スカボローの港街から、最初の馬をベースに各街の駅で売り買いを繰り返しながら、ハイペースで走らせている。ルイズの体力が持たないということで、現在はグリフォンにはジャン・ジャック兄さんとルイズがのって、馬は4頭から3頭に減らしている。それぞれの馬にはギーシュ、サイトに俺がのっている。半分は馬を駅で売買するのに、時間をついやしたくなかったために相手の言い値で差額を払っていたのもあるのだが、ここまで馬にのりだしてからニューカッスルまでとの間にある最後の街だ。
追ってくるであろうド・レイ伯爵は、ヒポグリフ隊副隊長でしかも風のスクゥエア。こちらで相手をするのなら兄だろう。なので本来ならグリフォンにも負荷をかけたくはないのだが、ルイズを別の誰かと一緒にさせたかった。そしてこの中で体力がここまでまともに持つものは俺も含めて兄以外にはいなかった。
ただ少々気にかかるのは、ジャン・ジャック兄さんとルイズが先頭で、俺が最後方なのでその話している内容が聞こえないことだ。
ルイズのそぶりからは頬を赤らめるとかはなさそうだから、変な誘いはかけていないと思うのだが。
今の段階で最悪なのは、貴族派に待ち伏せされて後ろからおってくるド・レイ伯爵との挟み撃ちになることだが、スカボローでの小細工は伝書ふくろう屋にトリステインの貴族が伝書ふくろうを頼みにきたら、遅らせて出発させるか遠回りする性質のふくろうを使うことで金を握らせたことだ。
失敗してもともとだというのもあるが、スカボローの港街に諜報活動をしている貴族派は、この時期はまだ少ないだろうという見込みもある。
多くなるのは、アルビオンの内戦が終わった後だと。
ニューカッスルまでの最後の街では、貴族派に属すると思われる軍人などもいたが、物珍しげに、こちらをみているだけで捕まえにくる気配はなかった。
おかげで、この街からニューカッスルの城へまっすぐ向かうルートではなく、多少は時間がかかるが別のルートを街の人間から聞くことができた。
ド・レイ伯爵の狙いは、今となってはルイズがもっているアンリエッタ姫殿下の手紙だけだろう。これでクロムウェルが虚無と称して、偽りの命を与えている『アンドバリ』の指輪によって、ウェールズ皇太子を生き返らせてアンリエッタ姫殿下からの手紙から、何らかのヒントを得ると考えているのではないか。
俺の周りにはこの想定はまだもらしていないが、アンリエッタ姫殿下からの手紙には、ゲルマニア皇帝との結婚を妨げる、致命的な内容は書かれていないと思う。
なので、先の推論となるのだが、あくまで推論でしかないしなぁ。
ニューカッスルまでの道中、分かれ道で遠回りの方を選んだ。これは、先の街で教えてもらった道だ。急いでいると思われているのなら、待ち伏せされたとしても人数は少ないだろうとの兄の弁だが、まあド・レイ伯爵は撒くことができただろう。
そう思って数分後、それは甘いことを思い知らされた。
後方から、ヒポグリフに魔法衛士隊のマントを羽織った人物が乗っている。
「ジャン・ジャック兄さん! 残念ながら、撒くことができなかったようだよ。あれはド・レイ伯爵でしょ?」
「そうだな。ルイズは使い魔くんの馬に乗るがいい。しかし、なぜこちらの道に気が付いたのかな?」
「あまり、気にかけていなかったけれど、あの飛んでいる白鳥って、もしかすると使い魔?」
「ありうるな。奴は風のスクゥエアだが、水も使う。水鳥である白鳥はたしかに奴の使い魔かもしれない」
そう言っている間に、ジャン・ジャック兄さんとグリフォンを抜かせてもらった。
兄のグリフォンが止まって、ド・レイ伯爵を待っているが、残りの俺たちはその様子を見ながら先に進んでいると、奇妙なことが始まった。
戦うかと思ったが、少し話会うのもよかろう。だが、なんと、一緒にこちらの方に来た。
なんでだ?
俺は密かにドットの魔法を小声で唱えておいた。こちらの全員が待っていると、兄とド・レイ伯爵が着いた。兄が、
「どうも、こちらが誤解をしていたらしい」
「昨晩は船に間に合うつもりだったのだが、風の使い手に邪魔をされて、さらに護衛にあたるもう一人の隊員が大傷を負わされて、それをかばいながら戦っていたら、船が動き始めるのを見て、同じ船に乗るのはあきらめたわけだ。もう一人は護衛にあたるのは無理だからラ・ロシュールの宿へ預けてきた」
生死は不明か。生きていたとしても、この場所ではわからないしな。そして、疑問点を俺は聞いてみた。
「あの白鳥って、ミスタ・ド・レイの使い魔ですよね? それを船に飛ばそうとは思わなかったのですか?」
「残念ながら、僕の使い魔は夜目がきかなくて、無理だよ」
確かに言われてみると、そうかもしれない。
「兄から聞いていたのは、離れて護衛をするとのことでしたが、なぜ今になって身近なところにきたのですか?」
「それは、僕から話そう」
兄が、ド・レイ伯爵より先に話し出した。
「道中ならば確かに離れていてもよかろうが、そろそろ本格的に相手の中を突っ切ることになる。そのための盾となってくれるとのことだ」
「ジャン・ジャック兄さんは、同じ魔法衛士隊として信用をしているのかもしれないけれど、俺は昨晩襲ってきたのと同じ風のスクゥエアでしかも偏在が使えるという、ド・レイ伯爵を信用しきれないんだけど」
「いや、昨日の奴とは明らかに気配が違う。それに今見てみると、昨日の奴の方が少し背は高かった」
兄がこまったような顔をしながら話をしてきているが、俺もそこまで絶対に違うとはいいきれない。ギーシュあたりは本気で俺の方の頭がおかしいんじゃないかって、雰囲気をかもしだしているな。
俺は昨日の様子を思い出してみて、一つ注文をつけてみた。
「昨日、相手と対峙したときに相手はエアストームの詠唱に入っていた。ド・レイ伯爵の風の偏在で、エアストームの詠唱をおこなってほしいのだけど」
今すぐには正体を現さないだろうと思ってのことと、兄もいることだから何かあっても対抗はできるだろうと思って妥協案をだしてみた。
「さすがに、偏在は1体しかだせないから、僕自身のエアストームの魔法で勘弁してもらいたいのだが」
「そうですか。1体しかだせないというのなら、しかたがないですね」
俺は鷹揚に言いながら、ド・レイ伯爵がエアストームの魔法の魔法の詠唱に入ったのを聞いてから、自分の速度で、錬金の詠唱を呟いていた。そして、俺が呟き終わったところで、
「ド・レイ伯爵、もう、詠唱はいいですよ」
「えっ?」
伯爵は思いがけなかったのだろうが、昨日の相手が詠唱していた部分にたいして8割に達しているかどうかの詠唱速度だ。
「兄さん、ド・レイ伯爵の詠唱速度って、これくらい?」
「ああ。そうだな」
詠唱速度は、固有の速度があって、それを軍人とかは詠唱速度を徐々に速めていく訓練をしていく。速くしていったものを元の遅さまで詠唱する方は容易だが、速く詠唱ができても体内の精神力が魔法として発揮できないので、訓練が必要だ。多分、ド・レイ伯爵は軍人として魔法の詠唱速度を上げる訓練を受けるのが遅かったのだろう。そのことを感じ取ったド・レイ伯爵への疑いは晴れたが、多少は複雑だろう。
だが、何かはひっかかる。しかし、今はド・レイ伯爵のではなさそうだと感じているので、そこはいったん、思考をおいやって、
「疑って、すみませんでした。昨日の相手が、風のスクゥエアでかつ軍杖の使い方が魔法衛士隊に似ていたので」
「それは俺も思った。しかたがなかろう。それよりもニューカッスルに早く入ることだな。昨日の相手がここに直接来ていない以上は、伝書ふくろうか何かで、すでに伝わっているかもしれない」
「そうだな。どちらにしろ早めにつくようにして、まずは陣形を確認することだな」
兄がそう言った後に、ルイズはふたたび兄が乗るグリフォンへと移り、ド・レイ伯爵が先頭となって、ニューカッスルの王統派の陣となっているという噂の城へなるべく早くと向かった。
その場所に着いたのは、まだまだ日も高い時間帯。
トリステインから来た皆が集まった中で、ド・レイ伯爵は話し出した。
「使い魔からの視界で見ると、城の大砲は距離が飛ばせるのか、貴族派の陣と城との間は1リーグ以上ありそうですね」
「さっきの貴族派の陣が休憩をとっているような感じなのを合わせると、今晩か、明日あたりにでも最終攻撃をしかけようとしているのかもしれないな」
ド・レイ伯爵と、兄が、地表に簡単な図を描きながら話しているのを、魔法学院組は聞いている。
「やはり、貴族派の陣を駆け抜けていくしかなかろう」
「そうですね。わたしもそれが良いと思います。もちろんトリステイン王国の国旗を掲げてですね」
せっかく、アルビオンの王党派を追い詰めたのに、トリステイン王国の国旗を掲げた貴族に攻撃をしかけたならば、戦争で疲れているアルビオンにトリステインが攻め込む口実を与えると多くの者は考えるであろう。貴族派でもトップになっているレコン・キスタは、また違う見方をするかもしれないが、まだそこまでは頭はまわっていないと信じたい。
「できたら、ジャン・ジャック兄さんの風の偏在を、全員の後ろに乗せてもらいたいのだけど。そうすれば、特にこのアルビオンなら、風のスクゥエアだと気が付くだろうから、むやみに攻撃はしかけてこないと思うのだけど」
逆に、功名心から狙ってくる輩がいないとは限らないが、とっとと駆け抜けてしまえば、そこに気が回るまで時間はかせげそうだし、この休息の時間帯だと思われる時に、わざわざ王党派と貴族派の陣と陣の間までおいかけてくるとも思えない。
「それも一考の価値は有りだな」
少々、話があったあと、一気に城へと先頭をグリフォンに途中が馬3頭で、最後にヒポグリフという形で走り抜けた。全部に兄か、兄の風の偏在がのっている。まあ、ド・レイ伯爵を完全には信用していなかったというのもあって、風の偏在案をだしたというのが真相だったのだが、これで城までは安心だ。
そして、城では城門が閉まっているかとおもっていたら、こちらがトリステイン国旗を掲げながら走っていたのを確認したのか、城門は開いていた。
ただし、城門を潜り抜けたら大勢の兵士が杖を掲げてまっていたのだが。
だが、そこはそれ、本来は城門の前で門を開けてもらうのに、口上を述べる必要があるかと思っていたので、兄がルイズに何か一言をかけたら、
「トリステイン王国より大使として、まいりました……」
そこまではルイズも言うことはできたが、城門を開いた後のことが思い浮かばないのだろうか、口上が続かない。
そこで、兄が続けて、
「アンリエッタ姫殿下より、ウェールズ殿下に密書を言付かってまいりました」
まあ、城門外でこの言葉は使いかねたから、ルイズもすぐにだせなかったのであろう。そうするとまわりを囲んでいた兵の中から、壮年の男性がでてきた。多分、この中での隊長格なのだろう。
「トリステイン王国からの大使とは。すぐに中に伝えます。しかし、はるばる来ていただいてまことに申しわけありませんが、このような小城ゆえに、しばらくその場で待っていただきたい」
小城というのは事実だが、城門の中まではくぐれたが、城の外である庭で待たせるというのは完全には信頼されていないのであろう。
「それから風のスクゥエア殿がいらっしゃるようですが、風の偏在を消していただけないであろうか」
「そうしましょう」
兄の風の偏在が4体分消えたときには、一部の兵からため息が聞こえてきた。さすがに風の偏在を4体いっぺんに出せるのは風のアルビオンといってもほぼ見かけなかったのだろう。今朝風の偏在を使っていなかったら5体だせるんだろう。
それとともにこちらも馬などから降りた。これは城の中庭が広くは無いとはいっても、移動速度が速いので、敵意が無いことを相手に知ってもらうための方法のひとつだ。
沈黙が続く空間の中に、先ほどの壮年の兵に向かって若年の兵がきて、耳打ちをしている。そして、壮年の兵が、
「お待たせいたしました。ウェールズ皇太子のところまで、案内いたします。大使殿。つきましては、お名前をうかがわせていただけないですか」
兄がそれぞれを紹介していって、それで城の中へと案内されていった。まあ、兵士たちもぞろぞろとついてきたがしかたがないだろう。
そして、城主の謁見室のようなところに入ったところの部屋の奥には、りりしい感じの金髪の青年がいた。ウェールズ皇太子のところまで案内されたのだから、その青年がウェールズ皇太子なのだろう。
「アルビオン王国へようこそ。きみたちのようにこの戦乱の地へくるような勇敢な貴族が、私の親衛隊にあと十人ばかりいたら、このようなみじめな今日を迎えることもなかったろうに! して、密書とやらを預かってまいったときいているが」
ルイズが手紙を胸のポケットから手紙をだして、うやうやしくウェールズ皇太子のもとへ近づき、一礼をしてから手紙を手渡した。
その手紙を受け取ったウェールズ皇太子は、周りの目も気にせずの手紙の花押に接吻をした。それから、中の便箋を読み始めたあとに
「姫は結婚するのか? あの愛らしいアンリエッタが。私の……従妹は」
兄が無言で頭を下げ肯定の意を表したところ、皇太子は最後まで手紙を読んだらしきところで、
「了解した。姫の望んでいるものは、私の居室にある。なるべく少人数で受け渡しをおこないたいので、私の居室まできていただけないだろうか」
最後までついてきてくれている兵士たちとはいえ、全ては語れないのであろう。こうして大使としてルイズに、その使い魔であるサイトと、護衛として一番最高位にいる兄が、皇太子たちに付いていった。
残された俺たちだが、俺は近くにいる中で、比較的年配の兵に、
「すまないが、トリステイン王国の一貴族として、アルビオン王国の中でなるべく地位の高い方に手紙を預けていただけないだろうか。ただし、ウェールズ皇太子以外で」
手紙を受け取った兵は、ウェールズ皇太子以外というところで、不思議そうな顔をしたが、
「私の直属の上官にまずは預けましょう」
「すまない。恩にきる」
ウェールズ皇太子を助けられるかどうかがわからない以上、中身を皇太子に見られると、後でレコン・キスタにしられるとまずいことも書いてある。
ウェールズ皇太子を説得できるかなぁ。皇太子を救えても救えなくても、どっちとも頭が痛くなりそうな気にしかならないぞ。
さて、このあとは、一泊するんですかね。
2013.09.08:修正
2013.08.10:初出