魔法少女リリカルなのはstrikers~自称一般局員の少年~ 作:ウェルト
なのはの訓練を見学した後、僕はオレンジ色の髪をしているティアナ・ランスターと共に食事を取っていた。ティアナ・ランスターとはなのは達とは違う形で出会った。なのは達とは違い失踪した訳でもないので心配はされていない。
最後に会ったのは随分と前のことだったが、ランスターの方は僕を覚えていたようだ。
「それにしても、書類でランスターがいると知った時は少し驚いた」
「私もシュレンさんがいた時は驚きましたよ」
僕はティアナ・ランスターのことは名字でランスターと呼んでいる。
――今はもういないが、ティアナ・ランスターの兄であるティーダ・ランスターのことは区別を付ける為にティーダさんと呼んでいた。――
昔はランスターから敬語を使われていなかった為、こうして敬語で話されることに違和感を覚えるがすぐにそれは慣れた。
「訓練でも、正しい指示を出していたな」
「訓練校の時にも努力はしてましたから」
それは訓練を見て理解できた。
ランスターが訓練校に行ってから、どのような努力をしたのかは分からないが相当な努力はしたのだろう。そうでなければ、先程のガジェットを使った訓練の時に冷静な指示は出せない筈だ。
ティーダさんも今の姿を見たら喜ぶことだろう。
「ところで、ランスターのパートナーのスバル・ナカジマ二等陸士はランスターから見てどうだ?」
訓練の時でも、僕なりにはスバル・ナカジマ二等陸士に対する評価は出しているが、付き合いが長いランスターにも聞いておいた方が良いと判断する。
ランスターが人に評価をつけるということが得意なのかは知らないが、客観的に物事を見れるから平気だろう。
「そうですね……馬鹿真っ直ぐでドジで体力馬鹿で食いしん坊と言ったところですね」
「……成程。まぁ、少しは参考になるか」
僕からしてみれば、思っていた以上に彼女のスバル・ナカジマ二等陸士に対する評価は良いものだった。今のランスターのように褒めるだけの評価と正直に駄目な所を出している評価では、どちらかというと後者の方が信用しているということが分かる。
だから、良い評価だと考えた。
ランスターが誰かに褒めるだけなんてことは殆どないだろう。とはいえ、僕を除く隊長クラスの者は除く。
不意に彼女は何かを思い出したような表情をして聞いてきた。
「セルスさんもここに来るんじゃないんですか?」
セルス・ローラルド。レルデ・ローラルドの義理の妹。
ランスターにはセルス・ローラルドという名前が偽名だということは伝えていない。正確には伝える必要がないから伝えていない。
それに、セレンの名前は迂闊には表には出せないというのも伝えていない要因だ。
「それは僕が所属してる部隊の隊長が馬鹿で、引き離された訳だ」
「えっと、シュレンさんの所属してる部隊って時空管理局本局 特命隊ですよね?」
「そうだ。名だけは有名な部隊」
時空管理局本局 特命隊。それが僕の所属している部隊の正式名称だ。
名だけは有名で、特命隊に入っている者が全員エリートなど、あまり知らない者からはそのように言われている。
しかし、実際はそんなことはなく、言ってしまえば暇つぶし部隊だ。
仕事も行なっていると言えば行なっているが、それ以外の行動があまりにも酷い。しかしそれでも、エリートと思われているこの部隊は他の部隊から文句は言われない。
「仕事をやるから遊びは楽しくなる」とレルデは言ったことがある。それ故に、仕事をする時はして、遊ぶ時は遊ぶという何とも言えない部隊になった。
別に少しぐらいのメリハリはあった方が良いだろう。そうした方が仕事が効率行える者もいる。
しかし、特命隊の遊びは少々ふざけ過ぎている。
「そして、何故か僕は部隊長代理で部隊長がやらなかった仕事を片付けている」
「……シュレンさんは部隊長代理なんですか?」
ランスターが驚いたように聞いてくる。しかし、ランスターは誤解しているらしい。
部隊長代理というのがランスターにとっては凄いことなのだろうが、凄いから僕は部隊長代理になれた訳ではない。
「言っておくが、レルデは仕事を押し付けられるなら誰でも良かったと思うぞ。ランスターがいたのならランスターが部隊長代理になっていたかもしれないな」
僕が特命隊でも特別に忙しいのは僕が部隊長代理だからというのが主な理由だ。
レルデは部隊にとって特に重要な仕事以外は僕に押し付けてくるので、代わりにやっているのだ。
本当に迷惑な話だ。
しかし、今は特命隊から機動六課に異動した訳だから、これからは特命隊にいた時よりも忙しくなることはないだろう。
少なくても、そのぐらいの願いは叶って欲しいものだ。
「話を変えるが、ランスターはこの部隊で上手くやっていけそうか?」
これ以上あの部隊の仕事関係のことを考えても疲れるだけなので話を変える。
ランスターは僕の話の切り替えに少し唖然としたようだが、少し考えたような素振りをした後に答えた。
「……そうですね。
正直、私みたいな凡人がこんなエリート部隊にいても良いのかと思いますけど、とりあえずは自分に出来ることを精一杯にやりたいと思ってます」
真面目な回答だ。
レルデにもこのような一面があって欲しいと特に思う。とはいえ、レルデにも一応ではあるが真面目になる時はある。しかし、それは滅多なことではない上に最近では見ていない。だから今の言葉は少し語弊があるが、気にはしない。
こんなことより、ランスターの回答に対するアドバイスでもしよう。
「一つ言っておくが、あまり自分のことを過小評価するな。
別に、するなとは言わない。しかし、過小評価することをあまりよくないことだと考えている。何故なら、そんなことをしたら次第に自分には出来なくて当たり前だと考える可能性があるからだ。そうなったら力を望み、無茶をする可能性がある。
そして、最悪の場合はその無茶のせいで大切なモノを失う」
そうでなければ、過去に無茶をして大怪我を負った高町なのはのようになる。
なのはは一人にはなりたくないということから無茶をした。そして、あの雪の日に大怪我をして、二度と空を飛ぶことができないかもしれないと言われて絶望した。
結果として、現在は飛ぶことができているが死ぬ可能性だってあった。正直に言えば、そんな危険な目には遭って欲しくないと考えている。
「とは言え、これは僕の一方的な考えだから気にしなくても良い」
少し長く話していたが、これはあくまでも僕個人の意見だ。
それを人に強要するような、無駄なことはしない。
「……そろそろ僕は自室に戻る」
「分かりました」
食事を食べ終えて、席を立つ。
ランスターが食べ終えるまで待っていても良かったが、そろそろヴィータが指示を出した時間になる。
ヴィータは僕から何かを聞きたいらしい。
とはいえ間違いなくそれは僕が消えた日のことに関してだろう。
なのはは聞いても無駄と判断したのかどうか知らないがあまり聞いてこなかった。しかし、ヴィータはなのはと違う。
間違いなくあの日に関して聞いてくるだろう。
何を聞かれるのか分からないが、できるだけ答えやすい質問だと助かる……そう願いたい。
◇
訓練場を見渡せる広い場所にヴィータはシュレンを待っていた。
この場所にいるのはシュレンに対して聞きたいことがあるからだ。病院でセレンと名乗った女性が言っていたこと。
シュレンの力が失ってしまったかどうかを確認する為にこの場所に来た。
そして、しばらくしない内に一つ気配を感じた。間違いなくシュレンだ。
「待たせたか?」
「いや、アタシはさっき来たところだから、そんなに待っていない」
嘘だ。ヴィータはさっき来たという訳ではない。
正確には三十分も前からこの場所で待っていた。とはいえ、シュレンが待ち合わせの時間に遅れてはいない。
ただ単にヴィータが早く来ただけのことだ。
「それは良かった」
安堵したような言葉を言ってシュレンはヴィータに缶コーヒーを投げ渡し、それを片手で掴む。正直に言えば、コーヒー以外の飲み物が良かったが、折角買ってくれた物を飲まないのは失礼だ。別にコーヒーが飲めないという訳ではないが、心境なだけにあまり飲む気分ではなかったのだ。
シュレンの後に続いて、缶コーヒーを開けるとそれを一口だけ飲む
味はいつにもまして苦く感じた。
「ヴィータはコーヒーが飲めたのか? 意外だな」
「…………」
「……どうした?」
返ってこない返事がシュレンは気になった。
必ずと言っても言い程にヴィータを子供扱いすると、それを頑なに否定する姿がある筈だからだ。少なくても八年前はそうだった。
八年という時間が経ってヴィータの考え方が変わってしまったのかもしれないが、それは恐らくないことだろう。
「八年前は『アタシは子供じゃない』と言っていた筈だが、考え方でも変わったのか?」
「――シュレン、アタシの質問に正直に答えろ」
質問に対してヴィータは返事はおろか、全く違うことを言う姿を不審に思った。
ヴィータを見るとその表情は出会ってから見たこともない程に真剣なものになっていて、遊んでいる場合ではないと認識する。
「お前は八年前、アタシと話してた時に嘘を吐いているって言ったよな?」
「八年前?」
八年前のことを言われてもすぐには思い浮かばない。
とはいえ、ヴィータが言っている時の場面さえ分かれば思い出せる自信があった。記憶力には自信があるのだ。
「……リンカーコアの話をしてた時に嘘を吐いてるってお前は言ったんだ」
「ああ、そんな話もしたな」
リンカーコアという言葉で思い出した。
確かに、そんな話をした記憶がある。つまり、ヴィータの言っている嘘とはその時のことだろう。しかし、このことはヴィータから追求してこないとも言っていた筈だ。少しの間、ヴィータ自身が追求してこないと言ったことを忘れているのかもしれないと思ったが、この件で話しているということは覚えている筈だ。
そう仮定するならば、恐らくヴィータは――……
「それでな、お前とその会話をした後にセレンっていう奴に会ったんだ」
その言葉でヴィータが何を言いたいのか、ようやく理解できた。
先程からヴィータらしくない行動をしていたのも、真面目な表情になっているのも、セレンから言われたことが原因なのだろう。
どのような言い方をしたのか分からないが、セレンはヴィータにシュレンの力を失ったことを伝えたと思われる。そして、ヴィータはそのこと確認したかったが、それは出来なかった。何故ならシュレンは失踪してしまったのだ。
だから、ヴィータは誰にも伝えずに一人で抱え込んでいた。
「ソイツはお前がなのはを庇ったから力を失ったって、そう言ってたんだ」
しかし、それはシュレンとの再会で抱え込むままではいられなくなった。
緊迫した空気がシュレンとヴィータの間に流れる。空には鳥が元気良く羽ばたいているというのに、その真下では怖いとも思えてしまう程の空気があった。
風も吹かず、雲も動かず、音も聞こえない。
ヴィータが最後の言葉を発して二人は無言で、ただ沈黙だけが流れていた。
そして、しばらくしてからようやく沈黙は終わる。
「……事実だ。僕は高町なのはを庇ったことで力を扱えなくなった」
「っ!?」
先に沈黙を破ったのはシュレンだった。
一体、どれだけの時間が流れていたのか分からない。しかし、ヴィータにとって流れていた沈黙はとても、とても長く感じた。
それも時が止まっていたと錯覚してしまうくらいに。
「彼女から聞いたというのは予想もしていなかったが大体は彼女の言う通りだ」
事実をシュレンは繰り返す。しかし、そこに怒りや憎しみなどはなかった。
ヴィータは繰り返された言葉を聞いてセレンの言っていたことが事実であると改めて思った。
そして、それと同時に激しい後悔の念が出てくる。
(本当にコイツはアタシのせいで力を……)
再会した時から考えていたことで、どうしても事実かどうか知りたかった。しかし、現実とは理不尽なもので最悪な形で事実を知った。
シュレンはこの事実をヴィータとなのはには隠していたかった筈なのだ。
だからこそ、八年前のあの時にシュレンは言葉を濁した。
それなのにヴィータはこの場所でシュレンが隠していることを聞いてしまった。シュレンにとっても隠したままの方が楽な事実を聞いてしまった。
「……ヴィータ、1つだけ質問を聞くが構わないか?」
シュレンの言葉に迷うことなくヴィータは首を縦に振った。
「どうしてヴィータが彼女から話を聞いた?
正直に言えば、この件に関して話されるとしたらなのはからだと思っていたんだが」
「どうしてって聞かれてもな……」
その質問は思ってもいないもので戸惑った。
そもそも、セレンと名乗った女性が何故自分に話をしに来たのかは未だに分からないのだ。とはいえ、首を縦に振った以上は何かしらを答えなければならない。
訓練の時と同じく、出会った時のことを振り返る。
「……そう言えば、アイツはなのはが自己嫌悪が強い奴って思ったからアタシに言ったって言ってたぞ」
思い返してみても、言えることはこれしかないだろう。しかし、ヴィータにとってはこれが正解だとは思えなかった。もし、なのはが自己嫌悪の強い人物だと知っていてもヴィータに会話をする必要などないからだ。
「そうか。……ヴィータ、先に言っておくが」
「何だ?」
「ヴィータが知っている事実は誰にも伝えないで欲しい」
「……なっ!? どういう意味だよ!」
シュレンの言葉に驚いた。
罵倒などを覚悟していたヴィータにとっては少なくても驚く言葉だった。それに加えて、シュレンの言葉の意味にも動揺した。
つまり、シュレンはこのことは無かったことにしろ、とそれに近い意味で言ったのだ。
だからこそヴィータは怒鳴った。
「どういう意味も何も、恐らくヴィータが思っている意味の通りだ。この件は隠せ」
しかし、シュレンは冷静に淡々とした口調で繰り返す。その表情は何か悪いことをしてるようなものだった。
空を飛んでいた鳥も気づいたら消えていて、太陽の光は雲によって遮られていた。その様子がまるで落とされた後のなのはを見ている気分になった。
「少なくてもなのはにはこの件について何も言うな。
僕が機動六課に所属して時間も経っていないというのに嫌な雰囲気になるのは避けたい」
「だけど!」
「……本当に、我侭を言って申し訳ない限りだが、僕は自分のせいでなのはが悲しむ顔は見たくない。
だから、頼むから言わないでくれ」
八年前のシュレンを知っている物として見ると、今のシュレンは本当に同一人物かと疑いたくなる程に弱々しい姿だった。
先程までは、少なくてもヴィータを弄るような姿があったというのに。
既にシュレンの朱色の瞳はヴィータを視界には入れてなく、ただ詫びるかのように俯いている。
「僕は怒ってもいなければ、憎んでもいない。
だから、ヴィータが今までのように黙っていてくれるだけで誰かが悲しむことはなくてすむ。だが、ヴィータがなのはに伝えたら、なのはだけでなくそれを見ている周りの人物も辛くなる。
……折角、八神部隊長が努力して機動六課を設立したのだろう? それを下手したら僕一人のせいで台無しにするようなことはするな。もし、伝えてそうなってしまった場合は僕はヴィータを怒るかもしれないし、憎むかもしれない」
「……」
俯いていた顔を上げて、シュレンはヴィータを真っ直ぐ見る。
弱々しく見えている筈なのに、迷いなく自分の意見を言えるという矛盾がヴィータを混乱させる。弱々しい表情なのに強い瞳で、何かを決意しているような目で、シュレンは確かにそう言った。
ヴィータは混乱する。
どうして、シュレンはそこまで他人のことを思うことができるのか、と。
これではまるで、シュレンが悪者に見えてしまうじゃないか、と。
訳が分からない。
ヴィータにはシュレン・ガルディンという人物が分からなかった。
「……この件はヴィータが黙ってるということで解決だ。
八神部隊長にも可能なら隠した方が良い。とはいえ、言っても構わないが、その時はヴィータに対して何を思うか分からないぞ」
混乱している間に話が終わりそうになっていた。
まだ話すべきことがあるのに、まだ言いたいことがあるのに、まだ話は終わっていないというのに、何も言えない。
否、何も言うことができなかった。
本来ならばシュレンが引いてくれたことに感謝するべきなのかもしれないが、ヴィータは納得できなかった。
「それでは失礼します。ヴィータ”三等空尉殿”」
そしてヴィータが納得できていないまま、シュレンはこの場を去っていった。
残されたヴィータには後悔の念だけが渦巻き、最後の敬語の意味を理解しながら拳を思い切り握り締めた。
あの敬語は仕事場に私情を持ち込むなという意味だろう。再会した時にも敬語を使っていた。
その時の理由もそうだった。
分かっている。シュレンの言いたいことも分かる。恐らくシュレンは今まで全部を自分一人で何とかしてきたのだろう。だから再会した時も堅い態度で、今も全部一人で越えようとしている。しかし、少しぐらいは頼っても良いのではないだろうか。弱いところを一緒に抱え込むことは悪いことなのだろうか。
しかし、そうは思ってもヴィータは自分を責めずには居られなかった。
「畜生……!」
確認済みではないですが、修正しました