魔法少女リリカルなのはstrikers~自称一般局員の少年~ 作:ウェルト
なのはと口論をして数日後。
相変わらず少年は病室のベッドで横になっていた。
あの雪の日から良くはなっているが、未だに身体を貫かれた傷は痛々しく残っている。
内臓がいくつも潰されている為、寝ることを強制されている。正確には、起き上がろうとしても身体に激痛が襲い、起き上がれないと言った方が正しい。
その状態を理解できているので、無理に起き上がろうとはしなかった。仮に起き上がれても歩くことはおろか、ベッドから離れることもできないだろう。
できることと言えば、寝ることと会話をすることだけで、それ以外は時間を持て余していて暇だった。
とはいえ、刃が貫通した時点で即死しても不思議ではなかったので、その思いは贅沢なものかもしれないが。
「……」
寝ながら病室に取り付けられているテレビを見る。
やっているのは高町なのはがアンノウンに撃墜されたことだ。
時間が経つに連れて、事件の詳細が少しずつ明らかにされている。しかし、どの情報も共通して間違った情報を伝えている部分があった。
それは高町なのはは誰にも助けられなかったと伝えられていることだ。
どうしてこのようになっているのか。
心当たりがない訳ではない。寧ろ、何故こんなことになっているのか心当たりしかないと言っても過言ではない。
「……こうしたのは――」
途中で、その思考を中断させ病室の扉の方を見た。
気配から誰かが近づいて来てることは分かっていたが、それが未だに車椅子での生活を強いれられている少女だとは思わなかった。
つまり、高町なのはがこの病室に近づいてきていることだ。いや、もう部屋の目の前だろう。
前回の会話を振り返る。
なのはは取り乱して普段なら考えもしないようなことを言い、少年はその言葉を受けて殺気を向けた。
殺気になのはが恐怖したのは嫌でもよくわかっていた。そのことでは申し訳ないと思っているし、できれば謝りたいとも思っている。
しかし、会話をすることはできる限り避けておくべきだ。
謝るということは少なくても会話をするということで、前のようなことになる可能性がある。その時点で避けるには十分の理由である。
それ程までになのはと会話をするのはあまり良くないことだと考えていた。
そして、病室の扉が開き中に栗色の髪をした少女が入ってくる。
「どうして来た? 貴方に僕とは関わらない方が良いと言った筈だが」
前の時とは違い、今度は拒絶を含んだ言葉をなのはに伝える。
前もこのような言葉になのはは黙っていた。それならば、こう言えばすぐに自分の病室に戻ってくれるだろう。
そう考えての言葉だった。
そして、前と同じく顔を下に向けたままかと思い、なのはの顔を見た時――――驚いた。
「少し、お話させて」
何故なら、その表情は前のような迷っているような意思は感じられず、何かを決意したかのような表情になっていたからだ。
迷っていた瞳も今は強い瞳へと変わっている。
あまり時間は経っていない筈なのだが、人の表情とはこうも変わるものなのだろうか。
「また言い争いになりたいのか? 言っておくが、僕は嫌だ」
「前みたいに口喧嘩をするつもりはないよ。だから、お話させて」
口喧嘩をするつもりはないとは言うが、それは前の時にも言えることだろう。
もちろん、そう言うこともできた。しかし、そうはせずに黙ってなのはの言葉を聞いていた。
「前回のようにどちらが悪いと、言い争うつもりは無い」
「今回来たのはその理由じゃないよ」
「……そうなのか?」
前回の会話を振り返ってみても今回来た理由も同じ理由で来たのかと思っていたので、そのなのはの言葉は予想外だった。
少しの間考えてみたが、どう考えてみても理由が一つしか出てこない。
どうしても、先程の理由しか思い浮かばないのだ。
その思考を察してか、なのはは口を開いた。そして、なのはのその言葉に珍しく混乱した。
「ありがとう」
その言葉に表情が固まった。
礼を言われるようなことをした覚えがないからだ。寧ろ、前回の会話の時には怒らせてしまったくらいで罵倒されても不思議ではない。
少なくても、礼を言われるようなことはしていない筈だ。
「どうして、礼を言っている?」
気がついたらそう聞いていた。
今まで生きてきて、気がついたら口が開いたということはなかった為にさらに混乱を生んだ。
「どうしてって……まだ、助けてくれたお礼を言ってなかったでしょ? だから、ありがとうって言ったの」
言われてみれば確かにその通りだが、だからと言って礼をするものだろうか。
今までの人生では、怒らせた相手に礼を言われるということはなかった。それが普通だと、当たり前だと考えていた。
少なくても、自分を怒らせた相手に礼は言わない。
例外として、皮肉を込めて礼をすることはある。しかし、今のなのはの表情からはそんな様子は見えない。
純粋な気持ちで礼を言っているのだ。なのはは。
「……どういたしまして」
できるだけこちらの混乱を悟られないように、小さな声で言う。
本来ならばそんなことをする必要はないが、今の状態はあまりなのはには知られたくない。そう考えての行動だった。
「うん。それと、前のお話の時はごめんなさい」
「いや、君が悪い訳ではない。そう言わせるような発言をした僕が悪い。だから、その件については謝罪する。すまなかった」
なのはの考えは理解できていた。今まで自分の意見を曲げずに生きてきたのだろう。
しかし、自分にだって曲げられない信念というものがある。特に、今回の場合は曲げてはいけない場合だった。
その結果が口論となったが、正直に言えば避けられる出来事だった。
だからこそ自分の失態だと思い、なのはに対して申し訳ない気持ちになった。
「それじゃあ、お互いに悪かったということで、いいかな?」
「それがいい」
再び平行していきそうな話になったが、なのはが妥協案を出してそれで納得した。
本音を言えば、先程の考えから前の会話で悪いのは自分だけだということにしたかった。だが、それでは前のようになると考え、仕方なく納得した。
とはいえ、――これはなのはにも言えることかもしれないが――あくまでも納得したのは表面だけで内心ではそう思ってはいない。
「そう言えば、まだ自己紹介してないよね?」
「……そうだね」
なのはの言う通り、二人は目が覚めてから互いに自己紹介をしていなかった。
なのはは自分を助けてくれた存在なのに名前すら聞いてないことに対して思うことがあり、今の雰囲気からしても自己紹介しても良いと思った。
自分を庇って助けてくれた存在をヒーローのような認識で見ていて、口喧嘩はしたものの悪いようには思えないのだ。
考えてみれば、口喧嘩になったのも必要なことだったのかもしれない。
そして何よりも、目の前の少年と『友達』になりたいと思ったのだ。
「私の名前は高町なのは。なのはだよ。これからよろしくね」
友達になるのは相手の目を見て名前を呼ぶだけで良い。
なのはは少年の朱色の瞳を見て、自分の名前を言った。
「僕は……僕の名前は、シュレン。シュレン・ガルディンだ。これからよろしく」
「うん!」
笑うなのはの姿にシュレンは先程まで抱いていた感情がなくなっていくのを感じる。
正直に言えば、シュレンはなのはを拒絶しようとした。理由も分かってる。しかし、それはなのはに言っても意味はないだろうし、言っても伝わらないだろう。
そもそも、なのはの口からこうして名前を聞くとは思わなかった。
昔、シュレンが小さい頃に、友達になるのは名前を呼ぶだけで良いと教えられたことがあった。つまり、なのはがこうして名前を言ったということは、今の自分を友達として見ているかもしれないということだ。
まさか、こんな自分をそうして認めてくれるとは思ってもいなかった。
自分でも分かっているが、今は先程とは違う理由で混乱している。
「自己紹介はしたが、そろそろ自室に戻らなくてはいけないんじゃないか?」
「えっと、今日はまだ大丈夫だよ」
「……そうか」
その後、二人は面会時間を過ぎるまでお話をした。
例えば、好きな食べ物のこと、嫌いな食べ物のこと。他には趣味などといった、至って普通の話題だった。
和解してすぐにそんな話をするのは変かもしれない。しかし、二人にとって楽しいと思える時間だった。
面会時間が終わるとなのはは「また明日お話しようね」と言って、シュレンの病室から自分の病室へと戻った。
まだまだ話したいことがあったがそれは次の日に聞けば良い、そう想って。
――――しかし、シュレンが姿を消したのも次の日だった。
時々、このぐらいの長さで更新します
すみません