サイトへの治癒の魔法をかけて、身体の痛みの強くなりそうなところを、少しばかりだが治しておいた。しかし、魔法の源である精神力の一部は残しておく。だいたい、感でしかないんだが。
ルイズの部屋への訪問は、最近は3,4週間に1回程度だったが、サイトの水の流れを確認するにあたって、今回は、やはり3日間連続ぐらいは来る必要はありそうだ。
ラ・ヴァリエール公爵からの依頼がなければ、学校の女子寮でのルイズの状態確認までをする気はなかったが、そこまで知りたがるのは親心なのだろう。あえて反抗しても得にはならないので、ルイズの部屋へ来るのは、だいたいルイズの機嫌のよさそうな時をみはからってくるのだが、今回はちょっとばかり異なっている。
普段ルイズの部屋で話すのは、いつものように、王都に出かけた時の中でのちょっとしたことだ。
そして、治療から二日目の今日は虚無の曜日の前日だ。サイトの様子をさぐってから、ヒーリングの魔法で、再度、怪我が重たい部分を重点的に治した。
それで、今日は、使い魔になった子ぎつねの『レア』をつれて、そのまま王都にでかける。王都にいる、ジャン・ジャック兄さんの屋敷へ向かった。どのような使い魔を召喚したかを見せにきたのと、いつも通りに泊めさせてもらうためである。
ちなみに、虚無の曜日の3回に1回ぐらいの割合で、騎士見習いの練習にまざることができる。昨日の使い魔召喚で確定した火の系統もラインの上位にすぎないのに、騎士見習いとはいえ、トライアングル以上のメンバーと一緒に練習をし、実戦形式の訓練も受けられるのは、隊長の弟というところをうまく使わせてもらっている。
それで、兄の家についてみると、騎士見習いから、
「ミスタ・シモン。今日、グリフォン隊は出払っていますよ」
「あれ? 王宮の護衛は来週じゃなかった?」
「例の件で、魔法衛士隊も動くことになったんですよ」
「例の件って、もしかしてフーケの件かい」
「そうですよ。まったくはた迷惑な盗賊です」
そういえば、ミス・ロングビルは、今日は先に魔法学院をでていったような気がするな。そうすると今晩は事件がおこるだろう。
「じゃあ、今晩は、泊まるだけだな。服を着替えて、どこかで飯でもとってくるわ」
「いいですけど、新入りが入ったので、いつもの楽しみにしていますよ」
「またかよ」
まあ、ここでの待遇は中々良いのだが、不満なのは入ってきたばかりの新米騎士見習いの相手を、させられることなんだよな。それも明日の朝、どれくらいの強さの相手かは、わかるだろう。
まずは着替えて、レアをここにおいて、夜の街に繰り出した。チクトンネ街の居酒屋である『天使の箱舟』亭で食事をとる。2階の個室で給仕に女性もついている。毎週というわけでもないが月に2回ぐらいは、この居酒屋にきている。
店を出れば、もうかなり遅い時刻だが、ジャン・ジャック兄さんの屋敷へ戻って、ベッドで眠りについた。
そして、夜も明けて、この屋敷に寝泊りしている顔見知りの見習い騎士に聞くと、ジャン・ジャック兄さんは戻ってきたそうだが、すでに寝ているとのことだった。今日は、話す時間は無いかなと、午前中の訓練に参加する。
騎士見習いでもここにいるのが長い、アベルが俺にむかって、
「いつものあれを、お願いできるかな?」
紹介されたのは、いかにもできますよって感じの、新しい服装の貴族が相手のようだ。
「ああ、いつでもいいよ」
というと、まわりで賭けが始まっている。
魔法衛士隊といっても、中での暇つぶしはこんなものだ。
「じゃあ、両者は互いに線がある位置までさがって、実戦形式で訓練を行うこと」
「了解いたしました」
「ああ、いいよ」
っと言いつつ、線の位置についたところで、「開始」の合図がでる。そこで、相手が名乗ろうとしている。
その場で、待っている俺じゃない。あっさりと間をつめて、右手のサーベル状の杖を相手の首筋にあてている。
相手が、文句を言おうとする前に、
「実戦形式って、聞いていなかったのかい?」
そう、お遊びの決闘もどきじゃない。わざわざ名乗りをあげるなんていうのは、互いに距離がある時ぐらいだ。
「そうだな。油断だ。シモンがラインと聞いていて、油断していたのだろう?」
相手はシュンとしているが、そんな根性だと長続きしないのだけどな。
「ほれ、もう1回だ。今度は、油断するなよ」
「はい」
「油断してくれる方が、いいんだけどな~」
まわりでごそごそと話こんでいるが、賭け率でもきまったかな?
「じゃあ、再度はじめること。両者ともいいかな?」
「了解いたしました」
「ああ。いいよ」
「開始」の合図がでたところで、相手は先ほどのように、口上を述べようとしないので、こちらは、右手のサーベル状の杖にブレイドをだして、つっこんでいく。相手の剣状の杖を自由にさせない間に、左手のタクト状の杖で、拘束の魔法で相手の杖を振らせないようにしてしまった。
今回も並みの相手だったな。これで、終わらない相手もいるのだが、そういうのを相手にするのは楽しいのだが、少ないんだよな。
なんせ、相手は、魔法衛士隊での剣状の杖の使い方を習得しきれていないから、おかげでグリフォン隊の隊員たちからは冗談で『不動のシモン』とか、言われているけど、兄の『閃光』とか、見た目の違いに対しての冗談だとわかる分、もう少しがんばれよ、ってことなんだろうけどな。
「今日はこんなところかい?」
「ああ。そうだな。トライアングルになるのをまっているよ」
「期待にそえるかどうかわからないけれどね」
だいたい賭け率は、1回目と2回目にわかれる2連勝が9割で、2回目が1敗すると、2勝1敗が7割ぐらい。それが俺と新入りとの勝敗の賭け率らしい。
たまに実践なれしているのがくるので、2戦目でうまくいかないことがあるからな。
そうして、午前中の訓練を抜けていく。訓練が終わるとか受けられないとかならば、その後は、ワルド子爵領から発掘される風石を管理させている店へよって、取引情報とかを確認してから、街中をふらついてから魔法学院へ戻ってくる。今回は、レアをつれての確認作業だ。レアがここへ来るまでの街中をめずらしそうに見つめているが、話かけてはこないな。
しかし、今回はジャン・ジャック兄さんと話をできなかったがレコン・キスタに組させたくない。なにせ、トリステイン王国を裏切れば、それにともなって、何も対策をしていなければ俺は、つかまって、牢屋に入れられるか、よくても、ワルド子爵家の財産没収の上、貴族階級から平民になるだろう。
ちなみに階段から落下して死亡した母の日記は、ジャン・ジャック兄さんには見せていない。いまだに母殺しに苦しんでいるかもしれないが、変に聖地にこだわることもないようだ。ただし、トリステインの王宮に集まっている貴族は、とんでもなく腐りきっているのが多いらしいから、これにジャン・ジャック兄さんが、レコン・キスタの話にのるかどうかというのは、別問題なんだよな。
ワルド子爵領の風石の採掘は、母の日記に書いてあった手法に改良をくわえているので、深いところに風石があることが他者にわかっても、採掘に必要な魔法技術は、働く現場の人間もわかっていないだろう。作るのも直せるのも、今のところは俺だけだから、最悪ゲルマニアに逃亡して同じ方法と、さらにこの魔法装置を世界中に売ることもできる。
まあそうなれば、風石の価格も暴落するだろうが、大隆起の範囲をおさえることも可能だろし、わざわざ聖戦を起こす必要もない。肝心の大隆起だが、他国を調べることができていないので、はっきりとはいえないが、調べられている範囲内では100年ぐらいは後の時代になりそうだ。
だから、まずは、ジャン・ジャック兄さん、次にレコン・キスタ、最後にジョゼフ王がなんとかなればだが、今のところジョゼフ王を、どうすれば、倒せるのかは……難しいな。
まあ、できることろで、ジャン・ジャック兄さんからだ。
そして、魔法学院の夕食に間に合うように、王都を出発した。サイトの方は安定しているだろうが、確認と治癒の魔法をかけるため、ルイズの部屋に向かう。実際のところルイズとの接触を少な目にしているのだが、現段階では予測できる内容に対して影響を少なくすることだ。ラ・ヴァリエール公爵からの依頼がなかったら、今回も1回だけ様子をみて終わりにしただろう。
ちなみにルイズ自身は、乗馬が好きなので虚無の曜日に、一人ででかけることもあるようだが、王都の中でも動く場所などは違うのと、虚無の曜日の前日に雨風が降っていた場合は、ルイズにつきあって、往復の話し相手になる場合もあるが、これは比較的少ない。
ルイズの部屋に出向いたが、今回は、ルイズはサイトにつきっきりだったようだ。目の下に大きなクマを作っている。それだけ、まともに成功した魔法の成果である使い魔として、サイトを大事にしているつもりなんだろう。俺はサイトの水野流れを確認してから治癒の魔法をかけて、この様子なら、おそくとも明朝には、サイトは起き上がるだろうと判断をして、
「もう怪我の部分はだいたい治っているから、あとは、サイトが目を覚ますのを待てばよいだけだ。遅くても明朝には一度、目をさますんじゃないかな?」
「そう。わざわざみてくれてありがとう」
「まあ、俺ができる範囲だからな。何かあったら言ってみてくれ」
そうして、ルイズの部屋をさった。
『天使の箱舟』亭は『烈風の騎士姫』ででてくるお店です。
『拘束の魔法』は『タバサの冒険』ででてくる魔法です。
次話は剣もまともにふれねえような小僧っこが相手だと!
2013.06.30:初出