俺はシモン・トレ・ビュルガー・ド・ワルドの家名を捨てて、単なるトリステイン王国から亡命してきた平民のシモンとして、ヤン・エリアス・フォン・ローエングラム伯爵と対面している。
「ヤンよ。ところで俺の監視なのか、ついてきている奴はなんとかならないのか?」
「シモン、お前なぁ……確かに、ゲルマニアに亡命してくるトリステイン王国の元貴族は多いが、小型とはいえ船もどきなのか、前世の飛行船もどきなのか、そんなのにのってくるのは前代未聞だぞ。しかも、お前は火薬を大量に積んできただろう。よくそれで、牢屋にいれられなかったと考えないのか」
「いやぁ、トリステインとゲルマニアの常識の違いだろう? トリステイン王国なら首都防衛を行う竜騎士隊隊員から見逃すから金でもよこせとサインを出してくるのもいると聞いているのに対して、今回のゲルマニアの方がよっぽどしっかりしているな」
「まあなぁ。確かに金で動くのもいるだろうが、金に見合ったメリットが、きちんとデメリット超えないていないと動かないぞ」
「それで、お前もその口か? ヤンよ」
「心外だな。俺たちが心底ではハルケギニアの文化に染まりきっていないからこそ、交流が続いているのだろう?」
そのゲルマニアで伯爵の爵位にまで登っているヤンの言葉は、前世が日本人であっても、俺が交流を続けるのと、交流を避けるのとを切り分けている感触に近いものだ。例えば、傭兵としてラ・ロシェールで襲ってきた傭兵の中にいたと思われるものと交流を持とうとは思わなかったように。
「ところで、なんで会うのを2回も伸ばしたんだ?」
「いやぁ、お前との会うのにゆっくりと時間をとるためだ」
こいつはどの口をもって、そんなことを言ってやがるのか。最初に来た日は、アポイントメントもとっていなかったから会えないのはわかっていた。そこで、受付けた者から翌日の午後1時とのことで、そこでそれにきちんとあわせて来たらもう1日後と言われ、そして再度きたら3日後の夕方5時と言われて、今日ようやっと会えた。はじめから、この日を考えていたんだろう。
「ふーん。まあ、ゲルマニアの文化になれるのも時間がかかるからよかったし、船も手元にもどってきらからな」
「普通はそんなに検査にかからないぞ。あの飛行船もどきには何がある?」
「うん? 風石採掘用の魔法装置と、火薬のたると称したロケット砲とミサイルだ」
「ロケット砲にミサイルだと! お前、そんなオーバーテクノロジーを使って戦争でもする気か?」
「どちらもオーバーテクノロジーだなんてものじゃない。このハルケギニアにない発想の転換だよ。ロケット砲は火薬量こそ大砲より多いが、こっちで実験している奴らのロケットに尾翼をつけてやっただけで直進性はあがって実用性は増したし、ミサイルはロケットとロープによる接続で『遠隔操作』の魔法を使えばよいだけだ。ただし、ミサイルの方は、ばれたらロマリアに睨まれるかもしれないかもな」
「それで、戦争は?」
「関係する話で、アルビオン王国がレコン・キスタに支配されたのは知っているだろう?」
「ああ。新政府の樹立を公布してきて、不可侵条約を結ぶはこびになりそうだな」
「奴らは、その不可侵条約を破ってくる可能性がある」
「まさかー」
「その油断をつかれるのさ。俺たちの前世では類似の例があったはずだ」
「だからって、こっちでそれがおこるっていうのは無いだろう?」
「まあ、用心にこしたことはないさ。だいたいそれがおこったとしても、俺が貴族として準備をととのえられるか、こちらの軍部の上位に入れるわけでもないしな」
「そうだな。金で地位を買っても、その実力が無ければ、蹴落とされるだけだからな」
「それでだ、ヤン。話がしたかったのは、お前の配下にある店か新しく店をおこして、風石の販売をおこなわないか?」
「風石か……まずは、どうやって風石を掘り当てるんだ?」
「ああ。風石探査用の魔法装置がある。それを古い風石の採掘跡地か、現在風石を採掘しているゲルマニア直轄の国有地で探査してみるのさ」
「気が長そうだな」
「そうでもないぞ。もういくつかの候補地は見つけてあるが、希望よりはちょっとばかり東側へ遠くてな」
「ふーん。それで、どれくらいの期間で見つけられる見込みなんだ?」
「長くて1ケ月といったところだ」
「はっ? なんだ、その早さは」
「普段掘っている風石がある層より、さらに深いところに風石が眠っているんだよ。こいつを掘り出す」
「それだったら誰でもやっているか、やれるんじゃないのか?」
「いいや。まずそれだけ深く掘れる技術が他ではもっていない。しかも、浅い200メイルぐらいの層より深い800メイルぐらいの層の方が、一度にとれる風石の量が多いんだよ。なので、他より安く風石を売ることができる。まあ、売値は他と同じにして利益率をあげる方法もあるとは思うが、損はしないだろう?」
「うーん。そうだな……最初に掘り当てたのは、全部、俺のところを通すというのはどうだ?」
「本当か? 何か条件があるんじゃないのか?」
最初から全量を売りさばいてもらえるならありがたい。
「条件はもちろんある。主に空海軍へ販売するとして、その粗利の80%が俺の所で、20%がシモンでどうだ?」
「おい、ボリすぎだろう。普通お前の方で25~30%ぐらいが相場じゃないのか?」
「おお、ある程度は知っているようだな。だがな、そっちは風石を掘りだして、地上にあげて風石を売れる状態にみがいておいてくれれば良い。そこからの物流から販売までは、こっちが行うからこちらが75%で、お前が25%でどうだ?」
「うーん。物流まで行ってもらえるのか……ただ、それだと掘る場所しだいでは、こちらの人件費や魔法装置の維持費で、赤字になりそうだ。それに戦争がおこったら、民間船が飛ばなくなる分、空海軍への風石販売が集中するだろう。各業者ともぎりぎりの値下げをしてくるのが普通じゃないか。だから、こちらで最初に調べようと思っている3カ所を参考にして、分配率をきめないか?」
「お前は本当に戦争が近々おこると思っているのか?」
「ああ。普通なら、戦争後の領地をなんとかしようとするものだが、レコン・キスタは聖地奪還が目的だ。どんなに長くみても1年以内には、多分トリステイン王国へ進行するだろう」
「うーん。お前も戦争に関しては頑固だな」
「まあ、俺の兄がレコン・キスタについたからな」
「そういえば、そういう話だったな。それじゃあ、お前が考えている3カ所をあげてみれよ」
しばらく想定カ所での話をヤン側で用意をした地図を使っておこない、だいたいの目安についてお互いが納得したところで、もうひとつ条件をつけられた。
それは、3年間は販売先をヤンのところだけにすることだ。
代わりにこちらは、現在のゲルマニア空海軍の風石買取量の5%を最低限は買ってもらうことと、俺の風石販売店用の人材をこちらで見つけたら、そいつも店で働かせてもらったりギルドなどへつれていってもらっておくことだ。
『シルフィ―』本店の店長に伝書ふくろうは途中にある伝書ふくろう屋を中継して、飛ばしている。返事がもどってきても良いころなのだが、まだ、きていないってことは悩んでいるか、こっちでの状況がどうなるかをきいてくるかもしれなさそうだ。
まあ、短期で投資の回収をしたいヤンと、最低限の研究費まで含めたランニング費用をもっておきたい俺との折衷案みたいなものだ。
「それで、仮契約書は今までの内容をベースに明後日までにつくる。それに関連するんだが、もう1カ所候補地を俺からあげといてやる」
「うん? なんで、さっきの交渉中にでてこなかったんだ?」
「先ほどまでは、国有地だっただろう。今度の候補地は俺の領地内だ」
「はぁ? 一緒に話をしてもかまわないんじゃないのか?」
「国有地の調査とか、風石の採掘跡地の調査を行うのに許認可が必要なのが頭からぬけているだろう」
「ゲルマニアって、そんなこと必要なのか?」
「やはり知らなかったんだな。俺の領地なら俺が話しを通しておくから、明日の午後くらいからでも調査はできるぞ。詳しくは街にいって聞いてみるんだな」
「うーん。領地は買っておこうと思っていたんだけどな。いや、ヤンが将来奪い取るとかは心配してないけどさ」
「だったら、そこで風石が見つかったら、領地は売ってやる」
ヤンから言われた場所を地図でみてみるが、こちらが選んだいずれの候補地よりも、西よりだ。場所的にはよいが、
「比較的広大な領地になりそうだな。俺の所持金では、領地として買えないぞ」
「そこなら、安く売ってやる」
「なんで?」
「まあ、行ってみて街で噂でも聞けばわかるだろうから先に言っておくが、隣の領主が元トリステイン貴族で、今は男爵だ。それでな、くだらない文句が多くくるんだ」
「ようは、それを俺がうけることになると?」
「いや。俺がメイジじゃないから、文句をつけているのだろう。トリステイン王国で2番目ながらも子爵の爵位継承権があったお前なら、文句はいってこなくなるんじゃないかとみているんだがな」
「そうかわかった。それで、いくらで売るつもりでいるんだ?」
「普通なら男爵位程度にみあった価格だろうが、さっき領地として買えないって言ってたよな」
「まあな」
「準男爵位程度としてなら買えるということか?」
「領地とは別に爵位も買わないといけないだろう?」
「そうすると、お前が示していた候補地3カ所からいうと、一番首府ヴィンドボナに近かった場所と同じ価格でどうだ」
「できたら、3番目の候補地といいたいところだが、2番目の候補地の価格と同じというのはでは?」
「まあ、よかろう」
「本当にか?」
「ああ。お前に恩をうっておけば、いずれロケット砲の独占販売もできそうだからな」
「それ、行うって言ってないんだけどなぁ」
「火薬の入手はどうする? 俺が国軍に対して25%程度で、各領主もけっこう俺の所から購入しているぞ」
「つまり、お前のところが火薬は安いっていいたいのか」
「そう、受けとってもらっていい。それで、やっぱりロケット砲は売るつもりでいたんだな」
口をすべらせたと思いながらも、そこはさらりと流して、
「そういうことなら、遠慮なく領地の件は了解した。ただし、風石がみつかればな」
「そうだな。それで、明日にでも見にいくか?」
「仮契約書は明後日だろ?」
「心配なら仮契約書の写しを町長のところへ送っておくから、3日後以降にでも眼を通しておいてくれればいい」
「わかったよ」
「じゃぁ、無事に風石の層が見つかることを祈っているからな」
「なんか、その領地本当に売りたそうだな」
「売りたいのは本音だが、売ったあとからその者が変な文句をまた言ってきて、それの対処をするのも人手をうごかさないといけないので嫌だからな」
まあ、これが本音なのかもな。
「それじゃぁ、明日は午前中に調査のための許認可申請をしてから移動する。お互いにとって良い結果になるようにな」
「ああ、まっているよ」
そして俺はローエングラム商会の建物からでていったが、頼っておいてなんだが、こいつの子会社にそうとうする店を、はたしていくつ持っているのか。外からじゃつかめなかったのだが、思ったよりも国軍と各諸侯との取引がありそうなのは少々誤算だったかな。
翌日は役所によって国有地と風石の採掘跡地の許認可申請をおこなってから、ヤンが示していた場所にもっとも近い、ラウテルンの街へ夕刻に入った。
街に入る直前で着陸するときに下に張っている帆をひきあげて、残ったマストの先端を後方へもちあげるようにしながら着地していったのは、門の外にある駅の門番は驚いていた。首府ヴィンドボナの風竜隊隊員とかも同じだったけどな。
『トルテュ』号にはアレンとロックが、かわるがわるに泊まることにしてある。マチルダには悪いが、毎日食事を作りにいってもらっている。ゲルマニアからアルビオンの航路の裏ルートの情報も聞いているが、裏の乗客としてのっていただけだから、参考程度にしかならなかったのと、今のマチルダはたいしておこなうことが無いんだよな。
もう少し人手が増えれば、交代制もゆるめて、マチルダも料理から別な仕事をしてもらうことができるんだけどな。
宿はこの街で、下級貴族も平民も泊まる『三連星』亭にして、夕食は酒場で街の噂話に耳をかたむけていたが、たまに昔話として隣の街と行き来していた時は、儲けがあったのにとかぐらいで収穫はすくなかった。
明日は町役場でも行ってみるか。
部屋はマチルダと今日はアレンにそれぞれ一室で、俺とレアは二人部屋で泊まることにしたが、俺はレアにひとこと。
「なんで、お前はパジャマじゃないんだ?」
「だって、マチルダはこんな格好で寝ていたよ」
シンプルだが、少々肌の露出が多いネグリジェをきている。マチルダが来ているところを想像しかけてやめた。
「あー、わかった。もう灯りを消すからそのまま、そっちのベットに入って、俺の所に入り込むなよ」
「はーい」
声だけは素直だが、こいつは子ぎつねで親離れするには本来はやすぎるのか、寝ぼけてくるからな。子ぎつねの姿ならまだ良いが人間の姿になっていることも多い。しかし、今度はネグリジェか。裸よりはましなのと、まだ俺が手をだしたくなる年齢には見えないが、なんか考えておかないとなぁ。
翌朝は、レアは素直にあてがわれていたベットで寝ていたので、まずは一安心だ。
町役場に行って風石の調査の許可を求めにいった。ヤンからすでに連絡が届いていたからその場で許可はでたが、いやな話を聞いた。
「風石の採掘場跡もあるのですが、その途中に土石の採掘場跡もあるんですよ。そこにコボルトがすみついて村をおそったので、今は近くにあった村は廃村になっているんですよ」
風石採掘の前に、コボルト退治かよ。ヤンめ、知っていやがったな。
次話はコボルト退治だと思ったら、ちと違った。
2013.09.08:初出
2013.09.19:改版