魔法少女リリカルなのはstrikers~自称一般局員の少年~ 作:ウェルト
今回で回想は終了となります
ヴィータがシュレンの使っている病室に急いで戻ってみた時には既にシュレンの姿はなかった。病室にいるのは着いたばかりのヴィータと、同じく目の前のことに呆然としていた高町なのはの姿だけだ。
病室の状態は酷いもので、シュレンが寝ていたベッドや医療機器などが全て破壊されていた。まるで大きな爆発でもあったかのように破壊されている。
しかし、そんな爆発音など聞こえなかった。仮に聞こえたとしてもその時はシュレンの身を案じて全速力でここに向かうことだ。
「なのは。シュレンは何処に行ったんだ? 飲み物でも買いに行っているのか?」
「……分からない」
ヴィータよりも先に病室にいたなのはに質問をする。
考えてもいない可能性を口に出すヴィータだが、それは口に出す前から違うと分かっていた。
シュレンの身体はアンノウンに貫かれ内臓をいくつか潰されていて極めて危険な状態だった。だから、シュレンには絶対安静を言い渡されていた。
シュレン自身もそのことを理解していたからこそ、ベッドの上から動くことはなかった。
そんな絶対安静を言い渡されていたシュレンが飲み物など買いに行く筈がないのだ。
(……アイツか?)
思い浮かべるのはセレンと名乗った女性。
彼女はシュレンと知り合いと言っていた。それならば、彼女がシュレンを連れ出した可能性がある。
シュレン一人で抜け出した可能性もあるが、先程も言ったようにシュレンの傷の状態から考えてその可能性を否定する。それに、一人で抜け出すとしてもそれは相当に不味い状況でなければやらないことだろう。
何よりも一人で動くことのメリットがないからだ。
それにあの女性はヴィータとの会話の時にこう言っていた。
『ま、お主には確認することはできないじゃろうが』
つまりあの言葉はこうなることを計画していたから言った言葉なのかもしれない。
しかし、もし彼女が連れ出したとして考えると、彼女がヴィータと接触しにきた理由は何だったのだろうか。
考えてみても、セレンがヴィータに話したのはシュレンの力が失ったことだけで、他の
具体的な目的というのは出てこない。
二人が仲の良い関係ならば、その言葉は真実であると思えただろう。しかし、ヴィータにとってセレンは信用することができない者で簡単には信じることはできない。
だからこそ、ヴィータはその言葉が真実であるか確かめに来たのだ。
(……ったく、これじゃ確認できねーな)
とはいえ、この状態ではセレンの言葉の通り確認することはできない。
事実かどうかを知っている唯一の人物、シュレンが消えてしまったのだから。いや、この場合は連れ去られたとでも言った方が良いのだろうか。
「シュレン君、あんな状態なのにどこに行っちゃったんだろう?」
「…………」
なのはの言葉にヴィータは黙る。黙ることしかできない。
なのはにセレンのことを話しても構わないのだが、話したところで何になるというのだろうか。別に、話したとしてもシュレンがこの場所に戻ってくる訳ではないのだ。
それに話してしまったら、またなのはが無茶をする可能性がある。それはできる限り避けておきたいことだ。
加えて、何もこの事態は悪い方向ではないのではないかと考えている。
セレンと名乗った女性は何度も言う通り信用することはできない。しかし、何故かヴィータの心の何処かでセレンを信じている。
頭では否定しているのにも関わらずだ。未だに警戒心は残っているが、何故か信用してしまうそうになる。
だから、甘い考えだろうがシュレンが消えた可能性を知る者からしてみれば、悪くない事態だと思えてしまうのだ。
しかし、頭ではそう考えていても納得仕切れていないヴィータがいた。
例え、考えの通りにこれが悪い事態でなかったとしても、せめて一言ぐらいは声をかけて欲しかった。
「……うっ、ん」
そうすれば、目の前のなのはは泣かなかったかもしれないというのに。
――チクリと心が傷んだ。
◇
ざっと八年前の出来事を思い出すならこんな感じだな。
シュレンとの出会いと言い、その後の出来事と言い、良く八年も前の出来事を鮮明に思い出せる。
そのことに少し感心するけど、そんなことはどうでもいい。
現在、アタシはシュレンと一緒になのはの訓練を見学している。
シュレンはまだなのはの教育方針のようなものを理解していないし、アタシの出番はまだまだ先ということでアタシが色々と説明してやってる。
「成程。あの時のことを頭に入れて訓練をさせているのか」
「ああ。第二第三のお前が出ないようにな」
「昔も言ったと思うが、アレは僕の責任だと考えている。だから、そのように考えるのは無意味だな。
……素直に言えば嬉しいことだけどな」
無表情でそう言っても、あんまりそう思ってるとは思えないんだよ。
コイツはあまり表情を出さないから本当にそう思っているのかが分からない。まぁ、シュレンがそう言ってんならそうなんだろうけどな。
全然そうは見えないけど。
「それで、僕に個人的に聞きたいこととは何だ?」
いきなり話を変えてくるシュレン。
そのことに驚くけど、アタシにとってこの題は待っていたものだった。気づいていたから言ったのか、それは分からないけどアタシにとっては好都合だ。
今なら聞ける……そう思っていたけど、やっぱりここじゃない方が良いな。訓練中とはいえ、なのはに聞かれでもしたら駄目だ。
「いや、ここじゃ聞かない。ただ、後でアタシが指示した場所に来い」
「そうする理由は?」
「できるだけ聞かれたくないことだからだ」
「……そうか。ならそうしよう」
シュレンは少しの間だけ考える素振りをしたけど、すぐに止めてそう言った。
「ところで、ヴィータは訓練に参加しないで良いのか? 見学なら僕一人でできるが」
「アタシはまだ新人達に教えられねーよ。まずは基礎を固めねぇと、すぐに潰れるっからな」
「確かに、正直に言ってしまえばヴィータと新人の力の差は大きいからな。しかし、なのはの訓練は基礎を少しだけ飛ばしていないか?
……さすがは管理局の白い悪魔と言ったところか」
「……なのはの前でそれ言うなよ? “お話”されるぞ」
アタシ達はなのはの“お話”は怖いという認識で見ているから、できるだけなのはを怒らせないようにしてる。だけど、シュレンはそんなことは知らねー筈だから、前もって忠告しておく。
まぁ、前に口喧嘩みたいなことをしたことがある二人なら大丈夫だと思うけど念の為だ。
「“お話”? ……ああ、恐らくそれならば問題ない」
やっぱ前に口喧嘩しただけあって慣れてんのか?
……って、そんな風に思ってたんだけど、シュレンの口から出された言葉はアタシにとって予想外のものだった。
「大方、自分に都合が悪くなったら力でねじ伏せるのだろう? なら、しつこいと思う程に言葉で攻めればいいだけだ」
なんつーか、コイツ前に比べて好戦的になってるな。前はもう少し落ち着いている雰囲気だったっていうのに、今は何か違う。まさかとは思うがアタシ達と再会してテンションでも上がってんのか?
……いや、いくらなんでもシュレンに限ってないか。
「19歳で未だに自分のことを少女と思っている勘違い野郎……いや、野郎ではないか。とにかく、そんな風に言えば――」
気づいたらシュレンはそんなことを口走っていた。
言葉の意味を理解した時アタシはすぐにシュレンを止めようとしたけど、どうやらそれは手遅れみたいだったようだ。
――何時から会話を聞いてたのか分からないけど――なのはがアタシ達の方を見て、良い笑顔を浮かべてやがる。
「シュレン君? 再会してすぐにそういうことは言わないで欲しいなぁ」
「思ったことを素直に口に出しただけだ。なのはのようにな」
「……そっか。お話しようか」
アタシは二人に気づかれないようにその場を立ち去る。
途中で背後から物凄い音がしたりするけど気にしない。多分、つーか絶対に後ろを振り返っちゃいけない。
…………さっき言ったようにシュレンには聞いておきたいことがあったけど、なのはが来たから無理になった。
まぁ、場所を変えればいいだけだけどな。
とにかく、できるだけ早めに病院でセレンって名乗ったアイツのことは聞いた方が良いな。