宇宙要塞ア・バオア・クー
戦いは終焉を迎えようとしていた。
宇宙世紀0079 12月31日 正午
ジオン公国軍宇宙要塞ア・バオア・クー
難攻不落と思われたこの要塞も、総帥ギレン・ザビを失い陥落は時間の問題であった。
そして最後の一人キシリア・ザビも…
脱出を急ぐザンジバル級機動巡洋艦【パープルウィドウ】ブリッジ内で正面に赤いノーマルスーツの人影を視認した。
「ガルマ‥私の手向けだ。姉上と仲良く暮らすがいい」
「シャアか…… ヒィッ!! 」
シャアが放った砲弾はブリッジを直撃し炸裂した!
発進直前だったザンジバル級機動巡洋艦は姿勢を崩し前のめりに墜落……ザビ家最後のひとりもダイクンの遺児キャスバルの手により葬られた。
「終わった……すべて」
復讐を成し遂げたキャスバルは…言い様のない虚しさを感じながら、何かに導かれるが如く辿り着いた。
「グワジン! あれは? ‥マ・クベ? 」
見るとマ・クベ大佐が部下とともにゼナ・ザビを脱出させるべくグワジン級戦艦へ乗り込むところに出くわした!
「マ・クベ大佐! お二人を何方へお連れするおつもりか? 」
「シャアか!? キシリア閣下が戦死された… ここはもうお終いだ。これより私はお二人を本国へお連れする」
「ならば私は脱出の援護をと‥言いたいが、MSがあればだが… 」
「貴様のゲルググが残っているぞ! 私もギャンで随行する」
斯くして二人の大佐が駆るMSに護衛されゼナ・ザビとミネバ・ザビは陥落寸前のア・バオア・クーを脱出するのだった。
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鳴り響く警報 ………
火災が発生しているのか、ブリッジ内には煙が充満してきている……
床に打ち付けられたのか… 身体のあちこちが痛む
「う‥ どうなった? 誰か… ゴホッ 」
『誰か残っているか!! 』
『急げっ! もたもたしてると誘爆する! 』
複数の人影を目にして振り絞るように声をあげた。
「‥ここだ! くっ! 」
辛うじて動いた左手をうつ伏せ状態のまま挙げて振る。
『生存者だ! おい手を貸せ! 連れて行くぞ! 』
助かった‥と安堵したのか、私の意識はそこで途切れた…………
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目を覚ますと‥ ベッドに寝ていた。
右目が開かない… 眼帯の上に頭全体を包帯が巻かれているようだ。微かに機関の鼓動を感じる… 別の艦に救助されたのだろうか?
「あの状況では無理もない… よくも命があったものだ」
ぼそりと呟いた…
「あ、気付きましたね? 気分はどうですか? メルクロワ少尉」
「……私に言ったのか? 」
「そうですよ? メルクロワ少尉殿」
問い返された衛生兵はあらためて名前を呼ぶ。
「何を言ってるのだ… まあよい。ア・バオア・クーからは脱出したのだな? それでこの艦は? 誰の指揮下にあるのだ? 」
「本艦は戦艦アサルムです。マ・クベ大佐指揮下にて本国へ向かっております」
「そうか、私はマ・クベ大佐の艦に救助されたのか… では、呼んでくれ」
「誰を? 」
衛生兵はきょとんとして応えた。
「決まっておろうがっ! いっ、痛たっ‥ くぅ」
「混乱してるみたいですね‥ 鎮静剤射ちましたから、暫く安静にしてくださいね」
そう言って衛生兵は離れていった。
「待て! う、うぅ‥ 動け… 」
どうもおかしい……
そう感じながらも、鎮静剤が効いてきたらしく… また意識は遠のく………
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「…… うん? 眠っていたのか? …誰か居らぬか? …… 」
目を覚ます… 病室には他にも何人かベッドに寝ているようだが、重傷者ばかりなのか返事がない。
「ん、動けそうだ‥な? よし」
安静にしている間に回復したらしく、ベッドから起き上がることが出来た。視界に入った鏡に向かう… 己れがどんな状態かを確認せねば…
「…右目が腫れてるのか? ぬ? ……なんだ? 」
鏡に映る姿に違和感を感じる…
左目だけが見えている顔を凝視する……
次の瞬間、胸中に沸き起こる不安感に苛まれながら包帯を荒々しく剥ぎ取る!
包帯が外され、右目に眼帯だけを残して素顔が晒される………
「……誰だ? この女は? 」
鏡を凝視しながら立ち尽くす……
しかし、彼女の頭脳は冷静に現状を把握すべくフル回転している。そもそも‥何処から狂ったのだろう?
救助されたのは… 何故だった?
そうだ、座乗していた【パープルウィドウ】が…… どうした?
思い出した!!
「シャア!! いや、キャスバルめがっ! 」
キシリア・ザビは思い出した!
あの時、発進直前の艦首に現れ見送るかのように敬礼した奴がバズーカを発射したのだ! 砲弾がブリッジ前面ガラスに直撃して………
「ザンジバルのブリッジを携帯火器如きでは貫通しなかったのだろう……おかげで私はこの通り…… 別人ではないかぁっ!!! 」
「あのぅ… 怪我人ばかりですからお静かにお願いします」
「う、すまん… 」
我を忘れ叫んでしまった…
「落ち着け… 私はキシリア・ザビだ! 狼狽えるでない… いや、狼狽えるだろ普通… 」
しかし、流石はザビ家の女傑キシリア閣下である。
「今の私は別人になった。私がキシリアだと主張したところで誰も信じまい… ならばこの女の情報を得ることが最優先だ‥ 認識票などは? 」
寝ていたベッドを確認すると、認識票がぶら下がっている。名前は…ソフィア・メルクロワ少尉で、生年月日が…20歳の血液型がO型とわかる。
「これがあれば詳細な経歴もわかるな。それにしても‥20歳? もっと若いかと思ったが? …ふふ、私が老け過ぎなだけだな」
キシリアは自覚しているのだ…自身が歳相応でない老けかたをしている紫バ⚫アと陰口があることも……
「良く見ると可愛い顔をしてるわね。…少々発育不足な胸が残念かしら。でも、悪くない… アイドルみたいな可愛い外見に憧れた時期もあったわね…」
キシリアにも少女の頃…思春期があったのだ。しかし、ザビ家の遺伝子は……少女に容赦なく厳つい外見を形成したのだった。
「幾度となく、此の身の生まれの不幸を呪ったことか…… 」
小学生の頃既に…… 陰では『オバさん』『ザビ夫人』等の渾名で呼ばれていたキシリア。無論… 陰口を叩く輩は粛清しまくった。その後は『般若』『鬼婆』『女帝』等に渾名は悪化したのだった……
「ウフフフフ。しかも夢にまで見た金髪碧眼ではないか! この身体が在るならば… ザビ家を捨てようと悔いはないぞ! ハーハッハッハ! 」
「病室ではお静かに!! 少尉殿に面会ですよ! 大佐殿、こちらがメルクロワ少尉です」
「大佐?…(マ・クベか? )」
「ご機嫌の良いところに邪魔をしてすまんな。君がキシリア閣下の座乗艦乗員と聞いたのでな… 話を訊かせてもらえないだろうか? 」
衛生兵の後ろから姿を現したのは、大佐というには若い士官… 金髪に大きめなサングラスを掛けている。
どこかで…… 金髪にサングラス!!
軍服が赤でなく、一般の緑なのは艦にあった在庫を着たためだろう。気づくのが一呼吸遅れた。
「シャア!! ……大佐‥どの? 」
気付いた途端に激昂しかけ‥取り繕う。
「‥微妙な間があったが? 会ったことがあるかな? 」
シャアも何かを感じとったのかサングラスの奥の視線が鋭くなる感覚が伝わってきた。
「いえ、彼の英雄【赤い彗星】に直にお目にかかるなんて初めてです! 憧れのシャア大佐にお逢いできるなんて! あまりに感激して取り乱してしまいました‥」
「そ‥そうなのか。しかし、英雄とは随分と大袈裟ではあるが‥麗しい女性に憧れと言われると悪い気はしないな」
ニュータイプと思われるシャアに勘繰られるわけにはいかない… キシリアは精一杯【赤い彗星】に憧れる少女のように振る舞った。どうやらシャアは疑念を持つどころか、真に受けて照れているように見える。
「…(シャア‥まさか? 意外だ‥)」
キシリアの前では見せたことのないシャアの態度に新鮮な驚き? いや、これは嫉妬?
「話が逸れたが、本題に入る。…君はキシリアの最後を目撃したのか? 」
突然、サングラス越しに殺気が向けられキシリアは萎縮する。シャアはキシリア殺害の現場に居合わせた目撃者である可能性を探りにきたのだ。
「すみません… 気がついたら床に転がっていまして、直前の記憶は管制官と交信中でキシリア閣下の姿は視界にありませんでした」
メルクロワ少尉はブリッジ要員で、通信士官であった。キシリアはそのことから発進直前には管制官と交信していたからブリッジ内に視線を向けていなかった…ということにしたのだ。
あの時‥シャアが艦首からブリッジを目掛け放った砲弾に驚いた操舵手が操作を誤りメインエンジンに点火してしまったのだ。港湾内で激突した船体は大破……
「そうだったか… ブリッジ要員で生き残りは君だけだったのでな。キシリア閣下の最後に関する情報が獲られるかと… 療養中にすまなかった! 養生してくれたまえ」
「お役にたてずに申し訳ありません。……またお逢いできますか? 」
「長い航海だ… 私も特にすることも無い。遠慮なく訪ねてくると良い」
シャアはサングラスを外して優しく微笑んで去っていった。
「ふん‥弛んだ面を下げおるわ…やはり、こういう女が好みなのか? ‥警戒は怠らぬに越したことはないか」
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医務室を後に… シャアはぼそりと溢す。
「不思議な雰囲気を纏った女だ… 」
金髪碧眼で見た目に10代… 何処と無く、妹のアルテイシアにも似たソフィア・メルクロワにシャアは惹かれる感じがあった…… 反面、時折見せる仕草には何故か背筋に寒いものも……
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「アクシズへ向かっているだと!? 」
ソフィア(キシリア)はシャアが漏らした『長い航海』が引っ掛り、衛生兵を捕まえて問い詰めたところ…アクシズ行きを告げられ驚いた。
「はっ‥はい! 本国では既に連邦と停戦交渉に入ったらしく… 主だった閣僚はザビ家に対して反旗を翻して受入れを拒否したそうです」
「火星の更に彼方だぞ… 1年程かかるではないか! …婆になってしまう」
アクシズ行きと聞いて怒り心頭なソフィアは衛生兵の胸ぐらを掴んでいた… と、そこへ!
「ハッハハ! 貴様のような若い娘が1年くらいで婆さんにはならんよ! ‥キシリア様じゃああるまいし」
「マ・クベ!! 今なんとほざいたかっ!?」
背後から軽口を叩いた声に激昂してしまったキシリアは声の主に罵声を浴びせ…(やってしまった…)と恐る恐る振り返る… !
「お、御許しください! キシリア様! 」
恐怖に打ち震えて土下座するマ・クベ大佐が居た。
「マ…マ・クベ大佐‥殿? 」
「ん? ‥あっ! 貴様! キシリア様の真似をするでない! お、驚いたではないか! バカ者! (生き返ったかと驚いたわ!)」
「申し訳ありません… その‥敬愛するキシリア閣下を侮辱され…つい、かっとなりました(ヤケ糞だが誤魔化せるか?)」
「…まあよい。流石はキシリア閣下のパープルウィドウ乗員だな。口振りも似ておった… 二度とやるでないぞ小娘! 」
「肝に命じて…おきます(ほっ)」
「ところで用件だが、貴様はキシリア様直属の士官である。主を失い、行場も無い身であろう… 傷が癒えた後、ゼナ様とミネバ様の御側に就いて貰うぞ。長旅で侍女の手が足らんそうだ‥ 」
「…は、畏まりました」
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「ゼナとミネバが乗っていたか… ドズルの娘か。…不憫なものよ、ミネバも将来は生れの不幸を呪うことだろう…よりによってドズルの種だからのう…くふっ」
キシリアは自身にミネバを重ねて将来を悲観し……嘲笑った
当たり前だが…
ミネバが美少女に成長するとは知る由もない……
憐れなり…キシリア叔母様
本作品は自信がなかったので非公開で投稿して……永らく放置しておりました。
手直ししての気まぐれ公開です(笑)
つまらなかったら消しますので、感想いただけたら嬉しいです!