翌朝起きたとこ、同じ部屋に泊まっていた兄は、すでに着替えの最中だ。
「おはよう、ジャン・ジャック兄さん」
「ああ、おはよう、シモン」
俺もパジャマから魔法学院での制服に着替えながら、
「いよいよ今日はトリステインに戻るけど、一昨日の晩の風のスクゥエアって動いてくると思う?」
「帰りのコース次第だな。ラ・ロシェールに立ち寄れば襲われる可能性は高いだろうし、往路と異なるコースで王都に帰れば見つかる可能性は少なかろう」
「トリステインから、もしアルビオンに追ってきていたとしても?」
「あくまで、可能性の問題だ」
そう言われると反論のしようもないし、無理にするまでもないだろう。
今日の脱出は『イーグル』号が最初に出航し、それから少し間をおいてから、俺が作り方と使い方を伝えたパラシュートと気球の合いの子みたいな乗り物が続くことになった。俺たちは海風が強くなりやすい、最後の脱出を選択することにした。それでも、貴族派『レコン・キスタ』が指定した攻城の時間より、2時間以上は早くアルビオン大陸の下から空中へでられるはずだ。
朝食後の『イーグル』号が出航するまでに50台近くにおよぶ、パラシュートと気球の合いの子みたいな乗り物の目視チェックをしていた。そうするとバリーが来て、
「ミスタ・ワルド。王よりご用命の件でございます」
そう声をかけられたので、ここにいて大勢の前で聞くよりは、上にあがって聞くのがよかろうと思い、
「上できかせてもらった方が良いよね?」
「ええ。その他の件もありますので」
その他の件、ってなんだっけと、ちょっとぼけていたかもしれなかったが、一番欲しかったのはマチルダの貴族への復権の件だったが、他の2件はどうなるかと思いながら、
「それじゃあ、上へ」
バリーの後について上へ行ったところで、とある一室というかそこは誰かが住んでいた空き部屋のようだった。
「このような部屋で申し訳ございませぬ」
「戦争と脱出の準備の最中なのに、こちらこそ個別の部屋で話をきかせてさせていただけるようで助かります」
まあ、社交辞令みたいなものだ。
「お渡しいたすものは2通あります」
「2通?」
「はい。1通目は、ニューカッスルを収める貴族としての任命書でございます」
「この地の領主はまだ生きているのと、家族はトリステインに脱出させているのじゃないのか?」
マチルダがまかされるのは、シティオブサウスゴータだとばかり思い込んでいたので、疑問に思ったから聞いてみた。それにあとでここの領主の問題に巻き込まれるのも、マチルダもこまるだろうし。
「ここの領主は若くして、まだ独り身ですから」
「そうですか」
「王からは人が多い街であるシティオブサウスゴータよりも、こちらの方がその方にとって動きやすいのではないかとおっしゃっていました」
うーん。マチルダ自身が元盗賊のフーケだったことは、さすがに知らないだろうから、テファが王家の血筋にあたるということで、王家の血筋をより多く残す選択をしたのだろう。そこから後はマチルダ次第というところもあるだろうが、4年もかくまっていたので信頼はしてくれたのだろうな。
俺がだまっているとバリーが、
「それでは2通目ですが、始祖のオルゴールの場所についてです」
「ありがたい」
「なおこの2通目は、このあとに行われる、大使殿への始祖のルビーのトリステイン王家への預かっていただく式で渡す文書の写しとなっております」
「そういうことは、始祖のオルゴールは、この城にはなかったのですね?」
「財務監督官に預けてあるのまではわかっていましたが、再度、今残っている者にきいてもそのあとはわかりませぬ」
「いや、ありがとう。ところで式って、先ほど言ってましたよね?」
「ええ。戦争まで、まだ少々のお時間がとれますので簡単ながらおこなわせていただきます。貴方様もご参集願います」
聞いてねェっ、と思いつつも承諾をした。
まあマチルダの貴族への復権がアルビオンで認められるかも、それほど自信はなかったし、始祖のルビーや始祖のオルゴールが手に入れば儲けものぐらいだったのと、少なくとも始祖のルビーはトリステイン王家へ行くってことは、俺のところにこさせるのにはテファをトリステイン王国で王家の血筋と認めさせないといけない。俺自身が持つのではなくて、テファにいかせるのが目的なのだからそこはいいのだが、まずはアルビオンから出ていくので良しとしよう。
今の場所は、この城の謁見室。
ウェールズ皇太子がルイズに封書を2通と、始祖のルビーを託している。俺はその中で、ギーシュの後ろに並んで、ルイズの右後方を見る形になっている。そして兄は俺の左前方で、その後ろにド・レイ伯爵がいる。
俺がこの部屋に入った時にギーシュの横ではなく後ろについたので、このような配置で立つことになった。
ド・レイ伯爵が後ろにいるのも嫌だし、ななめ後ろであっても観察できない。それに対して真横か、ななめ前にいてくれればその挙動を観察できる。
そしてこの部屋にいるアルビオン王国側は、ウェールズ皇太子の横にバリーと、他に衛兵が壁際に左右にわかれて6名いる。衛兵の人数は少ないが、戦争準備の最中に略式の受け渡しだからこんなものかな。
「大使殿の帰りは無事にすみますように」
こうして式も終わりを告げることになった。
しかしそこで兄が、
「いえ、まだ目的は達しておりませぬ」
ま・ま・まさか!
この部屋にいる皆が頭をひねらせている中でルイズが、
「目的?」
「そうだ。この旅における僕の目的は2つあった」
俺の中でふくれあがってきた疑いは、ますます濃くなっていく。
「1つ目の目的は、ルイズ、きみのポケットに入っている、」
「皆、兄から離れろ! レコン・キスタだ!」
俺が言った言葉に、皆は反応できていない。反応していたのは俺を除いて2人だった。
俺はギーシュを壁側につきとばしていた。
反応していた1人はサイトで、ルイズを両腕で抱えて壁の方に離れていこうとしている。残念ながら、俺たちとは反対方向だ。
そしてもう1人は兄で、
「シモン。お前は昔から最後まで話を聞かずに、推量をしていた子だったな」
「間違っていたかな?」
兄さんは首を横にふりながら、
「いや、間違いは少なかったな」
「っということは、レコン・キスタだと認めるんだね?」
俺の中で、昔からの兄とのやりとりから確認作業になってきた言葉だ。
「そうだな。折角、昨日あたりから俺を疑う感じがなくなっていたのにな」
そろそろ動き出してきたアルビオンの衛兵の中だ。正直、俺らも『レコン・キスタ』だと言われなくて良かったと思う。そこはプライドの高いトリステイン王国の貴族だからであろう。そうしてまだ話は続けた。
「もしかとは思うけど、まさか、ド・レイ伯爵もレコン・キスタかな?」
兄は答えずにド・レイ伯爵を見る。それを確認した伯爵は俺を見て、
「ここまできたなら……認めよう」
そう言った瞬間に俺は両手に杖を持ち、利き手である左手のタクト状の杖でブレイドの魔法を行い、俺自身が普段の魔法衛士隊での訓練で見せる以上の速度で、一番近くにいるド・レイ伯爵へつっこみながら突きを放った。それをド・レイ伯爵はバック・ステップしながら払いのけながら、おれのサーベル状の杖からの一太刀を受け止めてみせた。それでもド・レイ伯爵の詠唱はとまらない。かといって、俺もブレイドに続けて別な呪文をとなえているから、お相子だというかド・レイ伯爵の詠唱が昨日より速い。詠唱の速さは一昨日の風の偏在とほぼ同じだろう。ウィンディ・アイシクルを唱えていやがる。俺の予想と違う魔法だったが、それでも俺が詠唱している魔法はまわりへの助けになるはずだ。
何合かブレイドとサーベルを振りながら、それをさばくド・レイ伯爵の腕前に舌をまきながらも、俺は詠唱を完成させたので右手の杖を魔法のために振る。
唱えた魔法は錬金で、室内に白い煙を薄く張る。これで風系統の見えない魔法も、煙を巻き込んだり、切り分けて進んだりするので、純粋な風系統以外のメイジにとっては、風の魔法を目視できるので便利なはずだ。
俺はきりがなさそうなド・レイ伯爵を斬りつけるかのようにダッシュをしたが、かわされたのでそのまま走り抜ける。近くでウィンディ・アイシクルなんて魔法はさけきれんわ。
その後、俺は近くによったルイズとサイトに小声で、
「ここを脱出して、はやめに出航するぞ」
「敵に後ろをみせるなんて!」
内容は内容だが、さすがに小声で返してくる。俺はド・レイ伯爵に兄も見据えながら、
「そんな家訓より、今はアンリエッタ姫殿下の依頼の方が重要だろう。それでも残ると言いはるなら、アルビオンからの手紙類をいっさいよこせっ!」
「……姫殿下のためなら、いいわよ」
「じゃあ、ドアへむかうんだ」
俺は話が終わったあとに、ルイズたちをカバーするように動きながら、ド・レイ伯爵のウィンディ・アイシクルに対応できるよう、次の魔法の詠唱にはいったがウィンディ・アイシクルによる大量の氷の矢は、アルビオンの衛兵にむかって放たれていた。昨年の春に遠見の魔法で見た、タバサとキュルケの決闘での氷の矢より数がさすがに多そうだ。
そしてド・レイ伯爵のトライアングルスペルであるウィンディ・アイシクルに対して、兄は詠唱にもっとも時間がかかる風の偏在を5体完成させた。兄の本体を入れて6体、アルビオンは老メイジバリーまで入れて7人。これで、まともな戦いではウェールズ皇太子に勝ち目がないだろう。
俺はウィンディ・アイシクルに対応させるために詠唱させていた魔法をそのまま完成させていた。炎のムチだ。狙ったのはやはり近くにいるド・レイ伯爵だが、今までとは違う体勢から異なるタイミングで、狙う場所も変えてムチを打った。狙ったさきは足元だ。今までは腰より上を中心に剣撃と、白い煙の錬金も腰よりも高めのところと、注意を上半身にむけさせていたのと、この固定化がある場所なら通常はアース・ハンドなどの、下からの攻撃のたぐいをそれほど気にしなくてもよい。そこを狙ったのが今回は成功した。
おお、バックミュージックに大砲の音がなっているぜって、貴族派『レコン・キスタ』の予告より3時間は早いんじゃないのか。
倒れたド・レイ伯爵に気がついた衛兵が、マジックアローでとどめをさした。その間に俺は壁につきとばした際に気をうしなったギーシュをかついで、逃げるはかっこ悪いから……戦略的撤退をすることにした。
兄が最初に風の偏在をおこなってくれたので、こっちをおいかけられる状態でないのがよかったのだろう。部屋からでて嫌がらせに扉にはロックの魔法をかけておいた。ちなみに、物理的にも錬金で青銅による溶接をしておいたが。
ルイズたちと地下へ向かって走っている最中に、ギーシュは気が付いた。ようやっと荷物が減る。
「あれ? どうなっているんだ?」
「気が付いたなら、このままルイズたちと一緒に地下へ行ってくれ。俺は追いかけづらいように、途中に罠をしかけておく」
ギーシュは起き抜けでぼけているのかはよくわからないが、なんとかルイズたちと鍾乳洞の船着き場の方へむかっていった。おれも固定化がかかっていなさそうな場所をさがしながら、少し遅めに後ろをついていっている。
地下もふかくなってきて周りが明らかに石造りから、単なる岩へと変わった付近で、固定化が弱まわっていそうなところがでてきた。周りが鍾乳石だとはっきりしたところで、罠をしかけることにした。
普段から持っているナイフを5本とも強制的に壁に差して、クリエイトゴーレムの魔法をかける。錬金よりも永続型ゴーレムに向く魔法だ。小型の岩というか石ゴーレムを中心にして、それぞれから泥で覆われていって、通路がふさがれる。一種の魔法装置に似ているが、魔法装置を直接作るには、俺では1日に一回、全精神力が必要になってくる。まあこの永続型ゴーレムだが、ゴーレムというよりはスライムに近いかもしれないな。この鍾乳洞の水と、岩が枯れない限り働き続けることができる。それも弱点はあって、ゴーレムが活動の中心としているナイフを破壊されたら終わりだが、魔法装置に詳しい土メイジがこない限りは、まあなんとかなるだろう。たとえ風のスクゥエアである兄がきても、狭い空間であるここでは、兄のような風系統のメイジはてこずるはずだ。
そして俺は、鍾乳洞の船着き場に到着した。
予定とは異なるがまだ20隻以上残っているなかで、大使特権を使って俺たちは早めに脱出させてもらった。
そして降下中のこの乗り物の中では、ルイズの口調が悪いし、うるさいし。
俺はそのまま、ルイズに治癒の魔法をかけて、体内を活性化させて疲れによる眠りを誘った。まあ、ギアスも治癒の魔法の変則だから、治癒の魔法にもいろいろな可能性はあるが、専門家にまかせておこう。
ただルイズの話を聞いていたギーシュとサイトは、
「シモン。このままトリスタニアに戻るとまずいのか?」
「ルイズの言うとおりだろうな~」
前者はサイトで心配してくれているが、後者はギーシュで
「なんだったらギーシュ。このままヴェルダンデと一緒に空中にいてもらおうか?」
態度は一変するもので、
「僕たち友だちだよな」
自分自身にとって都合のいいやつだ。
「だったら地上で別れたあとで、しばらくしたら会おう」
だってなぁ、トリステインにもどって兄の裏切りを報告ってしたら、俺もそのままってわけにいかないよな。
主人公であるシモンはこのあと、どう動くのかな
2013.08.24:初出
2013.10.31:改版