陰に潜む者は   作:烏鷺烏鷺

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第26話 夏休みの始まりとともに

明日からは2カ月半にも及ぶ夏季休暇だが、俺はレアに子ぎつね状態になってもらって、馬で首都トリスタニアにむかっている。隣にはルイズとサイトが馬にのっている。

なんでこんなことになっているかというと、ヴァリエール公爵家にはワルド子爵家から独立したことで、一度あいさつにいこうと思っていたが、ルイズと一緒で行かせてほしいと頼んでおいたからなんだが。ルイズの母であるカリーヌは、この手に関して自分の息子でもないし特に言ってこないと思うのだけど、ヴァリエール公爵は俺の剣の師匠でもある。まあ、昔はトリステイン有数のブレイドの使い手だ。今でもそうそう敵う相手がいるとは思えないほどの力強さをたもっている。そんなので隣の領主の息子で弟子相当なのに、同盟を組んでいるからといって、ゲルマニアへ行ったのは面白くは見ていないと思う。

そんなことをルイズに言って頼み込んでおいたのだが、帰り準備のさなかにサイトがタルブ村へ行くの、ルイズが行かさないのとやりとりというか、一方的にサイトがなぶられていた中で、伝書フクロウが届けた書簡をルイズは見たとたん「帰郷は中止よ」といった具合だ。俺は行く場所が首都トリスタニアであることと、馬車は使えないということだけを確認して、

 

「トリスタニアに向かうのならば、実家へ向かう方向とさほどずれていないから、ルイズたちが馬に二人乗りでよければ、一緒に向かうか?」

 

大部分の馬は、魔法学院のもので俺みたいに自分の馬を預けているのはほんの数人だ。俺も馬を預けだしたのは、復学をしてからだが、俺の提案にルイズはしぶしぶながらものったので、1時間後に馬舎で待ち合わせということで一旦わかれてから、集まってからトリスタニアへ向かっている最中なのが今だ。

 

俺としては、ヴァリエール公爵家に向かうもよし、ルイズの夏季休暇のはじまりがどこにいるかが確認できればよしのスタイルをとっていた。結果としてはトリスタニアに行くことから、アンリエッタ女王から街中の噂話でも集めるようにでも書かれていたのだろう。それならば、確か、危険な目にあうこともないはずだが、アンリエッタ女王がキツネ狩り作戦を行うかは不明だ。なんせ、ド・オルニエールの出入りを知っているのが居たってことは、トリステイン王国の王宮内部はかなりレコン・キスタ派に食い込まれている可能性があるからなぁ。

 

 

 

首都トリスタニアの駅でルイズとサイトへの別れ際に

 

「4,5日はトリスタニアにいる予定だから、何かあったらここにきてくれ」

 

「なんで、わたしじゃなくてサイトへ渡すのよ」

 

「うーん。ルイズが困ったときに、ゲルマニア貴族になった俺へ素直に相談でもくるか?」

 

「……いや、だからって、サイトに渡すことも無いでしょうよ」

 

「たかだか、4,5日のことだよ。そのあとはワルド子爵領によってから、ゲルマニアのプファルツ男爵領にもどるからなぁ」

 

そのまま、ルイズたちとは別れて俺は馬を預けたあとに、もう夕食の時間帯にもなろうというところで、人間の状態になっているレアと一緒に宿とするべき場所へ向かった。そこの店長と顔を合わせて、

 

「スカロン店長。とりあえず4、5日間ばかり泊まる」

 

「先月はいらっしゃらなかったと思いましたら、今度はお泊りですか。ミスタ・ワルド」

 

「今はワルドでなくて、フォン・プファルツになった」

 

トリステイン貴族からゲルマニア貴族になったことに一瞬、驚いた様子であるスカロンであるが、そこは商売人。すぐに、

 

「どのような部屋がご希望ですか?」

 

「法衣貴族が泊まるなかでも、ベッドが2つあるタイプなら最下級でかまわないよ」

 

スカロンは残念そうにしながらも、

 

「それでしたら2階の7号室が空いておりますがそこでいかがですか」

 

「1泊あたりはいくらかな?」

 

「1エキュー、56スゥでございます」

 

「じゃあ、そこで」

 

「お食事はどうなさいますか?」

 

「今晩の夕食はここだけど、他の日は不明、朝食は部屋でとれるようにお願いしたい」

 

「わかりましたわ」

 

「ああ、それと、黒髪の少年と、髪色がピンクブロンドの少女が訪ねてきたら、いなくても部屋に通しておいてくれ。その時に誰が対応したかも教えてくれな」

 

スカロンとしては、その二人からチップは渡されないから、その分をこのフォン・プファルツとなったシモンから店の娘に渡すのだろうと判断した。

 

「ええ、よろこんで」

 

つまり、シモンが泊まったのは『魅惑の妖精』亭である。ここで待ち受けていれば、自分を頼りにすれば、ここにくる可能性は高いし、頼りにきたらこの店で働くことをおすつもりでいた。

 

 

 

夕食はシモンとレアが1階の酒場でとっている。レアは油揚げ料理を中心に食べている。基本的にレアは肉食だからなぁ。シモンは、ここにきている時の基本的なスタイルである酌をして適当に気があるようにふるまいながらも、すぐ離れていくジェシカなどのタイプは遠慮して、比較的長めにいてくれる娘と一緒に適当な街の噂話なんかをしている。何事も酒のつまみということであろう。

 

財務庁は閉まっている時間についたから、さすがに今日はルイズたちも来ることもなかろうと思い、レアをおいてチクトンネ街を適当にぶらついている。トリステイン魔法学院のマントを羽織っているから、ゲルマニア貴族とは気付かれないだろう。月に1から2回ほど行なっていた決闘のネタが無いか歩きながら探している。魔法学院に入ってから決闘相手はだいたいドットか、ラインで、トライアングルにしてもまだ2回しかあたったことはない。街中で観客も多いということもあり、トライアングルであっても存分に力をだすのは難しいというのもあるから、重ねられる魔法の種類が多ければ良いというわけでもない。まあ、戦争となってくると異なるのかもしれないが。

 

そんな中、珍しくも酔っ払いの女性の集団とすれ違うところを見ていると、その中にいたアニエスと目があった。あらっ、他の女性も同じ制服だから銃士隊のメンバーか。アニエスが異なるところはマントをしているところだ。こちらから、さっと眺めて別な方向を向いて横を通りすぎようとすると「おぃ!」って肩をつかまれた。「へっ?」っと、俺は肩をつかんだアニエスへ向くと

 

「ちょっと、話がある」

 

「かまわないよ。ミス・ミラン」

 

俺に異存などあるどころか、トリスタニアに残るのは、アニエスと話す機会を待つためだったからな。今回は、偶然であったので、そしらぬ顔をして通り過ぎるつもりだったが、話は兄と話したあとに送ったトリスタニアに手紙の内容もあるんだろうなぁ。

アニエスは、部下たちから

 

「隊長って、少年が趣味だったんですか」

 

「女性好きだと思っていたんですけど~」

 

「隊長、次の店はつけでお願いしますからね!!」

 

何やらすきかってにいわれているようだが、アニエスは気にした様子もなく、俺を近くの裏通りの方へ進むように押し付けた。そっちの方に行くと、誰もついてきていないようなので、あらためて

 

「アニエス、銃士隊のメンバーから離れていいのか?」

 

「古くからの一緒にいた仲間だ。気にする必要はない」

 

「銃士隊のメンバーって、全員がアニエスのいた傭兵のチームのメンバーじゃないだろう?」

 

「一次会から流れてきたメンバーだ。それよりも話のできる店だ」

 

「それは、俺よりアニエスの方が知っているだろう?」

 

「そうだな、ついてこい。シモン」

 

俺はそのまま口を閉じてアニエスの後をついていくことにした。どちらにしても銃士隊の制服に、魔法学院風の服装の組み合わせは目立つだろう。そう思ったら、酒屋でなくて安宿にはいっていくことになった。たしかに宿の主人以外にはわからんだろうし、アニエスが来るくらいだから主人の口はかたいのだろう。部屋に入ったところで、

 

「今日、偶然あったとはいえ、早めにきいておきたいことがあってな」

 

「それよりも先に、近衛の銃士隊隊長就任おめでとう。ミス・アニエス・シュヴァリエ・ド・ミラン」

 

「まさか、貴族になるとは」

 

「たしかに。アンリエッタ女王が女性だけの隊をつくるかもとは考えていたけど、アニエスを隊長にしたうえに、そのために貴族の称号を与えるとはね」

 

まあ、半分くらいの確率でそうなるだろうと思っていたが、実際になるとは、この世界で育った経験から、また格別なものがある。そんな考えの中でアニエスが

 

「いったん、トリステインを離れたのに、トリステインにもどってきたあとに、なぜまたわたしに情報をながす?」

 

「俺の中で、アカデミー評議会議長であるゴンドラン卿の件に片がついていないからだよ」

 

「リッシュモンとアカデミーのゴンドランとかという奴のつながりがよくわからないんだが」

 

「そういえば、詳しく話していなかったな。そちらは近衛の銃士隊隊長で俺はゲルマニア貴族。もう簡単にあうこともできないだろうから、もう一度話しておくか」

 

「ああ」

 

「簡単に言えば単なる私怨さ。俺の母親はアカデミーの主席研究員だった。その中で魔法装置による風石を探す研究をさせられていたが、本来はアカデミーというのは伝統的な内容を研究する場所なんだ。本来行うべき研究ではないことをおこなって、母親の心は病んでしまって、最終的には階段から転落死さ。それもこれも、自分のアカデミー内での地位をあげるために利用したゴンドラン卿がからんでいる。ここまではいいか?」

 

「ふむ」

 

「そのゴンドラン卿が評議会の中で主張していた中のひとつに実験小隊にもからんでいたらしい。ダングルテールの虐殺に高等法院のリッシュモンがからんでいるらしいとはいえ、通常なら王軍か、魔法衛士隊の仕事だ。そのゴンドラン卿のしっぽをつかむのに色々とさぐっていた中、調べがついた実験小隊のメンバーがメイジ以外に殺されているというところで、アニエスとつながっていったわけさ」

 

「わたしにたどりついた件は聞いているからいい」

 

「だったな。それで、今やアカデミーの評議会議長になったゴンドラン卿には腕のたつ護衛がついている。しかも中々単独行動をしないから、俺では手が出せない。だから別な切り口として、高等法院長のリッシュモンに目をつけた。彼は金で動いているから、いつかしっぽがつかまえられるだろうとね。機会はいつかくると睨んでいて、そこから糸口がつかめないかと思っていたが、今回のアンリエッタ女王の前にアルビオンからリッシュモンへ金が動いているようだ」

 

「らしいな。わたしもその線で実際の人の動きをおっている」

 

「俺がおえるのは基本的に上級貴族の中だけで、下級貴族や平民の動きをとらえることは難しい。そしてアニエスは貴族になったが、王宮の貴族がどう動くのかをとらえるのは、そういう教育を受けていないから難しいだろう。だからこそ、手を握れると思っているのだが」

 

「たしかにわたしでは、平民から貴族の情報をつかむことはできるが、その意味するところをつかみきるのは難しい。そっちで、他の傭兵を使おうと思わなかったのか?」

 

「俺では、口の軽い傭兵と、そうでない傭兵を見分けるのは無理でね。兄はそういう方向に関心をむいていないし」

 

って、そういう風にジャン・ジャック兄さんを仕向けたのは俺でもあるのだが。

 

「ところで、一番、最新の伝書フクロウで届いていた直接伝えたいことがあるというのは何だ?」

 

「銃士隊副隊長のミシェルについてだ」

 

「ミシェルなら傭兵時代から1年以上つきあっているが、背中を預けられる人物だぞ?」

 

「普通の件ならそうかもしれない。だが、ミシェルがリッシュモンに育てられていたとしたらどうかな?」

 

「そんなバカな」

 

「言い方が悪かったな。ミシェルはリッシュモンに仕送りを受けて育った。リッシュモンの意図は正確にはわからないが、何かおこった時の保険としたのかもしれない。だから、リッシュモンの件に関してはミシェルはかからわせない方が良いと思う」

 

「忠告として、胸にしまっておこう」

 

「それにしても、前ほど火のメイジである俺に嫌悪感を抱いていないようにみえるな」

 

「銃士隊といってもメイジがまざっているからな。好き嫌いでできる任務じゃない」

 

「たしかにミシェルもメイジだからな。系統は火以外なんだろうが」

 

「水だ。治療にあたるのにも良いメンバーだ」

 

それ以上は、俺から話すことはないので黙っているとアニエスから

 

「ところでアカデミー実験小隊の名前はわからないのか?」

 

「残念ながら。副隊長がメンヌヴィルという生きながらにして伝説の傭兵とまでなっているところまではつかんでいるが、小隊長は隊長と二つ名が『炎蛇』ところまでしか呼ばれれたらしいところまでで、名前はつかめていない。『炎蛇』と言われるメイジは何人かつかんでいるが、どの人物も過去はおいきれていない。必要ならリストは俺からとはわからないように送ることはできるが」

 

「確かに隊長が『炎蛇』とは、こちらでも聞いている。わたしに送ってくれ」

 

「ああ」

 

コルベールの名前も送るつもりだが、今のコルベールを見たならば、実験小隊の隊長だとはぱっとみでは気がつかないだろう。確かに俺の母が心を病んだのは通常のアカデミーとは異なる研究についたのも原因のひとつであるだろうが、前世の記憶がはっきりしていなかった幼少のころに新でしまった母のことをそこまでひきづってはいない。兄はどうだか、いまだによくわからないところはあるが、結婚をしないところからすると、まだひきづっているのかもな。

 

このあと、俺とアニエスが直接会うとしたら、うまくジョゼフ王を倒してタバサの戴冠式に呼んでくれるかどうかぐらいかであろうと思っていた。

 




このSSの最初の頃にルイズのことをヴァリエール公爵へ連絡していたのは、ヴァリエール公爵を剣の師匠としてたからです。
魔法装置で風石を探す研究をアカデミーで行うべき研究ではないというのは、ゼロの使い魔17巻からのオリ設定です。
高等法院長リッシュモンとアカデミー評議会議長ゴンドラン卿がつながっているというのはオリ設定です。

2013.11.23:初出
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