陰に潜む者は   作:烏鷺烏鷺

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第15話 思惑のすれ違い

シモンたちが謁見室から逃げでていって、少したったあとにワルド子爵が、

 

「そろそろ、茶番はこのあたりにしましょうか」

 

「そうだね。しかし、トリステイン王国にも本当に貴族派『レコン・キスタ』がいたのだね」

 

ド・レイ伯爵の死体をみつめながら言うウェールズ皇太子に向かってワルド子爵は、

 

「レコン・キスタは僕にも声をかけてきていますし、噂ではトリステインの有力な貴族も参加しているようです。しかし、アルビオンの貴族をみすみすと死なすことになって、すみませぬ」

 

「いや、君の今後のレコン・キスタ内での諜報活動を考えれば、彼も死して後悔はしていないだろう」

 

「そうおっしゃっていただき、ありがとうございます」

 

「ところで、君の弟はだいじょうぶなのかね?」

 

「しばらく貴族用の牢屋に入ることになるでしょうが、遅くともレコン・キスタとの初戦で私がもどれば、そこで解放されましょう。こちらよりも、戦況の方は大丈夫ですか?」

 

「もう少し、ワルド子爵と話をしておきたい。他の者は前線へ出向いていってくれ」

 

「はい」

 

その言葉によってウェールズのそばにのこっていた衛士たちは、戦闘が始まったところへかけつけようとした。しかしながらドアが開かない。ワルド子爵はため息をもらしながら、

 

「わが弟が、何やら罠をしかけているかもしれません。皆さまは離れていてください」

 

そうして、ワルド子爵は巨大なエアスピアでドアを打ち破った。

 

「罠ではなく、単に青銅でドアの出入りをできなくしてただけのようですな」

 

そういうと、少しばかりのこったドアの破片は残っているが、そこから衛士たちはでていった。

 

「ところで、僕と話とは何でしょう?」

 

「『アンドバリ』の指輪のことで、知っていることを教えてもらいたい」

 

「トリステインとガリアをまたがるラグドリアン湖にあるという、秘宝の指輪です。その指輪によって死した者も生き返らせるという伝説は残っておりますが、アルビオンにわたっていたとは。昨晩のウェールズ皇太子との話では、それを弟も知っていたようですし」

 

「そうすると、僕は最前線での名誉ある死も遂げられぬ……のだね?」

 

「多分。見つかる形ならば生き返らせられて、オリヴァー・クロムウェルなる者の好きなように操られることになるでしょう」

 

「そうするならば……」

 

「そろそろ、僕もここからレコン・キスタへ向かわなければ怪しまれるでしょう」

 

「それは、悪かった。もうひとつだけ聞きたい」

 

ワルド子爵は、出足をとめてウェールズに振り返る。

 

「僕の命もアンリエッタの手紙もなくて、君は大丈夫なのかね?」

 

「能力は疑われるかもしれませぬが、死ぬことは無いでしょう。他になければ、ここまでとしたいのですが」

 

「とめてすまなかった」

 

「こちらこそ」

 

そうして、ワルド子爵もドアから出ていき、適当に高い窓からレコン・キスタへとむかっていった。

 

 

 

こちらはパラシュートと気球の合いの子もどきの乗り物にいるシモンたち。

 

ヴェルダンデはルイズの持っている水のルビーの匂いをかぎたそうだが、風のルビーには興味をもたないというか、避けている。ヴェルダンデの種であるジャイアント・モールは、一般的には風石をさける傾向にあるから、ヴェルダンデもそうなのだろう。

ルイズはジャン・ジャック兄さんが、レコン・キスタであることにギャー・スカ言っていたので、治癒の魔法の応用で疲れ果たせて眠らせた。

ギーシュには現在、ワルキューレに自転車こぎをおこなってもらって、プロペラを回してもらっている。この乗り物のプロペラとペダルをつなげたのは俺だが。

 

ニューカッスルから大陸の下の雲をぬけても、他の乗り物はほぼ真下にいっている。なぎの状態だと思ってよかろう。そこで、俺は少しでもトリステインで馬を借りられるように、多少の危険をおかしても一番近そうな、ラ・ロシェールの目印でもある大木の港へ目指すことにした。

兄がレコン・キスタなら、今朝のラ・ロシュールにアルビオンの貴族がいる可能性は少ないだろうという見込みからだ。

そして、ワルキューレを操作してもらっているギーシュには、土で耳栓をさせてもらっている。赤土のミス・シュヴルーズの生徒へ向かっての得意技だが、それの応用だ。まあ、単純にこれから話すサイトとの話をきかれたくなかっただけなのだが。

 

サイトはすやすやと眠っているルイズにひざまくらをしながら、気持ちよさそうに髪の毛を触っているが、ルイズはくせ毛だから髪の毛もすぐにもどるだろうと思って、そのあたりは放置しておいた。そして、俺はサイトと本題に入っている。それもデルフリンガーと一緒に。

 

「サイトとデルフリンガーにきかせたいことがある」

 

「何?」

 

「なんだー」

 

「サイトのその左手のルーンは、古ルーンでガンダールブと書かれている。それはしっていたか?」

 

サイトは少し悩んでいると、デルフリンガーが

 

「なんか、覚えがあるなぁ」

 

サイトはそれを聞いて、決心したかのように、

 

「うん。知っている」

 

「そうか、それが始祖ブリミルの使い魔で、神の左手と呼ばれていたルーンだ。そのルーンが刻まれるのは、呼び出したメイジであるルイズの力を示していることにもなる」

 

「へ? 失敗ばかりでゼロと言われているばかりのルイズが?」

 

俺はサイトのルイズへの評価に苦笑しながら、

 

「サイトは魔法のことをよく理解していないからそう思うのかもしれないが、ドットでは爆発する魔法をあらゆる場面で行うのは、まず不可能だ」

 

「へー」

 

「……」

 

「デルフリンガー。何か思い出したか?」

 

黙って聞いているデルフリンガーに聞いてみた。

 

「……何かひっかかるけど、思いだせねぇ」

 

「そうか。仕方がないな。多分6千年ぐらいは生きていたのだろうからな」

 

「へっ? そんな古いのか? このサビサビのデル公が」

 

「サビサビで悪かったな」

 

「錆びているようにみせかけているだけで、実際は錆びて見える部分でも切れ味はかわらないよ。ただし、魔法を吸収する能力が、まだ不完全なようにみうけられるが」

 

「お前って、そんなことできたのか?」

 

「だから、覚えてねぇって」

 

「まあ、話をもどそう。ルイズの系統はサイトをガンダールブとして異なる世界から呼び出したことからみても、多分、虚無のメイジだ」

 

「異なる世界……どうしてシモンが知っているの?」

 

「フーケのゴーレムを倒した時に、俺たちの世界と言っていただろう? そして、俺が知る限り、東方の地にはあれほどの武器は無い。俺の使い魔が東方だから、そのあたりははっきりしている」

 

って、使い魔である『レア』も、本当に東方から呼び出したのか、若干不明な点はあるのだが。どちらかというと、前世の世界からこちらのハルケギニアの森林のどこかにきたのを『サモン・サーヴァント』で呼び出したというのが、正解なんだろうなという気はするが、まあ結論はでないだろう。

 

「なら、あのロケットランチャーを平民の武器だと言ったんだよ」

 

へぇ、そこに気が付くとは、サイトをなめすぎていたかな。

 

「ハルケギニアには、場違いな工芸品というのがある。それも虚無に関していると言われていて、そこからの推測だよ。どちらにしても、異なる世界からなんらかを呼び寄せることができるのはハルケギニアでは、虚無しか知られていないんだよ」

 

おとなしくなったサイトと、静かなデルフリンガーに対して俺は、

 

「そこで、デルフリンガーにお願いがある」

 

「えっ? デル公に」

 

「なんだよー」

 

「サイトの動きは単に速いだけの素人だ。1合をたえきれる相手には、ほぼ勝つことはできない。だから6千年あまり剣としてつかわれてきた経験をいかして、サイトを鍛えてやってほしい」

 

「……」

 

「なんで、俺がデル公にならわなきゃいけないんだよ」

 

「ルイズが好きなんだろう?」

 

俺から唐突に質問した内容に、サイトが答えにつまる。

 

「今だって、髪の毛をなでているだろう」

 

そういうとあわてて、手を髪の毛から手を放した。

 

「そんなんじゃねぇよ」

 

「それでも良いが、ルイズといるのなら強くなっておくことだな。少なくともルイズの父と母に認められる程度には。俺からは以上だ」

 

サイトは少しだまっていたが、ルイズが騒がしかった内容についてきいてきた。

 

「シモンは魔法学院に戻ると、つかまるのか?」

 

「……戻ればね。だから、俺は他の道を行く。ルイズが起きていたらうるさくて強引に眠らせてしまったが、サイトから『シモンが眠らせたことについて謝っていた』と伝えてくれ」

 

「そうか」

 

そう話し終わったとたんに、パラシュートかわりの青銅の影になる上空から、風竜とともに、キュルケとタバサがやってきた。

 

「もしかして、終わっちゃったの?」

 

「そうだよ。話は風竜に乗せてもらってからでも良いかな?」

 

「そうね。その変な乗り物はせまいし、遅そうだし」

 

言われる通りだが、自覚しているだけにおもしろくは無い。だからといってどうするわけにもいかないが。

 

俺たちは、まずギーシュの耳を覆った土をはずしてから、全員が風竜に移りながらも少しずつ風石も念力で外へ出して減らしていく。そして最後にヴェルダンデが、タバサの使い魔である風竜のシルフィードの口にくわえられる格好になった。

 

「じゃあ、魔法学院へ」

 

「悪いけれど、ラ・ロシュールへ寄って降ろしてくれないか」

 

「あら、なぜ?」

 

「兄がトリステイン王国を裏切ってレコン・キスタへついたからさ」

 

「あら、そういえば貴方たちの国って、家族もつかまるんだったのよね」

 

「まあね。っと、いうわけで俺は隠れる」

 

まったくもって、身も蓋もない言い方だ。

ひとつだけ気が楽なのは、今回のアルビオンとの往復のことをラ・ヴァリエール公爵に送らなくてすむことだ。たいした気休めには……けっこうなるなぁ。

 

 

 

ラ・ロシェールの風石店であるシルフィ―がある倉庫街に降ろしてもらって、

 

「じゃあ、おちついたら、こっそりと手紙でも送るよ」

 

「あら、シモンってそんな趣味があったのかしら」

 

そこまで、キュルケと親しかったわけでもないし、キュルケの疑問ももっともだ。

 

「まあ、送られた内容をみてから判断してくれ」

 

そうして皆とわかれたが、ここからは大仕事だ。

万が一、兄が裏切っていたらというのを前提にしておいた各種書類を、シルフィ―のラ・ロシェール店でここの店長にわたして、王都トリスタニアの本店には伝書ふくろうを飛ばしてもらうことにしている。俺はそして、ワルド子爵領に急いでいくことだ。ラ・ロシェールからなら馬をとばせば4時間ぐらいだ。

 

 

 

ワルド子爵領の城に戻ると出迎えたのは、城の管理をまかせているジャン爺さん。

 

「ジャン爺さん。かなり悪い知らせだ」

 

「なんでございましょう」

 

「ジャン・ジャック兄さんが、アルビオンの貴族派についた。多分、遅くとも3日以内には、国がこの城をおさえにやってくるだろう。ジャン爺さん、兄のかわりに暇をだすぞ」

 

「いえ、私ももう歳でございます。次の領主がきまるまで、この城に居たいと存じます」

 

領主がいなくなれば、その地はしばらく国の直轄領になる。管理する者がくるが、大抵は不名誉印がおされた城には入らない。

 

「そうか……ところで、ミス・マチルダとレアは中に居るかな?」

 

「ええ」

 

「じゃあ、2人に会う」

 

そう言って、城の中へ向かった。

そう。万が一の兄の裏切りに用意をしていたのだが、本当になるとはなぁ。

せっかく、マチルダにアルビオンのニューカッスルの領主になれる公文書を手にいれたのに、この先はアルビオン戦で勝ったとして、ニューカッスルがアルビオンの地となるのか他の国の地になるのか、不明だからなぁ。

 

リビングに向うと、マチルダと人間の姿をしているレアがいる。レアは使い魔として召喚した時より、すでに5サントばかり背が高くなっている。元々は子ぎつねだけに、人間に比べて成長も速いようだ。しかも、最近の魔法学院では、寮の部屋の中にいるほとんどの時間を人間体でいる。きつねでいるより、人間体でいる方が楽らしい。そういう種族なんだろうと思うしかないんだろうな。なんせ、寮のベットでも人の姿で入って寝やがる。まあ最初みたいに裸ではなくて、パジャマをきてくれているのが救いだが。それでだ、

 

「マチルダにレア、悪い知らせだ。兄がレコン・キスタについた。こっから脱出するぞ」

 

「おやおや。あんたも追われる身になったのかい?」

 

「そっちと違って、俺の方は公になる。そんなことより、実験船で行くから、来い」

 

最近、マチルダの性格がある程度つかめてきた。お願いするよりも命令系の方が、なんだかんだと言っても、従う傾向にある。

 

「実験船で? どこへ?」

 

「国外だ」

 

「って、あんただとロマリアは毛嫌いしているから、ガリアかい? それともゲルマニアかい?」

 

「ゲルマニアだ」

 

「おやまぁ、ゲルマニアねぇ。うまく動けるの?」

 

「知り合いがいる。そいつを頼るつもりだ」

 

「へぇ、なんて名前?」

 

「これ以上ここで言うと、ジャン爺さんに迷惑がかかる。それよりも、あとはこの地の採掘場の皆へ可能な範囲で金を分配するのと、あとは実験船に物をつんでからだ」

 

俺が頼るのは、実際に頼ることは無いと思っていた相手なのだが、やりとりだけはしておいてよかった。そいつの前世は日本人だ。ゲルマニアのヤン・エリアス・フォン・ローエングラム伯爵。伯爵だが、魔法の使えない成り上がり貴族だ。ゲルマニアで頼ることはできるが、さて、どこまでこっちの話にのってくれるかだ。

 




ワルド子爵の思惑と、シモンの行動がずれました。
オリ展開へと続きます。

2013.09.10:改版
2013.08.26:初出
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