退屈な時間を過ごす話ではありますが…
ミネバ様御付きとなった初日が終わろうとしていた。
御勤めを終え、自室に戻ったソフィア(キシリア)は二段ベッドの下段に突っ伏した。上段はルームメイトのレナ少尉の場所であるのだが、ソフィアが来る前に一人で使用していた時から上段だそうだ… わざわざ梯子で登り降りする方を? やはりパイロットという人種は高い所が好きなのだろうか… 煙と何とかも高い所が…
「煙と‥何だったか? まあよい、疲れた……。まさか姪の育児をすることになるとは夢にも思わなんだ……。私はキシリア・ザビだぞ? ‥『だった』だな」
暫くするとドアの開く音がした… (自動スライドだから、音というより空気の流れに近いかな? )
「お、早いな? て‥死んでんじゃね? ソフィー? 」
「そう
心配そうに声をかけてきたレナにソフィアは起き上がり軽く悪態をついてみせた。
「ああ? プッ! ププッ! なんだそりゃ? ミネバ様
起き上がって振り向いたソフィアの身なりを見たレナが一瞬目を丸くして… 吹き出して指差し笑う。
疲れて着替えもせずにベッドに寝ていたのだが、ミネバ様の世話をする服を着たままだった。…しかも、胸辺りにはヨダレの跡がべったりである。
「ふん、ミネバ様親衛隊か… 上手いこと言うな? レナも入隊すると良い。口添えしてやろう! 」
ザビ家直轄の艦艇乗員であるソフィアとレナは親衛隊に近い存在だ。身元は当然のこと、忠誠度も考慮した選抜が為されての採用なのだ。実はこの二人‥ソフィアのメルクロワ家はサハリン家と親戚関係にあり、レナのオオトリ家はマツナガ家の遠縁にあたる。
「いやぁ、あたしは無理だわ! パンダさんのアップリケは‥アハハ。どっから見ても幼児番組のおねえさんだぞ? 似合いすぎててウケる(笑)」
レナが言うように、ソフィアの金髪・青い瞳にやや幼さが残る整った容姿は幼児の目でなくとも『優しそうでキレイなおねえさん』に映るのである… その正体は大の男も小便漏らす【紫の女帝キシリア・ザビ】であるが。
「レナだって東洋人特有の可愛さはジャパニーズ・スクールユニフォームを着ると特定嗜好の男が群がりそうだぞ? フフ」
言われっぱなしでは気がすまない性格は変わらないキシリアさんである。
「こらこら! この歳でそんなの着たらAV女優じゃん! ギャハハ! 」
「そうだな! アハハ! (AV? ANIME VIDEOだな)」
アニメ女優のどこが可笑しいのか、レナが馬鹿ウケして笑うので合わせて笑うソフィアであった。
こうしてミネバ様御付きとなった初日は終わる
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明くる日のこと、今日はゼナ様の体調が良いとのことで追い返されてしまった。 …追い返されたは嘘だが、今日はゼナ様が一日ミネバ様とお過ごしになると仰ったそうだ。いきなりお暇を出されて手持無沙汰である…
「暇だ……。ただでさえ任務が無く暇をもて余すのにな…」
因みにアクシズまでは300日程度の行程が予定されている。サイド3とアクシズを結ぶ定期航路に就航する高速連絡船は約180日というから随分と遅く感じる。外宇宙高速航行用に造られた船と軍艦では比べようもないのだが……長い…
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ということで…
レナに連れてこられたのがMS格納庫
「白いモビルスーツ? 」
「あたしの愛機さ! スゲーだろ? 」
レナが自慢気に薄い胸を張る眼前には白を基調としたゲルググが繋留されて立つ。正確にはゲルググJ【MS-14JG】だ。
「…塗装はしないのか? 」
「下塗り状態じゃねぇよ!! 白いパーソナルカラーに塗ったの! 」
「白い塗装は確か… ドズルのとこの『白狼』シン・マツナガの乗機では? 彼はソロモン攻防戦で戦死… 」
「シン伯父貴は消息不明だ! このゲルググはア・バオア・クー要塞内で調整中だったものを引き継いだんだ。‥つか、今さらりとドズル閣下を呼捨てしただろ?! 」
「う、敬称略だ… しかしだ、いくら親族とはいえ‥よく許可が下りたな? この機体は一部のエースにしか貸与されない筈だろ? 」
「フフン、見くびってくれるな! 私とて敵
ジオン公国軍では敵MS5機撃墜でエースの称号が与えられる。この戦争を『1年戦争』と呼ぶが実際には1年に満たない。僅かな期間で5機以上の敵MSを撃墜することは容易くは無いことなのだ。なにしろMS同士の戦闘の機会は戦争中盤以降の期間しかないから、レナの7機というスコアはずば抜けている。
「そういうことか…。その覚悟の程…察するに忍びない」
「覚悟って程の大袈裟なもんじゃないよ。真っ白ってカッケーじゃん! 」
白い塗装の兵器はあまり多くは存在しない。理由は明快だ…目立つからだ。
地球連邦のガンダムが白ではないかという声があるかもだが、あれは
では、同じく連邦軍のジムも白地に赤と… ま、なんらかの
「しかし…白は目立つから狙い撃ちされないか? 相当の覚悟がいるぞ」
「うっ… それは… まあ、いいじゃん! でさ、お願いがあるんだけど? 」
白が目立つからヤバいと気付いてなかったぽい…
宇宙で白い機体を積極的に採用するのは民間機や公的機関の所謂『平和的利用』目的が主だ。漆黒の空間で目立つのと強烈な太陽光を反射する白色は安全面で有効と言える。
軍用機は平時ならいざ知らず… 有視界戦闘が主体のご時世で目立つ白とは命知らずなことで‥
「なんだ? 」
「格好良い名前考えてくんない? ソフィーは色々な言葉に詳しそうだしさ? 『赤い彗星』みたいな感じで! 」
「じゃ、白い彗星」
「そうそう!そんな感じ! あたしのマシンは白いFC3S! 赤城の峠をロータリーサウンドを響かせ…ちゃうわっ!! 」
なんの捻りも無く出したネームは即脚下されたが、理由がシャア大佐と被るからで無いような? FC3Sとは聞きなれない型式だが、新手のモビルスーツか?
彗星がだめなら…『白狼』から‥狼‥の親族…ならば
「白…… 白いポメラニアン?」
「ケンカ売ってんのか? 愛玩動物じゃねーか! 」
正直なところソフィアは困っていた。白いモビルスーツにつける名前が… 『白狼』から狼の近縁種の犬ではどうかと考えてみるが… レナの風貌からは愛玩犬しか連想できないのだ! パピヨン・チワワ・シーズーなどでは弱そうだ… パグ? お笑い芸人みたいだ…
「レナ… すまないがこの話は暫く時間をくれ。命名とはとても大事なことだからな。一度付けると変更は利かんから慎重に考えるよ! 」
「確かにその通りだな? わかった! よおぉーく考えて、あたしにぴったりな豪華絢爛で支離滅裂なヤツを頼むよ! アハハハ! 」
「あ‥ああ、任せておけ…… 」
贅沢できらびやかで…滅茶苦茶なヤツ? ある意味レナらしいとソフィアは戸惑いながらも納得して頷いた。
先送りにするというポンコツ政治家のような対応でこの場を切り抜けたが……
「アクシズに着くまでに何か浮かぶだろ… 白兎‥白鯨‥白熊‥うーん 」
ミネバといい‥レナといい‥
「私は貴様たちのお母さんじゃない! …私はキシリア… 忘れよう」
実は頭を強打したショックで自分がキシリア・ザビだと思い込んでいるだけなんじゃ? …と、自らの記憶に疑いを感じずにはいられないソフィア(キシリア)…
アクシズへ道程はまだ長い……