陰に潜む者は   作:烏鷺烏鷺

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第18話 コボルト退治の準備

プファルツ地方にあるラウテルンの町役場で聞いたのは、ここから北にある廃村のさらに北側に風石の採掘場跡地があるとのことだが、廃村の南西側に土石の採掘場跡もあって、そこにコボルトがいるとのことだ。

コボルトは土石の採掘場跡の大きさから推定15~20匹くらいらしい。

 

それを聞いた俺が「うーん」とうなっているところへ、町役場の職員が、

 

「何やら風石を探しているとのことらしいですが、今回のようにコボルトがいると難しいのですか?」

 

「コボルトが20匹ぐらいまでなら、そんなに難しくはないですよ。難しくなるかもしれないのは、コボルト・シャーマンがいた場合でね。いるかどうかわかりますか?」

 

「いえ。コボルト・シャーマン自体を初めて知りました」

 

「そうでしょうねぇ」

 

コボルト・シャーマンは先住魔法を使えるのと、村を襲うときにコボルト・シャーマンを見たものはだいたい洞窟へつれていくようだから、みかける人物も少ないらしい。しかし、コボルト・シャーマンがいるかいないかは大きな問題だ。

 

コボルトが20匹までだけなら、いったん姿をみせて、追いかけてくるのを火のブレイドで1匹ずつたおしていけば、少々時間はかかっても倒しきる自信はある。しかし、コボルト・シャーマンがいるとならば話は別だ。少なくともライン以上のメイジが二人は必要だろう。

 

たしかにマチルダはトライアングルだが、コボルト・シャーマンが得意とする先住は土に関する物。マチルダも土系統のメイジだから、完全に力を抑え込まれるだろう。アレンとロックは風系統のメイジだがドットだしな。残るはレアで火系統の先住魔法と呼んでいいのか定かではないが、最近はラインの下位ぐらいの実力はある。しかし、いかんせん模擬による戦闘経験さえ無い。単発の威力はそれなりにあるんだけどなぁ。あと、やっかいなのは洞窟の中ということで、火を使いすぎると、酸欠状態や、下手をすれば窒息死があるからなぁ。

 

俺のところにいるメンバーから、コボルト・シャーマンがいた場合の対応はあきらめて、風石に関する話を聞いてみる。掘り当てる確率は半分くらいだから、風石に関する話がここに残っていなければ、危険性が高いところはさけておいた方がよかろう。

 

「このプファルツ地方で、他に風石の採掘跡とかの話は残っていないかな?」

 

「はぁ。プファルツ地方ではありませんが、隣のフォン・ヴェストパーレ男爵領からも風石がとれるという話はきいているのと、風石の鉱脈がこちらの領地まで続いているのではという噂もあるくらいでして」

 

現在の風石を掘っているところまで調査はしていなかったから、気がついていなかったが、隣の領地にあるのならかなりの確率であたりだな。それに領地の広さと収入源が一般の男爵領よりあるのに、準男爵の価格で購入できるのも魅力的だ。

風石の鉱脈が隣とつながっていれば、隣のフォン・ヴェストパーレ男爵と何か問題がおこるかもしれないが、どこで風石を掘ろうが、ギルドとかでぶつかる時はぶつかるからなぁ。ヤンはこの噂話を知っていて、最後にここの地をだしてきたのか?

本人に聞いても、のらりくらりかわすだろうから、そこは追及しないとして、ゲルマニアの場合、幻獣の退治は専門のギルドがあると聞いている。領主によっては、きちんと兵士をそろえている場合もあるが、ヤンの場合は放置をしているのだろう。

 

「わかった、ありがとう。ところで聞きたいんだが、幻獣や亜人を相手にするギルドで一番近い所はどこかな?」

 

「それならフォン・ローエングラム伯爵領内にあるアムリッツァの街です」

 

 

 

約1万人いると言われるアムリッツァの街に俺はレアと一緒にきていた。普通なら3時間ぐらいのはずなのだが、初めて馬に乗るレアの馬の手綱をひいてきたので4時間半ぐらいかかっている。

これらはラウテルンの駅で借りたが、こちらは平民ということで、馬2頭分と鞍2つ分をほぼ新品の価格で借りて、もどってきたら正規の貸し料との差額がもどってくるシステムになっている。このあたりはどこの国もにたりよったりだから、アルビオンでも馬の購入と販売を繰り返していたんだけどなぁ。

 

この街で目指すのは幻獣退治のギルドだが、アムリッツァではギルド街としてまとまっている。まとまった場所にあるのはヤンの方針らしい。楽といえば楽なのだが、よくまとまった場所に集まったものだな。

ここにある幻獣退治のギルドだが、フォン・ローエングラム伯爵領より東側を専門にしているという。首府ヴィンドボナより東側にあるから移動距離を短くして、少しでも安くというのが狙いなんだろうなぁ。店に入ると、カウンターにギルドの接客担当者らしきみたいのがいて、二階に上る階段に、他には5人ほどすわれるテーブルが4セットある程度だ。そのひとつに男女が1組いる、ここで、幻獣退治を待っているのか? 彼らに委託になるかは不明だから、今はカウンターの男性に聞いてみる。

 

「やあ、コボルト退治をお願いしたいんだけどね」

 

カウンターにいる接客担当者らしき人物は、俺とレアの方をうさんくさそうにしてみながら、

 

「どこからの依頼だい?」

 

「個人的な依頼だけど」

 

「個人?」

 

「ああ、俺個人だ。別に金が支払えれば問題ないだろう?」

 

「こちらとしては、保証金をあずけておいてもらえば、個人でも紹介しますがね」

 

「ふーん。保証金の話をするということは、コボルト……いや、コボルト・シャーマンを退治できる人物がいるとうけとっていいのかな?」

 

「すぐにうけられるかは言えないですが金額次第と、いることはいますよ」

 

「わかった。保証金関係の書類と、仕事の依頼の書類をもらいたいのだが」

 

「これだよ。わからない部分があったら聞いてみてくれ」

 

レアはあきたように。子ぎつねの姿にもどって、テーブルの女性の方へむかっている。レアは、ここが幻獣退治の店だって認識しているのか?

まあそうやすやすと後れをとるとも思えないし、これで俺の使い魔だとまわりで気づいただろう。

 

しかし、保証金が500エキューか。200エキュー程度だと思っていたのだが、ゲルマニアでは個人相手だと少々高くつくらしい。まあ風石をほったり、領地を購入したりするのに比べれば、たいした金額ではない。

 

依頼内容は単純に場所と土石の採掘跡地の大きさから、コボルトが最低15匹で廃村時期から考えて最大20匹程度。コボルト・シャーマンの存在は未確認。謝礼は手当金として通常の往復費用や駅利用代に、契約当日からの契約想定期間を前払いとする。あとはコボルトを退治した匹数と、コボルト・シャーマン存在の可否確認に、コボルト・シャーマンを退治した時までの金額を明細とすることとして、契約期間以外の金額についてはギルドに預けておくという内容で書いておいた。

さらにもう一つは、俺が何らかの理由でここにこれない場合に、代理人の名前を書いておく。これは、取引相手には見られない情報だが、筆頭にはマチルダで土のトライアングルと書いておいた。ドットのメイジは大勢いるがライン以上は少ないし、トライアングルとなるとますます少なくなっていく。トライアングル固有の魔法でもみせられなければ、払われないわけだ。

その内容を見せたカウンターの中の人物は、

 

「依頼者の現住所が記載されていないのですが」

 

「こっちは山師だ。現住所はないが、あたればそこが当面の住所になる予定だ」

 

「そうすると、保証金の上積みを必要とするのですが」

 

俺はヤンことローエングラム商会に宛先としてもらうことと、今の現住所がはっきりしていないことを天秤にかけていた。そもそも首府ヴィンドボナから、わざわざアムリッツァに来ていること自体、変なことであろうし、ヴィンドボナからトリステイン魔法学院の何人かにも居場所は知らせないようにしているのと、アニエスにさえ知らせていない。アニエスの場合は、どう動くのかはっきりしないこともあるのだが。

 

そして俺の出した答えは、保障金の上積みだ。500エキューの上積み程度は、たいした出費でないし身分がはっきりすれば戻ってくる金額らしい。さらさらさらと、今日はここのどこかの宿、明日からはラウテルンの『三連星』亭と書いたあとに、

 

「これでいいかな?」

 

「ええ。問題ありません。トリステインご出身のようなのに、よく学習されていますね」

 

「……ああ。やっぱりトリステインなまりがでていたかぁ」

 

「幻獣退治の者は気にしないでしょう」

 

「そうか。とりあえずは各種金額だが、すくなくともここに払ったり預けたりする分は、ローエングラム銀行の小切手でかまわないよな?」

 

「ええ。ただし、幻獣退治の者たちは大抵現金を要望いたしますので、そのあたりお忘れなく」

 

「わかったよ。ところで書いてある通りにこの街で宿をとっていくつもりだが、変更するようなら連絡する」

 

「いえ、その心配はございません。ヒルデガルド、マクシミリアン。あなたたち用の客よ」

 

声をかけられ動いたのはレアが、そばによっていた男女の二人組だ。

よく見ると男性は傭兵っぽい感じだが、背も190サント近くあるのではないだろうか。腰に下げている長剣も鞘の形を見ると両刃のタイプだろう。一方の女性は、女性というよりは少女っぽらしい感じでルイズよりも小柄だが、ショート・ソードを腰にさげている。杖かどうかの判断は難しいな。

 

「どうも。俺はシモンで、そっちの子ぎつねは使い魔でレアという。コボルト退治とコボルト・シャーマンがいればそちらも退治してほしいのだけど、二人の名前は?」

 

そう言ったら、女性の方は俺の横を通り過ぎて、男性の方がすまなさそうにしながら、

 

「私の名はマクシミリアンで、見た目通りの剣士。彼女の名はヒルデガルドで、風のトライアングルですよ」

 

「俺からの依頼を受けるのか、受けないのかを判断するのは彼女かな?」

 

「……ええ、まあ」

 

話づらそうなので話題転換に、

 

「立ちっぱなしで話すのもなんだから、手じかなテーブルにでもつかないかな?」

 

「そうですね」

 

テーブルまで移動すると、レアは膝の上に座り込む。最近は身体も大きくなってきたので、頭の上に乗るのがむずかしくなってきているからだ。今回、2頭の馬で来たのも半分はそれが理由だ。あとは、空船でくる手もあったのだが、知られるとふっかけられる可能性が高くなるし、風石の入手はヴィンドボナを超えて海の方までいかないと入手は困難だからな。

 

「ところで、あの女性と組んで長いのかな?」

 

「長いといえば長いですし、短いといえば短いですかね」

 

ごまかしなのか、ふれられたくないのか、両方なのか。まあ避けておこう。

 

「アルビオンで戦争がはじまってからは、幻獣退治の仕事を受ける機会が増えたかい?」

 

「他の所はそうかもしれませんが、私たちは2人で行える仕事しか受けていないので」

 

「ふーん」

 

風のトライアングルと、非メイジの剣士なら、コボルト・シャーマンがいた場合、対処するのは難しいはずなんだが、ここのギルドでは、できると判断していたよな。できるふりだけか?

 

そんな感じで考えていたところへ、先ほどの少女にみえるヒルデガルドがやってきて、

 

「依頼書をみたけれど、あれよりもうちょっと、色をつけてくれるとうれしいかなぁって、ヒルダ感じちゃんだけど」

 

そう言いつつしなだれかかってきた。色気で落とそうというのか。

 

「よっかからないで、椅子に座って話してくれないか? 程度によっては上乗せについて考えてもいいぞ」

 

「本当?」

 

「ああ」

 

「それじゃぁ、30エキューほどばかり」

 

「はぁ?」

 

「それで多すぎるなら、20エキューでもいいから」

 

「桁が一桁少ないんじゃないのか?」

 

「もっとでもよかったの?」

 

「ゲルマニアって、そんなんだったのか?」

 

「そういえば、トリステイン出身っぽかったものね。ちっ!」

 

最後の舌打ちはきこえなかったことにして、俺はカウンターの方を向き、

 

「別途交渉分について、契約書にかいておく必要はあるのか?」

 

「それはお好きなように」

 

俺は男女の二人組に向かって、

 

「払うか払わないのかの前に、コボルト・シャーマンとの対戦回数は?」

 

「3回よ」

 

「いずれも倒せたってことで良いかな?」

 

「そういえば、逃げ出す奴もいるものね。わたしたちは、きちんと倒したわよ」

 

「わかった支度金として30エキューを先払いろしよう」

 

「いいの?」

 

「そのかわり条件がある」

 

「条件?」

 

「ああ。コボルト・シャーマン退治の見学だ」

 

「コボルト・シャーマン相手に退治する自信が無いからきたんじゃないの?」

 

「こっちは火のラインだ。洞窟の中で戦ったら、窒息死しかねないから依頼にきたんだ。見学しても身をまもることはできるし、仲間には土のトライアングルもいるから、洞窟の外は心配しなくてもいい」

 

「あなた火なの?」

 

ヒルダがレアと俺を見比べながら聞いてきた。

 

「ああ。俺の使い魔は火の先住魔法が使える」

 

「ちょっとまってね。相談するから」

 

二人はサイレントがかかった中で相談しているようだ。体感的に30秒とたたずに、サイレントを解いて、

 

「今の条件は良いけど、一つだけお願いがあるの」

 

「お願い?」

 

「見学で見たことを他人に知らせないってこと」

 

ふーん。メイジと剣士の組み合わせだから何か特殊な方法なのか。

 

「わかった。それで前払いの分は、今日と明日のどっちがいい?」

 

「当然、きょ……」「今日は20エキューで、残りは明日の出発前ぐらいで」

 

ヒルダが言いかけたところに、マクシミリアンが声を大きくして言ってきた。

 

「まあ、今日20エキューの方がよさそうだね」

 

ヒルダはがっくりしているが、マクシミリアンは一安心しているようだ。

 

「20エキューは契約完了後にすぐ出すが、明日の待ち合わせは東側の駅のところで午後12時半といったところで、どうだろうか」

 

「出発が遅くなる分には、こちらはかまわないわよ」

 

その分、少しでも収入が高くなるからか。

 

「じゃあ、明日はラウテルンの街で、明後日はそこから北の廃村に向かうから」

 

「ええ」

 

あとは細かい、契約のやり取りをして、現金を渡してから別れた。

コボルト退治だけで済むのならそれでかまわないが、コボルト・シャーマンがいた時の対応は糧にできるかどうかだな。

 




次回予告は嘘になってしまうからやめておこうっと。
ちなみに、コボルトとコボルト・シャーマンは、『タバサの冒険3』にのっています。

2013.09.16:初出
2013.09.16:改版
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