二刀は舞い、弾丸は貫く   作:[Schwarznegger]

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木虎へのアタリがキツくなっておりますが……言わせたいセリフのがあったので……ゴメン、木虎。
という訳ですが、よければどうぞ。


邂逅編
ヒーローが遅れてやってくるのはお約束。


 

 

 

 

「なぜ、お前がここにおる」

 

「フリーの隊員は行き場がないんで。鬼怒田さんも暇でしょ?」

 

 トンデモナイ暴言を吐く者が居たもんだ。目の前の男は生え際が後退している、見た目はただの中年のおっさんだが、その正体はボーダー活動の根幹を支える人間の一人である彼は開発室室長の鬼怒田本吉(キヌタ ホンキチ)。ノーマルトリガーの量産体制の確立、緊急脱出(ベイルアウト)システムの構築、(ゲート)誘導装置の開発、とその功績は数知れず。今現在も、ボーダーの活動並びに街の安全を脅かしかねない問題の原因究明に開発室総出で奔走し、圧倒的に睡眠時間が足りていない。

 

「今日は平日だ。学校はどうした」

 

 聞いてから後悔する。理由なぞある筈もない。この男は『ルールブレイカー』と嘯き、自由気儘に行動する。高校の進級も、出席日数の関係で危うくなるというバカ者。さらに自身のトリガーをわざわざ使い難いように改造を頼むなど考えの読めない変人。この時間にいるということは十中八九サボりだ。

 

「俺の第六感(シックスセンス)が行くな、と告げていた」

 

 何処のS級セクハラエリートだ。そのドヤ顔は彼を連想させるようで。

 

馬鹿者(バッカモーン)‼︎ 去年単位を落としかけたのを忘れたかー!!!」

 

「どふぁっ⁉︎」

 

 炸裂した鬼怒田チョップ。頭蓋骨がカチ割られるかと思う程の衝撃に情けない悲鳴を上げてソファーに沈み、頭を抱えてのたうち回る。トリオン体に換装しておけばよかったと後悔するも遅い。

 

「お前は全く成長しとらんな」

 

「期待を裏切る男だからな」

 

「悪い意味でな」

 

 なぜ誇らしげにドヤ顔ができるのか。この男の行動原理は未だにわからない。

 

「……こちらもお前に構ってやるほど暇ではない。出て行け」

 

「なんかあったの?」

 

「こういう時だけ聡いなお前は……大きな声では言えんがな、イレギュラー(ゲート)というのが発生しておる」

 

 話によると街中に幾つかの門が発生するという問題が起きている。技術者(エンジニア)総出で原因を探すも、見つからない。門誘導装置の故障か、或いは新手の攻撃か。今日までに発生したイレギュラー門は近くに偶々非番の隊員が居たために事なきを得たが、被害が出るのは時間の問題だ。もしそうなれば、ある一人の人物が額の冷や汗でハンカチをびしょ濡れにすることになる。

 

「ということで、暇なら街に出てパトロールでもしてくれんか」

 

「……まあ、俺の『物干し竿』を作ってもらった恩義もあるしな。借りを返してやろう」

 

「おう。では頼んだぞ」

 

「鬼怒田さんも倒れないように程々にね」

 

 時雨は研究室を後にし、鬼怒田はデスクに戻る。それぞれの戦場へと赴くのだった——

 

 

 

 

「とは言ったものの……パトロールという名目で追い出されたな」

 そもそも技術者(エンジニア)でもない彼が残ったところで、何の役にも立たないのだが。

 まあ、秘密警察のように目を光らせるというのは中々心踊る。しかし、あからさまに周囲を見回せば、怪しまれること間違いなし。スパイ映画に憧れた頃の童心に帰って極秘任務に勤しむ。

 

 

 

「……帰るか」

 

 この男、飽きが早い。特に目的もなく歩いても、大した面白味もない。つまらなそうに来た道を引き返そうとした時、事件は起こる。

 

『緊急警報、緊急警報。門が市街に発生します。門が市街に発生します。市民の皆様は直ちに避難してください。繰り返します。市民の皆様は——』

 

「このタイミングで起こるとは……今日は厄日だな」

 

 おそらく朝の占いを見ずに、惰眠を貪っていた所為だなと自己完結して手に握った棒を掲げる。

 

「——トリガー、起動(オン)

 

「本部、イレギュラー門発生。座標をお願いします」

 

『了解。最短ルートを表示』

 

 簡潔に告げられた言葉と共に視界に映るルート。しかし、これに従う義理はないので端から無視し、屋根の上を伝って現場に向かう。

 送られた座標は「三門市立第一中学校」。記憶の限りではあそこに正隊員は居なかった筈。なら、余計に不味い。最悪の事態も想定されるし、校舎の中にトリオン兵が入り込んでいるなら、背負っている長刀は屋内で存分に振るえないので、圧倒的に不利だ。

 つまり、いざとなったら校舎諸共ぶった斬るしか道はない。生徒がちゃんと避難していることを祈ってギアを上げる。

 

 

 

「有栖川現着……被害は?」

 

「え、ええっと……」

 

 声を掛けた教師は確認のために何処かへと小走りで駆けて行った。

 その間に視線を巡らす。見れば、一撃で斬り伏せられたモールモッドが二体転がっている。正確に急所を突く一撃。しかも、モールモッドの斬れ味鋭いブレードの攻撃を掻い潜って。それほどの隊員なら周囲にあまり気を向けない時雨でも記憶していただろう。なら、やはり——

 

「確認できました。全員無事です」

 

「了解です……これは誰が?」

 

「——ぼ、僕がやりました」

 

 ——C級隊員か。

 名乗り出たのはパッとしない地味な印象のメガネを掛けた少年。

 人は見かけによらないなぁ、と呟きつつもその目は笑っておらず、油断なく観察する。口調から意志の強さが感じられるが、目線が揺らいでいる。嘘が下手だとは言わずに見なかったことにする。

 

「君が? 君は——」

 

「嵐山隊現着した! ——有栖川がやったのか?」

 

 赤いジャージを着込んだ嵐山隊の面々の到着に生徒たちは沸き上がる。流石はボーダーの顔、と感心しながら嵐山の言葉に否、と答えた。

 

「いやいや、俺の長物はこんな狭い所では振り回せないんで……この冴えないメガネ君がやってくれたそうです」

 

「C級隊員の三雲修(ミクモ オサム)です。他の隊員を待っていては間に合わないと思い、自分の判断でやりました」

 

 時雨に促されるように一歩踏み出し、名乗り出る。その表情が固いのは有名人である嵐山隊を前にしているからか、この後の展開を予見しているからか。無論、後者だ。

 

「C級……⁉︎」

「C級隊員⁉︎」

 

 嵐山とプライドの高い少女は信じられないとばかりに驚いていた。しかし、既に真実を見抜いている時雨は鋭い目で生徒たちを観察し、ある程度の目星をつけたが、それを突くような野暮はしない。敢えて見守る。その方が面白そうだから。この事態も彼にとっては些事でしかない。

 

「そうだったのか——良くやってくれた‼︎」

 

 俯き、深刻な表情を浮かべる三雲を手放しで称賛し、弟妹の元へ駆け寄る姿はボーダーの顔としての嵐山准(アラシヤマ ジュン)ではなく、家族を心配する一人の兄そのものだった。

 

「……しかし、訓練用のトリガーでアレとは、中々有望な新人君だ」

 

 独り言のつもりで呟いた筈が、周りにも届いていたようで、三雲はビクリと肩を震わせ、弟妹を猫可愛がりしていた嵐山にまで聞こえていた。

 

「確かに有栖川の言う通り、訓練用のトリガーでこれ程とは……正隊員でも中々できないぞ! お前ならできるか、木虎」

 

 木虎と呼ばれだ少女は三雲への称賛が気に食わないのか、憮然とした表情だったが、嵐山の期待通りにモールモッドを細切れにした。その早業に見ていた生徒たちは感嘆の声を上げる。

 

「——できますけど、私ならこんなことはしません」

 

 高慢に語られた言葉はルールを重んじるべきという当たり前のことだった。無論、三雲の表情から処分を受けると分かっていて戦ったのだ。褒められはしないが、理解をしてやるべきだろう。これだから型に嵌った人間というのはつまらない。

 

「示しをつける為にも、彼は処分を受けるべきです」

 

 確かに正論だ。だからと言って正論が正しいとは限らない。ルールを守るべきという観点で見れば彼女が正しい。そこに議論を挟む余地はない。しかし、人道的な観点で見れば寧ろ彼はルールを破ってまで人を救った。ルールで人は、命は救えない。ルールが守るのは世界と組織だ。それに、そもそもこの事態を引き起こしているのはボーダーの対応力不足だと分かっているのか。

 一つ短く嘆息し、助け船を出してやるかと口を出そうとしたところで遮られた。

 

「……お前、なんで遅れてきたのに偉そうなの?」

 

 疑問を呈するのは白髪の中学生とは思えない身長の少年。なんだか面白くなりそうなので言葉を飲み込み、静観の構えを取る。しかし、嵐山の登場に続き、これで話を遮られるのは二回目。今日はツキが悪いらしい。

 

「オサムが何とかしなきゃ、確実に何人か死んでたぞ。少しは感謝してもいいんじゃないの?」

 

「別にトリガーを使用していないなら、素直に感謝したわ。でも、彼は許可なくC級の身でトリガーを使った。これは明確なルール違反よ」

 

「オサムがトリガーを使うにはボーダーの許可が必要みたいだけどさ、アンタらは許可取ってんの?」

 

「当たり前じゃない。トリガーはボーダーの物なんだから」

 

 ああ——愚か者。ボーダーの歴史をちゃんと確認してこい。プライドが高い奴はちょっとした誘いにすぐ乗ってしまう。これだから困る。嘆息と共に額を抑えて、呆れ返る。

 

「何言ってんだ? トリガーは元々、近界民(ネイバー)のものだろ? アンタらはいちいち近界民(ネイバー)に許可取って使ってんの?」

 

 その通り。この事はボーダーが設立される時に伝えられており、ホームページにもその旨は記載されている。木虎はブーメランがぶっ刺さり、目に見えて狼狽する。

 

「なっ⁉︎ ——あ、あなたボーダーの活動を否定する気⁉︎」

 

 論点が違う。許可が必要という次元で話を始めたのは木虎。なのに不利になったと思えばこれだ。実力はエリートでも中身はまだまだ甘ちゃんだ。

 

「ていうかさお前、オサムが褒められるのが単に気に食わないだけだろ」

 

「なっ⁉︎」

 

 図星。組織がどうのと取り繕うがもう遅い。傍目から見ても動揺している上に、拙い嘘を少年にまで見抜かれる。さらに少年の持つ凄みに気圧され後ずさる。既に勝敗は決したと見ていいだろう。

 

「まあ、落ち着こうか二人とも。少年、木虎はプライドが高いから、三雲の行いが気に食わなかったに過ぎない。あまり虐めてやるな」

 

 三雲と少年の間に割って入り、宥めるように肩に手を置く。両者は突然の援護射撃に珍しいものを見るように見上げる。一方の木虎は不服そうに抗議する。

 

「ちょっ、有栖川先輩⁉︎」

 

「確かに、彼の行いは愚行と思わざるを得ない。身の程を弁えずに死地に向かうなど、無謀を勇敢と履き違えた愚者のやることだ。しかし、彼のお陰で救われた者が居るのもまた事実。感謝こそすれ、咎める権利はない」

 

「だ、だからって——」

 

「そもそも、だ。俺たちの到着が遅れたことが彼にトリガーを起動させる要因となった。この少年が言うように遅れたのに偉そうな顔をするのは恥ずかしいだろう? 彼が隊務規定違反で処罰されるなら、俺たちは職務怠慢で処罰されなければなるまい」

 

 既にオーバーキルなのだが、さらに口撃は止まず畳み掛ける。

 

「この事態の全てはボーダーの不手際が招いたことだ……お前も同い年で相当の実力を持つであろう三雲に対抗心を燃やしているようだが——下らない、実に下らない。A級隊員の矜持(プライド)とやらがあるのだろうが……そんなモノはそこら辺の犬にでも食わせておけ」

 

 俺たちの不手際の尻拭いをしたのは彼なのだから、と締め括る。

 プライドを完膚なきまでにへし折られ、完全にしてやられた木虎は表情を歪ませて俯くしかできない。

 

「はいはい、そこまで。現場検証も終わったし、回収班も呼んであるから撤収するよ」

 

 不穏な空気を収めるのは、ボーダー随一の場の空気を収めるのに長けた時枝充。彼が居れば大抵のことは丸く収まる。

 

「木虎の言い分もわかるけど、賞罰を決めるのはオレたちじゃない——ですよね? 嵐山さん」

 

「そうだな……今回のことは俺たちが報告しておく。三雲君も今日中に本部へ出頭するように。俺も君の処分が重くならないように力を尽くそう。君には弟妹を救ってもらった恩義がある」

 

 嵐山は三雲と握手を交わした後、教員たちと今後の対応を協議して、その場を後にした。

 

「さて、帰りますかね」

 

「あの……」

 

「ん?」

 

「ありがとうございました」

 

「礼を言うのはこちらの方だ。だが、命は大切にな」

 

 見回りの続きでもするかね、と再び街へと繰り出した。

 

 

 

 




Fateはニワカです。名ゼリフをちょっとかじった程度なので……虐めないでください。アニメ見たいんですけど、時間がなくて……勉強しなきゃいけないのに。
当初の予定では和人と詩乃がデートしている最中に起こるはずだったんですが……原作平日でしたね。なので、不真面目隊員に活躍?してもらいました。

次回の投稿は未定ですので、更新されたら見てやるか程度のお気持ちでお待ちください。
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