魔法少女リリカルなのはstrikers~自称一般局員の少年~ 作:ウェルト
それと今回は一人称がありまs
用意されていた部屋で、シュレンは読書をして時間を潰していた。
読んでいるのは哲学や、動物の思考に関する本だ。
正直に言えば、何故、作者が本に書いてあるような考え方をするのか理解できないが、それでも投げ出さず最後まで読む。
その思考を理解することはできない。しかし、世界にはそのように考える人もいると考えれば参考にはなる
「……それで、いつまで待機すればいいんだ?」
キリの良いところで本を閉じ、そう呟く。
時間を測っていた訳ではないが、読んだ量から考えて三十分ぐらい経っているだろう。
別に不満を言うつもりはまったくないが、仕事に関することは可能な限り早い内に決めておきたいというのも事実だ。
レルデの部隊にいた時もシュレンは仕事を真面目にこなしていた。
というのも部隊長であるレルデが仕事をしなかった為である。
シュレン以外の隊員もやる時はシュレン程ではないが、それでもレルデに比べたら仕事はしていた方だろう。
「……」
しかし、それでもシュレンからしてみれば不満が残る。
静かな空間が好きなシュレンにとっては、常時騒いでいるようなあの部隊はあまり合わないのだ。
とはいえ、特命隊を否定することはできないし、これと言って何か特別なことをすることもできない。だから、シュレンはあの部隊の雰囲気に慣れる努力をした。
最も、シュレンは未だにあの雰囲気には慣れていない。
『シュレン・ガルディン三等空尉は部隊長室に向かってください。八神部隊長がお呼びです』
モニターから連絡を受け、シュレンはすぐ部屋を出た。
部隊長室は八神はやてと会話をした場所なので、機動六課に到着した時に比べれば迷惑はかけないだろう。
先程は忙しいところを案内させて申し訳ない気持ちがあったが、今度はそんな迷惑をかける必要はないようで安心した。
とはいえ勿論、迷ってしまえば迷惑をかけることになる。しかし、シュレンは迷うなく部隊長室に着いた。
そして、シュレンはそのまま部隊長室に入ろうと足を進ませたのだが、その足を止めた。
部隊長室の中から八神はやてのものと思われる声と、それ以外の声が会話をしているのが聞こえたからだ。
「……取り込み中か?」
会話をしている最中に入れというのだろうか。だとしたら、それは難しい注文だ。
運用したばかりの機動六課、その部隊の部隊長である八神はやてが会話をしているということは、それなりに重要な会話なのだろう。
それを自分が邪魔していいものなのかと考えるが、呼び出された身としては入らない訳には行かない。
仮に、この会話が邪魔してはいけないものだとしたら、レルデを言い訳に使うことにする。
そう考えて、シュレンは一歩踏み出した。
「失礼します、八神部隊長」
先程の挨拶の時と同じく、デスクに座っている八神はやて。
そして八神はやてと会話をしていたと思われる人物が少し離れたところにいるが、そちらを確認するよりも先にシュレンを呼んだかどうかの確認をする。
「呼ばれて来たのですが、間違っていないでしょうか?」
「うん、呼んだよ」
「仕事に関することですか」
「そうやけど、呼んだのは私じゃなくてその二人なんや」
その言葉と同時に八神はやてが視線を逸らす。その視線を追うと、二つの人影があった。先程まで八神はやてと会話をしていた人物だ。
少しだけシュレンは表情を固めた。
二つとも見知った顔だった。
一人はエースオブエースとして管理局で知られていて、もう一人はエースオブエースに比べたら知名度は少し低いが、それでも知っている者からすれば十分に優秀な魔導師だと言える。
高町なのは。ヴィータ。
それが二人の名前で、少し前に色々と世話になったことがあった。
「……随分とお久しぶりです。こうして直接会うのは八年振りですね」
実に八年振りの再会だ。
シュレンにとって、高町なのはと出会った経緯は忘れてはいけないものだと考えていて、昔のことはよく思い出せる。
こうして直接会うと過去を振り返りたくなるが、今は上司の前ということで止めておく。
「八年の間、お二人の活躍はよく聞いていましたよ」
レルデもシュレンの知り合いが機動六課にいるとは言っていたが、機動六課の中にこの二人がいるとは思いもしなかった。
とはいえ、レルデの言っていた知り合いとは、恐らくこの二人のことではない。
この機動六課にはもう一人シュレンと関わりを持っていた人物がいる。レルデはそちらの方を言っていたのだろう。
「それじゃあ、私は席を外すから二人とも話してええよ」
言葉から考えて、はやてはシュレンとこの二人が知り合いであることを知っていた、または先程知ったのだろう。
シュレンを呼び出したということから、先程知った可能性の方が高い。そして、知り合いであるということ二人から聞いたからシュレンを呼び出した。
もし、そうならば八神はやては友達想いの人物なのだろう。
そんなことを考えている内に、既に八神はやては部屋から出ていた。
しかし、部隊長という立場にも関わらず、部隊長室を他の隊員に任せていても良いものなのだろうか。
「……」
「……さて、いい加減に睨んでくるのは止めて欲しいのですが」
沈黙していても意味が無いので、シュレンの方からから話を振ることにした。
しかし、返事が返ってきたのは少し時間が経ってからだった。
「睨んでねぇよ。元々、こーいう目付きだ」
「私も睨んでるつもりは無いんだけど……」
「僕から見てみれば、二人とも僕のことを睨んできているようにしか感じませんよ」
二人共、誰でも理解できる程に分かりやすく怒っている。いや、怒っているというより、心配していたと言うべきだろうか。
シュレン自身も心配をかけるような出来事をした心当たりがあるので、どちらにせよ仕方がないものだと思っている。
「それに、なんで敬語なんか使ってんだよ。前みたいに普通に話せ」
「プライベートなら構わないのですが、ここは仕事場です。敬語を使うのは普通だと思うのですが?」
「……確かにその通りだけど、アタシとしては敬語じゃない方が話しやすい」
仕事場に私情を挟むのはあまり良くないことだと思うが、ヴィータにそう言われたら戻さざるを得ない。
それに、なのはは違うがシュレンはヴィータと同じ階級の三等空尉。
元々敬語で話す必要などない。
「そうか。なら、この口調で話すが問題はないな?」
「……! おうっ!」
シュレンはヴィータは考えていることが表情に出やすい人物であることは知っている。しかし、少しはその癖を直した方が良いのではないかと考えた。
それよりも、先程から黙っているなのはのことが気になった。
表情から具合が悪いという訳でもないようだが、黙り込んでいるのは何故だろうか。
予想もしていなかった再会に未だに戸惑っているのだろうか。それとも、様々な感情が浮かび上がっているのだろうか。または、シュレンに聞きたいことが余りにも多すぎて、混乱でもしているのだろうか。
「……どうして、私たちの前から居なくなっちゃったの? 心配したんだよ?」
そして、ようやく出てきた言葉はそんな言葉だった。
「そう言われましても――」
「敬語じゃなくて、ヴィータちゃんと同じように普通に話してよ」
「……了解だ」
シュレンの言葉を遮り、なのはは敬語で話さないように言う。
階級的にも知名的にも考えて、シュレンがなのはに敬語で話すのは普通なのだが、ヴィータと同じくなのはも敬語では話されたくないようだ。
とはいえ、なのはに敬語で会話をすることに違和感を感じていたのはシュレンも同じだった。
「質問の返答だが、事情があったから消えただけだ」
「怪我も完治してなかったのに?」
「確かにそうだったが、ある程度は傷が癒えていたから問題はなかった」
シュレンは高町なのはを庇って大怪我を負ったことがある。今、二人が話している怪我や傷はその時にできたもののことを言っている。
そして、傷を癒すために病院にいた時、自己紹介をしたり、仲良く会話をしたことがあった。
しかしある時、シュレンは何も伝えず、なんの痕跡も残さずに、なのは前から忽然と姿を消した。
「心配してくれるのは嬉しいが、僕が何をやっても僕の自由だ」
「……相変わらずシュレン君は厳しいね」
昔から思ったことを素直に言葉に出しているシュレンなのだが、その言葉があまりにも素直過ぎて特命隊でもシュレンは厳しい人だと考えられていた。
実際にシュレン自身も他人とは違う考え方をしていると思っている為、その通りなのだろう。
「それで、他に聞きたことはあるのか?」
「ううん、もう聞かないよ。今ので十分だから」
「そうなのか。僕はこれから質問責めに遭うのだろうかと思っていたのだが、それは違っていたようだな」
正直なことを言えば、シュレンはなのはの質問に対しての返答に悩んでいた。
高町なのはの性格から考えて、沢山の質問をされると思ったからだ。しかし、予想に反してなのはからの質問は最低限のものだけのものだった。
別に、がっかりしたという訳ではないが、それでも少し拍子抜けした気持ちになった。
「私はシュレン君が無事だっただけで十分だから。後は、聞かなくても大丈夫だよ」
「……そうか。八年前に比べて、少し考え方が変わったようだな」
「それに、どうせ聞いたところでシュレン君は誤魔化すでしょ? だから、聞いたところで意味ないと思うんだよね」
変わったと思ったが、それはすぐに訂正した。高町なのはは大して変わっていないようだ。しかし、寧ろ変わっていないという方がシュレンにとっては嬉しいことだ。
もし、変わってしまっていたら昔のように接することができないからだ。
「ヴィータもなのはと同じように聞かないのか?」
「……いや、アタシは後で個人的に聞きたいことがある」
「個人的に、か。分かった」
ヴィータの言葉が少し気になった。
個人的に聞きたいということは、なのはがいない方が都合が良いと言っているようなものだ。別に、シュレンが何をしていたか、怪我はもう大丈夫なのかといったことはなのはと一緒に聞いても問題はない筈だというのに。
それに、ヴィータから個人的に聞かれることは特にないと思っているのも気になる要因だ。
「……それで、今まで何処にいたんだ?」
先程のヴィータの言葉はあくまでも個人的なもので必要最低限のことは聞くらしい。
「名前は聞いたことがあると思うが、レルデ・ローラルドの部隊に所属していた。そして、今日この機動六課に人事不足を理由に異動を命じられた」
仕事場ならばレルデ・ローラルド少将と階級を付けるべきだろうが、何となくそれが気に入らなかったので階級は付けなかった。
レルデと出会った経緯もこの二人は気にするだろうが、少なくても聞いてこない限りは言うつもりはない。
「さて、今度はこちらから質問をするが僕をこの部屋に呼んだ理由はそれだけか? 他にも別の理由は無いのか?」
主な話はこの二人との再会であることはシュレン自身も理解できているが、それだけではわざわざこうして呼ばれないだろう。
はやてが言っていたように仕事に関することでも、ここに呼び出された筈だ。
「あ、うん。はやてちゃんと話をしてシュレン君はスターズ隊の副隊長ってことになったの」
なのはとはやては親友と言える関係なので八神二等陸佐と呼んでいないことは知っているが、もう少し呼ぶ時には注意をした方が良いと思った。しかし、レルデ相手に階級を付けていなかった自分はそのことに対して何かを言う事はできない。
それよりも、スターズ隊副隊長になったということが意外だった。
しかし、機動六課の隊員を見る限りシュレンがスターズ隊副隊長となるのは妥当なところだろう。
「私がスターズ隊隊長で、ヴィータちゃんが副隊長だよ。他にもスターズ隊にはフォワードが二人いるから後で紹介するね」
既に書類には目を通しているので、その二人が誰なのかシュレンには理解できている。
ティアナ・ランスター二等陸士とスバル・ナカジマ二等陸士だ。
というより、前にシュレンはティアナと出会ったことがあるので、どのような人物なのかも理解できている。
そして恐らく、レルデの言っていた知り合いとはティアナのことだろう。しかし、もう一人のスバル・ナカジマ二等陸士のことはよく知らない。
シュレンはスバル・ナカジマと会ったことはないが訓練校からティアナの相方をしているのがどんな人物なのだろうか、と興味はある。
「この後、すぐに訓練を行うつもりなんだけど、最初の訓練ではシュレン君は見学だね」
「了解だ」
「それじゃあ、訓練場所まで案内するよ」
シュレンのやり方で訓練をするのならば見学などする必要もないのだが、ここは機動六課。
訓練のやり方が違うのは当たり前で、郷に入っては郷に従えという言葉もある。だから、機動六課のやり方に不満は言えない。
とはいえ、シュレンは機動六課のやり方に不満を持っていない。
自分よりも格段に優秀なエースオブエースの高町なのはが間違っている筈などないのだから。
◇
私とヴィータちゃんはシュレン君を訓練場へと案内していた。
訓練前に、はやてちゃんから転入者が来るって聞いたから、どんな人なのか気になった。
だけど、シュレン・ガルディンという名前を聞いた時にその疑問は消えて、ただ単に驚いた。
ヴィータちゃんも私と同じように驚いていた。
その名前を聞くのは久しぶりで、八年の間一切の居所が分からなかったから驚きもする。
居なくなったシュレン君とこうして再会できたことは嬉しいことだけど、どんなに探しても手かがりの1つ見つかったのに、こうも簡単に突然に再会してしまっては少し落ち込む。
「僕の部隊は苦労が絶えないよ」
「お前の部隊の隊長ってレルデ・ローラルド少将なんだよな?」
「先程も言ったがその通りだ。それにしても、よくあの馬鹿の名前を知っているものだな。
まぁ、知名度的に考えれば、寧ろ知っている可能性の方が大きいか」
そんな気持ちを知らないシュレン君は呑気にヴィータちゃんと会話をしていた。
八年前と比べて、シュレン君の面影はあまり変わっていない。でも、昔に比べてシュレン君の雰囲気が優しくなったような気がする。
病室での最初の会話なんて、思いっきり拒絶されたって思うくらいだったから。最も、シュレン君にその自覚はないのだろうけど。
それよりも、シュレン君がレルデ・ローラルド少将の部隊、時空管理局本局特命隊に所属してたってことが気になる。
特命隊は管理局の中でもかなり有名な部隊だから。
部隊長であるレルデ・ローラルド少将はSSSランク魔導師で、多くの隊員達を纏めるカリスマ性があると言われている。
はやてちゃんの先輩らしいけど、私はあまりレルデ・ローラルド少将のことは知らない。
「あの馬鹿のせいで本当に僕は苦労をしている」
「あの人をよく馬鹿って言えるな」
「馬鹿に馬鹿と言うのは不思議なことではないだろう。いずれはそう思うようになる」
「……でも、聞いた話だとそこまで忙しい部隊って聞いてないよ?」
はやてちゃんも特命隊について言ってた時は、そこまで忙しいとは言ってなかったような気がする。
だから、あまり忙しい部隊じゃないと思っていた。
「本来ならそうなのだが、僕だけは特別に忙しい」
「どうして?」
「残念だが、それは言えない。一応、馬鹿に口止めをされているからな」
私としては、そう言われると物凄く気になる。
でも、シュレン君は口が堅いから教えてはくれないと思う。口止めをされているのなら尚更教えてはくれない。
少し残念に思うけど、このことは素直に引き下がるしかないみたい。
ヴィータちゃんも同じように感じているみたいで、気になっているような表情をしていた。
「ところで、ティアナ・ランスター二等陸士とスバル・ナカジマ陸士はお前の目から見てどう思う?」
「……ははは」
あまりにも急な話の切り替えに苦笑いをした。
私達の表情を見て話を変えないとと思ったのかは分からないけど、逆にそうされると気になる。
できれば、秘密にしていることを問い詰めたいところだけど、さっきも考えた通りにそれはできない。
「ティアナとスバルのことは言って無いよね。どうして知ってるの?」
「書類を読んだからだ。それに、ティアナとはティアナが小さい時に出会っている」
「へぇ、そうなんだ」
ということは、ティアナもシュレン君に会うのは八年振りくらいなのかな。
シュレン君の行方はまったく分からなかった訳だから。
「それで、どうなんだ?」
「二人ともセンスは良いよ。だから、私がこの一年間でどれだけ成長するか楽しみ」
「そうか。ティアナが期待されているようで何よりだ」
シュレン君の言葉から考えて、どうやらシュレン君とティアナは結構仲の良い関係だったみたい。
二人がいつ知り合ったのか気になって質問をしようと思ったけど、訓練場が見えたから聞かないことにした。
今ここで聞かなくても、後で聞けばいいから。
「思っていたよりも立派な場所だな」
「うん、シャーリーが自慢してるくらいだからね」
「シャーリーとは誰だ? 書類にはシャーリーという名前の隊員は居なかったと思うが」
「あ、えっと、シャーリーっていうのはあだ名で、名前はシャリオ・フィニーノだよ」
「……一等陸士でデバイスマイスターの人か」
八年前も思ったけど、シュレン君は記憶力が物凄く良い。
私は名前を覚えるにしても大勢の名前を一度に覚えきれない。少ない人数なら平気なんだけど、大勢だと何度か会わないと名前と顔が一致しない。
特に、中学生だった頃はそのことで苦労した記憶がある。
記憶力が良いメリットだけを考えれば、シュレン君ぐらいの記憶力は欲しい
「……って、アレ?」
気がついた時には、シュレン君とヴィータちゃんは私よりも少し前を歩いていた。余計なことを考え過ぎて歩くのが遅れてたのかな。
気づいた私は追いつこうとして少し走ろうと思ったけど、止めた。
「まぁ、いっか」
だって、焦らなくても意味がないと思うから。
それに、少し考えたいことがある。
それはシュレン君と出会った時の八年前の出来事。
まぁ、出会った時って言ってもその時の私は気を失ってたから、どんな風に出会ったのかは知らない。
でも、私はシュレン君に助けられた。
覚えていなくても、助けられたことは間違いない。ヴィータちゃん自身もそう言ってたし、何よりシュレン君がいなかったら私は今ここにいないと思う。
八年という時間からしてみれば長い時間が経っているけど、私は八年前の出来事を一生忘れることはないと思う。
あの、雪の日からの出来事を。