陰に潜む者は   作:烏鷺烏鷺

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第22話 罠は忘れたころに

兄であるジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド子爵の密使として来たのは、トリステイン王国魔法衛士隊騎士見習いのアベルで、一緒に魔法衛士隊の訓練を受けさえてもらって仲がよかった相手だ。そのアベルから受け取った手紙を読んでみる。

 

手紙の中身は簡単に書くと2種類にわかれていた。

 

1つ目は、直接話がしたいから、トリステニアの屋敷まで来いっていうことで、そんなのはもう無視を決め込みたいところだ。ただし、トリスタニアに行くのは良い面もあるから、そう無視をするわけにもいかない。

 

もう1つは、密使としてきているアベル・ド・モットを魔法衛士隊の騎士見習いからはずすから華を持たせてやれ、ってことだった。

つまり、アルビオンがタルブ村降下後の戦いで、何か魔法衛士隊として勤めるのには完全に不適応だったということなのだろう。1つ目だけなら、俺がどう動くかジャン・ジャック兄さんでも読めなかったから、俺の選択肢に制限させる目的も含めて2つ目である文章をもってきたのだろう。

 

手紙を読み終わった俺はある程度、兄の思惑にのるつもりで、

 

「アベル。あまり大きくはないが、1日ぐらいはこのラウテルンの街でも見学していかないか?」

 

「フォン・プファルツ男爵。密使としてきているので、あまり公に行動はできないのです」

 

「そんな堅苦しい。以前のようにシモンでかまわないよ」

 

「いえ、やはり立場というものがありますから」

 

「そうか……それでは、ミスタ・モット。子どものお使いじゃないだろうから、手ぶらでは帰れないだろう。数日程度は、この屋敷に泊まっていかないか?」

 

「っと、いうと何でしょうか?」

 

「最後まで言わせるなよ。きちんとした土産は持って帰れるようにするが、今日は少なくとも無理だから、泊まっていけよってことだ」

 

「なら、お願いいたします」

 

「じゃあ、きまりだな。ノーラ、初の宿泊者だ。ミスタ・モットを客室へ案内するのと、時間的にいって今からだとパーティまでは無理だろうから、簡単な歓迎の会にするからそのようにみなに伝えておいてくれ。あっと、そのあとでいいから、マチルダには執務室へきてもらうようにしてくれ」

 

この接客室に一緒にいたメイドであるノーラにそう伝えて、アベル・ド・モットを客室へつれていってもらったところで、俺と俺の横に座っていたレアは執務室へ移動した。

レアだが、最近はなる人間の形態になった際、毛髪の色はバリエーションが増えている。マチルダが髪の毛を銀髪に染めていたのを、本来の緑色にもどしたのに興味でもひかれたのだろう。今のレアは顔が東洋風だから、あまり派手な色は似あわないと思うのだが、髪を染めているのと同じような感覚で楽しんでいるのだろう。

 

 

 

夏至の前で、本来の夕食の時間も1時間前で、今日も天気が良い。こういう時ならレアは外で遊んでいることが多いのだが、執務室で俺が手紙を読もうとしている中、レア用の本棚から本を取り出して読んでいる。使い魔としての勘なのか、先ほどのやりとりを聞いていたことから、俺がマチルダと話すのを聞いていたいのだろう。

 

俺が手紙を読み返しながら考えていると、マチルダがノーラとともにやってきた。

 

「ノーラ、ドアの外で待っていてくれ」

 

それだけで、部屋へ入るためにドアを閉めようとしていたノーラが、部屋の外へと出ていく。あとは、こちらが呼び出すまで、ドアの外にでも立っているはずだ。

 

「人払いかい?」

 

マチルダの問いには答えずに、俺はサイレントの魔法で執務室から音がもれないようにして、

 

「まずはこの手紙でも読んでみてくれ」

 

すでにソファにつこうとしているマチルダに手紙を投げ渡した。

 

「わたしも大概だけど、シモンも行儀がわるいわね」

 

「こっちが地だからな。それよりもその手紙を読んでみることだ」

 

マチルダが手紙を読み終えるのを待っていたら、

 

「こんなの受ける必要なんか無いでしょ。なんでサイレントまでかけるのさ?」

 

「兄にあってくる。そしてトリステイン魔法学院に復学もしようと思っているので、その間のプファルツ領の領主代行をマチルダにおこなってもらいたいからだ」

 

「あたしが領主代行? その理由はトリステイン魔法学院に復学するからだって。領主になったというのに何を考えているのよ!」

 

「理由は簡単だ。トリステイン魔法学院にいた虚無の担い手が、その魔法に目覚めたと思われるからだよ」

 

「虚無? テファ以外に虚無がいるとでもいうのかい。あんたは」

 

「ああ。トリステイン魔法学院の宝物庫は、トライアングルの攻城戦ゴーレムでは壊れるような代物じゃなかっただろう?」

 

「まあ、そうだったけれど、その話とどんなつながりがあるんだい?」

 

「それを破壊できるきっかけとなったのは、ルイズ……ミス・ヴァリエールと言った方がわかりやすいかな? あの髪色がピンクブロンドの少女の魔法で、宝物庫にヒビでも入ったんじゃなかったのかい?」

 

「あの時、いなかったはずなのに、あんたは覗いていたのかい?」

 

「そう、思っていてもらっていいよ。それで話はもどるけれど、彼女と俺は領地が隣ということもあって幼馴染だ。その彼女とのつきあいの長さから考えていたんだが、魔法の特性から虚無の担い手だとみている。そしてアルビオンの船を墜落させた小型の太陽ほどもある魔法として出したのは、彼女だとね」

 

「けど、トリステイン魔法学院とラ・ロシュールだと離れすぎているでしょう。それともトリステイン王国はすでにヴァリエールが虚無だと知って、使ったんかい」

 

「今はわからないが、アルビオンでの魔法を見るまでは気がついていなかっただろう。それがわかっているぐらいなら、アルブレヒト三世とアンリエッタ姫殿下……今度から女王か。その結婚の話はもっと前に、なくなっていたはずだ。距離の問題は、トムとテレサでサイトに会ってもらうために言ったタルブ村の『竜の羽衣』が実際に飛んだんだろう」

 

「ふーん。まあ、彼女が虚無だとして、なんでまたトリステイン魔法学院への復学をするんだい?」

 

「ルイズに近づいて監視するのに、適正のある人材が見当たらない。特に魔法学院の2年生に転入させられるのとか居れば別だが、今からだと無理だろう。それに俺が復学するのが、時間的な差もなく見ていられるから、ロマリア関係者との接触をさけさせられるかもしれないのと、それによって『聖戦』をさけられる可能性を少しでも上げておきたい」

 

「虚無の担い手が2名ね。まさか他にもいるなんて言わないだろうね」

 

「可能性だけならあと2名ばかり候補はいるけど、決定的な証拠はもっていない」

 

実際には、タバサの双子の妹がいても不思議ではないのだが、さすがにどの寺院だか覚えていないのと、多分表にでてこない寺院だろうからなぁ。

 

「虚無が4名も。伝説も安い物ね」

 

「まあな」

 

「それで、あたしに領主代理をおこなえと?」

 

「ああ。最長で再来年の4月までだが、その間に領主代理をみつけてくる。それで受けてほしい」

 

「あんたねぇ。確かに『聖戦』を避けたいと言うのもわかるけれど、昨日まで議会をつくる方策を練っていたのに方針転換をするの?」

 

「ああ。議会をシステムとしてきちんと動き出させる準備期間に最低3ケ月はかかると思う。そして実際にシステムとして安定させるのは数年かかるだろう。だから、1年半ぐらい開始が遅れても、ここでは問題ない。マチルダが領主代行として、議会を立ち上げてみてアルビオンに戻る前の実験として行うのもいいだろう」

 

「そこまで『聖戦』がおこる可能性があるとみてるわけね」

 

「ああ。それとルイズとロマリアの接触を妨害するからには、場合によってはロマリアに暗殺される可能性がある。その時は、そのまま領主代行から領主になってもらってもいい。ただし条件はあるが」

 

「条件?」

 

「レアの面倒をみてやってくれ」

 

「それだけ?」

 

「えっ? わたし」

 

レアが間をあけて反応してきた。本を読みながら聞いてはいたんだな。

 

「そうだよ。レアはハルケギニアではなく東方の幻獣らしいから、こっちで自然にもどしてやっても生きていくのは大変だろう。それよりもハルケギニアの人間の常識を覚えて生きていく方が、楽じゃないのか?」

 

「……そうしたら、そんな危ない目に合う必要なんてないじゃない」

 

「いや。俺が覚えている東方の九尾のきつねと、レアが同じ種族なら人間の数倍は長生きするはずだ。普通にすごせても先に死ぬのはレアより、俺の方が先になる」

 

「そんなぁ」

 

「っということで、俺の勝手な願望だが、領主代理を引き受けてくれないかな。マチルダ」

 

「そんな話を聞かされたら、断るわけにいかないじゃない。わかったわよ、ひきうければいいんでしょ」

 

「そう言ってもらって助かる。あとアルビオン貴族として3年以内にアルビオンへ戻れなかったら、法衣貴族だが男爵位は購入しよう。マチルダが希望すればだけどね」

 

「領地がなければ、あまり貴族としている意味はあたしにはないのだけどね」

 

「テファか。テファなら今住んでいる村で数年分は暮らしていけるだけの資金と物資は送ったのだろう? それにマチルダがアルビオンの貴族にならないのなら、ここの領地で城を作る際に、そのそばに隠れ里を作る計画も話してあっただろう。それを実行すればいい」

 

「しかし、シモン。深く考えていると思ったら、間の抜けたこともするし、どっちがあなたの本性なんだい?」

 

「とある人が言ってたよ。人間なんて矛盾の塊だって」

 

「ふーん。誰がそんな迷言を言ったのさ」

 

「東方の人物だが、こちらで言えば平民さ。じゃあ、ミスタ・モットの歓迎の会まで準備の資料でもつくっているか」

 

レアが頭をかかえこんでいるが、いずれは直面する問題だ。

 

俺は、サイレントを解いて、外にいるノーラを呼んで

 

「歓迎の会まで、ここにいるから準備が整ったら呼んでくれ」

 

そうして、ノーラが部屋をでていってから、この屋敷を離れている間に必要な書類の回し方や、マチルダが領主代行として判断が困ったときの対処などの手順の基本的なアイデアをまとめて書いている。

 

マチルダはマチルダで、必要な事項を書きだしている。

 

 

 

アレン・ド・モットを主賓とした歓迎の会には、ここの屋敷で貴族と呼べるものは全員参加した。俺がアレンを簡単ながら全員に紹介してから、マチルダを亡命貴族として紹介したのを筆頭に、アルビオンの下級貴族だが『トルテュ』号の船長に昇格させたアレンと、『トルテュ』号のメンバーが増えたことから副長兼掌帆員になったロックに、衛兵ながらも未婚であるので男爵家の次女としてテレサと紹介していき、最後にレアを使い魔だと紹介したところで、アレンは驚いていた。まあ小ぎつねの状態しか知らなかったからな。そしてこの屋敷での初めての歓迎の会は無事に終わった。

 

 

 

翌日は、朝から執務室で色々な資料を作り上げてから、マチルダと今後の相談だ。その中でマチルダが一枚の書類を見て声を上げた。

 

「シモン。あんたって何を考えているのよ」

 

「いや、マチルダが見ている書類そのものだけど」

 

「これって結婚届でしょ!」

 

「ここを相続するなら、妻か子どもになるが、まだ未婚なのにマチルダを養子にする気にもならないから、書いたんだけどね」

 

「そりゃあ、そうなんでしょうけど、あたしが言いたいのは昨晩はなしただけで、なんで町役場に誰もでかけていない状態で、これが用意できていたかよ」

 

「トムとテレサ用に準備しといたのを流用しただけだけど」

 

言っていることは本当だが、本音は少々違う。前世で草食系男子と呼ばれていた名残か、本気の相手には自分から言い寄れないのは、こっちで生まれてからもそうだった。そうでない相手ではそれなりにすごせるんだけどな。

 

「そ、そうなの」

 

「もしかして、期待していた?」

 

「ま、まさか。」

 

話はそれだけだったが、マチルダとの件は、トリステインへ行って、自分の気持ちが本当か考えるチャンスだとも思っている。マチルダが俺についてきているのは条件を整えているのもあるが、俺自身がここでは異邦人だという考えを捨てきれないのを、マチルダが感覚的にとらえて見放せないのかもしれない。

 

 

 

そして、さらに翌日になって、ジャン・ジャック兄さんが住んでいる首都トリスタニアにむかって、レアにアレン・ド・モットと出発することになった。先に到着予定日程を伝書ふくろうにたくしておいた。

 

 

 

首都トリスタニアに着くころにはレアも乗馬がだいぶうまくなった。そして、アレン・ド・モットも以前と同じように「アレン」と「シモン」で呼び合えるようになったが、レア以外で他人が見ている場合では、格式ばった呼び名をつかうことになっている。

 

トリスタニアの兄の屋敷に着いたが、普段なら騎士見習いがいるはずなのに、それすらもいない。アレンについてこの屋敷の来客室でレアと一緒にまっていると兄が来た。

 

「ひさしぶりです。ジャン・ジャック兄さん」

 

「お前こそ。シモン。それでそちらのお嬢さんは?」

 

「前に連れてきた、使い魔のレアだよ。人間の状態にもなれるんだ」

 

「初めて見る幻獣だとは思っていたが、そんな能力をもっていたとはな」

 

「そんなことよりも、レコン・キスタへ密偵と入り込むのならあらかじめ教えてくれればよかったのに」

 

「そうは言うな。本当に極秘任務だから、お前にさえ言えなかったんだぞ」

 

「残念だけど、マザリーニ枢機卿の指示だったんでしょう?」

 

「そうだな」

 

「知っていたら、トリステイン王国内で隠れていたんだけどね」

 

「僕としては、そう思っていたのだが、まさか、ゲルマニアに亡命したとはな」

 

「まあね。けどトリステイン魔法学院には行きたいと思っているんだけど」

 

「それも手続きはすでに済んでいる。以前と同じように行けるぞ」

 

そこで違和感を覚えた俺は

 

「以前と同じようにって?」

 

「もちろん、ワルド子爵家の次男として通うことだ。この前のアルビオンとの戦いで魔法衛士隊も減ってしまったから、今の実力でも卒業すれば魔法衛士隊に推薦することが可能だぞ」

 

違和感の正体に気がついた俺は

 

「ジャン・ジャック兄さん。俺はもう正式な帝政ゲルマニアのフォン・プファルツ男爵家の当主となったんだ。もうワルド子爵家の次男としてトリステイン魔法学院に行くつもりはないんだよ」

 

「なんだって! 今回の密偵に入ったおかげで、俺は過去にあった近衛隊隊長に昇格したのと、さらにレイ地方の一部を入手することができたんだ。そこをお前に譲ることができるんだぞ」

 

「……知るのが遅すぎたよ。最初からそれを知っていたら、その計画にのっていたと思う。けれど、もうすでにゲルマニアで封建貴族となって、さらに風石の販売も契約とサンプル提供も開始をしているんだよ。兄さんの話から聞くと、この状態だとトリステインの男爵位程度の領主だろうけれど、そうしたら今度は二重密偵の疑いをかけられてしまい、ゲルマニアはもちろん、トリステインでも今後は立ちいかなくなると思う」

 

「そうか。遅かったか。それで後悔しないのか?」

 

「自分で選んだ道だよ。後悔はするかもしれないけれど、悔いは無いよ」

 

「わかった。僕の立場上、トリステニアでは、もう簡単には会うことはできないと思うが、ワルド領の城ならば自由に入れるようにしておこう。っというか、ジャン爺が心配していたぞ」

 

「機会を見つけて、ジャン爺さんには会うよ」

 

「それと、一つ確認しておきたいことがあるのだが、いいかな?」

 

「いいも悪いも、確認したいことって何?」

 

「ニューカッスル城地下の港との通路に泥式の罠をしかけたのはお前か?」

 

「罠というよりは、特殊なゴーレムだけどね。あれなら、例え思ったよりも早く城に侵入されても、そう簡単には突破されないと思ったから」

 

「確かにてこずったようだな」

 

「うん? 何かあったの?」

 

「あれにひっかかったのは、ウェールズ皇太子だ。おかげで『アンドバリ』の指輪で生き返らされている」

 

俺は、良かれと思ったことが逆になっている。なんでウェールズ皇太子が、あんなところに行ったんだ。

 




ジュール・ド・モットはアニメに出てくる貴族です。
さて、マチルダは将来をどう考えるのでしょうね。
ニューカッスルの永続型ゴーレムの伏線も回収ですが、新たな謎です。

2013.10.19:初出
2013.10.20:改版
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