陰に潜む者は   作:烏鷺烏鷺

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第5話 剣と魔法と

虚無の曜日の翌朝、ルイズはサイトをつれて朝食にきた。あいかわらず、サイトは床で食べさせられるようだが、こちらへ向かっている様子を見る限り、身体に強い痛みはなさそうだな。そうして近づいてきた二人は、ルイズが先に椅子に座る前に、俺の斜め後方から声をかけてきた。

 

「シモン。サイトがお礼をしたいって」

 

「えっ?」

 

ふりかえってみたが治癒をかけるだけでは、秘薬を使わなければそれほどの効果がないことを、ルイズなら知っているだろうに話していないのか? いや、ルイズがサイトに貴族への接し方を、覚えさせようとしているのか。

 

「……うーん。たいしたことはしていないんだけどな」

 

「それでもよ。ほれ、サイト、きちんとお礼をしなさい」

 

「うん。その、怪我を治してくれたようで、ありがとう」

 

「ああ、その気持ちだけは、うけとっておくよ」

 

怪我をしたとはいえ、サイトがギーシュに決闘で勝ったというのは、まだ噂話ででてくるくらいだ。あまり食堂で長話もしたくないので、簡単に話をとどめてテーブルに向き直った。そのままルイズは、サイトに椅子をひかせてそれに座ったところをみると、こんなものでよかったのだろう。サイトは床で食べさせているのは、あいかわらずだけどな。

 

 

 

教室ではサイトのそばに、サラマンダーが頻繁に近寄って、観察をしてるように見える。サラマンダーはキュルケの使い魔のフレイムだろう。キュルケはサイトに興味を示しだしているようだな。俺は、サラマンダーがそばにいながらも近くに人がいない時、サイトとルイズに声をかけた。

 

「そういえば、サイトって、ルーンの力で剣をつかえるようだが、折角だから剣でも買ってやらないのか? ルイズ」

 

「うーん。そうね……剣を買ってあげるわ」

 

「俺に剣を買ってくれるの?」

 

「なんで、疑問形なのよ!」

 

教室内で大声にならないように、俺は口をはさんだ。

 

「今、街では盗賊フーケのせいか、剣の値段が上がっている。ふっかけられないようにしろよ」

 

「何よ、それぇ……」

 

「ナイフの相場をみるついでに、剣の方も見聞きしてな。ルイズ、もしかして物を買うときに、いつも業者の言いなりの値段で買っていないか?」

 

「……」

 

「公爵家の令嬢なら、それでいいのかもしれないけどな。剣を買うなら、一緒に店にいって見立ててやろうか? 俺はほぼ毎週、王都にでかけているからな」

 

「……お願いするわ」

 

「それじゃ、細かい話は後でな」

 

昨日はピエモンの秘薬屋の近くの武器屋に、インテリジェンス・ソードがあるのは把握してきた。インテリジェンス・ソードなんてまずおめにかからないし、あの口の悪さはデルフリンガーで間違いないだろう。興味を持っているって、店の主人に気が付かれたくなかったから、直接みてないのがちょっと残念だけど。ナイフの方は、趣味で数か所の店や、自領への売り込みにきていた業者から買っているから、相場はだいたい知っている。

さて、キュルケはどう行動にでるかだな。

 

 

 

ギーシュとの決闘の後の平日は、サイトの行動でルイズの顔に落書きをしたのが目立ったな。ルイズは朝食を抜くこともよくあるから、授業開始のぎりぎりにきたもんな。こういうおかげで、サイトの異常な強さよりも、東方からきた変わった平民との認識が教室内に広まっている。

 

 

 

虚無の曜日の前日になっても、キュルケの使い魔であるフレイムが、サイトのそばに多くいること以外には、キュルケ自身の目立った行動は見当たらないので、俺は王都に向かった。翌日、俺がオーナーをしている風石の店で、ルイズやサイトとの待ち合わせの約束をして。

 

 

 

今週はジャン・ジャック兄さんたち正規の騎士は、王都の警備にでかけているので、また先週のように、騎士見習いと訓練を一緒に行うが、新入りがいなかったので、最後は騎士見習いが一番長いアベルと実戦形式で行う。アベルとは、少しばかり俺の方の分が良い。だからこそ騎士にあがれないのかもしれないが、こちらの2つの杖を使うのに対して、正統な魔法衛士隊の剣だから、次の動きが読めてしまう。まあ、素直すぎるといったところなのだが、俺にほとんど勝てない者でも正規の騎士になるのはいるので、本来なら騎士になっても不思議ではないとはずなんだよな。人事もつかさどっているジャン・ジャック兄さんは何を考えているんだ?

今日はアベルに負けので、

 

「今日は負けたよ。アベル」

 

「いや、調子がわるいんじゃないのか? ただでさえ杖を2本使うなんて器用さが必要なのに、集中力を欠いていなかったか?」

 

「そうかな? まあ、そういっても俺の負けだから、また今度、機会があったらよろしく頼むな」

 

「ああ。こちらこそ、身体が空いていれば、お願いしたいくらいだ」

 

そしていつもの通り食後に、自分がオーナーをしているワルド子爵領の風石管理の店へ行った。いつもの通りに、取引情報とかの確認をしていく。今後の採掘のための研究費を5%差し引いて、純利益が3%はあるから、まあよかろう。

研究費は地下の研究室での、実験用器材の購入にほとんどがあてられているが、将来のための投資も含んでいるから、近未来用の実用研究と、少し先用の基礎研究の2種類に研究費と実際の研究をわけている。

 

ルイズたちと待ち合わせをしているのは、この風石管理の店だ。この地下の研究室にある、濁った空気を清浄化する魔法装置をわたせば、ミスタ・コルベールはよろこぶかなと思いつつも、ルイズたちが来るまでアイデアが実用的かどうかを試していた。

 

 

しばらく地下の研究室にこもっていると、店の従業員からの呼び鈴が鳴った。時計をみると3時近くか。ルイズたちだろうと思うとやはりそうだった。ルイズは虚無の曜日はどちらかというと遅くまで寝ていて、魔法学院で昼食を早めにとってから、王都にやってくるからな。

 

ルイズとサイトとともに、ピエモンの秘薬屋の近くの武器屋へ向かうが、ルイズの持ち金が90エキューと少々ということで、頭が痛くなってきた。多分、俺がルイズの部屋へ行った時に、たまにお菓子がでたり、王都で食事を一緒にすることもあったりしたから、魔法学院入学からの積み重ねがあって、今日もっているお小遣いは100エキューにたっしていないのだろう。計算違いもはなはだしい。

とりあえずは、ルイズに「交渉は任せろ」っと言ってあるが、途中で口をださないだろうな。

 

そして、ピエモンの秘薬屋の近くの武器屋に3人で入ったところで、店の店主である親父が出迎えた。

 

「シモン様。今日はおひとりじゃなくて?」

 

「ああ。令嬢の使いにつかえそうな剣を調達にな」

 

「へえ。シモン様」

 

レアを頭に乗せながら会話を続けている。先週もそうだったが、仕事にそういうことはもちこまないタイプだな。

 

「それで、1.5メイルぐらいの剣をさがしているのだが、ここの店の最上級品と、実用的なものの中で上等なものと、この店で一番流通しているぐらいな剣で、それぞれ代表的なのを1本ずつぐらい見せてやってくれ」

 

「へぇ、わかりやした」

 

その間にサイトは店にかざってある、さまざまな剣に見入っていた。

 

店主がまずは、店の奥から1本の宝石がちりばめられた両刃の大剣をもってきたら、サイトは一目で気に入ったらしく、

 

「すげえ。この剣すげえ」

 

店の主人は自慢げだが、俺の顔付きが次と催促しているのを感じてくれたのか、店にかざってあった1本の剣を並べ、さらに乱雑に積み上げられた剣のなかから適当そうに1.5メイルぐらいの大剣をもってきて並べたが、やはり最初の剣は見栄えがいいよな。

 

「それで、それぞれの価格は? もちろん、適正な価格でな」

 

「高額な方から、1680エキュー、700エキュー、200エキューでさ」

 

ルイズの頬がわずかにひきつっている。ラ・ヴァリエール公爵領なら、一番高い剣は庭付きの家一軒分だもんな。

 

「悪いが、そっちの積み上げた剣の中から探さしてもらうわ」

 

主人が、残念そうにしながら

 

「へぇ」

 

「これ、無理なの?」

 

サイトは気軽に言っている。

サイトはこちらの金銭感覚がわかっていないだろうが、家一軒分の価値があると聞いたらどう反応するんだろうな。店主がならべていたのは、いずれも両刃の剣だったから最近の主流はそうなのだろう。そうしたらその乱雑な剣の中から、低い男の声がした。

 

「生意気言うんじゃねぇ。坊主」

 

ルイズとサイトが声の方を向き、店主は頭を抱え込んでいる。その間に俺は、店主に近寄り小声で聞く。

 

「先週も来たが、あの声って、先週の口の悪いインテリジェンス・ソードだろう? あれは、相場より安いんじゃないのか?」

 

「へぇ。確かにそうです。旦那は見ていなかったようですが、錆びているので安くして100エキューってところですか」

 

「わかったが、名前はあるのか?」

 

「へぇ。デルフリンガーといいますが、普段はデル公と」

 

「まあ、いいか。ところで、先週あったダガーナイフはまだあるか?」

 

「ありますけど?」

 

「じゃあ、それにプラス10エキューで購入するから、あっちのインテリジェンス・ソードを10エキュー分マイナスしてやれ。絶対、彼女に気づかれるなよ」

 

「わかりました」

 

商談は成立だ。

ナイフでもダガーは滅多に買わないが、この際はしかたがないだろう。

 

サイトがデルフリンガーを握って「しゃべる剣なんておもしろいじゃないか」っと、それなりに気に入っているようだ。ルイズは不満げだが、念のために俺もその剣をさわらずにみてみる。

錆びているようにみえるが刃はしっかりしている。ギーシュの青銅の剣よりよっぽどというか、下手に普通の剣できられるより、これでガンダールブの馬鹿力……だと思うが、錆びたところが切れなかったら、たたかれた方が大変かもしれなさそうだ。

 

「くっちゃべるのは少々気になるが、話をとめる方法は?」

 

「それなら鞘に入れるとおとなしくしますさ」

 

「じゃあ俺には先ほど話したダガーと、そっちの剣は90エキューということで、剣についてはその令嬢から受け取ってくれ」

 

俺は、少々予算オーバーだったなと思ったが、デルフリンガーを手にいれてもらわないと仕方がないとあきらめた。

 

ルイズは、ルイズであまり釈然としてなかったが、積み増している剣のかたまりでさえ、今もっている手持ち資金ではたりないなんて、剣の相場をみくびっていた自分に少々腹をたてていたが、それは表にだしていなかった。

 

それで、王都から魔法学院への帰りは3人で一緒に戻ることにしたが、魔法学院の夕食の時間に間に合いそうになかったので、適当な店によって、パンを買い、別な店でソーセージを買って、魔法学院に帰った。

 

 

 

そして事件が起こることを期待していた俺は、魔法学院に帰ってから小一時間といったところで、宝物庫の方に向かうと、爆発音と少したってから、打撃音が聞こえてきた。皆に怪我がないだろうとは思うが、急いで宝物庫に向かうと、巨大な土ゴーレムが人を肩にのせて、さっていくところだった。

 

いまのところ、フーケが人を殺したという話は聞かないが、さて、皆大丈夫なんだろうな。

 




エキュー金貨、新金貨なんて無視ですわ。

2013.07.03:初出
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