機動戦士ガンダム K.D.A.   作:apride

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活動報告で『近日中に次話』とかほざいててやらかしてしまいました。大変申し訳ありません!
こんな駄作を楽しみにお待ち下さいました方々には本当にお詫び申しあげます!

お前の『近日中』とは数ヵ月かい!! とのお叱りもあろうかと思いますが、何卒次回【後編】も宜しくお願いします。…すいません…長くなったので今回は【中編】です。


キシリアの遺産【中編】

【EFF47月コンサートツアー最終日】

ステージの上でスポットライトを浴びマイクを手に踊る。彼女の脇を固めるのは人気投票上位の名だたるメンバー達美少女軍団である。ステージの中心で美少女軍団を従え眩い光を浴びる姿は女王と呼ぶに相応しい。彼女の名は……

 

 

 

 

 

――― ミハル・サビ ―――

 

 

 

 

「はい! ワンツー! ターン! 」

 

振付け師の掛け声にぎこちなく笑顔を振り撒きながらも華麗にターンを決めてマイクを掲げると同時に片足を上げてフィニッシュ! 決まった!

 

『パシャッ パシャッ パシャッ 』

フラッシュの洪水を全身に浴びる彼女の額に浮き出た汗がキラキラ光る。

 

「お疲れ様でしたぁ!! 最高のステージでした! 」

 

手にしていたカメラを放り出し、タオルを手にステージ駆け寄るレナは感極まっていた! 流石は我が姫君だ! この御方が健在ならばジオンは不滅である! ジークジオン!ジークジオン!叫びたい気持ちを抑えるのがもどかしい!!

 

 

照明の届かぬ暗闇となっているステージの影では主人を見守るシャア達……否、1名は明らかに憎悪の色を浮かべている。

 

「ぐぬぬ… 」

 

「ソフィア‥さん。唸り声大きいですよ。お気持ちは察しますけど、相手が悪いです‥堪えてくださいよ」

 

ご機嫌斜めのソフィアを放って駆け出して行くレナを目で追いながらファビアンはシャアに助けを求めるべく…しかし当のシャア・アズナブルは素知らぬ顔でステージ上のミハルを注視して感慨深げに呟いた。

「ミハル嬢もやはりザビの血族だな。フッ、ガルマを思い出す…」

シャアは士官学校時代のガルマを思い出す…。ザビ家の男に生れたことに気負いがあるとは言え、あれは生まれながらのものだろう。

 

「それにしても… まるで姉妹のようだな…?」

 

隣で唸るソフィアを横目に見てシャアは溢す。

昨日に謁見したミハル・ザビは厳かな雰囲気の中で気品と優雅さを併せ持つ姫君と感じた。ところが一夜明けてみると他のザビ家の面々に劣らず激しい気性を内に秘めていたようである。そしてそれは横で唸るソフィアからも見てとれたのだ。

 

 

遡ること二時間前…

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

◆ ◆

 

 

「この後で主要メンバーによるリハーサルを行います。予定通りにセンターに立っていただくことになりますが…? 貴女‥で、宜しいので? 」

 

「うむ、問題無い。新曲の振付けはマスターしておるからな…!? 」

「お待ちなさい! 」

 

打ち合わせに現れたプロデューサーの問いにソフィアが内心ドキドキしながら返答し、立ち上がろうとした…横からミハルが横槍を入れた!

 

「この体験入隊は確私の我が儘(・・・・・)‥でありました‥ね? 」

立ちあがりかけたソフィアはやや横目に見下ろす形で恐る恐る視線を落とす…不敵に微笑むミハルと目が合った! この目は…

 

――不味い!!――

 

 

思い起こせば…

父に買って貰ったお気に入りの熊のヌイグルミをミハルにお強請りされた。ちょっと躊躇したが、可愛い妹に譲る… 既にこの頃、自身に可愛い物は似合わないことを感じていたしな。ヴィンテージのテディベアだったのが少々惜しいとは思ったが…

 

あるときは私が愛馬に跨がる横に来て

「姉様、ミハルもお馬に乗りたい」

「そうか、ならば一緒に乗ってみるか」

病弱な妹を気遣い、自身の前に座らせて常歩で軽く流してやると大層な喜び様であった。

翌月には私の愛馬はミハルの愛馬に変わっていた…

馬がミハルに懐いているのでは致し方無い…クスン。

 

そうか、ジョニーを譲れと言ってたのも冗談半分…いや本気半分だったに違いない!

 

昔から私の真似をしたがる妹で‥? 真似を? 否!‥私の所有物を欲しがる妹であったわ!

 

 

「う、うむ‥体験入隊を所望されたのはミハル‥お‥お嬢‥様…… です…」

 

「そうよねぇ…! ならば、此のステージを仕切るのは私の務め! 我儘を言った責任を果たさねば為るまい…」

 

「いや、しかしだな…振付けは難しい‥から…私ならば既に…」

 

「ソフィアの心配にはおよばん。私とてザビ家の女‥常日頃より戦に赴く覚悟は出来ておる。振付け師を此れに!! リハーサルの刻限までにマスターしてみせようぞ! 」

 

「…ぐぅ」

 

こうもハッキリと言われてしまうと反論しょうがない。悔し紛れに『ぐうの音』とやらを出してみるのが精一杯の不満表明で肩を震わすソフィアであった。

 

 

そして、ミハルは有言実行…見事に振付けを身につけてリハーサルへ挑んだのである。我が妹ながら、その執念には畏れ入る。恐ろしい子…

それにしても…またも…私の楽しみを奪うとは!

 

せっかくアイドルみたいな女の子になって…

 

夢にまでみた本物のステージに……

 

あれ…? なんだ…? 目が霞む…? 鼻水まで…?

 

まさか…私は泣いてる?

 

 

 

 

 

 

 

「‥フィア! ソフィアったら! これ持ってよ」

 

呼ぶ声に我に返るとタオルで汗を拭いながらミハルが立っていた。レナから飲み物を受けとるべく、手に持っていたマイクをソフィアに差し向けていた。

 

「‥マイク? 」

「次ぎはあなたの番よ… リハーサルは一回じゃ終らないわよっ!? 練習の成果をみせなさい!」

 

袖口で目元を擦り、ステージを見るとメンバーがスタンバイして待っていた。

 

「…フッ。さて、なんのことかはわからんが皆を待たせる訳にいかんな」

 

 

 

 

――いつの間にか大人になりおって――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─────────────────────

 

 

 

 

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───────────

 

 

コンサートツアーのアイドル集団に紛れて地球往きを果たしたミハル・ザビ一行は拍子抜けするほどすんなりと大気圏を抜け、重力に支配された大地へ降りたっていた。現在は入国手続きのために専用窓口にやってきているのだが…

 

 

 

「出発時と比べ5人も増えているのはどうしたんですか? いえね、書類に不備はありませんが‥不自然というかね? 」

係員が疑いの目を向けているのは明らかである。しかし、彼が言う通り書類に不備は無いので押し切ることも可能であろう…。ここで支配人が周りを警戒する素振りでそっと係員の耳許で囁くように語り始めた。

 

「ここだけの話ですが、近々に新設部隊を計画中でして…彼女達はその先遣隊とも呼ぶべき存在なのです。その名もEFSF47!‥まだ仮称ですがね。くれぐれもここだけの話‥何卒‥御内密に願います」

支配人は懐から封筒を取り出し中身をチラリと係員に見えるように、そして彼の手元に滑らせる。

 

「ほ、ほう‥成る程。それはそれは‥!? コホン、事情は良く理解致しました。問題無さそうですな! 長旅お疲れ様でした」

係員は提出された書類にスタンプを押した。左腕の袖に隠された封筒の中には『EFF47欧州ツアープレミアコンサート』のチケットがペアで入っている。

 

 

 

その時、ミハル・ザビ一行を物陰から窺う視線。

 

「‥地球に降りてきたとの情報通りだ。…ん? あれ…何処かで…ヤツはまさか」

 

「一人でブツブツ言ってないで、さっさと隊長に連絡しなさいよ! 」

 

五人の様子を見ていた人物は驚きを隠せず動揺した様子に後に立つ人物が軽く尻を蹴り促した。

 

 

 

 

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──────

 

 

無事に入国手続きを終えた一行はパリ市内へ歩を進めている。既にアイドルグループとは別れ、本来の目的であるスイス往きを急ぐべくシャア大佐は宇宙港に隣接する国際空港へ足を向けようとした。‥のだが。

 

「大佐…あのぅ、ミハル様がお呼びです」

 

戸惑い気味のファビアンの声に振り向くと…? その先ではタクシーの運転手と何やら交渉? ‥中らしきミハル嬢の姿がある。

 

「ねぇ、ローラン! 貴方なら大丈夫でしょ? フランス語! 」

 

ローラン・ビランク…フランス系スペースノイドという設定である。フランス語は‥ネイティブ程ではないが、日常会話くらいはこなすシャアである。こんな時間にタクシーをつかまえて何処へ向かうつもりなのか…?

 

「あぁ、問題無い‥が? 何処へ向かわれるのだ? 」

 

「あぁ、良かった! ソフィアも仏語は出来ないって言うから困ってたのよ! 運転手さんに話してちょうだい

! エッフェル塔がよく見えるスポットに案内してほしいとね! 当然、凱旋門もよ? 」

 

パリ観光かよ!

いや、これしきのことで狼狽える私では無い! パリと云えば御婦人達には人気の観光地であるから…こんなこともあろうかと既にリサーチ済である。

 

「成る程、了解しました。しかし…夜のパリ市内観光ならバスツアーの方が効率的です。なにより安上がり‥っ! 」

()()()()()() ()

途中まで言いかけたシャアは空気が変わる微妙な気温差にハッとなってミハルの顔を窺う… ふ、私が何者だと思う? ニュータイプ(多分)だ!

 

「ソフィア聞いた? 安上がりなバスツアー… 」

微笑みが般若の形相に変わりかけたミハルを横目に‥

シャアの目が光る‥キラっ!

 

「‥と世間一般論ですが、折角のパリの夜です。先ずはライトアップされたエッフェル塔を見下ろす高台へ案内してもらいましょう。その後はまとめて上空からパリの夜景を満喫していただく…ディナーは少々遅くなるが宜しいですかな? 」

――危ないところだ、うっかり『おすすめパリ観光・スーパー格安弾丸ツアー篇』を披露しかけた。月での様子から庶民的な嗜好があるのかと探りを入れてみたが、やはりザビ家の女…派手好みのようだ――

 

 

「あら、夜間飛行だなんて洒落てるわね。そして締めはムーランルージュってあたりは流石は『赤い彗星』ね」

 

「え‥あ、いや‥勿論、嘗てドイツ軍もパリ占領の折には市内観光に勤しんだという話です。ミハル殿下には地球最初の地として相応しい一夜を献上致したいと思いまして… 」

 

――コラコラ! 誰が言った? 締めにムーランってのは?? そら確かに『赤い』繋がりで有り得たけどな…勝手に歓楽街でナイトショー確定申告はあんまりだろ! ――

 

「成る程、パリ観光の締めに『赤い風車(ムーランルージュ)』とは…流石はシャア大佐ですこと… 」

ミハルにしたり顔で相槌をうつソフィアは些か冷やかである。

 

「ふ、それほどでもない… 」

 

――おいこらソフィア、お前‥知ってんじゃん? 何で止めないの? さては二人揃ってパリの夜を豪遊する気満々かよ! だが、そうは言ったもののムーランルージュに伝が無い。さてどうするか――

 

 

「あのぅ、質問宜しいでしょうか? 」

「なんだね? 」

ちょっとドキドキ顔をしたレナが問い掛けてきた。彼女もジオン貴族社会に属しているが、ほぼ一般人と言って差支えない存在だ。質問内容も想像がつく…

 

「ムーランルージュとか赤い風車ってなんですか? 」

 

――ほらな――

 

「ムーランルージュとは仏語で『赤い風車』そのままだ。パリの歓楽街にある有名な高級キャバレーで、そこの建物の屋根に巨大な赤い風車が据付けられていてな‥夜になるとネオンが煌々と照して妖艶さを醸すのだよ」

 

「キャバレーですか! 僕、初めてですよ! うわぁ、オネエサンに囲まれてアハハ、ウフフ、キャッキャッ‥て‥どうしよう…」

 

――ファビアン君、それキャバクラだから――

 

「そんな悪所なんですか!? 一応アタシ‥女の子なんですけど? 」

 

「勘違いするな! 歴とした伝統的な劇場でナイトショーを楽しむ大人の空間だ。君達も良い体験になるだろうから楽しみに待て」

 

「大佐のお手を煩わすのも‥と、既に予約済です。差し出がましいのですが、ドレスコードの都合から全員の衣装も手配しておきました。キシリア様ご贔屓のお店ですので問題ありません。ツケが利きます」

スッと横に来てソフィアが囁く、うっかり忘れるところだった‥このまま行ったら門前払いだ。流石はソフィアだな…と感心してしまう。ツケが利きます‥だと?

分かってるではないか! 地球に着いてからの支払いが全て私シャア・アズナブルのポケットマネーで賄われていることに! ミハルは『お金の心配は無用です』と皆に言うが、地球連邦の本拠地たる地球上に於いてジオンの公費決済など出来ない。ましてやミハル自身が財布を持つ筈もなく、本来なら従者が……

 

――私がその従者ではないか!――

 

なんの手違いか、この旅の資金はローラン・ビランクの偽名を使いだした瞬間からストップしていた。ローラン名義の口座には一民間人の身分通りの資産‥と呼ぶには程遠くて今夜一晩で赤字化待ったなしの状況であった。

 

「そ、そうか? 流石だな、助かったよ。しかしよくツケが利いたものだな? 」

「ええ、大佐のお名前を出したら先方は快諾しました。流石はシャア大佐です」

 

 

:::数分前のこと:::

 

◇◇◇◇◇◇

 

『…この連絡方法を知っているなら、貴女がキシリア・ザビ配下であるのは間違いないだろう。しかし、ソフィア・メルクロワの名には聞覚えが無い故‥手は貸せぬな』

「では、シャア・アズナブルでは如何か? 現在、さるお方の警護役を仰せつかり同行しております」

『何!? 赤い彗星…紫の女帝の片腕と云われる赤の御仁がか? 事実なら協力するのも吝かではないが…証拠は? 』

ソフィアは手にした通信端末のカメラを横へ逸らすとシャアの顔が相手のモニターに映し出される。

「これで如何か?」

『…確認した。登録されているシャア大佐に相違無い。用件を聞こう』

 

◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「ということは…シャア・アズナブル名義のツケ? 」

「勿論ですわ」

 

 

――それは私個人に対してのツケではないか!――

 

 

 

「話はついたのよね? なら行くわよ! シャアは助手席だから、私達は後ろのシートに乗りましょう」

「あの‥僕も後ろ‥ですか? 」

「当たり前だ、男二人で助手席に座るつもりか?」

イソイソと後部座席に乗り込むミハルを見ながらファビアンが困惑顔でソフィアに聞くと、後ろからレナに押し込まれる。

 

その時、街灯の陰から制服警官を伴い現れた中年男性が近寄りシャアはサングラス越しに警戒の目を向ける。男は警戒するシャアににこやかに話し掛けてきた。

 

「失礼、乗車定員オーバーでありませんかな? この車は後ろに4人は乗れないんじゃないかな?」

 

警察官と思しき男が話し掛けてきたのは‥定員オーバー? 言われてみれば確かに後部座席は3人掛の様子。ふと運転手に目をやると彼は前席中央を指差している…!? 成る程‥。

 

「ファビアン! 君は前席中央に座りたまえ。この車は前後3名ずつの6人乗りタイプのようだ。そういうことですので‥」

 

一瞬焦ったが、問題無く切り抜けら

れることに気づいたシャアはファビアンに前席へ乗り込むよう指示し、男に向き直り了解を求めるジェスチャーをした。

 

「…そのようですな。ところで失礼だが、身なりからすると旅行者ですか? 念のため一応パスポートの確認をしたいがよろしいかな? 」

 

「構いません…私はこういう者です。妻と義妹にその友人夫妻です」

 

パスポートはシャアとソフィア、ファビアンとレナの両夫妻とミハルはソフィアの妹という設定である。

 

「失礼、パスポートを拝見する。ほう‥ローラン・ビランクさん…奇偶ですな? 私も同名でしてな、パリ市警ローラン・ボッシュ警部です。いや、お手間を取らせて大変失礼しました! パリの夜をお楽しみください」

 

ボッシュ警部は満面の笑顔で一行に挨拶すると去って行った。

 

 

 

 

「一瞬ドキッとしましたよ! いきなり警官が現れたのは驚きました! ‥どうしました大佐? 」

 

突然現れた警官に焦っていたファビアンが緊張から解放されて息を吐きながらシャアを見ると顎に手をやり考え込む様子に問い掛ける。女性三人もその様子に注視しているように見える。

 

――驚かすんじゃない!‥ドキドキしたではないか! いかん、皆から注目されている… ――

 

「あ、いや‥先程から感じていた気配が彼だったのかと思ったのだ。タイミング良く現れたのと、そもそもパリ市警があれほど仕事熱心か?…とな 」

 

「そうですね、入国手続きの時から私も視線を感じていたのですが‥大佐もでしたか。流石はニュータイプ(かも)ですね」

 

「二人が揃って何者かの気配を…。監視の目があるという事ですね? 」

 

驚いたことにソフィアが何者からの監視の気配を口にした!? 続いてミハルも顔色を曇らせる。

 

「…そ、そうかもしれない‥が、いきなり拘束するつもりはなさそうだ。警戒は怠れないが… 」

 

シャアは咄嗟に口にした『監視者の存在』があまりにそれっぽく全員を納得させたことに気まずさを感じつつも、ソフィアが言った入国時からの気配に実はシャア自身は全く気づいていないというのは内緒にしたいのであった…

 

――まあ、そういうことにしておこう――

 

 

 

 

 

 

暫くの後、一行はパリ上空にいる。地球の大気中で小型プロペラ機に揺られ飛行するのは全員初体験である。これにはMSパイロットの3名も勝手が違う様子である。

 

「ゆ、揺れて‥ひぁっ! 落ち? おおぅ! 」

「揺れてるというか、ふわふわと浮揚感が‥おぅ!? 」

「大気中でさらには気流の影響も受けるからな。宇宙とは‥たしかに小型の機体は揺れるな」

 

「凱旋門があんに小さく…! あれは‥ベルサイユ宮殿かしら? ねえソフィア! あれはなにかしら? 」

「揺れてるが‥大丈夫か?」

ミハルは機体の揺れなど気にする様子もなく下界に散らばる歴史的建造物に夢中ではしゃぐ有り様である。横に座るソフィアはその様子に少々戸惑いを感じた。

――月での静養が良かったのであろうか?――

月の重力は約0.17G……身体への負担が小さいと言える。しかし、ソフィアの戸惑いは別にあった…

――ミハルの病気、いや‥病気だったのかも思い出せない――

 

そう思案に耽る彼女にミハルは憂いの微笑み交じりに答えた。

 

「‥快調だ。運動不足が気になるところだがな」

 

 

 

すっかり夜の帳が落ちた頃

一行は本日の締めとムーランルージュにてナイトショー観劇している。ミハルの左右にはシャアとソフィアが座る。ミハルは視線を向けずにシャアへと話し掛けてきた。

 

「シャア大佐‥此度の働きご苦労でした」

 

「!? ‥いえ、まだ道半ばです」

 

「わかっています。だが、皆はアクシズから遠路疲れておるだろう。明日は皆を労いたい‥頼む」

 

「頼むなどと、ジオンの暫定当主の貴女らしくない…ミハル様の仰せのままにされるがいい」

 

「そうか、明日の段取りはソフィアに任せるとして…監視の目が気になりますね? 」

 

「それに関しては私にお任せいただきましょう」

 

二人は視線を合わさず会話を終えた。

 

その後、一行は今夜の宿泊先であるパリ有数のホテル『プニンシュラ』へやってきた。白い外観はオスマン様式とネオクラシック様式が融合したクラシカル&ゴージャスな一流ホテルである。パリ中心街に建つロケーションは市内観光やショッピングにと女性には大層な人気があるそうだ。

 

「うわぁ‥凄いホテルですね! 」

「アタシも初めてだよ…こんな高級ホテル」

 

唯一の庶民であるファビアンが第一声感想を叫ぶと、何故か続いてレナも圧倒され溢す。

 

「えっ? レナ中尉の家って名家じゃ? 」

「おい! うちはマツナガ家程に名家じゃないっての! 」

レナの実家『オオトリ家』はマツナガ家の遠縁というだけで、レナ自身も御令嬢と呼ぶには程遠く‥ほぼ庶民なのだ。

そんな二人を他所にシャアは女性二人を両にホテルのロビーを進んで行く、どんどん奥へ進んで行く…?

レストランに入る三人を追う二人は察した…!

 

「そうか! 腹減りましたよね! 」

「そういや‥おなかペコペコだ! 」

 

遊覧飛行の後、ムーランルージュでディナーショー…は時間の都合で叶わず、ナイトショーだったので全員食事抜きで深夜になろうという時間なのだ。シャアがチェックインもせずにレストランへ一直線だったのはこのため…その端正な顔には出さないが空腹に堪えかねていたのだろう。

 

「お腹空かせてレストランまっしぐらの大佐…可愛い♪ 」

「赤い彗星も人の子ということですか……あ‥あれ? 」

 

レナとファビアンの二人はシャアが腹ペコの猫のように進む様を何処か微笑ましく追っていると異変に気づいて絶句する…!?

なんと…盛装のシャア大佐はドレスアップした美女二人を伴いホテル従業員の制止を払いのけ厨房へ侵入したのだ!

 

「た、大佐がご乱心…!! 」

 

「何をしている! ついてこい! 」

 

訳がわからず立ち竦み、時代劇のセリフのような嘆きを叫ぶレナにシャアはサングラス越しに睨みながら早く来いと叫んだ! その姿は乱心などではなく真剣そのもの…まさに戦場に於ける『赤い彗星』そのままだ!

漸く只らなぬ事態に気づいた二人は後を追い厨房へと突入していった。

 

厨房内はディナータイムが終わった直後の洗い物や片付け作業に加え、デザートを運ぶ者達が殺気立ち…まさに戦場であったという。

 

 

 

 

「ふ、こんなものだろう…」

 

厨房を突っ切り通用口からホテル裏の路地づたいに駆け抜けた暗い路地裏でシャアは立ち止まり一息つく。振り返り辺りを見回す…追っ手の気配は無いようだ。

 

「流石はシャア大佐ですこと…ダーティな立ち振舞いも馴れている」

「私も映画のワンシーンを彷彿してドキドキしましたわ! 」

 

ソフィアとミハルは予め知っていたのか驚くどころか楽しんでいたとも受け取れる様子である。ソフィアが言ったようにシャアは戦前に南米での工作活動経験から裏社会にも精通している。そして何よりも‥戦場の如く喧騒の厨房を走り抜けたにも関わらず、その身には汚れひとつ付いてはいなかった!

 

「ハアハア‥ソフィ知ってたんなら教えて…なっ!?なんだそりゃ? 」

 

予期せぬ行動に息を高めたレナがソフィアに不満気に抗議の言葉と視線を…そこにはちゃっかり厨房で用意されていたデザートのフルーツ盛合せを器ごとを片手にパクつく彼女に唖然となった。

そしてそんなソフィアの図太さを見てシャアは戦慄を抱かずにはいられなかったのは内緒の話。

 

 

「私は宿を手配してくる。皆はこの場で待っていろ。」

 

気を取り直してシャアは通りに出て宿を探すことにした。一人で行くのはけして落ち込んでいるのではなく、目立たないように…真っ白なスーツ姿にサングラスではそうもいかないだろが…

 

通りに出るとすぐに案内所があり、彼は掲示された宿に目を通した……が、時間が遅いためだろう。生憎、どのホテルもシングル1室くらいしか空いてない。

 

「……これは困った。ご婦人方だけでもなんとかしないと」

「にいさん…宿を探しているのかい? 」

不意に後ろから掛けられた声に振り向くと、キャスケットを被った赤ら顔の客引きだった。

 

─────────────────

 

 

───────────

 

 

─────

 

 

客引きの男に案内されたホテルは表通りから一本裏に入った所に建つこじんまりとした安宿だ。安宿というのはあくまで最初の予定した高級ホテルから見ればで、所謂ところのビジネスホテルといった佇まいである。

 

「いらっしいませ! あら…軍人さん? 」

 

男と一緒にホテルに入ると開口一番におかみさんが聞いてきた。長年の経験からであろうが、これにはシャアだけでなく全員が息を飲んだ。

 

「除隊して大分経ちますが‥よくわかりましたね?」

 

「やっぱり! 商売がら暫く戦地帰りの軍人さんがご利用下さいましたのよ。あ、すぐにお食事のご用意いたしますね」

 

思い出したようにパンッと手を叩いておかみさんは食事の用意に取り掛かった。しばらくしてテーブルへやってきたおかみさんは食前酒のオーダーを伺い聞いてきた。

 

「ワインはいかがですか? ご主人‥ムッシュ・ビランク」

「いただこう…! 何が良いかな? ‥君たちは? 」

建前上はシャアがリーダーであるが、ここはやはり妻役のソフィアを通して義妹役のミハルに伺いをたてるのは当然の配慮である。

「そうね、フランスですし…ボルドーかブルゴーニュあたりの銘柄でよろしいのでは? ミハルはどうかしら? 」

シャアの思惑を察したのであろうソフィアがミハルへ振った。

「貴女達! 好きなワインをオーダーしなさい! 」

 

ところが当のミハル様はあろうことかレナとファビアンにワインの銘柄を選べと…!

まさか自分達にパスが来るとは思わなかったファビアンは面食らってしまう。そもそも二人はワインの銘柄など知らない…ファビアンはレナを見るが、彼女も動揺している様子である。彼は恐る恐る…

 

「あ‥僕はワイン…」

突然レナがハッと顔を上げ声に出して遮った!

 

「ワイン… シュタインベルガーとか…? ありますか?」

 

レナの口から出た銘柄にファビアンを除くその場の全員の顔色が変わった……勿論、おかみさんも含める。

 

「フランスでドイツワインをオーダーするなんて…なんと命知らず……あら? 」

 

おかみさんは小声でなにやら呟いたが、すぐに何か思い出した様子で小首を傾げた。

 

「マダム‥連れが失礼した。無ければ他の銘柄で… 」

 

レナのオーダーに誇り高きフランスマダムが怒りに震えたと勘違いしたシャアはこめかみに冷汗を垂らしながらフォローしようとしたが…様子が違うようだ…?

 

「以前これと同じセリフを……! 思い出したわ! そうよ! 」

 

探し物を見つけたらしきアクションでメニューをバンッと叩くおかみさんに一同釘付けになり何事かと…?

 

シュタインベルガー(石の山)で思い出したわ。以前…お泊まりになった方が戦友を偲んで飲まれたのを思い出したんですの! 」

 

「戦友…では先の戦争で? 」

 

シャアの問いにおかみさんは答える。

 

「ええ、先程お話ししたように戦争からの帰還兵が大勢ご利用下さいましたが、その方は戦後暫くして来られました」

 

おかみさんの話によると、その男は帰還兵も疎らになったUC0080の初夏に訪れた。安宿ということもあり、客の中心は下士官・兵が多かったのだが、その男は振舞いから将校‥何処と無く品があり…連れの男とともに指揮官クラスであろうと感じたそうだ。二人ともになかなかのいい男で連れは金髪の白人、その男は東洋系の黒髪であったという。

 

「そっ、その人の名前は! 」

 

話を聞いていたレナが乗り出しておかみさんに問い詰めるように男の名を求めた…!

 

「御名前までは‥1年以上前ですし…! 確かお連れの方から『シン大尉』と呼ばれてたわ! 」

 

「シン大尉!! ……」

 

 

――― ま・さ・か・―――

 

 

レナの全身は震えに耐えきれず膝をついたのだった。

 

 

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