二刀は舞い、弾丸は貫く   作:[Schwarznegger]

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長いですが、よければどうぞ。


最初は甘く、後味はほろ苦い

 

 

 放課を知らせるチャイムが鳴ると共に机から起き上がる一人の少年。

 

「くあ……やっと終わったか」

 

 大きな欠伸を漏らして、伸びをしている間にも、クラスではそれぞれ放課後の予定に合わせて動いている。

 特に予定もない和人は本部に行ってランク戦でもするか、と席を立って鞄を引っ提げる。

 昇降口へとやって来たところで、一人の少女が手持ち無沙汰に立っているのが見えた。

 

「おーい、詩乃。何してんだ?」

 

「待ってたのよ、アンタを」

 

「……なんで倒置法?」

 

「真似よ、穂刈先輩の」

 

 穂刈篤(ホカリ アツシ)。詩乃と同じ狙撃手(スナイパー)で、狙撃手のみで構成されたB級荒船隊所属。常に倒置法で話しているが、メールだと饒舌。なぜ倒置法で話すのかはあまり知られていない。

 

「はあ」

 

「付き合って欲しいの和人——」

 

「ええっ⁉︎」

 

 幼馴染からの突然の告白。完全な不意打ちを受けて狼狽えていたが、次の一言で冷静さを取り戻す。

 

「——買い物に」

 

「あ……そう」

 

 

 

 

「……ねえ、いつまで笑ってんの?」

 

「……あら、いつまで拗ねてるの?」

 

 あれから学校を出て駅前のショッピングモールへと足を運んでいるのだが、詩乃は暫く口元を抑えてくすくすと笑っている。それに対し、和人は口元をへの字に曲げ憮然とした表情で足早に歩いている。

 

「……ふん」

 

「もう……ねえ、和人」

 

「ん?」

 

「ちょっと寒いわ」

 

 そう言って和人の首元に巻かれたマフラーを軽く引っ張った。詩乃もこの時期はマフラーを巻いているのだが、何故か今日に限って忘れてしまったのだった。

 

「ほら」

 

 しょうがないな、とぼやきつつも自分のマフラーを共有する。本来、コレはその用途に使うものではないので長さが足りていない。だから、必然的に密着することになる。

 

「ふふ……ありがと」

 

「どういたしまして——っておい」

 

「どうしたの?」

 

「その……近い」

 

 実際は近いどころか密着状態で、詩乃が和人の腕に抱きつくようにくっついている。女子特有の甘い香りと柔らかい感触が和人の煩悩を刺激する。無論、和人は抵抗したが、詩乃は可愛らしく首を傾げることでスルーした。

 

「この方があったかいでしょ?」

 

「あー……もういいよ」

 

 和人にしてみれば、周りからの視線が気になり、恥ずかしくてしょうがないのだが、詩乃は一向に離れるつもりはないらしいので、仕方なしにこのままで歩くことにした。

 

 

 

 

 

「で、買い物って何買うんだ?」

 

「そうね……新しいメガネと、あなたの洋服」

 

「いや……間に合ってるんだけど」

 

「ふぅん……全身黒づくめのくせによく言えたわね。卒業した方がいいわよ、厨二病」

 

「…………お、俺は厨二病じゃない。ただ黒が好きなんだ」

 

 どの口が言っているのか。動揺している様子から察するに自覚症状はあったようだ。なら卒業して欲しい。

 

「じゃあ、ファッションセンスが皆無なのね。恥ずかしくないの? その歳で全身黒づくめって」

 

「…………」

 

「じゃ、行くわよ」

 

 心を的確に抉られ、撃沈された和人は詩乃に引かれるがままに連れて行かれた。

 

 

「うーん……こっちに変えてみて」

 

「……はい」

 

「やっぱ、これ」

 

「……はい」

 

「いや、こっちかしら?」

 

「……はい」

 

 入店してからかれこれ数十分。成されるがまま着せ替え人形となっている和人の前で唸る詩乃。そんな二人の様子を少し離れた位置から店員が微笑ましげに眺めていた。

 

「まあ、こんなところかしら」

 

「……おお」

 

 紺のジャケットに、白のインナー。ズボンは黒のスキニー。シンプルだが、中々似合っている。しかし——

 

「ちょっと脚短いわね」

 

「……これから伸びるんだよ」

 

「まあ、期待しないでおくわ。取り敢えずそれ買ってきなさい」

 

「ええっと——げ」

 

「少し高いかもしれないけど、勉強代ね」

 

 学生にとっては少し、どころかかなり高いのだが、A級隊員には固定給が支払われている。大きな出費ではあるが、そこまでの痛手でもない。しかし、倹約家の和人は渋い顔をする。

 

「……買ってくるよ」

 

 渋々——本当に渋々といった様子で詩乃に選ばれた衣服をレジで会計する。それを待っている間、詩乃は店員に声を掛けられた。

 

「素敵な彼氏さんですね」

 

「い、いえ……違うんです。…………まだ」

 

 ぽそり、と付け加えられたその言葉は空気に溶けるように誰にも届かずに消えていった。

 ああ、笑顔でそうなんです、と肯定できたらどれだけ幸せなことか。もちろん今でも十分幸せだ。ただ、このままではいけない、とも思ってしまう。

 

「そうでしたか。とても仲良くいらっしゃったので、てっきりそうかと」

 

「まあ、幼馴染なので」

 

「ただいま……何してんだ?」

 

「ちょっとしたお話よ。それじゃあ」

 

「またのご来店をお待ちしています」

 

 店を後にして、同じフロアにあるメガネ店へと足を運ぶ。しかし、そこで一つ疑問が。

 

「なぁ、詩乃」

 

「なに?」

 

「メガネってそんな頻繁に変えるもんなのか?」

 

「靴を買い替えるのと同じよ。メガネもファッションの一部なんだから」

 

「ああ」

 

 なるほど、と頷くもそういうものなのだろうか、と首を傾げたくなったが、本人がそう言うならそうなんだろう、と納得してそれ以上尋ねることはしなかった。

 

 

 

「さて……どれにしようかしら」

 

 あーでもない、こーでもない、と悩む彼女を横目にぼんやり天井を見つめる。女の買い物は長い、という言葉を実際に身をもって体験している。なぜ、そんなに時間をかけるのか男子にとっては理解できないが、女子にとっては何かを買うことだけが目的ではなく、何かを選ぶというのが楽しいのだろうか、なんて考えてみる。

 

「和人はどう思う?」

 

 おもむろに意見を求められて、これは昇降口でのやり取りの仕返しをするチャンスだ、と思った和人は早速行動に移す。

 

「俺はこれよりも——こっちの方がいいと思う」

 

 ひょい、と詩乃が掛けていたメガネを取り上げて微笑んでみせる。

 

「……本当に?」

 

「えっ?」

 

「本当に、って聞いてるのよ」

 

「え、ええっと……どっちでも可愛いと思う」

 

「はぁ……六十点」

 

 ゴリッ、と爪先を踏んづける。この男はまだまだ甘い。そうやって意図的にやろうとすると顔に出るというのが分かっていないのか。大抵の悪巧みはその表情を見れば予想できてしまうのだ。伊達に付き合いは長くない。

 

「でも、嬉しいわ。ありがと」

 

「ど、どういたしまして……」

 

「あなたもメガネ掛けたら?」

 

「いや、目悪くないし」

 

「伊達よ、伊達。ファッション、ってさっき言ったでしょ?」

 

 試すだけならタダなんだから、と言われ適当に四角いフレームのメガネを選ぶ。

 

「どうだ?」

 

 これだから、男子は……と呆れ返る。どうして角縁メガネを掛けたがるのだ。特に目の前の男は。

 

「どうもこうも……ないわ。そもそも和人は女顔なんだからそれ、似合ってないわよ」

 

「俺がっ、気にしてることをっ!」

 

 低身長で線の細い体型に中性的な顔立ち。女子の格好をしても問題ない容姿だ。詩乃的にはアリなのだが、本人的にはコンプレックスらしい。

 

「はい、こっちの楕円の方がいいわよ」

 

「そうか?」

 

「でも、黒なのね」

 

「これぐらいいいだろ。冒険するより」

 

「で、買うの?」

 

「またの機会に」

 

「それ、買わない人のセリフよ」

 

 詩乃もだろ、と返すとウインドウショッピングってこういうものよ、との返答が。

 

「そうか」

 

「そうよ」

 

 そんな会話を交わして店を出る。夕食の時間には早いけど、喫茶店とかで軽く食べていこうかとこの後のことを決めていた時に事は起こった。

 

 

『緊急警報、緊急警報。(ゲート)が市街に発生します。(ゲート)が市街に発生します。市民の皆様は直ちに避難してください。繰り返します。市民の皆様は——』

 

 

「なあっ⁉︎」

 

「お約束は小説の中だけで十分だっていうのに……」

 

 バチバチッ、と耳障りな音を立てて現れた(ゲート)。これが問題のイレギュラー(ゲート)か。(ゲート)からはバムスターが二体、モールモッドが一体。

 

「「トリガー、オン‼︎」」

 

 戦闘体に換装。和人の趣味が前面に押し出された無地の黒コート。詩乃はフードをすっぽり被って顔を隠している。

 

「手早く終わらせるぞ」

 

「了解」

 

 普段はぼんやりしてどこか頼りないのに、こういう時は本当に頼もしい背中。

 詩乃の返事を聞くや否や弾丸のように飛び出しモールモッドの前に立ちはだかる。

 

「本部、こちら桐ヶ谷。イレギュラー(ゲート)が発生しました。応援をお願いします」

 

 既に二刀を抜き放ち、油断なく構える。いくらA級とはいえ、モールモッドは戦闘用のトリオン兵。油断すればこちらが食われる。

 

「ふっ、はっ」

 

 派手な衝撃音を響かせ剣を撃ち交わす。オプショントリガーの『旋空』を使えればこんな相手訳ないが、ここはショッピングモール。柱が何本も近場にあり、人もいるので迂闊に剣を振り回せない。

 それは詩乃も同じく。バムスター二体を牽制するように位置を取りつつ、タイミングを窺う。あの巨体に倒れられたらたまったもんじゃない。

 

「ハアァッ!」

 

 ガガガッ、と連続で鳴り響く剣戟。両刃の長剣を巧みに操って、攻撃を捌く。そこにシールドを使うという考えは微塵もない。詩乃に言わせれば、脳筋なのだ。

 

「オラアッ‼︎」

 

 一瞬の加速。振り下ろされたブレードを斬り飛ばし、《(コア)》である目を斬り刻む。

 

『……相変わらずの脳筋っぷりね』

 

「倒したんだから問題ないだろ」

 

 モールモッドが沈黙したことを確認して、通信に応える。見れば、二体のバムスターも急所を正確に撃ち抜かれて沈黙していた。

 

「でも、問題が解決した訳じゃないしなぁ」

 

「それは鬼怒田さんたちになんとかしてもらうしかないわ」

 

 隣に降り立った詩乃は周囲を確認する。建物は所々破壊されており、暫く営業できなそうな店もあるが、幸いにも死人やケガ人は出ていない。

 だが——こういう時に限って更に災厄は降り掛かる。

 

 バチバチッ、とまたしても(ゲート)の現れる音。しかし、その距離は遠く最悪なことに——

 

「なんで人の多いとこにっ!」

 

「ぐだぐだ言ってないで走るわよ!」

 

 足元のタイルを踏み砕くほどの勢いで新たに現れたトリオン兵に接敵する。しかし、いかんせん距離が遠い。さらに、現れたのはモールモッド三体に砲撃兼捕獲用の『バンダー』。アレに攻撃されたら、建物の崩落による二次被害も起きかねない。

 

「詩乃はバンダーを! 頼むぞ!」

 

「了解」

 

 狙撃手は高い位置から攻撃するのが定石だが、その時間すら勿体無い。その場で狙撃体勢に入る。そして、スコープを覗き込み、照準を合わせる姿に先程の焦りは微塵も見られない。凪いだ水面のように深く集中し——寸分違わず、急所を貫き対象を沈黙させた。

 

「ふっ、はっ……くそっ——しまった‼︎」

 

 三体相手に抑え込むだけで精一杯だったのに、そのうち二体が和人を足止めするように立ち回ったことで、一体が抜け出し背後の逃げ惑う人々へと脚を忙しなく動かして接近する。

 

「あっ——」

 

 コテン、と足を躓いて地面に転がる幼い子供。母親は気づいて駆け戻るが、すぐそばに凶刃は迫っている。それは無慈悲に躊躇うことなく、振り下ろされた——

 

「『エスクード』」

 

 ガコンッ、と地面から生えるように現れた設置型の防御トリガー。それはその見た目に違わぬ防御性能を発揮し、ブレードを容易く弾いた。そして響くリズミカルな発砲音によってモールモッドは沈黙させられた。危機を救ったその主は——

 

「すまん、遅くなった」

 

 ——もさもさしたイケメンだった。

 

「とりまる!」

 

 彼の名は鳥丸(トリマル)——ではなく、烏丸京介(カラスマ キョウスケ)。玉狛支部所属のA級隊員。常に無表情で笑うときも声だけが笑うという特技を持つ。

 

「遅いわよ!」

 

「避難誘導をしていたからな。悪い」

 

 無表情でそれに答える間もその手は止まらずに引き鉄を引き続け、モールモッドを牽制していた。

 

「ハッ」

 

「……命中」

 

 その隙を逃さず、二人は残党を殲滅し、京介の元へ駆け寄った。

 

「どうしてここに?」

 

「バイトだ。上のファミレスに居たんだが、客を避難させていたら遅れた」

 

 彼の家は五人兄妹で、長兄である彼は一家の大黒柱として稼がねばならない。無論、A級隊員の固定給だけでは足りず、幾つもバイトを掛け持ちしている。

 

 

「——おいッ! どうなってるんだ‼︎」

「街にどうして近界民(ネイバー)が現れる!」

「ボーダーは何してるんだ‼︎」

 

 口々に騒ぐ人々。確かに死者が出ていないとはいえ、店を壊された側からすればたまったものではない。

 

「……今現在、原因不明の攻撃を受けておりこのような事態が発生しています。後々、ボーダーによる正式発表があると思うので、どうかご理解を」

 

 京介は常と変わらない無表情で淡々と告げ、踵を返した。

 

「お、おい……アレでいいのかよ」

 

「知らん。この手の事は嵐山隊か根付さんの仕事だ。俺たちに出来ることは大してない。それよりも本部に報告を上げて対策を講じてもらうしかない」

 

「まあ、そうね」

 

 そうして三人は連れ立って本部に報告をした。

 しかし、市街中央では爆撃型トリオン兵による甚大な被害を受けて、上層部はトリオン障壁による門の強制封鎖を決定した。本部に貯蓄されたトリオンが尽きる四十八時間以内に対策を講じなければならなくなった。

 

 

 

 

 

 





とりまる登場。てか、口調大丈夫でしょうか。
あのマフラーのスタイルを何と言うのかわかりませんが、冬ならではのイベントですね(羨ましい)。
そしておかしいな。デート回の筈が……普通にバトってしまった。
最後無理矢理感満載ですね。次回は害虫駆除かな?
まあ、次回更新も未定ですが今まで通りカケラも期待せずにお待ちください。
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