陰に潜む者は   作:烏鷺烏鷺

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第7話 フリッグの舞踏会と交渉と

今の時間帯の主役の一人は俺。

 

今は『フリッグの舞踏会』で、珍しくダンスをすることになった。大概こういう舞踏会は、女性とダンスを踊れない男性陣の中にまざっていたからな。とはいっても、ラ・ヴァリエール公爵家の晩餐会にはそれなりの回数はでかけているので、見苦しくない程度に踊ることはできる。父が生きていたころは、自城での舞踏会もおこなっていたが、その時はまだ踊れるような年齢でもなかったからな。

 

『フリッグの舞踏会』が始まるところで、フーケから魔法学院の宝を取り戻したメンバーの発表があったということで、プライドの高いトリステイン貴族の女性とも、誘ってくれば踊っている。単に子爵の次男である、俺の見定めをしようってところなんだろう。あまり一緒に踊る気はしないのだが、下手に断るとプライドが高いだけあって、あとが面倒になるからな。

 

ルイズはまわりの誘いを断って、サイトと踊り続けているようだ。俺は今、7人目だったかな。あとは申し込んできそうな相手もいなさそうだから、本当にいなければ今日はこの後のために舞踏会を抜け出すか。

 

 

 

フーケから『破壊の杖』を取り戻した俺たちは、学院長に報告をしてフーケから『宝』を取り戻したこと自体が偉業ということで、精霊勲章の授与を申請してもらえることだった。はて? 精霊勲章の授与も軍に所属しないともらえないように、最近変更されていなかったかなと思ったが、この魔法学院にルイズがいるとの情報を、アンリエッタ姫殿下の目の前を通過する可能性の排除はさけておくべきだろう。

 

『フリッグの舞踏会』が始まるということで、女生徒3人と一緒に学院長室から外に出たが、俺は中に残っているミス・ロングビルをまっていた。ミス・ロングビルも1分とかからずに外へでてきたので、一緒に歩くようにしながら、

 

「ミス・ロングビル。『フリッグの舞踏会』の後で少しお話できることはできますか?」

 

「あら。そんな遅くなりそうな時間じゃなくて、舞踏会が始まる前に話せないのかしら」

 

「それでも、いいですけどね。ミス・マチルダ・オブ・サウスゴータ」

 

かつて捨てることを強いられた貴族の名を言われて、ロングビルの顔が蒼白になり、たちどまってしまった。

 

「あんた、何者?」

 

平静を装っていたが、声が震えていて動揺をかくしきれていない。俺は足をとめているロングビルへ振り向いて、

 

「ほれ。今、聞いた内容だけで声が震えている。これ以上は、もっと動揺をするかもしれないから、『フリッグの舞踏会』の前より後の方がよくないかなぁ」

 

のんびりとだが、俺は、ゆっくりと自分の部屋へ向かうとして、思い出した。

 

「場所はそうだね。西側つながりで、ヴェストリの広場で」

 

と、さもウエストウッド村とつながりがあるふうに、西(ウエスト)も聞かせたけど、呼吸音が乱れた。気が付いたようだった。

 

 

 

『フリッグの舞踏会』で踊る相手もいなくなったし、会場を軽く見回すがミス・ロングビルはいない。あら、先にヴェストリの広場にむかわせてしまったか。またせるのもなんだから、軽くワインを一杯口に含んで、レアを迎えによってからヴェストリの広場へ行った。そこに期待とは違ってロングビルの姿は無かったので、レアとちょっと戯れていた。おなか満腹そうでいいなぁ、と思いつつ待つこと少々、そっと近づいてくる熱源がある。俺はレアをわきに降ろして熱源の方へ振り返ると、約束通りにロングビルがきてくれた。残念ながらパーティドレスから、普段着に着替えていたために時間がかかったらしい。本当に残念だなぁ。

 

「今日も双月が出ていて、明るいね。ミス・ロングビル」

 

「そんな、話を聞くために、こんな広場にきたわけじゃないわ」

 

「おやおや、そんなにつんつんしないで。これから話すことをまわりに聞かれたくなかったら、サイレントの魔法で周りへ音がもれないようにしてくれないかな?」

 

「なんで、わたしが」

 

「テファ」

 

ロングビルの身体がはっきりとビクッとする。

 

「……わかったわ。もう少し近づいて狭い空間で遮蔽するわ」

 

風系統が使えるといってもそこまで強力ではないのか、あるいはこちらを油断させるためか。サイレントの呪文が唱え終わって杖が振られたあと、俺からの一声は

 

「言っておくけど体術が得意そうだというのは、兄が所属しているグリフォン隊隊員から聞いているからな。フーケ」

 

まあ、まずは魔法をすぐには使えないようにすることはできたからな。

 

「……フーケもね。いつから、疑っていた……確証していたんだい?」

 

「オールド・オスマンの秘書として入ってきて、2週間後だったかな」

 

最初からとは、さすがに言えない。

 

「そこまで、わかっていて……本当にあんた、何者?」

 

「ワルド子爵家次男で、兄はグリフォン隊隊長、俺のこの学院での二つ名は『二杖(ふたづえ)』っていうのは、今朝聞いていただろうけど、聞きたいのはこんなのじゃないよな?」

 

「……わかっているなら、続きを」

 

「ワルド子爵領での採掘された風石の販売を管理している店のオーナーだ。トリステイン空海軍の4分の1は、俺のところの風石を使用している。アルビオンとの航路を持つ船の5割弱も俺のところの風石だ。他の風石を売っているところからは、もう睨まれているから、これ以上はしばらく販売量の拡大するつもりはないけどな」

 

っというよりも、今後アルビオンと戦争がはじまるだろうから、民間の船は商売あがったりだろう。それに船への風石の値引きは、相手の噂話を話してもらうこと。次回に正しい物が多いほど、値引き額を多くしていた。常連には最初から値引く予定の半分を情報収集の費用として行っている。値引きを見込みで先におこなっているのは、アルビオンとの航路を持っている船乗りの間では有名だ。色々とあつれきもあるが、これをのりこえていかないとな。それをロングビルもわかっているのだろう。

 

「ふーん。風石を売っている店のオーナー様ともあろうお方が、なぜ私と話がしたいのさ」

 

「ウエストウッド村のティファニアを、まわりの国から存在をなるべくなら、長く隠しておきたい」

 

「テファを……まさか、あんたテファを殺そうと……」

 

「勘違いするな! それならアルビオンの王党派に一報をいれれば、ハーフとはいえエルフの抹殺を実行するだろう。俺は逆だ。彼女をなるべくどこの国の国王にも……教皇などにも知らせたくはないんだよ」

 

「なぜあんたが、そんなことをするのさ!」

 

「……彼女が虚無の担い手だからさ」

 

「まさかー、先住でしょう」

 

「先住なら、杖は不要だよ」

 

「……」

 

ロングビルは頭をフル回転させているが、このシモンと言うここの男子生徒が、テファの存在をどこの国にも教えたくないのか、まだ理解できていない。

 

「なぜ……なぜ、テファをどこの国にも知らせたくないの?」

 

「虚無の力は強力だと信じられている。そして、それは、『聖地』を奪還する聖戦への道へとつながるだろう。それをしたくないんだよ」

 

「聖地の奪還。そんな馬鹿なことを」

 

「ミス・ロングビルはまだ知らなかったか。アルビオンの貴族派はアルビオンだけではなく、各国の貴族に働きかけている。各国を統一して『聖地』奪還をかかげる、レコン・キスタという組織を作ってね。そしてロマリアの教皇は機会があれば『聖地』奪還を、つねに狙っているようだ。ロマリアの教皇が『聖戦』を発動したら、それに逆らえるのは、一貴族としいては難しいのはわかるだろう?」

 

ロマリアの教皇がテファの存在に気が付いたのは、早くみつもっても、サイトがテファに助けられてから後であろう。ただし虚無の担い手同士は、互いに近づいてしまうようになってしまっているようだから、俺ができるのは出会うことの引き伸ばしでしかないかもしれないが、本当に必要な条件をみたせるのがいつになるかわからない。しかし、アルビオンからでないようにすれば、当面はそれで十分だろう。

 

「結局は、自己保身かい?」

 

「そうだけど、何か?」

 

「いや、馬鹿に正直だねっと思ってね。ただ、テファをどこの国にも知らせたくはないのは納得できたけど、私がフーケと知っていて、それでもフーケだと訴え出なかったのは?」

 

ロングビルにとっては確認事項であろうが、簡潔に答える。

 

「テファときちんとコンタクトできるのは貴女しかいなくてね」

 

「ふーん。じゃあ、私が協力しなければ?」

 

「その時は、その時さ。フーケとしてここで活動しなければ証拠はないし、追求もしないが、送金額が少なくてウエストウッド村は存続できないだろうね。そうなれば、フーケとして活動を再開するだろう? この魔法学院にいる必要もないだろう。そして、魔法衛士隊をあまり小馬鹿にしない方がいい。そのうち捕まって、ウエストウッド村の存続できなくなるのを覚悟するんだな。協力しなければどちらにしても待っているのは、ウエストウッド村の存続問題だ」

 

協力しないという選択肢があるようでいて、無いはずなんだよな。

 

「ならば協力するとして、私のメリットは?」

 

「資金提供。っといっても、ただとはいかない。」

 

「へぇ、何を希望するんだい」

 

ロングビルが余裕をみせてくる。

 

「俺がオーナーをしている店での研究助手と、貴族復帰への意志だ」

 

前半は飲めるだろうが、後半はどうだ?

 

「研究助手? 何をさせようというんだい」

 

「土系統のエキスパートとして、俺が研究している魔法装置の助言がほしい。それと貴族復帰に関しては、テファがアルビオンでいるための、後ろ盾として平民でいるよりは、貴族でいる方が、何かと便利だからね」

 

「……貴族。私が貴族は嫌いだよ。貴方みたいに自分の思い通りに動くと思っているタイプは特にね」

 

やれやれ、本気で嫌われたかな。

 

「なら、聞こうか。平民でいるのと、貴族でいるのと、テファを護りやすいのはどっちだ?」

 

「……貴族ね」

 

「そうだろ? 可能ならアルビオンの貴族として、トリステインへの亡命貴族という立場を用意できるかもしれない」

 

「わたしに、アルビオンの貴族に戻れと。父を殺し、家名を奪った王家の!!」

 

今まで、冷静に対応をしかけていたロングビルがどなった。たいして俺は、

 

「アルビオンの現在の王家は、貴族派……レコン・キスタによって2カ月以内に倒されるだろう。そしてレコン・キスタがアルビオンを制圧する。アルビオンからの亡命貴族となれば、アルビオンで新しい王家が誕生した時に、より上位の地位を確保して、ティファニアにたいして安全な場所をより確実に用意できると思うんだけどね」

 

「……それは」

 

「他にゲルマニアの貴族になるという手もあるが、アルビオンやトリステインの貴族のように、ゲルマニアの貴族を維持していくのは甘くない。そうするとテファの保護が難しくなる」

 

ゲルマニアの皇帝は、もしかしたら、テファの存在を知れば妻にするかもしれないと思う。また虚無の担い手だと気が付けば、虚無の力の限界も気が付くだろう。ただ間に入るロングビルは、皇帝との結婚を避けさせると思うから、言わないことにしている。

 

「……」

 

「今はアルビオンの貴族として、トリステインへの亡命貴族という立場を用意できる可能性があるだけだ。その意志だけ確認できればいい」

 

あきらめたようにロングビルが、

 

「……わかったわ」

 

俺は、ひともんちゃく起こるかもしれないと思って、レアをそばにいてもらったのだが、幸いながらそれはなかったので、まずは、

 

「それでは、交渉成立の記念に、一曲おどっていただけませんか。レディ」

 

ロングビルがきょとんとしているが、時間的にまだ『フリッグの舞踏会』は続いているはずだ。

 

「フリッグの舞踏会は、まだ時間的には続いているはずだけど?」

 

それを聞いてロングビルが、サイレントの呪文の効果を解くと、食堂の上の方から音楽が流れてきている。

 

「今後の我々のために!」

 

「何を考えているの?」

 

「今後の悪巧みのためにさ」

 

「……私たちらしいわね」

 

そして、1曲分は、俺とロングビルは、皆がみていない中で踊った。

 

 

 

そして、その次の虚無の曜日まではまあまあ大変だった。

 

セクハラがよっぽど腹にすえかねていたのだろう。早々と、ロングビルがオールド・オスマンの元を去るということだったので、手紙をもたせて風石管理の店『シルフィ―』にいかせた。

 

虚無の曜日の前日には、夕食を、とある平民の女性としながら、情報交換をしたけど、ロングビルほどやりやすい相手じゃない。まあ、美人だし、食事をするだけでもいいかぁ。

 

そして、ジャン・ジャック兄さんが、ようやく時間がとれるということで、使い魔のレアを紹介している。

 

「っということで、こいつの見かけは土系統の子狐に見えるけど、火系統の能力をもっているんだよ」

 

「土か火か系統がはっきりしなかったが、火か。火系統なら、軍にはいらないか?」

 

「軍ねぇ。空海軍は性にあわないから、陸軍かな。確かに身体を動かすのは嫌いじゃないけれど、どこかの貴族の身辺警護か護衛隊の方がいいかなぁ」

 

「お前が、トライアングルまであがれば、確実に魔法衛士隊へ推薦してやるのだがな」

 

「そればっかりはどこまで精神力が伸びるか、わからないから今はパス。そういえば魔法衛士隊といえば、騎士見習いのアベルは衛士になるのは無理なのかい?」

 

初めて聞いてみる内容だが、

 

「あー。中々腕は立つな。ただ、彼は、実践で実力を発揮できなきタイプらしくてな。それをクリアしなければ、魔法衛士隊に入れることは無理だな」

 

「……アベルは気が付いているの?」

 

「そこまでは、俺は知らないな。気になるんだったら、本人か、聞きづらいなら、教官役をしているバチロウにでも聞け」

 

「ああ。気が向いたらね……ところで、精霊勲章の申請って、アンリエッタ姫殿下は目を通す可能性はあるのかな?」

 

「……可能性はあるだろうが、精霊勲章の授与は確か、従軍が必要になったはずだ。なんで、そんなことを聞く?」

 

うーん。どう答えようか。まあ、ストレートに、

 

「いやフーケが盗んだ魔法学院の宝を、取り戻した時に学院長が申請してくれていたからね。それで、数週間後のゲルマニアへの帰り道に魔法学院によってくれたなら、謁見できる機会があるかなって思ってさ」

 

「そんなことがあったのか。ゲルマニアへ行くのはほぼ確実だろう。耳がはやいな。だが、魔法学院によるかどうかは不明だぞ。それにしてもフーケか……何か情報でもつかんでいたのか?」

 

「俺の専門、風石を使っての情報収集だから、どちらかというと情報の入手量が多いのはアルビオン方面だよ。トリステイン王国の内部までは手がまわらないよ」

 

「……そうだったな。今日だが、訓練に参加していくのか?」

 

「基本の方だけをね。正規の隊員がいる時には、滅多なことじゃ、実戦形式の訓練の方には参加させてもらえないから」

 

「確かにな」

 

 

ジャン・ジャック兄さんとは会話をとれる時間も終わって、風石管理の店であるシルフィ―に出向いた。ロングビルの名はマチルダに戻して、髪の毛は灰色に染めて、店の地下の研究室にいてもらったが、魔法装置の種類も多くはないのと興味も薄いみたいで、さすがに暇そうだ。

 

ここは、直接女性同士で話してもらってみるかな。フーケとして活動していた時に知った貴族の秘密と、平民の女性であるアニエスと。

 




とりあえず、アニエスさんともつながっています。アニエスは火系統のメイジは嫌いなので、シモンにとって相性の悪い相手です。それで、マチルダにまかせたようです。

2013.07.06:初出
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