俺の今のフルネームと爵位はシモン・トレ・ビュルガー・フォン・プファルツ男爵。居るのは、ラウテルンの街で買った屋敷の接客室にいる。目の前にいるのは、トリステイン王国のとある貴族からの密使だ。ここまで順風といっていいほどだったのになー
さて、どうしたものやら。
ヒルダとマクシミリアンをサイトの元へ送ったあとは、さっそく首府ヴィンドボナでヤンとあったが「思ったより遅かったな」と言われた。しかし、オーク鬼なんて考えていなかったから仕方がなかっただろう。こんにゃろうと思いながらも、プファルツ地方の売買契約を成立させた。これをもとに封建貴族としての男爵位の入手だが、国有地の調査申請より手早く進む。領主からとの売買契約を成立させているおかげで、3日で爵位が授与された。うーん。ゲルマニアはこのあたり速いなー
他はともかく、執事とメイド長だけは、貴族が集まる首府ヴィンドボナで募集をかけておく。ヤンから以前参考にもらっている人件費の概算をベースにしたものだから、ポツリポツリと泊っている宿にやってきた。
その中で気にいったのはフリーデリカ。35歳の女性だがゲルマニア人らしく、今の男爵家では自分が伸ばせないので、新しいところへ行きたいということで応募してきたとのことだ。結婚しているようなので夫の名前を確認して、
「ユリアーンはどうする?」
そう尋ねたら、
「コックしか能は無いけど、どこへ行ってもそれなりの物をつくれる」
と自信ありげなので、
「じゃあ、すまないがそのユリアーンの腕も確認してみたいので、2,3日中に時間がつきそうなところでこの宿へきてもらえるようにお願いできるかな」
「今日にでもつれてくるわ」
「場所を借りる都合もあるので、事前に連絡をしてくれ。できたら明日以降にな」
俺は苦笑しながら言っていただろう。
そのユリアーンの腕をたしかめるのに、宿の厨房を使ってのまかない用の飯と、ここの宿の夕食をコック長の下でつかってもらって味と、この店のコック長の意見なども参考にして通常のコックとして雇うことにした。
隣の領主になるフォン・ヴェストパーレ男爵とも面会を使い魔であるレアとさっそくしてきた。初めてなのであたりさわりもなく、話はすすんでそれで終わった。風石の話では、ちょっとばかりぴくっと頬が動いたが、さてどう動くか。この男爵は宮廷の方での地位を高くなるように狙っているようだ。現在は高等法院の役人をおこなっている。参事官になるのでも狙っているんだろう。
1週間ばかり首府ヴィンドボナで過ごして『トルテュ』号は、ただひとりラウテルンの街に残っているマチルダの元へ向かった。マチルダには購入する候補の屋敷を見にいってもらっていた。
実際にマチルダ、レアと不動産業者と一緒に、屋敷を見にいったところ、設計した人物の趣味か壁や柱に花柄が多い。しかし、掃除が少々面倒なことを除けばさほど問題もなかろうと、全体をみまわしたところそれなりに整っている。庭では男爵位にみあったパーティもできそうな広さだ。女性用のトイレを少々増築しないといけないかなと思うぐらいで、なんとかなりそうだ。価格も8000エキューと手ごろな価格で、街の北はずれにあるということもあり、ここをラウテルンの街での活動の中心部とすることにきめた。
数年後には、城もつくるが当面はここでよかろう。
屋敷が確定すれば、メイドに使用人も必要になってくる。その手配ももうしてあるということだ。全部町長とは名ばかりで町役場のところへ行くということになっていた。
「使用人やメイドの募集はいったいいつかけたんだ?」
「男爵位がとれたから、執事とメイド長の募集をかけているって手紙を書いたのはどなただったかしら」
「……俺だな」
「屋敷がきまったら、さっそく働き出が必要よ。まったく、これだから面倒みなきゃいけない気になるのね」
「すまなかった。ありがとう」
「まあ。いいわ」
そんなところで、あらかじめとりきめてあった偽名で、メイド長になるフリーデリカとコックになるユリアーンへ伝書ふくろうを飛ばした。どんな荷物をもってくるかわからないからなぁ。
そして翌日には、町役場できていた使用人とメイドの候補者の応募書類があったので、それをひきとって屋敷でマチルダと相談しながら選定することにしたが、使用人はともかく、メイドはとりあえず1名だけゲルマニアの魔法学院でメイドをおこなっていたのを選んで、残りはメイド長との立会いも含めて様子をみることにした。
他に求人として、執事にコック長、土系統のメイジや、鋳造関係者に衛兵に空船乗りをあらためて新聞も使用して求人をした。首府ヴィンドボナとこのラウテルンの街の新聞社に対してのみだが。
他にも、首府ヴィンドボナの新聞は伝書ふくろうでとりよせるように契約もしたりしている。
しかし、世襲でない爵位を持つって、覚悟していたより立ち上げが大変だな。風石販売店の『シルフィ―』は準備期間もあったが、ここまで人もやとっていなかったし。『シルフィ―』といえば本店の店長は、やはりこれないと手紙が届いていた。残念といえば残念だが、トリステインを離れてゲルマニアに来てほしいというのを断られるのもしかたがないことだろう。
そして昼は、廃村だった村を風石採掘場へとしていく準備をし、夜はフォン・プファルツ男爵としての体裁を整えていった。
メイド長になるフリーデリカもきたし、メイドの選定作業をしていく。だいたい屋敷で全員あわせると『トルテュ』号に乗る人員もあわせるとメイド以外で25名近くになる計算だ。それにあわせてメイドの人数も合わせる必要がある。書類選考に実際の顔合わせなどしぼりこんでいくのと、それぞれの作業分担など徐々に屋敷の方は体裁がととのっていく。
使用人の選定作業の方でレアはいるだけだが、マチルダと話しているさなかに、ヒルダとマクシミリアンがやってきたので、執務室へ直接とおしてもらうようにメイドへ話をした。すでにキュルケから手紙からうすうすと言ってくる内容については予測もついていたので、
「やあ、結局は、すでにデルフリンガーが錆びた状態から脱していたみたいだったな。無駄足だったようですまなかった」
「そんな無駄足っていうものほどでもなかったですよ」
「そうね。あの『洞窟の松明』亭でまた食事をしたいわ」
そこへメイド長であるフリーデリカがやってきて、
「お客様がいらっしゃているのでしたら、是非とも接客室へ……テレサお嬢様! なんで、ここに!」
ヒルダが逃げだそうとしたので、俺はとある呪文を唱えて左手のタクト状の杖を振ると、見事にヒルダがこけてくれた。行ったのはアースハンドだが、スカートの中のパンツがみえたので、やはり貴族出身だったんだ。うん? そんなので判断するなって。
マクシミリアンが動揺しているようにみえるな。
「どうした? ヒルダはいきなり逃げ出そうとするし、マクシミリアンもつったていないで、ヒルダに手をかしたらどうだ?」
「ヒルダにマクシミリアンねぇ。偽名をつかってたのぉ」
俺は状況を楽しむことにして、
「ヒルダにマクシミリアン。見知ってはいるようだが、このメイドは新しくメイド長としてやとったフリーデリカ。それで、ヒルダとマクシミリアンは主に幻獣退治の依頼をおこなっている相手だ。それで知り合いのようだが、話を聞いててもいいかな?」
「幻獣退治……今、逃げ出そうとしたのはテレサお嬢様。前に勤めていた男爵家の次女です。そして男性はトムと申しまして、執事の息子です。さて、この場合どうしましょうかねぇ」
「執事の息子? マクシミリアンじゃなくて、トムっていうのか……どうだ。うちで執事をやってみる気はないか? 今すぐとは言わないが」
通常、執事の息子は執事になるための教育を受けていることが多い。そうにらんでの発言だが、
「いっちゃぁ何ですが、執事としてはまだまだですよ。ましてやご主人さまが求めているのは、領地もまかせられる人物でしょう。トムは屋敷内のことしか教えられていませんさぁ」
「いや、ゲルマニア風でなければ、ここにも領地経営の手法を考えられるのは他にもいる。だから、まずは屋敷内をしっかりさせよう」
「領地経営の手法を考えられるって?」
マチルダが聞いてきたので、
「もちろん、マチルダ。領地は議会に治めさせればよいだろう」
「シモンねぇ。何を考えているのよ」
「マチルダも将来を考えたらよい経験になるんじゃないのか?」
そうするとマクシミリアンとの偽名を使っていたトムから、
「私目は執事の訳を受けるとも何も言っていないのですが……」
「マクシミリアンじゃなくてトムだったよな。彼女、テレサもそろそろ20歳ぐらいだろう? このまま、一緒に幻獣退治をしていくつもりか?」
「えっ? わたし?」
「テレサお嬢様が家を飛び出していったから、トムがおいかけていったきりもどってこなかったのでしたわね」
フリーデリカが言う状況と、現状では少し違う部分もあるように見える。テレサが飛び出したのは良いが、貴族育ちのお嬢さんが現実でとまどっているところをトムがみているうちに主従関係がくずれてきているのだろう。まあ、どちらかというと今では恋仲であるように見えるといった方が正しい。
「テレサの風のトライアングルというのはもったいないな。よければ衛兵で、特別に普段は昼間だけという条件でも俺はいいぞ。そうすれば、二人ともこの屋敷にとどまれるだろう?」
「けど、わたし……衛兵ってしたことないし」
「なんだったら、トムと結婚して一緒に住むと言うのもありだがな」
一気にテレサの顔が真っ赤になる。
「それでどうだ、トム。執事になるもよし、ならないで、幻獣退治を続けていくのもよいだろうが、しっかり考えてみないか?」
「個人的なことが多いので、一度、冷静に考えさせていただきたいのですが」
「冷静なのもいいけど、勢いっていうのもあるそうだからな。まあ。良い返事をまっているよ。それとフリーデリカ。トムとテレサと話したいんだったら、接客室をつかってもいいぞ」
「いえ、私目なぞ」
「執事として、もしくるんだったら、その前にわだかまりだけはなくしておいてほしいからな。それに必要だったら、その男爵家とも話は通しておいてやる」
ゲルマニアの場合、トリステインほど陰湿さも少ないし、貴族と平民の差も少ない。考えようによっては行方不明だった次女の保護をして、内部に不満をもっていたメイドを引き受けたという都合の良い見方にもっていくことも可能だしな。
コックのユリアーンと一緒に4人が接客室ではなしあっていたようだが、当日はいったん街中の宿にトムとテレサは泊まってから、翌日こちらで執事と衛兵で契約をすることになった。結婚は、こちらでのフォン・プファルツ男爵家としてのお披露目パーティのあとにおこないたいとのことだ。まあ、ゲルマニア人的にしっかりとバックに俺がいるというのと、その主要取引相手がローエングラム伯爵だというのを、利用しようと考えてもいるのだろう。
マチルダの方は
「領地を議会にって、町議会と違うのよ?」
「原則は同じだよ。議員の選出するための範囲が広くなるので領地を議員単位で分割して、各地出身の議員が集まって議会を開くという感じかな。ただし、ここはゲルマニアだから議員は平民も可とするけどね。細かいところはもう少しつめないといけないだろうけど、自分の手はなるべく楽にして、風石販売とかその後の展望を考えていきたくてね」
「それだったら、爵位も特にいらなかったんじゃないの?」
「ゲルマニアだけならそうかもしれないけれど、外国と付き合うときは有った方が便利だからねぇ」
「そういうことなら、あたしが口をはさむことじゃないけどね」
「気にしてもらいたいんだけどな」
「何か?」
「いや、何も」
さらっと、話をかわしてみたが、特に追及はなかった。自身の気持ちが本当かもう少したってからにしようと思いつつ、風石採掘場でも風石が採掘できはじめてきたので、風石を洗う人材を応募もはじめている。こうして、新しい男爵家と風石採掘に風石採掘場までの道路整備などをおこないながら、月末を迎えようとしていた。
そして、そのうちくるだろうという情報が載った新聞は来た。アルビオンとトリステインが戦争になったというのと、その翌日には小さな太陽のような謎の魔法によってアルビオンの空船がすべて墜落していき、トリステイン王国の勝ちにつながったと。
ルイズに一通送っておいた、始祖の祈祷書が手元にくるようだったら、手元に残っているはずの始祖のルビーをつけて、始祖の祈祷書の最初の方を集中してみてみろと。もし読めたら、必要な時に初めての魔法が使えるが、そのタイミングはサイトが飛べるようになり、アルビオンが攻めてきた時だと。
ルイズへ送った手紙が読まれたとは限らないが、まずは、一安心だ。
だが、そんな情報が送られてきた3日後にトリステイン王国のとある貴族からの密使がきた。そして、密使がもってきた手紙の送り主は、ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド子爵で、俺の兄だ。トリステイン王国から子爵の爵位で送ってきたということは、アルビオンに密偵として入り込んだのか。
そして、密使は俺が良く知っているトリステイン王国魔法衛士隊騎士見習いのアベルだ。一緒に魔法衛士隊の訓練を受けさえてもらって仲がよかっただけに、手紙は読んでみないと解らないが、頭が痛いぞ。
ヒルダの貴族疑惑と、マクシミリアンの執事疑惑の伏線は回収と。
2013.10.06:初出