分の思うように操ることは造作もないことなのだろう。
煙に意識を集中させて魔法弾を操ることで、いかにもそこに存在するかのうように思わせる。そして、相手が意識を自分に向けていない隙に真上に移動する。
たった、あの短時間でそこまで計算して行動したというのだろうか。
◇
正直に言えば、シュレンは予想以上に強い。それこそ力を失ったということは聞いてなければ分からないぐらいに強い。
でも、だからと言ってアタシは負ける訳にはいかない。
そもそも、この模擬戦を提案したのはシュレンに勝つ為だ。
あの時の会話、シュレンから力を失ったと聞いた時は納得できなかった。とはいっても、何に納得できなかったかと聞かれると答えることはできない。
確かに、力を失ったって聞いて負い目は感じた。謝ろうともした。
だけど、その前にアイツはこの件はできる限り隠せと言った。そのせいアタシの中で何かが変わって、少し口喧嘩みたいになった。もちろん、シュレンに非はない。寧ろ、アタシの行動こそが訳の分からないものだったと思う。
なのはに感づかれることを恐れて個人的に聞いたのに、いざ事実を知るとまるで反対のようなことをしている。
何故、隠すことに納得できなかったかは考えてみたところで分からない。
でも、恐らくは納得できる理由が欲しかったと思う。
そして、模擬戦でアイツに勝つことで、その何かが納得できる気がした。
だからこそ、負ける訳にはいかない。
「アイゼン!」
アタシは相棒の名前を呼ぶ。
シュレンの銃の標準は完璧にアタシへと向けられているけど、この距離ならアイツが引き金を引く前に攻撃できる。
さっきはこの攻撃を途中で止めたけど、今ならできる。
「ラケーテンハンマーーッ!!」
炎の勢いを殺さずにシュレンに近づいてアイゼンを振りかぶった。
一撃目はシュレンの体捌きで躱される。でも、それは予想済みだ。だからこそ、アタシはわざと手加減した攻撃をしたんだ。
瞬時にアタシはシュレンの背後に回り込み、今度は今出せる全力で振りかぶった。
シュレンはこの攻撃は躱すことができないと判断したのか、真正面から受け止めてきた。だけど、力勝負ではアタシが有利で手加減なしでシュレンを叩き込む。
叩き込められたアイツは体制が整えられずに地面に衝突した。
そのせいでさっきみたいに煙が舞うけど、空中にいればシュレンが何処にいるのかが分かった。
アタシの攻撃を受けたから、すぐには回避行動は取れない筈だ。そう考えて、この機を逃がさないよう再び背後に回り込む。
今のシュレンはアタシを視界には入れてない。だから、アタシはそのままアイゼンをシュレンに向けて振る。
タイミングは完璧に捉えていて躱すことはできない筈だ。それに、もしこの攻撃が躱されたとしても追撃で終わる。
だから、これでアタシは勝ったと思った。これで終わったと思った。
「……」
それなのに、それなのにどうして――
「……僕の勝ちのようだな、ヴィータ」
「……え?」
気づいた時には既に、シュレンの銃がアタシに突きつけられていた。
ゆっくりとのらりと更新していきます