二刀は舞い、弾丸は貫く   作:[Schwarznegger]

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プロローグ 其の二

「……うーん」

 

「あら、どうしたの?」

 

「メンバーを増やそうって話したろ? で、良さそうな新人の資料を見てんだけど……」

 

 ボーダー隊員なら誰でも閲覧できる新人隊員のデータベース。その中で和人は二人の隊員をピックアップしていた。

 一人は年上の女性。実力はかなりの物で、戦闘訓練で九秒を叩き出している。

 もう一人も年上。しかし、こちらは男性。女性比率が高い隊のバランスを取る為にも和人は男性隊員が必要なのだ。主に自分の為に。だが、そんな思惑抜きにしても、実力は十分で、戦闘訓練の記録は十三秒。

 女性の方は攻撃手(アタッカー)、男性の方は射手(シューター)だ。この隊には近距離(クロスレンジ)遠距離(ロングレンジ)は相当の実力者がいるが、中距離(ミドルレンジ)がいない為、援護の火力がどうしても不足してしまう。なので出来ることなら、中距離で戦える隊員が欲しい。

 

「…………可愛いからってこの人を選んだのかしら?」

 

「ノー、サーッ‼︎」

 

 煉獄の炎も凍る微笑と漏れ出る暗黒のオーラを見て、死を覚悟する。故に速攻で否定。そのようなことは断じてないのだ。誰が何と言おうと、自分の中では断じてないのだ。

 

「じゃあ行くわよ」

 

「行く、ってどこに?」

 

「……はぁ。呑気なものね……これだけ優秀な新人よ? 他のどのチームも欲しがると思うのが当然でしょう?」

 

 やれやれと言わんばかりに額に手を当て、嘆息する。一方の和人は居心地悪そうに縮こまる。戦闘以外はからっきしなのは師匠のお陰だろう。必要のないところまで似てしまった。このまま周囲の人の手を煩わせるバカ学生(太刀川慶)にならないといいけど、と行く末を心配して、C級隊員達がいるであろうブースへと足を運ぶ。

 

 

 

「おーっす、桐ヶ谷と詩乃ちゃん。元気?」

 

「お疲れ様です、迅さん」

 

「こんにちは」

 

 青いジャケットと首に掛けたサングラス。軽薄そうな笑みを浮かべ飄々としている彼は迅悠一。実力派エリートを自称するボーダーでも二人しかいないS級隊員。

 

「ぼんち揚食う?」

 

「いただきます」

 

「私は結構です」

 

 この男はどこにこの菓子を収納しているのだろうか。常に持ち歩いているそれを道行く隊員たちに進めるという光景は至る所で見られる。噂では彼の住む部屋にはぼんち揚が箱で山積みされているとか。

 

「で、お二人はデート?」

 

「ちっ、違いますよっ!」

 

「どこに職場でデートする人間がいるんですか……そもそも——いえ、何でもありません」

 

 和人が告白してくれていませんし、とは言わずに飲み込む。無論、目の前の男には何を言おうとしていたかは、手に取るように読めていたに違いない。だが当の本人(鈍感タラシ)はハテナマークを頭の上に浮かべるばかり。どちらも腹立たしい。

 

「んで、本当のとこは?」

 

「視えてるでしょ、迅さん」

 

「全く……可愛げがないね」

 

 視えてる、とは文字通り“未来”が視えているのだ。彼にはサイドエフェクト——トリオン能力が高い者が稀に発現する能力——『未来視』がある。それで幾つもの危機を救ってきたが、悪用(セクハラ)するのは頂けない。その被害に遭った女性陣達が制裁を加えるも、一向に懲りる様子がない。

 

「あの二人だろ。ランク戦するみたいだし、丁度いいんじゃないか?」

 

 迅が指差す先には書類にあった二人の新人隊員。栗色の長髪を靡かせる少女と染めてるのか黒色の混じる銀髪の男。何となくだが、男の方は雰囲気が迅に似ている気もする。

 

「どっちが勝つかしら?」

 

「それも大事だけど、重要なのは合うかどうかだ。見て、話して考えよう」

 

「迅さんはどっちが勝つと思うの? どちらを勧誘するべき?」

 

「あー……勝ち負けについては言えないけど、別に一人選ぶ必要もないんじゃないか? 両方誘っても良いわけだし。まぁ、競争も激しそうだけど」

 

 分かっていたことだが、周囲を見回せば見知った顔が何人もいる。これからのランク戦で上位に食い込んで行きたいB級部隊はもちろん、A級部隊の隊長もチラホラとその姿が見受けられる。

 

「あら、桐ヶ谷君。あなたも勧誘(スカウト)?」

 

「はい。加古さんも?」

 

 加古希(カコ ノゾミ)。A級唯一のガールズチームを率いる実力者。『K』のイニシャルを持つ隊員でメンバーを揃えるという妙なこだわりがある為、和人も幾度となく勧誘されてきた。そして今も。

 

「と思ったのだけど、『K』のイニシャルでグッとくる人は居なかったのよ……それで、桐ヶ谷君。気が変わった? あなたはイニシャルの条件も満たしてるし、実力も十分。良かったら私の部隊に来ないかしら?」

 

「い、いや……前から言っている通りお断りさせていただきます。俺も一応隊長なんで……そもそも女子ばっかの部隊はちょっと」

 

「でも、あなたの部隊も女の子しか居ないじゃない。その点に関しては問題ないと思うけど?」

 

 返す言葉もない。しかも勧誘の結果次第ではさらに女子が増えるかもしれないのだ。おろおろとしている和人を見かねて詩乃が助け船を出す。

 

「和人が困ってるので、この辺で加古さん」

 

「ごめんなさいね。からかってたら面白くて、つい。じゃあまた、炒飯でも食べに来て」

 

 さらっと死の宣告を残して優雅に去る加古。それを受けた和人の顔色は盛大に引き攣り、血の気が引いている。思い出したくない記憶の蓋を開けてしまったようだ。

 

「……また、アレを食べるのか」

 

「断ればいいじゃない」

 

「……どうやって?」

 

 超が付くほど素敵な笑顔で美人が皿を差し出してくるのだ。食べないのは男としてあるまじき行為だ。師匠と一緒に保健室のベッドに寝込むこと何回か。お陰でより強く師弟の絆は結ばれている。同じ死線を潜った仲間として。

 

「はあ……ほら、始まるわよ」

 

 

『市街地A』というオーソドックスなステージで向かい合う男女。少女が淡く輝くブレードを持つのに対し、男は無手。完全に脱力した状態で佇む。

 

 

 

 ——少女が斬りかかったのを皮切りに開戦の火蓋が切って落とされた。

 

 

 

 

「……『変化弾(バイパー)』」

 

 右手に現れたキューブを細かく分割。使用者の意志に従い、様々な軌道を描いて敵へと着弾するが、全て回避されるか、捌かれた。地面にも幾らか着弾し、粉塵を巻き上げるが、お構い無しに突貫してくる。基本的に中距離ポジションである射手(シューター)は一定の距離を保って、牽制しつつ仕留めるのが定石だ。

 

「……速いな」

 

 弾を威力重視から操作性重視に調整(チューニング)、射出。しかし、急場凌ぎの弾幕は気休めにもならないようで簡単に接近を許す。

 

「ハアッ!」

 

「——っと」

 

 ステップを細かく踏んで回避。一定の形状を持つ『孤月』なら間合(リーチ)も見切り易く、攻撃パターンも大体分かる。しかし、少女が使うのは『スコーピオン』。耐久力を犠牲にした軽さと自由自在の形状変化がウリの攻撃偏重トリガー。厄介なことこの上ない。

 しかも、そのスピードと勢い、鋭さは一段と増していく。男の動きが見切られ、先回りされ始めているのである。現に致命傷とまではいかないも、身体のあちこちに細かい傷を付けられ、薄くトリオンが漏れ出している。

 

「うげっ⁉︎」

 

「貰った!」

 

 遂に捉えられ、斬り飛ばされた右腕。同時に崩れるバランス。その身をブレードの前に無防備に晒す。それを逃すバカはいない。故に——エサだと気づかずに食いつく。

 

「なんつって♪」

 

 脳天に響く衝撃。顎を蹴り飛ばされたと理解するのに数瞬。だが、それだけではとどまらずに叩き込まれる衝撃の乱打。

 C級隊員にはトリガーは一つしかセットできない。自身のトリガーで防御できるアタッカーと違い、寄られたら為す術がないシューター。弱点があらかじめ露呈しているなら、対策のしようもある。彼が講じた対策は、今まで研鑚を積み重ねた武術を用いて、対応すること。無論、優れたシューターは寄らせずに蜂の巣にして終わらせるのだが。

 

「腕一本取ったって意味ないでしょ。脚取らなきゃ。……まあ、遅いか」

 

 空中に投げ出され身動きのしようのない彼女は上下左右からの包囲射撃を受け、空の彼方に一筋の光を残して消えた。

 

『活動限界。緊急脱出(ベイルアウト)

 

 少女は敗北を告げる無機質なアナウンスと共にベッドの上に投げ出された。一方、勝者は大した感慨を抱く風もなく、ブースから出てきた。

 

 

 

「……凄いな」

 

「なんで射手なのかしら……攻撃手の方が向いてると思うけど」

 

 詩乃の疑問ももっともだが、C級隊員のトリガーは入隊試験の結果からボーダー側が適正と判断したトリガーが選ばれる。つまり、身体能力が高いのに射手ということはそれを補って余りあるトリオンを保持していることになる。

 

「——行かなくていいのか? お二人さん、囲まれてるぞ」

 

 既に二人並んで各部隊の隊長達に囲まれ、勧誘を掛けている。どの隊長もうんと言うまで離すつもりはないらしい。

 

「ああっ⁉︎ 行くぞ、詩乃!」

 

「スカウトは隊長の役目でしょ。それくらい一人でこなしなさい」

 

「ええっ⁉︎ ふ、二人とも年上だし……無理だって! 頼む‼︎」

 

 情けないことにこの隊長、コミュ障である。そんなんでよく勧誘しようと思ったものである。現にタバコ(火は点いていない)を咥えた大学生はマシンガンのように言葉を浴びせ、麻雀ができるなどと言って勧誘している。完全に出遅れた。だがしかし、ややあってその輪は解けてしまった。

 

「あ、あれ?」

 

「……どこも受けなかったみたいね」

 

「…………ど、どうしよう」

 

「当たって砕けて来なさい」

 

 勧誘を断り、ひと段落したと思えば新たに現れる勧誘。向こうからすればいい迷惑だ。

 

「行くしかないか……」

 

 あの、と声を掛ける。背を向けていた二人は同時に振り返った。

 

「……なにか? ——⁉︎」

 

「ん?」

 

 男は興味無さげに見下ろす。少女は不機嫌そうに見つめたが、それも一瞬。赤面し、視線を逸らしたが何もなかったかのように取り繕った。

 

「あ、桐ヶ谷和人と言います。えっと……うちはB級で、A級を目指しているんですけど、まだまだで……よかったら入ってくれませんか?」

 

「ちょっと考えさせ——」

 

「悪いが断る」

 

「——貴方ねぇ、少しは考えようとかないの?」

 

「ない。そんな無益なことに時間を使うのはこちらにも向こうにも迷惑だ。期待を持たせて結局断るなら、最初から断るのが礼儀というものだろう?」

 

 やれやれ、と呆れどころか完全に馬鹿にして隣の少女を見下ろす。確かに正論である。それから和人に向き直る。

 

「ま、悪いな桐ヶ谷。知ってると思うが、有栖川時雨(アリスガワ シグレ)だ。以後宜しく」

 

 じゃあな、と去っていった。一方の少女は黙りこくったままだ。

 

「あの、結城先輩? 無理せず、ゆっくり考えてください」

 

「入る」

 

「……へ?」

 

「入れてって言ってるの!」

 

 ああ言われた手前、少女——結城明日奈(ユウキ アスナ)には考えるという選択はなくなり、入るか断るかのみ。ならば、入るしかない。目の前にいるのはあの時の少年なのだから。

 

「そ、そうですか……」

 

 まずい、と思わざるを得ない。男女比を考えれば有栖川に入って貰うべきだったのだが、最終的に明日奈が入ることに。そもそも男だけを入れたいなら、彼だけを誘えば良かったのだが、それでは負けたから誘うに値しないと言っているに等しく、精神的に傷つくだろう。だから和人が気を遣った結果こうなった。

 

 

 

 

 

 しかし、結果としてこの勧誘はアタリ。彼女が入ったことで、幼馴染だけで構成されていたチームに緊張感が漂い、メキメキと順位を上げ——見事A級認定を受け、晴れてA級部隊へと昇格した。

 

 




サンフレッチェ広島、今季二勝目。これから勝点を積み重ねて降格は回避して欲しいものですが……。という訳で勝利の嬉しさの余り調子に乗って二話目を投稿しました。誤字脱字等ありましたらお願いします。
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