ジャン・ジャック兄さんからは
「ウェールズ皇太子が『アンドバリ』の指輪で生き返らされている」
と聞かされた俺は、少々当時の撤退方法がまずったかとバツの悪い思いにかられたので、話をずらすために
「レコン・キスタだけど、次は何をしてくるかは読める?」
「はっきり言ってわからん。なにせ、不可侵条約を結んだばかりだというのに、その条約をやぶるつもりで侵攻作戦をたてるような奴らだからな」
俺の気分を察知してくれたのか、兄は話にのってきた。
「それで、兄さんはその時どこに?」
「侵攻作戦の指揮で旗艦にいたが、火薬庫に火をつけて脱出した。帰還は爆発して落下していったから、アルビオンの方を混乱まではできたが、艦数がそもそも違う。しかし、トリステインも旧型艦を中心に集めていたから、第二陣の艦隊の到着を待つ間に風竜で上空を待っていただけだが、その間に小型の太陽のような光のあとで、アルビオンの艦隊がゆっくりと落下していったのは」
「兄さん。その小型の太陽な物の前に、誰か来たんじゃない?」
兄の目はわずかに細まりながら、
「なぜ、そう思う?」
「トリステインで新兵器をのせた空船がきて、結果がそんな派手な魔法装置のたぐいならもう隠す必要はないだろうから」
「……軍事機密だ」
「そう、わかったよ。マザリーニ枢機卿か、アンリエッタ新女王に口止めされているんだね。幸いにしてまだ、昼前だからこれからトリステイン魔法学院にいって、復学の手続きをしてくるよ。そしてルイズの様子をみてくる」
「ルイズだと……お前、まさか。トライアングルになっていたのか?」
「残念ながらトライアングルじゃないけど、ルイズのオーラは特別に感じているって言ってたのは兄さんだったよね。そして、兄さんは覚えていないかもしれないけれど、ルイズの使い魔であるサイトの左手には始祖ブリミルの盾である『ガンダールブ』の古ルーンがきざまれていた。そしてルイズの魔法はかならず爆発していたが、威力の割には人に対してそれほど傷つけずに、魔法に関する物に対してほど、影響力が強かった。アルビオンの艦隊への影響との類似性も高いよね?」
「まさか、お前。元々気がついていたのか?」
「それに返答するのは、兄さんを口止めしているのが、アンリエッタ女王か、マザリーニ枢機卿かによるよ」
「それに答えないと教えてくれないのか?」
「うん」
「お前の復学を阻止することもできるんだぞ!?」
兄さんがレコン・キスタについていなからと油断をして手をあかしすぎたか。
「わかったよ、降参。元々4系統ではないだろうから虚無までは推測していたけれど、その考えに自信がもてたのは、ルイズがガンダールブを使い魔として召喚した時かな」
「お前、ガンダールブのことを俺にも知らせていなかっただろう」
「あのときは兄さんが、このトリステイン王国の上層部を見て、レコン・キスタの誘いにのるかもと思っていたからねぇ」
「確かに思うところはあるが、今後はこの国もかわっていくだろう」
「ふーん。その口ぶりだと、アンリエッタ女王に口止めされたね」
「お前!」
「なぜかって? マザリーニ枢機卿じゃ、今の状況にとどめておくのがせいいっぱい。アンリエッタ女王に新しい可能性をみい出したって感じの口調だったよ」
「お前にはまいるなぁ」
「いや、兄さんが政治家に向いていないからわかるんだよ。どちらかというと軍人に向いているからね」
「ふん」
兄が子どものすねたような感じになったあと、
「とりあえず、ルイズに何かあるなら俺に知らせろ」
「無理」
「なぜだ?」
「兄さんの口止めをしているのはアンリエッタ女王でしょう。それならルイズとすでに接触して確認ぐらいはしているでしょう。だから、アンリエッタ女王から表だって依頼をされれば、元トリステインの貴族として協力するのもやぶさかじゃないけれど、そうでなければゲルマニアでの立場が問題になってくるからね。なので今はルイズを見守ることが重要だと思っているんだよ」
「こんなことなら、密偵としてレコン・キスタへ入ることを事前に、お前にも知らせておくべきだったな」
「まあ、手に負えそうにないと思って、時間的な余裕があるようなら頼るからさぁ」
「お前なぁ」
「別にトリステイン王国を見限って、亡命したわけじゃないからねぇ」
ジャン・ジャック兄さんのしばいを見破れなかっただけといってしまったら、それまでだけど、それが一番真実に近いだろうからな。
「ところで、アベルはどうするつもりなの?」
「彼の父であるモット伯の下で働くのがよかろう。なにせ、亡命したはずのお前をまがりなりにもつれてきた実績があるからな」
そう仕向けたのは兄さんだろうと思うが、アベルが魔法衛士隊に向かないのならば、通常の軍人にも適正は低いのだろう。それはそれでアベルの人生だ。言われてそれに従うのならば俺が口をはさむことではない。
それからは、何か伝えたい場合には伝書ふくろうを、王宮で空き室になっていた近衛隊隊長室に送ることとして、屋敷をあとにした。
もうここに入ることは無いのかなと思いつつ。
王都トリスタニアで昼食をとったあとに、一通の手紙を書いてから、魔法学院へ向かった。馬の上で、兄とあった時の情報を加味しながら、特にウェールズ皇太子のことを考え込んでいたが、アンリエッタ女王が本当にいなくなってしまわなければ、結局はなるようにしかなるまい、というところで魔法学院の入り口についた。
元々ここの生徒だったのを覚えている衛兵には、レアをつれているというのに、止められることもなく中へ入れるというのは、あいかわらずヌルい体制だな。約束はしていなかったが、オスマン氏との面談を申し込むと、少々の時間は待たされたが学院長室に通された。
「オールド・オスマン、お久しぶりです」
「ミスタ・ワルドじゃったかのぉ」
「元はそうですが、ゲルマニアの男爵位をとりましたので、復学とともに、ここでの名前をシモン・トレ・ビュルガー・フォン・プファルツに変更するのも一緒にお願いしたいのですが」
「まあ。事情はある程度きいておるので仕方がないであろう。それで、一緒にいるお嬢さんは?」
「俺の使い魔ですよ。人間の形態もとれるというよりは、今は九尾のきつねよりも人間の形態でいる時間の方が長いんですよ」
「ルーンは?」
「レア、見せてあげな」
レアはくるりとまわって、背中をオスマン氏にみせたあとに、髪の毛をあげると、うなじのところにルーンが見える。
「必要なら、九尾のきつねになるところもお見せできますが」
「いや、よかろう。寮の部屋は元の所が使える」
「ありがとうございます。ただちょっとお願いがあるのですが」
「なんじゃ?」
「レアは人間の形態で寝ることが多いので、ベットを一時的に借用させていただきたいのですが。もちろん、その間の費用は支払います」
「うむ。どこか使用人の部屋でも借りるかの?」
「いえ、ベットは自室に運びますので、それをしばらくの間お借りしたいのですが」
「そのあたりは、今日だと……ミス・シュヴルーズが担当だから、彼女に聞きなさい」
俺は秘書がいないかわりに教員にそのあたりをまわしているんだなと思ったが、
「わかりました」
「要件はそれだけかの」
「はい」
「では、行ってよろしい」
以外にあっさりと終わったなと思ったところで、ミス・シュヴルーズの教員室に向かった。これがミスタ・ギトーなら嫌にもなる。しかし、ミス・シュヴルーズならば厳しい面もあるが、基本的には優しい人物だ。ミス・シュヴルーズにあって、色々と段取りをしてから男子寮の中に入った。
さてと、まだゲルマニアの貴族になったと知れ渡る前にルイズの様子を見にいくかと思い、レアは部屋に残して、一人で女子寮にあるルイズの部屋へ出向くと、ルイズはお香をたいていたが俺を見るなり、
「シモン。サイトがここに残っていれっていうの~」
っと、以前までとまるで違う態度だ。俺はもしかしてと思って
「ルイズ。身体の調子が悪いんだったら、身体の水の流れを診てみようか?」
「いや。わたしの身体に触っていいのはサイトだけなんだから」
俺は半分、頭痛をおこしたような気分になりながら、
「医者に水の流れをみてもらうのはふつうだろう? 俺じゃダメなら、本当の医者にみてもらうが」
「そっちも嫌。サイトがいいの」
この反応からすると惚れ薬を飲まされたのか、飲んでしまったのであろうが、サイトが意図して飲ましたわけじゃなさそうだな。そういえば、ラグドリアン湖の水の精霊とあったのがこのタイミングかと思い、
「わかった。サイトがもどってくるまで、この部屋のそっちの椅子でまたせてもらっていいかな?」
「うー、サイトがいいの。けど、さびしいからシモンでも話の相手になって」
そのあと、俺はルイズから散々とサイトとの、のろけ話を聞かされる。今は一緒にベットで横になっているだの、昨日も一昨日もキスだけで、手を出してくれないだのと。惚れ薬の威力は、ギアスの魔法のはるかに上を行くなと思いながら、聞いているとサイトが戻ってきた。
「サイト」
「ルイズ。明日はラグドリアン湖に行こうな」
「一緒にいくの。うれしい」
ルイズは俺からサイトの方に向き直って嬉しそうに言っている。サイトはルイズの居る方に向かっていたので、俺に気がついていないようだ。
「サイト。久しぶりだな」
「シモン! いったいいつの間にいるんだ?」
「いつからというのが、この部屋にいることを指すのなら、つい10分ほど前から。この魔法学院に戻ってきたということなら、1時間半ぐらい前かな。それで、ルイズのこの様子だと、惚れ薬でも飲んでしまったようだな」
「いや、俺が飲ませたんじゃなくて、事故なんだー!!」
「サイトが手をだしていないのは、ルイズからきいたのでわかっている。だからどういう状況かは不明だが、サイトが意識して惚れ薬を飲ませたわけじゃないことはわかる」
「そうなのよー。サイトがわたしに手を出してくれないのは、わたしに魅力がないからだわ」
「ルイズは十分に魅力的だよ。ただ惚れ薬を飲んだ時よりも、飲んでいない時の方が魅力的だから、元にもどそうとしているんだよ。そうだよな? サイト」
「そっ、そうなんだ。だから、元のルイズのもどってくれ」
「そうなの?」
「ところで、惚れ薬に必要なのは解除薬だが、今は確か水の精霊の涙が入手しづらいから
ラグドリアン湖に行くのだろうが、誰と一緒に行くんだ?」
「モンモンとギーシュ」
「モンモンって?」
「モンモランシーだったかな?」
「サイトはモンモランシーの方がいいの?」
「サイトがモンモランシーの方がよかったら『かな?』なんて言い方はしないだろう。ギーシュとモンモランシーなら、ギーシュにちょっと話を聞いてくる。多分、明日は俺もいくことにしよう……それと、サイトにひとつ教えておこう」
「何?」
「だいたいの惚れ薬は、飲んでいたあいだ記憶について通常と同じくらいは残っているから、言動などに気をつけておけよ」
「なんだってー」
「ルイズから聞いた話からすると、多少のことは覚悟しておくんだな」
これで、サイトもルイズに手をだしてしまいそうなのを抑えることができるだろう。俺は男子寮に戻って、そのままギーシュの部屋に行った。しかしギーシュは判断をしかねるので結局はモンモランシーの部屋まで行って一緒にいくことに一見は不承不承とした感じだが、同じ学年で数少ないラインである俺が行くことに、護衛としてだが多少の安堵感はあるようだ。
思い出したついでに、キュルケを追っかけているギムリに聞いてみたが、2日ぐらい前から見当たらないそうだ。タバサのことは聞くだけ無理と思って、レア用のベットを自室にいれるのに、ベットを運ぶ際につきそっていたメイドにタバサとキュルケのことを聞くと馬車の乗って出かけたとのことだ。もちろんチップをはらっておいたが。
翌早朝、俺がレアを一緒につれていくと、ギーシュは
「おい、シモン。その娘はどうしたんだ?」
「うん。使い魔のレア。人間の姿を見るのは初めてだったな」
サイトがそこで反応する。
「レアって、確か九尾のきつねじゃなかった?」
「人間に変身できる幻獣だよ。亜人あたりは比較的そういうのも多いが、きつねぐらいの幻獣が人間に化けるのは少ないな」
「サイト。そのレアって娘がいいの?」
「いや。シモンの話を聞いていなかったのかい? あの娘は、シモンの使い魔で本性はきつねだよ」
すこしばかり、ルイズがぐずっていたが、サイトが乗る馬のサイトの前に乗ることで、おちついた。
こうして、ラグドリアン湖に向かうが、復学予定日は今日だったはずなのに、初日からサボリだ。
ラグドリアン湖につかなかった。
2013.10.25:初出