機動戦士ガンダム K.D.A.   作:apride

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アクシズへの道

2週間が経った。

 

ソフィア(キシリア)は傷も癒え、病室から士官部屋へ移ることになった。

 

「やはり… 狭いものだな。しかも二人部屋なのか? 貴賓室のトイレのほうが広い…… 」

 

キシリアは初めて目にした部屋の狭さに驚いた。二段ベッドの横に僅かな空間があり、壁には収納式のデスクがある程度でプライベート空間とは言い難い。

 

「VIPのトイレより狭いってか? まるで見てきたような言い種だな? 」

 

掛けられた声に振り向くと、黒髪の女性士官が呆れ顔で立っている。

 

「…同室の方かしら? 」

 

「レナ・オオトリだ。よろしく‥キシリア少将のとこにいたんだって? 」

 

「そうだ、元パープルウィドウ乗員のソフィア・メルクロワだ。よろしく頼む‥ 」

 

同室のレナは同じ年齢のMSパイロットの少尉だそうだ。部屋については、このグワジン級戦艦は士官部屋は個室なのだが‥ザビ家関係の侍従や高級将校が乗り込んだために個室が不足したそうだ。私達は下士官用の二人部屋を宛がわれたという訳だ。

 

「それにしても‥キシリア少将もエグい死に様だったらしいな? 顔面破壊とはね… あんた見たんだろ? 」

 

「えっ! 顔面破壊… 見てない(私はそんな死に方だったのか)」

 

バズーカの直撃を受けたザンジバルだが、その特徴的な船体形状からブリッジは堅牢な造りである。大気圏突入を考慮した耐熱性や戦闘での防弾・防爆に優れている。それらにより、バズーカの直撃弾はガラスを損傷させる程度に抑えられた。しかし、不運なことに砕け跳んだ拳大のガラス塊がキシリアの顔面に直撃したのだった… トレードマークの白いヘルメットには傷ひとつなかったそうな。

 

 

「顔を潰されるなんてね… 女の死に方としては残酷だよ。流石にあたしもキシリア少将が可哀想だと思ったよ。あんたも顔の傷‥綺麗に治るといいね」

 

「うん…ありがと。レナ」

 

自分の死に対して哀れみを言葉にしたレナにキシリアは…少し驚き‥少し嬉しく思った。自分が死んでも罵詈雑言を浴びせられるだろうとしか考えていなかったのに…

 

「キシリア少将も生前は生け簀かないクソババ様だと思ったけど、死んじまうと不思議と好い人だった気がするんだから… やっぱ、人は死して仏になると云うのも満更嘘でなさそうだ」

 

「死んだらホトケになる? ホトケとはなんだ? 」

 

キシリアはレナが言った『ホトケ』と言う単語が理解できず聞いた。死んだら善人に変わるという考え方も意味不明である。

 

「仏か? うん‥ 古来、日本は仏教の影響下にあったんだ。その教えによると人は死ぬと仏になると… ま、キリスト教の『天使』みたいなもんかな? 」

 

「天使とは…大仰だな。性善説に基く死生観がそのような考え方になるのかのう? 随分と寛容なものだな…」

 

キシリアは自分の知識にある仏とは仏教における最高位の聖者『仏陀』を指す筈?天使とは全く異なる存在であろう?と疑問を感じながらも… レナが云わんとすることはもっと市井の考え方なのだろうと… レナの間違いは寛容な心でスルーするのだった。

 

「寛容といえば、こんな言葉もあるぜ! 『死して屍拾うもの無し』」

 

レナは得意気に言い放った………

 

「……それは『死んでも誰も弔いません』と云う死地へ送り出す意味じゃ? 何処の戦陣訓だ! 」

 

「あ‥ 『罪を憎んで人を憎まず』だ! ごめん… 日本語は難しいからな! ハハハ ソフィアって日本語解るんだ? すげーな! 」

 

「え!? …いや、なんとなく」

 

無意識にぼろを出すキシリア… 一介の士官が難解な日本語を理解するのは不自然だ。相手が少々お馬鹿そうなレナであったことは幸いだった。

 

 

 

 

「罪を憎んで人を憎まずか…… 」

 

 

 

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──────

 

 

ソフィア(キシリア)はマ・クベ大佐に呼び出されていた。大佐の執務室にやってきたのだが… 少し席を外しているそうで、室内で待つようにと副官のウラガン中尉に案内された。

 

「ふん、私の部屋と大違いだ。おまけに趣味の骨董品まで並べおってからに…… 相変わらず爺くさい趣味の部屋だ! …これは? 」

 

執務机の後ろに一際丁重に扱われて鎮座する青い壺に目が…… 思わず手を伸ばす…

 

 

「それに触るな!! 」

 

 

後ろから怒鳴られビクッとした!

いつの間にかマ・クベが怖い顔で立っていた。

 

「ソフィア・メルクロワ少尉掛けたまえ… 」

 

マ・クベは強ばらせていた表情を戻し、ソフィアに着席を促す。

 

「失礼いたしました大佐。…その壺は」

 

「お前のような小娘でも良さがわかるのか? …まさかな。それはキシリア閣下から賜った品なのだ」

 

「キシリア閣下から… (どうりで見覚えがあると‥)」

 

「南宋時代の耀州窯の… 国宝級の貴重な品である」

 

「…(おお、確かそんな大層な口上を交えてくれてやったな。泣いて喜ぶものだから…)」

 

「この話には裏話があってな…フフフ。聞くか? 」

 

「…是非!(気づいてたか! なかなか悪よの…)」

 

・・・・・

 

・・・

 

・・

 

「キシリア様、地球は如何で御座いましたか? 」

 

「行程に余裕が有ったので中国へ足を伸ばしてきた。お前に土産だ… 南宋時代耀州窯の産であるぞ! 」

 

キシリアは取り出した壺を無造作にテーブルの上に乗せた。

 

「こ、これは! 青磁の壺ではありませんか! このような貴重な品を… 乱暴に扱いなされて! 」

 

マ・クベは青磁の壺を素手に持ち、無造作にテーブルに乗せたキシリアの行動に驚いた。彼にしてみれば超がつくお宝の品を素手で持つだけでなく、直にテーブルに置く行為はお宝に対する冒涜で相手がキシリアでなければぶん殴る程の怒りを抑えることに気絶しそうであった。

 

「そう興奮するでない。私にとって壺は壺でしかない… 本来の使用目的程度にしか価値を見いだせん。だからお前にやると申しておる。受け取れ! 」

 

そう言うとキシリアは片手で壺をスイーとテーブル上をマ・クベの方へと滑らすように差し出した。

 

「アヒィー!! 危ないっ!! 」

 

キシリアの行動に慌てふためくマ・クベの姿に腹を抱えて嗤いたい衝動を抑え…

 

「お前なら大事にするだろう… と思うたのでな? 気に入ったようでなにより! 」

 

 

 

 

マ・クベが帰った後で思い出し、一人笑いこけるキシリアだった。

腹を抱えて笑いこける姿は流石に見せられないからだが、その意味を知るのは彼女だけなのだ。

 

 

 

・・・

 

・・・・

 

 

「そんな裏話が有ったのですね! そうですか‥キシリア様から…プッ 」

 

「裏話はこれからだ」

 

 

 

「へ?」

 

 

「私も馬鹿ではない… いくらキシリア様でもあれほどの高価な品を乱暴に扱いはされまい? と、また私をからかうおつもりであろうと演技をしてお付きあい致したのだよ」

 

「む、演技とな(ちっ、気づいてたか)」

 

「大方、露店に並んでいた模造品であろうと…… こっそり鑑定士に見せた……… 」

 

「キシリア様もマ・クベ大佐もなかなか… 当然、鑑定結果は?(万里の長城を見たついでに、側の土産屋でなく‥小汚い爺様の露店で二束三文で買ったのバレバレ! )」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「本物だった」

 

 

 

「そう本物‥ えっ!! 」

 

 

 

「紛うことなき本物の‥南宋時代耀州窯産の青磁壺であったのだ! 」

 

露店で買った汚い壺が国宝級の品だったとベタな展開にキシリアは驚愕した……

 

 

「私は主君を疑った自分を恥じた… そして、そのような品をまるで…温泉土産の饅頭の如く惜し気もなく下さったキシリア様の器の大きさに感服いたした! 」

 

「……(知ってたらやらんわ!)」

 

 

 

「それ以来、私はキシリア様の一の騎士! あの御方とならば地獄の底までもお供致す所存であった! ……キシリア様」

 

「‥!? マ・クベ……大佐」

 

ソフィア(キシリア)はマ・クベの横顔に一筋光るものを見た…

 

 

「…いかんな。話が随分と逸れた… この話は誰にも漏らすで無いぞ! それで‥本題であるが、貴様にはミネバ様のお世話を任せようと思う。経歴を確認したのだが、教育学部に籍を置いておったのだな? 」

 

「そう… でした? はい、そうです!」

 

「おかしな間があるが? 任せて大丈夫であるな? 」

 

「はっ! しかと承け給りました! 」

 

 

 

斯くして、ソフィア(キシリア)は姪ミネバの世話係の役割を与えられた。

 

 

前途多難なアクシズへの道はまだ始まったばかりである。

 

 

 

 

 

 

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──────

 

 

「私としたことが…… 何故あのような話を? あの小娘に惹かれているのか? 馬鹿馬鹿しい! 」

 

マ・クベは独り執務室で青磁の壺を見つめ自問自答に耽る。…亡き主君を思い浮かべているのだろうか?

 

 

 

 

 

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