皆の後を追いかけて船についたのはよいが、そこで待ち受けていたのは意外な人物の怪我だった。
怪我人は、タバサ。
服の両腕は引き裂かれて、肌は焦がされてやけどの部分がみえている。そのタバサに包帯をまいているのはキュルケとルイズであるが、ルイズは不器用におこなっている。
「タバサが怪我だなんて、何があったんだ?」
「不意打ちだ。一番、最後方にいたその娘が、ライトニング・クラウドを察知して、エアハンマーを先にたたきつけたのは良いが、相手は気をうしなわなかったらしく、そのまま、稲妻を受けてしまった」
タバサが最後方なのは、実力を知っていればそれが良い選択だろうと俺も思う。相手は、こちらの戦力を削りにきているのか。
「それにしてもライトニング・クラウドを受けて、両腕のみの怪我だなんて考えづらいんだけど」
「その娘の機転だな。片方の手を頭上にあげて、反対の手を樹にあてた。そこを稲妻が流れていったのだろう」
タバサは、表情をださずに開いて置いてある本を眺めている。
両腕なら命に別状はなかろうが、生きている樹の方が中を水が流れている分、階段よりも電気が逃げやすいのを経験でしっているのだろか。これもガリアでやっている北花壇騎士団としての実力か。
「そんな、話はいいから、早くきて手当をして」
キュルケが珍しく声を大きくして言ってきたので、
「ライトニング・クラウドをくらってのやけどなんて、治したことが無いからな。それでもいいか?」
「いいから、はやく」
キュルケとは対照的にタバサは黙っていたが、くるりと俺に対して背中を向けなおした。タバサも良いということなんだろう。
「わかった。ライトニング・クラウドによるやけどは、火のやけどと違うから、悪いが、首のあたりから肩のあたりまでを中心に手で、水の流れを確認していく」
「それで、いいから」
俺は、そのままだまってタバサの首筋から肩までの水の流れの感触を確かめていったが、幸いにも表面のやけどだけで、皮膚の表面のやけどでとどまっている。ただ、自分の精神力がどこまで残っているのかわからないので、肩のところの神経に対して、痛みに対しての神経ブロックをかけた。そして首から肩の方へ比較的傷の深い部分を中心にして、3カ所ばかり治癒の魔法をかけたら、そこで魔力切れをおこした。
「俺ができるのは、ここまでだ。この様子だと、もう平民のやけどの薬はぬっているんだろう?」
「ええ、そうよ」
「けど、治癒の魔法を急がせたというのは、もしかして、ライトニング・クラウドは毒とでも思っていたのかな?」
「あら? 違うの?」
「俺もくわしいことは知らないけれど、稲妻が通ると瞬間的に高温となるから、そこがやけどになるだけで別に毒っというわけじゃないよ」
「ふーん」
そして、キュルケは興味がなくなったとばかりに、タバサの包帯を巻くのを続け始めた。
「しかし、これだけの傷をおったまま、アルビオンにつれていくわけにいかないしなぁ」
そうすると兄が、
「ああ、この街で風石を管理している『シルフィ―』なら大丈夫だろうと思っているのだが、場所を知らなくてなぁ」
俺は、兄の自分が関心を持たないことには、記憶が抜け落ちる性格をよく知っていたはずだが、まさか『シルフィ―』のラ・ロシュール店の位置を忘れているとは。
「船員にでも聞けば知っているのに。場所は倉庫通りのほぼ端っこだよ」
そうすると今度はキュルケが、タバサのやけどに包帯をまきながら不思議そうに
「なんでそんな不便そうなところに、風石の店があるのよ」
「風石を運ぶのに、荷台を風石で軽くしているからね」
「なによ、それ」
「うちの領地は、風石があまりまくっていてね。下手に外国にも売れないし。それなら、運ぶのを楽にしてもらっている」
あっさりと言いのけた俺に、キュルケは唖然としていたようだ。
「それはそうとして、タバサを『シルフィ―』に預かってもらえば、確かに治療も可能だけど、やはりキュルケもついて行くのか?」
「タバサは友だちだし、あなたたちが何しにアルビオンに行くのかすらしらないもんね」
戦力としては、トライアングルであるキュルケが抜けるのは痛いが、仕方が無かろう。
「じゃあ『シルフィ―』へ入れるように、二人分の紹介状を書くから『シルフィ―』に行って。店長はあそこで寝泊りしているから、今から書く紹介状で、寝泊りとタバサの傷の手当ても手配するように書いておく」
そして紹介状を書いて、兄に錬金でワルド子爵家の紋が入った蝋封をしてもらい、キュルケに預けた。
そして、キュルケとタバサの二人は、タバサの使い魔であるシルフィードに乗って、倉庫通りの端の方に向かって飛んで行った。
それを見計らったように、ジャン・ジャック兄さんが、
「お前、あの風の使い手と遭遇しなかったのか?」
「ああ、あれは多分、魔法衛士隊だね」
「……なんでそう思う」
「軍杖の使い方が独特だから」
魔法衛士隊は、王室を護るための隊であり、杖での攻防は攻撃と見せかけて護りとともに、魔法の詠唱にかかる時間をかせぐ訓練が根底にある。他の国の王家の衛士隊もそういう風かもしれないが、チクトンネ街での夜の決闘での相手にしていると、戦い方にもいろいろな方法があるのもわかってきていた。そして、通常の軍人は魔法衛士隊のような戦い方はしない。
「けど、グリフォン隊の隊員じゃないと思うけど」
「なぜ?」
「俺が、剣状の杖を右手から左手に変えても、気にしたそぶりを一瞬ともしなかったからさ」
グリフォン隊のメンバーなら、俺の利き腕は右だと思い込んでいるはずだから、そこで剣を持ち替えたら、何らかの反応を起こす可能性は高い。そしてもうひとつ。
「それに、相手は風の偏在だった」
それは、相手が風のスクゥエアだということを指す。
「偏在だと? よくわかったな」
「相手を倒したら、消えたからね。倒した方法は内緒ね」
「お前のことだから、また、ろくでもない魔法の使い方でもしたのだろう」
ミスタ・コルベールの『爆炎』みたいに、魔法の詠唱を一回ですますのではなくて、複数回の魔法の積み重ねでおこなったから、あたらずとも遠からずかな。
「だって、ラインがスクゥエアにまともな方法で勝てるわけがないでしょう。それよりも、予定より早いけど港を離れて、もう少し考えられる相手の特徴とかきかせてもらえない?」
そうしてワルド、ルイズ、サイト、ギーシュにシモン、それとグリフォンとジャイアントモールを乗せて『マリー・ガラント』号は、港町ラ・ロシュールから離れることになった。
ちなみに今回は、とある理由によって、シモンの使い魔である『レア』はつれてきていない。
寝るまでの間に話したのは、アンリエッタ姫殿下とウェールズ皇太子との手紙のやりとりについて話がもれたのは、魔法学院しか考えられないこと。
ここで、ルイズにつっこまれたが、
「魔法学院だからといって、自由に姫殿下は抜け出せない」
と、ジャン・ジャック兄さんが言った。まあ、ルイズの部屋を知るのに学院長あたりも手伝だっているのだろうが、何人かの魔法衛士隊に見張られていたということかな。
魔法学院なら敷地内に風のスクゥエアがいたなら、寮の外からでも足音や気配を消しながら、耳をそばだてることぐらいは朝飯前だろうということ。
女子寮の入り口ばかり気がむいていて、寮の窓の外とかまで気をつけていなかったのは俺の未熟さだな。
ちなみに、風のスクゥエアの正体はあっさりと兄の推測によってついた。何せ魔法衛士隊にはあと、一人しか風のスクゥエアはいないとのことだ。
カミーユ・ダ・コスタ・ド・レイ伯爵とのことだが、その風のスクゥエアが今回の件で間接的に護衛に動いていて、直接の護衛を行うのが兄とのことだった。他には水のスクゥエアも一緒に今回の護衛任務についていたらしい。
だから、宿で傭兵たちに襲われていた時も、実は留学生であるキュルケとタバサは宿に残して、さらにルイズの警護をするのにあたって、あと一人程度を減らすつもりだったので、他のメンバーが傭兵の後ろから崩すと読んでいたようだった。
タバサが留学生と知っている時点で、学院長となんらかのコンタクトをしたのは確かだな。そもそもタバサは、生徒の間では留学生ではなく、どこかの貴族の私生児と思われているからな。
兄が話をしてきたのは、このあとに残りの二人の護衛がこの船へ隠れるようにしてくる予定だったが、まだきていないということ。
二人ともスクゥエアで、しかも一人は風の偏在が使えるレベルにいるのに、この時間になってもこないのは、二人ともやられたというよりは、ド・レイ伯爵が裏切ったためと考える方が自然だと。
ちなみにフェイスチェンジの魔法が使えるので、顔を覚えても無駄らしい。身体的な特徴をある程度は教えてもらったが、中肉中背だなんて特徴の無いやつだ。
そういえば、遭遇した風の偏在もそれぐらいの背格好だったかな。
さらに問題なのはいつのタイミングで、どのような体制でウェールズ皇太子の手紙を奪い取りにくるのか、予想がまるっきりたてられないことだ。
さっきの様子からこちらにとって最良としては、相手の単独行動で最低限でもこちらの戦力をけずってくるだろうというのが考えられることだ。
最悪は考えたくないな。
悩んでも仕方がないので、用意されていた船室に寝ることにした。
翌朝、起きると同じ船室で寝ていたギーシュは、まだ眠りこけている。甲板にあがってみると、サイトが一人でほぼ水平の位置を見ていた。
サイトが見ている方向は、浮遊大陸アルビオンで、見ているというよりは思いっきり見入っているよな。
俺は、アルビオン大陸を見入っているサイトには声をかけずに、早起きしてきているジャン・ジャック兄さんへ声をかけた。
「おはよう。ルイズは甲板に来ているか知っている?」
「まだ、みていないが」
そうすると、サイトがこちらの話に気が付いたのか、
「ああ、まずい。ルイズを起こさなきゃ」
っと、船の中に入っていった。
「ルイズはまだ上がってきていなかったみたいだね。ところで、あの風の偏在はド・レイ伯爵だっけ? 再度確認するけどすぐおいかけてくると、やっぱり思う?」
「なるべく早くだろうが、同じ風のスクゥエアでも精神力に差がある。のってくる船が風石をよほどつんでいなければ、アルビオンの港街への到着時間で、2時間は差がつけられるだろう」
昨晩話したのと、結論はかわらないようだ。
風の影響を受けやすい空船は、風石を1割ほど多めに積んでいるが、空船乗り達は、それでも、空席に余裕をもって動きたがる。この空船『マリー・ガラント』号は、浮力の力を発揮しない風石を乗せるため、早い時刻に出発するつもりだったのともあり、通常よりも3割ほど多く船をつませていた。
予定より2時間ほどはやくでたが、すでにアルビオンがほぼ水平に見えるということは、風石の浮力を生かすために、早めに風石の浮力の力を発揮させているようだ。
そして、ルイズとサイトが船内から甲板にあがってきたところで、見張りの船員が、大声を上げた。
「左舷後方下部の雲中より、船が接近してきます!」
まさか、もう、ド・レイ伯爵が追いついてきたのかと、側舷に寄って下方をみると、あれは軍船っぽいな。貴族派の軍船ということも考えられるが、期待をしているのは空賊のふりをした王党派の船である。
遠見の魔法を使おうと思ったところで、『閃光』の二つ名に恥じないほどの速さで、
「あの船は空賊だ。旗を掲げていない!!」
ジャン・ジャック兄さんが大声で告げやがった。
確かに空賊の可能性もあるが、普通の商船などを狙うなら、もう少し、それこそ2,3時間後に活動を開始するはずだ。
明らかに通常の航路を外れているこの船を狙ってくるのは、通常は割があわないはずだ。
しかも、相手に対して上にいるこちらにはまだ、大砲は届かない。
そうした中で、兄が
「幸いアルビオン大陸が近くて、相手は後方だ。僕が船を前進させよう」
そう言って、風の偏在を1体だした、そいつに「ウィンド」の魔法を続けて帆に放ち続ける。おかげで、普通なら感じない風を船の進行方向から感じ始めた。
「えーい。この規格外め」
っと、内心で兄のことを思いつつ、後方の船についてはあれにウェールズ皇太子がのっていると思うのだけど確信はないしなぁ、との思いがつのってモヤモヤしている自分がいた。
後方の船はこちらの船足が早まったのを感じたのか、追跡をあきらめた。
こちらの船では安堵がひろがっているが、こちらはさてどうしようかと考え始めている。
確かに王党派の船に会えない可能性は考えていたが、裏切り行為を働いていると思われるトリステイン貴族から追いかけられるのなんて考えていなかったぞ。
アルビオンの港街スカボローについたが、ラ・ロシュールとは違い樹につながるのではなく大地から盛り土をしてある部分に船を浮かせてつなげるという方法をとる。
アルビオンは浮遊大陸なだけあって、水に浮かばせるのは緊急事態だけだ。それもあってアルビオンでの船着き場の構造は大抵このようなつくりだ。
スカボローについてあらためて王党派と貴族派のことを聞いてみたが、ニューカッスルの地で戦況は貴族派が有利というか、もう王党派がおいこまれているとの噂だ。
さて皇太子に会えるまでもってくれるか? っというのと後を追ってくるはずのド・レイ伯爵の対策が有効にできるかどうかだ。
一計を案じてから、スカボローの地からグリフォンにのった兄と、ルイズ、サイト、ギーシュに俺が買うことになった4頭の馬で、攻め込まれていない状態を祈りつつ、ニューカッスルの地にある城へ向かって行った。
空賊船との邂逅は一瞬でした。
本編だと、明朝に、城が攻撃されていましたよね。
着いた時には、落城しているか、していないのか。
2013.09.08:修正
2013.08.02:初出