モンモランシーの部屋での解除薬後におけるルイズとサイトのどたばたのあとに俺から話すこととした。
「俺がアルビオンの帰りに身をくらました件で話があるけど、ここではなさせてもらってもいいかな? モンモランシー」
モンモランシーとレア以外はラ・ロシュールで別れたメンバーだ。
「聞いてあげてもいいわよ」
「ありがとう、モンモランシー。それであのあとの俺だが実は、帝政ゲルマニアに亡命をして、あっちで領地と封建貴族の爵位を買って、現在は男爵のシモン・トレ・ビュルガー・フォン・プファルツとなった」
そうすると、皆が予想外だったところで間は開いたが、真っ先に反応したのはルイズだった。
「ななななんでゲルマニアなんかに行くのよ。シモン」
「あの時は兄が、貴族派についたと思ったからさ。実際には間諜としてもぐりこんだとのことだが、他国であれ、王家に反した貴族につくのは、軽重はあるけれど、家族ともども処罰が下される。アルビオンの内乱が王族同士なら、そういうこともなかったのだろうけれどね。だから、あの時で考えられた最善の結果でも資産は必要最低限を残して没収で、よくて下級貴族の地位だろうが、下級貴族になった理由が理由だから、まともなところに入ることは不可能だからね。だからゲルマニアで貴族になることにした」
ルイズは口を閉じたが、今度はキュルケが、
「よく男爵位とはいえ、封建貴族になれるだけの領地を買えるだけのお金をもっていたはね?」
「ああ。それはゲルマニアのヤン・エリアス・フォン・ローエングラム伯爵を頼ったからだが、知っているかな?」
「そういえば、平民ながら伯爵位をもっていたわね。確かローエングラム銀行なんかもあったんじゃないかしら」
「そう。そのローエングラム伯爵だ。本来なら、封建貴族となるなら準男爵位程度しか金はなかったが、たまたま、隣の領地がトリステイン出身の男爵でね」
「なるほどね。トリステインから亡命しても、メイジでなければ、貴族にあらずって頭の固いのが多いみたいね」
「っということで、そこの領地との緩衝役もかねて安く購入できたんだ。まあ条件もつけられたけどね」
「条件っていうのは言えないんでしょ?」
「さすがだね、キュルケ。それで、トリステインとゲルマニアは同盟も組んでいるし、トリステイン魔法学院へ復学してきたんだが、今日のラグドリアン湖で確定したことがある」
「何?」
「アルビオン王国の亡くなったはずのウェールズ皇太子が、『アンドバリ』の指輪で生き返らされたらしい。これは間諜をしていた兄が、ウェールズ皇太子の生き返ったことを目撃しているから確かなことだ。これから、どうなるか予測がつくかな?」
「思い出したわ! そのウェールズ皇太子よ! どっかで見た顔ねー、なんて思ってたのよ。あれはたしかにウェールズ皇太子さまじゃないの」
満足げにしていた様子のキュルケにルイズは
「ねえキュルケ、そのウェールズ皇太子は、どっちにむかったの?」
「あたしたちとすれ違いだったから、そうね、首都トリスタニアの方角よ」
俺はキュルケに質問を追加してみた。
「ウェールズ皇太子は1人だったか?」
「そんなわけないでしょう! たしか10人はいなかったと思うけれど」
そうすると、ルイズは駆け出し、それを追うかのようにサイトも走りだした。
「姫さまが危ない!」
「何でよ――!」
キュルケが慌てて聞いたが、ルイズたちは答えずに走っていく。キュルケとタバサはウェールズ皇太子とアンリエッタ女王との関係を知らないであろうから、俺は、
「理由は後で話すからシルフィードに乗せてくれ」
「わけ、わかんないけど、タバサいいわよね?」
タバサはうなずき、俺たちはルイズたちを追いかけることにした。
魔法学院を出発したのはそろそろ日が暮れ始めた頃だったが、幼い風韻竜……それは隠してあるから風竜に5人とレアには九尾の子ぎつねの状態になってもらったが、人数が多すぎたのか、魔法学院から2時間あまりもかかって夜に11時に王宮の中庭へついた。
そこにいたのはマンティコア隊隊長であるド・ゼッサールだが、
「また、お前たちか! 王宮はお前たちの遊び場ではないぞ!」
ルイズたちはアルビオンからラ・ロシュール経由で王宮へきたときにであったのだなと思うが、特に何かおきたような感じはしない。
「ド・ゼッサール殿とお見受けいたしますが、近衛隊隊長であるワルド子爵はいらっしゃいますか? 俺はシモンでワルド子爵の弟なのは知っていらっしゃると思いますが」
「確かに、以前はワルド子爵に弟君はいたと記憶しているが、今はもうトリステイン貴族ではなくなったともきいておるが」
チッ! ド・ゼッサールとは面識はあったから兄がいれば簡単に入れるかと思っていたが、すでに各隊長格には少なくとも伝えてあったか。ここでラチがあかないと思ったのか、ルイズがポケットの中から紙をとりだして、
「わたしは女王陛下直属の女官です! 女王陛下にお目通り願いたいわ! このとおり陛下直執の許可証を持っているわ!」
そのルイズが出した紙をド・ゼッサールが目を通した後に、本物の許可証であると認識したのであろう。目を丸くしながら答えてくる。
「わかりました、ミス・ヴァリエール。貴女様と従者の方は、直接女王陛下のところへ、残りの方々は謁見待合室にてお待ちいただきましょう」
ルイズとサイトは、アンリエッタ女王の私室へと向かったようだが、残りの俺たちは人がいない謁見待合室で待っていることになった。
その中でキュルケはつまならそうに
「何か一事件でもありそうだったのに、何もないのね」
「まあ、事前に抑えておけるのなら、それが一番だよ」
俺はアンリエッタの誘拐がなくても、いずれ、トリステイン王国は王権を守るとの理由でアルビオンに侵攻すると思っている。虚無のエクスプロージョンを使えば、楽に侵攻できることは、ガリアのジョゼフ王ならいつかは気がつくだろう。そうすれば、再びアルビオンから侵攻作戦が始まる。それを行う軍備がアルビオンで整う前に侵攻しなければ、まともに考えたらトリステイン・ゲルマニア連合に勝ち目は薄い。
そんな謁見待合室で待っていたのもつかの間、部屋の外がいきなり騒がしくなった。ぎょうぎは悪いが、謁見待合室のドアを開けると、魔法衛士隊隊員が走り回っている。俺はその中の一人を止めて、
「特例で女王陛下の謁見を待っているのだが、どうしたのかな」
「急いでいるので、放してほしい」
「まさか、女王陛下の行方がわからないのか?」
止めていた魔法衛士隊隊員は一瞬ビクリと身体をさせたが、そのあとは
「急いでいるので」
そう言って、本来向かう場所に行ったのだろう。
隊員の動きから、アンリエッタ女王が傷を負ったとか、死んだとかはなさそうだから、やっぱり行方不明になっているというのがただしいのだろう。問題はどうやって、出入りしたかだが、透明化するマントがあるなら、アルビオンでの内戦に夜襲で使われていただろうから、すでに使い物にならない状態である方に俺ならかける。ガリアが貸し出すとも思えないし、こっちの線は薄いだろう。そうするもう一つ考えられるのは王宮からの抜け道か。この世界では、アンリエッタ女王の部屋に隠し通路があることを知っている者がいたのか。そうやってドアのところで考え込んでいると、後ろから抱きかかえられるようにしてキュルケに聞かれた。
「なんか、トリステイン女王の行方がわからなくなっているようなのに動かないの?」
「アンリエッタ女王の部屋がわからない」
そういって、抱きかかえてきてたキュルケから抜け出したが、キュルケのこういう行動って半分は無意識におこなっているっぽいだよな。
「だからって、待つわけ?」
「そうか、手はあるかもしれないな」
俺は奥の方へ向かおうとする魔法衛士隊隊員をつかまえて、
「アンリエッタ女王の部屋の抜け道は調べたのか?」
「そんなのは決まっているであろう」
「まさかディテクト・マジックだけで調べ終わったなんていわないよな?」
「……」
「土メイジに壁の厚さを測ってもらうんだ。そうすれば、抜け道を調べるのが早くなる」
そう言うと、魔法衛士隊隊員はハッとしたように、奥へと駆け出したので、俺はその後ろを走りついて行った。この展開を読んでいたのかキュルケもタバサもついてくる。そのまま、アンリエッタ女王陛下の私室に紛れ込んだが、人数は10名にもみたない。その中でルイズがおろおろしているのをサイトがなだめようとしていた。
「ルイズ、まだあきらめるのは早い。行方をくらませたのにウェールズ皇太子が関係しているのなら目的地はアルビオンだ。アルビオンへ行く2つの港街のうち、今の時期ならラ・ロシュールが最短で行けるはずだ。ただし裏をかかれるかもしれないから、もう1つの港町にも魔法衛士隊はいってもらった方がよいかもしれないが」
そして、その時にようやく抜け道を見つけた魔法衛士隊隊員が回転式ドアの中に3人ほど入っていく。場所がはっきりすれば、アルビオンへ行くルートを1つに絞れるかもしれない。
1人の隊員がでてきて、ドアへ駆け寄っていくので、
「多分、ド・ゼッサール隊長のところへ報告にいくんだろう。おいかけるぞ」
魔法衛士隊隊員がド・ゼッサールへ報告するのを耳にできたが、ド・オルニエールで王都から西にある領地だ。東方向のゲルマニアの近くの港町より、南方向のガリアに近いラ・ロシュールへ行く方がわざわざ王都を迂回するよりは脱出しやすいだろう。
俺たちは、南下する街道をシルフィードの低空飛行で行くことにしたが、シルフィードの体力なども考えてなのか馬より若干速いぐらいだろう。その間にヒポグリフ隊に追い抜かれてしまった。その時に
「相手は、『アンドバリ』の指輪で生き返らされているのが含まれているから、昔のドーヴィル事件で使われた癒しの魔法か、吸血鬼のゾンビに一番効果が高い火を試してみるんだ!」
っと大声で伝えたが、ヒポグリフ隊隊長とは、面識はあってもあまり話をしてなかったからなのか、反応が薄い。それでも王宮から出発できたのは夜中の0時過ぎだから、シルフィードの飛行速度が遅いことを考えても、ヘクサゴン・スペルは完成させられないだろうとみていた。
それから低空飛行も20分ほどしたところで、先行していたヒポグリフ隊が転がっている光景を見つけた。そこでタバサ以外は地上におりて、タバサはそのままあたりを見張っている。俺は逆に地上におりて足から伝わるまわりの状況を感じ取ることに専念した。
一番感覚が優れている熱には、まわりのヒポグリフ隊のメンバーがかろうじていきている者がいることを知らせてくれるのと、草むらの中にはただ1つだけ熱に反応して他は反応せずに、足からは2本足の感触が少々感じ取れる。熱源を感じなければ、普通なら変温動物と誤認識するだろうが、今回はこの場の状況からみて待ち伏せだろう。俺は
「レア。人間の形態に戻るんだ」
「いいけど」
レアは、キュルケみたいに真っ赤な髪色をして人間の形態になったので、俺は周辺の草原で熱源がある以外の部分にむかって錬金を行ったが、それよりも早く草むらからの各種の魔法攻撃がやってきた。それに対応したのはエア・シールドの魔法で防いだタバサだった。残念ながら俺の錬金は、タバサのエア・シールドで不発に終わった。多分4分の1ぐらいは精神力を消耗した。
草むらから揺らりと影が立ち上がるが、その中にいた人物にサイトが反応して、
「ウェールズ皇太子! 姫さまを返せ」
ウェールズ皇太子は微笑を崩さずにいる中、アンリエッタ女王も戻らずについて行くとのことで、俺はその間に、フレイムボールの魔法を一番手じかな相手に叩きつけた。
「火は確実に効くようだな。レア、お前の得意分野だ」
アンリエッタ女王と、ルイズやサイトが話かけていたおかげで相手の陣形は整っていないところに俺は左手の杖で火のムチをだし、相手とは中距離戦に持ち込もうとする。その援護をするのが、レアだ。
キュルケも火ということでファイアボールで追撃をかけて、相手をアンリエッタ女王まで含めて4人としたところで、突然の雨が降ってきた。
そんな早く雨がふってくるのは計算違いだが、相手が少ないので一旦逃げ出すのも手だが、こんなときにデルフリンガーが思い出しやがる。
「祈祷書のページをめくりな。対策なら練っているはずだから、必要なら読める」
って、はしょりすぎだろう。そう俺は心の中で突っ込みながら、ルイズがディスベル・マジックの魔法の詠唱を始めた。対するウェールズ皇太子とアンリエッタ女王もヘクサゴン・スペルを唱えている隙に、俺はこの雨を利用して護衛にまわっている相手に癒しの魔法をかけてみたが、効き目が無い。火のムチはすでにやめているので、あとは火のブレイドをつかってみるのも手だが、下手をすると、ヘクサゴン・スペルにまきこまれる。あとは結局サイトだのみか。
サイトがなんとかヘクサゴン・スペルを防ぎ切り、ルイズのディスベル・マジックで、『アンドバリ』の指輪で生き返らされた相手はすべて死者へと戻った。
その中でアンリエッタ女王は、ウェールズ皇太子へ駆け寄ろうとしたが気を失った。
俺や、タバサの残った精神力では傷ついた相手の治癒はしきれなかったので、気がついたアンリエッタ女王が手当をして、死者を木陰に運ぶことにした。アンリエッタ女王はいとおしげにウェールズ皇太子を木陰につれていったが、ウェールズ皇太子はそのままだった。死に方がことなったからであろう。
そして、王宮にアンリエッタ女王をもどすことにしたが、シルフィードの上では誰もが口を開かずに重苦しい雰囲気で、王宮で別れをつげることになった.
それがサイトの今後にどうかかわるかは、俺にはわからなかった。
港町が2つあるのはオリ設定です。
4巻で南下するということで、初めてラ・ロシュールの位置関係を把握しました。
ゲルマニアがアルビオンをおそれているので、北方面だとばっかり思っていました。
『吸血鬼のゾンビに一番効果が高い火』というのもオリ設定です。
2013.11.10:初出