陰に潜む者は   作:烏鷺烏鷺

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第6話 破壊の杖

今朝は宝物庫の前にいて、教師たちの口論を『どうでもいいよな』と聞いて、別なことを思い出していた。

 

 

 

昨晩は王都から帰ってきてから、期待していた事件までの時間までの暇つぶしとして、風呂に入っていたが、少々長く入りすぎていたようだ。なにせ、魔法学院への帰り道では、

 

「サイトがキュルケの部屋に入った」

 

だの、

 

「フレイムに連れ込まれた」

 

だのと、聞いてはいたから、もう少しルイズの部屋でもめると思っていたんだよな。昨晩のフーケ宝物庫破壊で、そばにいた全員が無事で何よりよかった。万が一っていうのがあるからな。

 

そして、今朝俺が教師たちが口論をしているこの場にいるのは、フーケのゴーレムが崩れ落ちたのを見たからなんだよな。何せ記憶に残っているゼロの使い魔の話は、かなり微妙な線でつながっていたはずだが、俺がいること自体すでに異なっているし、大隆起の件も100年近くの誤差がありそうだしな。そうなると少しは環境整備が必要だよな。本当にこの方向で良いのか不明だが、今回の件でからむのは、まだ少々の迷いがある。

 

たしかこの件でフーケがつかまれば、ジャン・ジャック兄さんがフーケからサイトのルーンに興味を持つというのがあったはず。しかも、元々ルイズのオーラにも気が付いていたようだし。だからといって、ジャン・ジャック兄さんがレコン・キスタについているっていう展開も、俺の将来がトリステイン王国にはなくなるっていうことで、今まで仕込んできたいろいろなことが無駄になりすぎるのもなぁ。

 

まあ、実際に突き進んでみるしかないかと、あきらめの境地にたったところで、その時はきた。

 

 

 

教師たちの間で噂になっていた、ミス・ロングビルが現れた。彼女曰く、徒歩で半日、馬で四時間といったところで、フーケらしき黒ずくめのローブを着た男が廃屋に入ったと。ルイズも、黒ずくめのローブを着た男というところで、フーケと判断したので、オールド・オスマンが、魔法学院内からの捜索隊を編成するために、有志をつのったが教師たちは行動せずだ。

 

そして、最初に杖を掲げたのはルイズだ。それを見たキュルケ、そしてタバサと杖を掲げていったので、俺もどうするかは、現地で最終判断をすることにして杖をかかげた。

 

こんな様子にオールド・オスマンは笑ってみていたが、ミス・ロングビルの報告は話を聞いた農民の勘違いか、ほら吹きとでも判断したのだろう。なんせ、この早朝のさらに徒歩で半日、馬で四時間前ぐらいのところで、まともな農民が夜間に活発となる獣がいる森林にでかけるわけがないものな。

 

まあ、魔法学院が行動を起こしたという実績も、ほしかったのだろうと思う。本当にフーケだとしても、ガンダールブであるサイトがいるという、思いはあったのかもしれないが、本当に万が一だろう。そして、実態はミス・ロングビルがフーケとも知らずに。

 

しかし、オールド・オスマンがタバサの紹介で、「『シュヴァリエ』の称号を持つ」といったところで、見かけの幼さによらず、実力がなければ王室から与えられない称号に、教師たちだけでなく、タバサの友人であるキュルケさえ驚いていたものだ。タバサって無口だったもんな。

 

ルイズ、キュルケ、タバサに俺が出かけるというオールド・オスマンの判断に、異議を唱える者はでなかった。この探索隊が本当に『破壊の杖』を取り戻せるものだと信じていたなら、ミスタ・コルベールは動くであろう。そこまで、判断力は落ちていないと思うし、この1年間の様子をみる限り、自分が見ている生徒を見捨てる性格ではないとみている。だが、その真意は本人にきいてみなければわからないだろう。

 

さっそく馬車ででかけるが、屋根なしの馬車を御者のかわりに、ミス・ロングビルが行っている。まあフーケとしては、普通の平民を相手にする気はなかったのだろう。

 

 

 

昨晩は期待通りにサイトへどちらの買った剣をもたせるかの勝負で、勝負に勝ったのはキュルケだ。サイトは宝石をちらばせた剣を、キュルケから持たされた。それにしても、宝物庫の壁を爆発させる威力では、ルイズに軍配があがったと思うのは、俺とせいぜいフーケぐらいだろうか。

 

 

 

馬車が通れる道から、馬車が通れない小道のところで、ミス・ロングビルが

 

「ここから先は、徒歩で行きましょう」

 

「なんか、暗くて怖いわ……、いやだ……」

 

キュルケがサイトの腕に手をまわしてきたが、サイトは

 

「あんまりくっつくなよ」

 

「だってー、すごくー、こわいんだもの!」

 

キュルケのわざとらしさにサイトも多少は気が付いているのかな?

この薄暗い小道に入るところで、タバサはさすがに本を読むのをやめていた。俺は今回、レアをおいてきている。さすがに土ゴーレムやフーケを相手にするのに、レアの能力だとつらそうだからな。

 

 

 

歩いていくと、開けた場所が見えてきた。森の中の空き地に、廃屋がある。

皆で相談をするが、俺はさもどうすればよいだろうかと悩んでいるふりをして、相談では口を挟まなかった。そうするとタバサが地面に絵を描いて、作戦を説明しはじめた。

 

まず偵察兼オトリが小屋のそばにおもむき、中の様子を確認し、フーケがいれば挑発して、外におびきだす。小屋の中では巨大な土ゴーレムを作り出すほどの土は無いから、外にでて土ゴーレムをだすだろう。だから土ゴーレムを作り出すために、外へでてくるフーケを、魔法の集中砲火で攻撃して倒れてもらおうというわけだ。

 

「で、偵察兼オトリは誰がやるの?」

 

サイトが訪ねるとタバサが、

 

「すばしっこいの」

 

俺も含めて全員がサイトをみつめると、サイトはため息をつきつつ

 

「俺かよ」

 

 

 

サイトが剣を抜いてまさしくすばやく、小屋に近づいて窓から中をのぞいていたが、サイトが窓の下で考え込んでいるようだ。サイトが頭の上で腕を交差させて、誰もいないことを知らせてきた。事前にきめてあったサインだ。

 

 

 

全員でサイトの近くによると、誰もいないとのことで、タバサが

 

「ワナはないみたい」

 

そうつぶやいて、ドアを開け入っていく。キュルケ、俺、サイトの順で中に入るが、ルイズは見張りとして外に残り、ミス・ロングビルは偵察とのことで森の中に消えた。ミス・ロングビルの場合は、自身がフーケとさとられずに土ゴーレムを作る準備のためだろうな。

 

 

 

小屋に入った中で、タバサが

 

「破壊の杖」

 

と円筒状の『破壊の杖』を見つけ出していた。サイトは思わずだろうが、大きな声で

 

「お、おい。それ、本当に『破壊の杖』なのか?」

 

「1年生の宝物庫でみかけた『破壊の杖』が、それだな」

 

と、俺は中の様子をさぐっているはずの、ミス・ロングビルを意識しながら、声を大きめにして言った。

 

キュルケもうなずいている中でサイトが、タバサに近寄って『破壊の杖』をまじまじと見つめだした。だが、その直後にルイズの悲鳴が聞こえてくる。

 

「きゃぁあああああああ!」

 

「どうした! ルイズ!」

 

一斉にドアをふり向いたとき、あっさりと小屋の屋根がふきとんだ。なくなった屋根からは、巨大な土ゴーレムがいる。

 

まっさきに反応したのは、このことを予測していた俺で、外のルイズに危害が及ばないように駆け出す。

 

 

 

小屋の中では次いで、ほとんど同じくらいの反応速度でタバサが、ストームの魔法を唱えて巨大な竜巻をゴーレムにぶつけたが、ゴーレムはびくともしない。キュルケはこの結果を見てから、彼女が軍人の家系として育てられた結果としての高速な呪文を唱えて、杖から炎を伸ばしてゴーレムを火炎で包んだが、ゴーレムはやはり意に介していないようだ。タバサが退却の指示をだしてキュルケとともに、いっきに森の方へ逃げ出したが、サイトだけは小屋の外にでて、あたりを見回した。

 

 

 

俺はルイズがゴーレムの背後に移動しようとするのをとめずに、ななめ後ろからついていく。なんせルイズが無茶をするのに、サイトが間に合うかは、わからないからな。その中でルイズの魔法によりゴーレムの表面が爆発したら、サイトがこちらに気が付いたらしく、

 

「逃げろ! ルイズたち!」

 

ルイズは

 

「いやよ! あいつを捕まえれば、誰ももう、ゼロのルイズと呼ばないでしょ!」

 

サイトは説得をしようとしているが、ルイズには通じない。

 

「わたしは貴族よ。魔法が使える者を、貴族と呼ぶんじゃないわ。敵に後ろを見せない者を、貴族と呼ぶのよ!」

 

ああ、烈風カリンの教えだな、っと思いながら、『戦略的・戦術的撤退も教えておけよ!!』と思っていたが、母親である烈風カリンことカリーヌもルイズが、前線に立つとは思っていなかったのだろうな。

 

それまでゴーレムは、逃げ出したタバサ、キュルケをおいかけるか、ルイズや俺を相手にするか迷っていたようだ。しかし、タバサやキュルケを土ゴーレムにおいかけさせるには、フーケであるロングビルも移動しなければ、土ゴーレムを維持・コントロールできる距離をたもてない。それを俺たちにみつかったら、『破壊の杖』を手にいれても、正体がばれてしまう、っといったところか。なんせ、ゴーレムの背後にまわったところで、火・土・風の感覚を感じとったが、背後の方に熱源と足の裏からは、その感じたあたりには二本足の人か亜人、風で人らしき気配を感じ取った。水の流れの感覚は、相手をさわればわかるが、さわれなければ感じられない。

 

人気のなさそうなところから行って、亜人ならメイジとわかったら逃げるだろうし、ロングビルがフーケでなければ、やはり距離をおくだろう。まあ、フーケで間違い無しと思ったところだが、フーケが殺人を犯すほど『破壊の杖』の噂は強烈なんだろうな。なんせ竜の一種であるワイバーンを倒せるなんて、まずメイジの常識では考えられないからな。

 

ゴーレムがこちらへ足を上げて踏みつぶそうとしている。ルイズはその間に魔法を放ったが、やはりゴーレムの表面を小さく爆発させただけで、止めるとか破壊しつくすだのなどの効果は無かった。ゴーレムは、狙いをまずルイズに定めたようで、わずかに俺はそれている。そして、そんなルイズはあきらめたかのように目をつぶってしまったが、まだ早いんだよ。

 

俺は、ゴーレムを後方へ倒すことに成功した。おこなったのはアース・ハンドの魔法だが、足をとめるためではなくて、立っている残りの足1本のひざ裏をぶったたいたんだよな。いわゆる『ひざかっくん』もどきだ。

 

その間にサイトが、ルイズを抱きかかえて、足の踏み場やゴーレムの倒れる位置になりそうな範囲から、ずれていてくれて助かったけどな。

 

 

 

サイトが、ルイズをかかえて逃げ出していく。武器を握っていないから遅いな。俺は時間かせぎをしながら、サイトのあとを追っていく。おこなっているのは、足元にロープを錬金でつくって勝手に転んでもらたっり、前足をおろした位置を集め氷に水を表面にはってすべって転んでもらったり、やっぱり前足がおりそうなところは、泥化してもらって落とし穴風に前のめりに転んでもらったりと、子どものレベルでの嫌がらせを中心とした魔法ばかりだ。

 

時間稼ぎをしていると、タバサが使い魔である風竜にのって助けにきてくれた。サイトがルイズをのせている間に、俺もおいついて、そのままフライで飛び乗らせてもらった。サイトは、風竜にのるのを拒んでいる。タバサが焦った調子で、

 

「あなたも早く」

 

と言っていたのと、

 

「サイト!」

 

ルイズがどなっていたが、サイトはキュルケから渡された剣をもって

 

「早く行け!」

 

ゴーレムがおいついたので、タバサは風竜を上空に舞い上がらせた。

 

サイトとゴーレムの戦いは始まるが、サイトの持っている剣って、硬化の魔法がきれかかっているんだよな。とはいっても普通の鉄を斬るには、まだ数週間程度の効果はのこっていそうだが。ゴーレムの拳をサイトは受け止めたが、剣が折れた。剣が折れるほどの衝撃で、腕の骨が折れなかったのはたいしたものだよな。

 

さて、余計な剣はなくなったしタバサへ

 

「『破壊の杖』をかしてくれ」

 

ルイズは俺が何をしようかと間違って認識したようだが、

 

「『破壊の杖』はわたしに!!」

強めの口調で言ってるし、別に言い争いをする気もないので、

 

「ルイズに渡してくれ。俺は念力でルイズを降ろす」

 

『破壊の杖』はルイズに渡され、俺は念力でルイズを降ろしたが、降ろしている最中に

 

「その『破壊の杖』だが、東方の平民の武器のはずだ。だからサイトに渡してやれ」

 

ルイズが

 

「えー」

 

っというが勝手に勘違いしていただけだろう。降りたルイズは、サイトに『破壊の杖』を、ゴーレムから離れたところで渡せて、『破壊の杖』で、ゴーレムの上半身はみごとに飛び散った。下半身も動こうとしたところで、崩れさったのでタバサは風竜から降りた。なので俺も続いて降りた。そこでタバサは、

 

「フーケはどこ?」

 

とつぶやき、全員がはっとした。その時、ミス・ロングビルがもどってきたので、キュルケが

 

「ミス・ロングビル! フーケはどこからあのゴーレムを操っていたのかしら?」

 

っと、問うがロングビルはわからないように首を横にふった。俺は、そこで話をすりかえるようにサイトへ聞いた。

 

「それ、平民の武器だろう?」

 

「……ああ、そうだけど」

 

「っと、すると、それの大きさからいって、1回きりの使い捨ての武器なのか?」

 

「そう。単発なんだよ。そいつは、俺たちの世界の武器だ。えっと確か『M72ロケットランチャー』とかいったかな」

 

「俺たちの世界」と言ったところで反応しそうになったが、とめることができた。そして、ミス・ロングビルが一瞬あっけにとられた表情をしていたが、すぐに元にもどした。たいしたものだ。

俺はダメ押しとばかりに、

 

「おーい、フーケ。聞こえていたかー! これはお前が好きな魔法具のたぐいじゃない。平民の武器で1回しか使えないそうだ!!」

 

ルイズがなんとなく文句を言ってきそうなので、

 

「俺たちは、あくまで捜索隊だ。フーケをつかまえるのはついでだよ」

 

フーケを捕まえていないから『シュヴァリエ』授与申請は無理だろうなぁ。だけど、ジャン・ジャック兄さんか、同じ階級ぐらいのレコン・キスタについた貴族がフーケを調べてくれないと、結局は死刑の可能性が高そうだろうから、テファのことを考えるといたしかたがないよな、っと自身を納得させている俺がいた。

 




アンリエッタ姫殿下が依頼するきっかけとなった、『シュヴァリエ』授与申請の話が無くなりました。さて、どう話は変化していくかな。

2013.07.06:初出
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