「ジョニー・ライデン…」
私は確かにジョニー・ライデンの名を呼んだ…
ユニコーンの紋章は…彼
何故今の今迄忘れていたのだろう?
「やはり…知っているのだな。これは姉キシリアが肌身離さず身に付けていた物なのだが? 」
ミハルは姉キシリアとの今生の別れを思い出す…
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UC.0079.12月
「姉上‥ 如何なされた? 」
突然来訪したキシリアに驚くミハル…
ここ月のグラナダは突撃機動軍の本拠地とはいえ、ミハルが隠匿生活を営む邸宅はフォンブラウン市郊外の民間区画に存在する。ザビ家の身分を隠し暮らすこの場に姉が訪れるのは初めてのことだ。
流石に軍服姿ではなく、髪を解きゴージャスな黒ミンクコートを纏った出立ちはギャングのボスかその愛人といったところの悪趣味具合である…
一人だけ連れてきたボディーガードの男も黒のトレンチコートにフェルトハットと‥時代後れのギャングファッションにミハルは眉を顰めた…
「突然すまんな…明日、出撃するのでな。お前に挨拶をと思ってな‥」
「姉上自ら出撃なさるとは‥戦況が芳しくないので? 」
表情を変えずさらりと戦況を口にするミハルは端から連邦との戦争が厳しいことは承知している。
「ギレンは此度を決戦と位置付けて連邦を叩く腹積もりのようだ。私が顔を出さねば恰好がつかんだろう? なに、心配には及ばぬ… 頃合いを観て戻るつもりだ」
「ソロモンが陥落したことですし、姉上も充分にお気をつけられますよう…」
次兄サスロがテロに倒れ、ガルマに続きドズルもが戦死したことで三人の兄を喪ったのだ。世間でザビ家各々の確執が噂となるが、亡くなった三人の兄達は何れもミハルを心底可愛がっていた。公王デギンにして溺愛振りはガルマの比ではなかったのだ。あのギレンでさえミハルには頬を弛ませた程である… ギレンの微笑み顔? 想像に難い画である…
「うむ、お前も知っての通り‥私はたとえ本国が
キシリアの目配せを察し男は歩み出てミハルの前で片膝をつき礼を執る。
「ジョニー・ライデンと申します」
「ライデン少佐のキマイラ隊が常に私の座乗艦を護衛するのだ。公国軍生え抜きの猛者揃いである故‥備えは万全の構えで赴く! 隊長のジョニー小佐の腕は赤い彗星のシャア以上…とも云うな?」
「閣下‥買いかぶり過ぎですよ」
照れ隠しなのかジョニーは伏し目がちに呟いた。
「姉上が仰有るなら、あのシャア・アズナブルと少なくとも互角以上に違いないようですね。頼もしいことです」
「これは意外であるな‥シャアと面識があるのか? 」
キシリアはミハルの話からシャアと面識があることに驚いた。
「以前にガルマ兄様がいらした折りに御友人と紹介されましたの。姉上好みの金髪碧眼の美男子でしたわ」
「そうか… 私好みは余計だ! 」
ミハルのからかう軽口に顔を赤くするキシリアと、横では自身の容貌を確認するかのように頭髪を指で摘まんでいるジョニーが揃って狼狽えている。
―キシリア様は金髪碧眼の美男子が大好物である―
そして…自身もそのような姿への羨望があるのだ。
幼き日のダイクンの娘アルテイシアの容姿に憧れ…嫉妬した……
「姉上が羨ましく…嫉妬致しますわ。私にも少佐のような
これから戦地へ赴く姉に憂いを掛けさせぬよう精一杯明るく振る舞うミハルであるが、どうやら姉上と騎士殿は真に受けているようで狼狽える様子が……
「ジョニーを譲れと? ‥いや、それは困る! 」
「冗談ですわよ? 」
「‥ヒトが悪いぞミハル。そうだ!? ジョニーはくれてやるわけにいかんが…これを譲ろう」
キシリアは大胆に開いた胸元に手を差し込むと何かネックレスのようなものを取り出した。谷間から引き摺り出したように見えたが…どうやって収納していたのか不思議である。
「閣下、それは…」
様子を少々呆れ顔で見ていたジョニーが驚いた。キシリアが胸元から取り出した物は以前に自分が贈った品だったからだ! キマイラ隊結成以来、初めてキシリアの側を離れなくては為らなくなった時があった。キシリアの身を案ずる自分に身に付けている品を寄越せと差し出したペンダントである… 貴金属としての価値などは無い。ジョニーは驚いたのだ…まさか肌身離さず身に付けていたことに!
「
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掲げ持つユニコーンのレリーフを見つめるミハル…
「帰ってはこなかったがな…」
「……」
ミハルの様子に恐らくは同じ光景を思い出しているソフィアは当時に比較して寂しくなった胸元を見つめ無言で俯いている。…何故今頃になって思い出したのだ。
「ソフィア・メルクロワ… そなたはジョニー・ライデンと並ぶ程の存在であったのだな。そうなると話は人払いせぬと…トワニング! ソフィアと二人だけで話を致す」
「御意… シャア大佐、我々も退室致しましょう」
トワニングとシャアはミハルの意に沿い退室してゆく。
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「これで二人きりであるな… 堅い話はやめだ! よいなソフィア? 」
それまでの威厳を醸した態度から切り替わり、ミハルは歳相応の少女の如くリラックスした表情を見せた。
「は‥畏まりました。…(かわらんな)」
ミハル・ザビは幼少の頃より病弱であるが、それ以上に父デギンの寵愛を一身に受けた深窓の令嬢である。溺愛されたが故に兄姉に比べ窮屈な生活を送りながら成長するにつれ…二面性を身に付けた。良く言えば公私を使い分け出来る賢い娘である…籠の鳥状態で常に市井への渇望を抱いているのだ。
「ではこれよりソフィアは私を『ミハル』と呼ぶこと! よいな? 」
「は? それは流石に…」
内心それは元々…いや、今の立場でそれは不味いだろ!
「ダメ! 私は友人が欲しいのだ。そう‥ガルマとシャアのような関係だな」
それは喩えとしては最悪の関係だぞと…
「はぁ、仰せとあらば…わかったぞミハル」
「そうだ、それで良い。…それで、本題に入ろうではないか。話せ…」
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「ふむ、アクシズは私を迎え入れ玉座に据えようと? ミネバは幼いから当然の流れではあるが…。だがな、あのような辺境の小惑星に篭ってジオン再興が成せると思うか? 」
ミハルはソフィアからアクシズの意向を聞くと話に興味が無さそうにジオン再興の可能性に疑問を呈した。
「篭っているだけでは無理でしょうな? 僅かな勢力で砦を守るだけで精一杯です。但し、潤沢な資金力をバックに宇宙権益を掌握出来れば可能性は幾分高まりましょう」
「潤沢な資金? ザビ家の資産は全て没収されたのだぞ? 残っているのはこのモルガン家名義で隠していた僅かばかりの財産だけだ。…姉上のだな? 」
ミハルは気づいたように口許をつり上げ微笑んだ。
キシリアは戦後を見越して動いていた伏がある。彼女は当初ギレンに対抗するかのように政治力を身に付けていったのだが、いざ戦争に突入するとなると経済面へシフトしていたのだ。戦争中盤頃には戦後…講和若しくは敗戦により戦犯となることまで考慮していた。如何に戦後を立ち振る舞うかまで…
キシリアはいくつかの
「キシリア様は生前仰っていた。戦いは…」
「カネだよ! ‥だな? 」
「はい フフフ 」
「姉上らしい! ハハハ 」