陰に潜む者は   作:烏鷺烏鷺

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第13話 ニューカッスルの決戦前日

ルイズ、サイトにジャン・ジャック兄さんがウェールズ皇太子の居室に向かって、ギーシュ、ド・レイ伯爵はこの謁見室らしきところに残っていたが、少々時間がたってから背の高い老メイジとともにルイズたちがもどってきた。その老メイジが

 

「トリステインからの大使殿。殿下の侍従を仰せつかっておりまする、バリーでございます。たいしたもてなしはできませぬが、今夜はささやかな祝宴がございます。是非とも出席くださいませ」

 

俺は念のために兄を見るが、首を盾に軽く振って祝宴に出席する意向を伝えている。こちらに残っていたうちで一番身分の高いド・レイ伯爵がそれに出席する旨を返答して各自、今日泊まる部屋へ案内された。

 

城が比較的小さいこともありルイズとサイトが同じ部屋で、その隣の部屋にギーシュとド・レイ伯爵、反対側の部屋にジャン・ジャック兄さんと俺が泊まることになった。

 

部屋についたあと兄に、

 

「泊まるというのはなんとなくわかるのだけど……」

 

少なくとも兄の偏在は、さすがに打ち止めだろう。それゆえに無理に脱出するのではなくて、脱出すにあたってもアルビオンの下部を通るか別なところからでも脱出するというところだろう。

 

「祝宴って?」

 

「そのあたりは一度全員にまとめて話をするから、各部屋に行ってこの部屋に集まるようにしてほしい」

 

「了解」

 

確か明日の昼とかが決戦とか通告されて、その前の宴だったよなっと、記憶をたどった。一同が、集まったところで兄が話したのは、先に思い出したことそのものだったが、祝宴の時間まではまだ数時間がある。

 

今回の城から脱出するのは『イーグル』号のみだ。俺が前世の記憶で残っているのはもう1隻あるはずだったのが、今回は1席少ない。しかも火の秘薬となる硫黄もその1隻が運んできたはずだから、今回の最後の戦いでは少ないであろう。そして脱出の際には大使としてきている俺らへ優先的に『イーグル』号へ乗せてくれるであろうが、後に残るものを単純に見殺しにする気になってしまう。俺はシルフィ―での実験をもとにした方法を提案してみることにして、この部屋から近い兵に

 

「この城から、なるべく多くの女子どもを脱出させるための方法を考えついている。それを伝えたいのだが、それを指揮できる方と、土系統の魔法を使える方と話をしたいのだが」

 

アルビオンにおいては土系統のメイジは少ない、っというのは知っている。だが、土も使えるメイジならば、できる方法をつたえるつもりでいた。

それなりの地位の者が来てくれたので簡単に説明をして、それでもまだ理解しきれないその二人とギーシュのために、港となる地下深くまで一緒に行った。

 

そして港で聞いてみた。

 

「ここは固定化の魔法で、周辺を固めていないですよね?」

 

「城そのものはともかく、ここらあたりでそれはしていないですよ」

 

その言葉に安心をした。先ほどの説明した場所では固定化の魔法がかけてあるためにできなかった、ある実物を錬金の魔法で作って見せた。

 

前世風にいうとパラシュートと、気球のまざったような性格のものになるだろう。

俺がおこなっている実験船の元のアイデアからきているもので、落下する場合には空気を受けとめるように広く開いた青銅でお椀を逆さ何したような形をして、下部は縦に線上に結びつつ、それを補強するようにらせん状に巻いた青銅の板に、箱をつなげたようなものだ。これならドットのメイジでも作れる。

 

気球にも近いが気球のように通常の空気より軽い気体を用いるのとは違って、風石を用いたものだ。敵からまともにみつかったら狙い撃ちされるかもしれないが、アルビオンの真下へ降りていくことになるのと、うまくすれば下へ行くほど海から陸への海風(うみかぜ)を利用できる時間帯でかつ、そこにいくまでは風が無い凪(なぎ)の状態である時間帯を選べば、狙われる可能性も少なくトリステイン王国内陸部へ行けるであろう。

 

この気球もどきをつくって地下深くにある鍾乳洞の港で、浮遊が可能であることの実験をして見せる。これで土も使えるメイジが、城から脱出するための、この気球もどきをつくり始めた。

まあ着地の寸前には、フライ、レビテーション、念力なども必要だろうが風系統のメイジが多いこの国では、そのあたりはさほど心配しなくても良いだろう。

 

疲れるのはギーシュの使い魔であるジャイアントモールで、ヴェルダンデをトリステインに戻すこと。各街で降り立った時には足の感覚で追いついてきているらしいことはわかっていたが、あまりに重たいので最後のラ・ロシェールへ戻るところで、兄たちに手伝ってもらう必要がありそうだ。

 

そして作っていくところを見ているのと、上昇下降と、この乗り物から降りる際の注意点をみているところで、老メイジのバリーがやってきて声をかけてきた。

 

「ミスタ・ワルド。陛下がお会いになりたいそうです」

 

渡した手紙の内容か、最終的に判断できるのは、アルビオン王しかいないと考えていたが、お会いになるではなくて、なりたいか。俺はそのニュアンスから、ここの王の性格次第では虎の尾をふんだかもと、少々憂鬱になったがそんなそぶりを見せないようにして、

 

「ミスタ・バリー。貴方についていけばよろしいですか?」

 

「その通りでございます」

 

俺はそのままバリーについて行き、3階と思われるある一室の目の前にきた。そこには衛兵が二人たっている。その二人はバリーの姿を確認して、

 

「陛下がお待ちしております」

 

「ふむ」

 

部屋のドアを開けられて、バリーが入った後に続いて俺も入ったところで、ドアは閉められた。

そこにはベッドの横の立派な椅子に座っている老人が王冠をかぶっている。アルビオンの国王なのだろう。その国王へ向かって一礼をした後に国王が、

 

「バリー下がってよろしい」

 

「お二人になりますがよろしいのですか?」

 

「かまわぬ」

 

バリーが一礼をして部屋から出ていくと、一応、大使格待遇なんだよなと立っていたところ、老王が呪文を詠唱しているのに気が付いて一瞬、緊張したがそれはサイレントの呪文だった。そして老王が声をかけてくる。

 

「ミスタ・シモン・トレ・ビュルガー・ド・ワルド。お主が届けた手紙は拝見したが、これは本当の事かね?」

 

「すべては事実。っと言いたいところはありますが、多少は推測も入っております」

 

「その推測の部分とは?」

 

「ロマリアがエルフそのものを、敵視していないということです」

 

俺の推測では、エルフがこちらにとっての聖地奪還を邪魔するのから敵対しているのであって、それさえしなければ、初代ガンダールブがエルフであったことからしても、エルフだからといって、単純に敵対するつもりまでは無いと思っている。

 

「なぜ、そう思うのかね?」

 

「我々は、聖地奪還を掲げることはあっても、エルフの根絶をかかげたことはありません」

 

「それは、エルフ全員が強力な魔法使いであり、優秀な戦士だからではないかね?」

 

「……始祖ブリミルの使い魔の一人がエルフだからですよ」

 

交渉をするのにいろいろな方法はあるが、俺がえらんだのは素直に思いや考えていることを告げることだ。

 

「始祖ブリミルの使い魔がエルフじゃと!」

 

「ええ。ロマリアでも教皇に近きものしかしりませぬ」

 

「お主は、なぜそれを知っているのだ?」

 

「ダングルテールの虐殺。ダングルテールはアングル地方の一部ですが、現教皇の母親がそこへ逃げ込んだ時に、もっていた資料が流れてきたのです」

 

もちろん経緯は口からでまかせだが、デルフリンガーがあることから、エルフである……誰だっけ? ともかく、彼女が作ったのであろう。

 

「……そうだとして、なぜ、お主が書いている者へ、始祖のルビーと始祖のオルゴールをたくさねばならぬ?」

 

「お言葉ながら、まずはお断りしておきますが、ウェールズ皇太子が亡命をなさらなければの話です。それは手紙の最初に書いておりますが」

 

「現状の王家に従わぬ貴族が多数である以上、ウェールズを亡命させて再興にいたったとしたとしても、ウェールズへ直接に刃を向けた貴族たちは気まずかろう。この地が平安になるのには時間がかかりすぎる。ゆえにお主に聞いておる」

 

つまりウェールズ皇太子では、王権を認める貴族が少ないということか。そこまで王が言ってくるということは、俺も腹をくくらないといけないか。

 

「たくすのは虚無の担い手です。虚無の担い手が虚無の担い手として自覚するには、始祖のルビーをはめ、始祖のオルゴールでその調べを聞く必要があります。私の監視内にいる虚無は担い手としては目覚めておりますが、担い手としての自覚をもっておりません。担い手として自覚するのには、始祖のルビーと始祖のオルゴールをもっている必要があるのでしょう。そして系統魔法と異なる魔法を見せられ、いや、感じさせられた多くの者は語りかければ、系統魔法とも先住魔法とも異なる魔法だと気が付く者が、多くでてまいるでしょう。例えば命令された内容を忘れてしまう者が続出するとか」

 

「先住魔法との区別は?」

 

「そのものが、魔法を行使するのには杖が必要でございます」

 

大公の一家を捕まえにいった時のことを思い浮かべているのか、老王は沈黙を保っていた。俺が暗示としてティファニアを出しているのは、ティファニア自身を王家に入れるのではなくて、その後ろ盾になる貴族が欲しかったからだが老王からでてきた言葉は、

 

「始祖のルビーをウェールズよりお主へ直接託すのは、貴族派『レコン・キスタ』に気が付かれるであろう。お主にたくすのか、それとも他の方法をとるのか考える。始祖のオルゴールは、現在どこにあるのか私は覚えておらぬ。バリーにでもさがさせよう」

 

「ありがとうございます。それで、結構でございます。ところで恐れおおいながら、ミス・マチルダ。元シティオブサウスゴータの太守の娘を、貴族として復権させる件でございますが」

 

「それもよかろう……しかし、お主の私心は誰が、保証するのかの?」

 

意地悪そうにしながらも、笑いながら問いかけてくる。

 

「始祖ブリミルに……と申しても、ここまで話した以上は、信じてはくれないでしょうね。ただし、あまりにやりすぎれば、ロマリアが私を狙ってくるでしょう。それでいかがですか」

 

その言葉に老王は満足したのかサイレントを解いて、バリーを呼んだ。

 

「話は終わった。始祖のオルゴールについてわかることがあったなら、その者に伝えよ。特に存在している場所がわかれば一番よろしい」

 

「御意」

 

バリーの内心はわからないが、王の言葉をそのままうけとったのはわかる。そして、『アンドバリ』の指輪によって、生き返らせたという話は信じてくれたんだろうな。あまり有名な話じゃないけれど、3年前のラグドリアン湖での園遊会でも、そんな話がでたのであろうか。

 

「あと、今宵の宴は盛大に行うのだ」

 

「それは、もう残りの食材は、明日の分を残してすべて使う予定でございます」

 

「ふむ、よろしい。ミスタ・シモン・トレ・ビュルガー・ド・ワルドも、今宵の宴を楽しんでいってくれ」

 

俺は軽く一礼をして、承諾の意を示した。

 

 

 

残った老王であるジェームズ一世は、

 

「ハーフエルフの姪が虚無の担い手だと。まことか、どうか……」

 

しばらく考え込む老王がいた。

 

 

 

夜の宴は、王党派の貴族は園遊会のように着飾って、最後の晩餐を楽しんでいるようであった。

俺は生ぬるいビールを飲みながら、ユーモアのきいた話をしてきて、最後にアルビオン万歳!っとどなって去っていっては入れ替わる貴族たちを相手にしていたところ、ルイズがこの雰囲気に耐えられなかったのか、ホールから去っていくのがみえた。サイトもそれをおって、出て行った。

兄がホールにいるのは確認したが、ド・レイ伯爵が見当たらないっと思ったらホールに戻ってきたか。

もし彼がレコン・キスタだとしても……証拠は無いがなんか感にひっかかるんだよあ。

 

話では誰かかれか見ているところに俺たちはいることだし、使い魔の白鳥も庭の水場でおとなしくしているとの話だしな。

こっそりとついてきた衛兵にちょっとばかり真相を聞いただけだ。禁呪のギアスの魔法でだけど。幸い普通の学生だからと思ったらしく、さほど強くないのが相手として見張りにつけられてよかった。

 

パーティの方はそろそろ、同じように話をしているのもあきてきたから、魔法学院のパーティでも時々行っているように、窓の外でのんびりとホールの中をみながらビールを飲んでいた。

そうすると、寄ってきたのは、ウェールズ皇太子。

 

「どうしたのかね? こんなホールの外で」

 

「こういう明るい雰囲気はその場にいるより、眺めている方が好きでして」

 

「君といい、ラ・ヴァリエール嬢の使い魔が人であったり、トリステインは変わった国だな」

 

ウェールズ皇太子は明るく笑いながら言った。そんな皇太子に俺は軽い口調で、

 

「トリステイン王国に亡命でもいかがですか?」

 

「君たちトリステインの者は、同じようなことを言うのだね」

 

「そうでしたか。ただ、亡命というよりはウェールズ皇太子が我が国の王となり、アルビオンを貴族派『レコン・キスタ』から取り返したあかつきには、トリステイン王国の王家に近い方を、アルビオンの王になってもらう方法もあると思うんですけどね」

 

「そんな冗談を」

 

「そうですね。こんな酔っぱらいのたわいもない話に、つきあっていただきありがとうございます」

 

ウェールズ皇太子に冗談扱いにされたのと、俺自身も先ほどの老王との話から、ちょっと思いついただけなので、そこまで本気で話したわけでなかった。先に皇太子にあったのなら、言う言葉は違うはずだったが。

 

ウェールズ皇太子が座の中央にもどっていったのを機に、俺もホールを抜けて、明日あるかもしれないレコン・キスタの誰かとの戦いにそなえて、精神力をためておくために用意された寝室に行くことにした。

 




老王であるジェームズ一世とは、こんなに長く話をする予定じゃなかったのだけど、さて、明日は、無事に脱出といきたいもの。

2013.08.17:初出
2013.10.31:改版
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