発進ベイに繋留されているザンジバル級巡洋艦を見下ろすソフィア……
「またこれに乗るのか…… 」
〔ザンジバル級機動巡洋艦 高速改造艦 インゴルシュタット〕
10カ月程要する地球圏へ大幅に短縮すべく改造された特務艦。月に隠れ住むミハル・ザビを迎えるべく、予定では160日程度で地球圏へ到達する。
乗組員名簿に目をやる……
司令官 マ・クベ少将
艦長 シャア・アズナブル大佐
親衛隊士官 ソフィア・メルクロワ中尉
MS隊 アンディ・デニス中尉
MS隊 レナ・オオトリ中尉
MS隊 ファビアン・フリシュクネヒト曹長
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その他総勢60名
あの時‥ザンジバルのブリッジでキシリアは命を落とした。引き金を引いたのはシャア・アズナブルことキャスバル・レム・ダイクン。ソフィアの脳裏には目の前に迫る砲弾……幾度もフラッシュバックする記憶。キシリアだった時の記憶はそこで終わっている。
「……よそう。私はソフィア・メルクロワだ」
「浮かない顔だな? 」
「シャア!?…大佐」
声に振り返ると赤い軍服にサングラス姿のシャアが立っていた。声で判るのだが、咄嗟に『シャア』と呼んでしまう…
「相変わらず一瞬間があるのだな? 何故かな?」
「いつもの癖だよねぇ? ソフィはこんな顔してて毒舌なんですよぉ! シャア大佐のことだけじゃなくて、裏じゃ上官みんな呼びすてですから! 『敬称略だ!』ってね! 」
一瞬張り詰めるかと思ったところへ割って入ってきたのはレナだった!
「や、やめてよ! なに暴露してんのよぉ!! 」
「大佐! 外見に騙されちゃダメです! ソフィの中身は図太い神経のオバサン‥オヂサンかな? アハハハ! 」
「…そ、そうなのか? 意外だなぁ? ハハ‥」
能天気にケラケラ笑うレナに圧されてシャアはぎこちなく口許を歪ませて笑う…
「嫌だぁ~シャア大佐が作り笑顔って似合いませんよ? (レナに助けられたな‥)」
「それより! これ見てくださいよ! 」
ぎこちなく口許を歪ませているシャアの前にレナが差し出した1枚の画用紙にはイラストが描かれている。
「これは白狼‥いや、鷲か! なるほど‥シン大尉の狼の紋章を鷲にアレンジしたのか!? 」
イラスト画を受け取り図柄を見たシャアは一目でそれが元々は『白狼』の紋章であることが判る。
元は狼だった部分をそっくり鷲に入れ替えただけなのだが、あまり違和感が無い。レナにとっては尊敬するシンの紋章とそっくりなのが気に入った様子だ。
「どれどれ? うぅぅむ…なるほど!? 白狼を真似た称号なのだから紋章も真似るのも道理か! ‥ところで、これはレナが描いたのか? ‥ん? 」
シャアの手から『ひょい』とさも当然のようにイラスト画を取りあげて感慨深げにソフィアは唸りながらレナに問うのだが…… 今のソフィアの行動があまりにも自然過ぎてシャアとレナの二人は呆気に取られて固まっていた。 …次の瞬間に気づいたソフィアも同様に固まり、場の空気は凍りつく…と、その時?
「アハハハ! レナ中尉から聞いてた通りの女性ですね! まるでどこかの姫君のような振舞いですね~」
レナの後ろからイケメン君が大笑いして登場したことで、凍りつきかけた時間が動いた。
「しっ、失礼しましたっ!申し訳ありませんシャア大佐! 」
「す、すみません! 大佐! 」
平謝りするソフィアの横で何故か一緒になって謝るレナ…
「あ‥。気をつけたまえ… ソフィア中尉。……それにしても、君は不思議な女性だな‥ハハハ」
――――その頃、アクシズに近い小惑星帯には連邦軍艦隊が接近していたのだった――――
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◆◆◆数日前◆◆◆
《連邦軍機動艦隊》
「ジオン残党の拠点まであと数日だな。敵情視察の名目が総力戦になるかもしれん… モビルスーツ及び武装の整備は万端にな! 」
「司令! 緊急事態です! 」
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ジオン側の破壊工作により、連邦艦隊のナビゲーションプログラムがクラッシュしたのだ。これにより、連邦艦隊は補給可能域まで退くことが事実上不可能になった! 罠に架かった連邦艦隊は否応なしに『背水の陣』の如くアクシズへと猛攻せざるを得なくなった!
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「ほう‥ファビアンがこれを描いたのか」
如何にも…捻りの無い絵柄だ。どこから用意したのか色鉛筆で塗ってある。…宇宙世紀に鉛筆?
「そうそう! ファービィは絵書くの上手いんだよ! 紋章の図柄を相談したらさぁ、紙にサラッと白狼の紋章描いて、消しゴムでちょちょいとやって鉛筆で鷲に変身させたんだよー! 3分クッキングだぜ! 笑っちゃったよ!アハハハ!」
「いやぁ、絵という程じゃ‥落書きですよ? それよりもファービィはよしてくださいよ~! マスコットキャラみたいだ!アハハハ!」
イケメンお絵描き青年はファビアン・フリシュクネヒト曹長と名乗った。レナと同じく【ゲルググJ】の僚機パイロットで腕前もかなりのものらしい。彼も実戦は戦争末期の僅かなものなのだが、シミュレーターや模擬戦での成績は優秀でレナも僚機として信頼するに値するという。既に公私に於いてこの青年のことがすっかりお気に入りなようだ。
「善は急げだ! 行くぞファービィ! 」
「そういうことですので失礼します! 待ってくださいよぉーレナ中尉!」
二人はイラスト画を手に早速機体にペイントすべく格納庫へと慌ただしく消えて行った。
「私も行くとしよう…」
「大佐もモビルスーツ格納庫へですか? 」
「私のゲルググは改修したばかりでな‥ 積み込み前に最終チェックをするのだよ」
そう言って去って行くシャアの後ろ姿へ
「また赤いゲルググですか? 」
「勿論だよ」
シャアは白い歯を光らせ微笑んだ…
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「にやけおって‥アホか? しかし、相変わらず目立ちたがりな男だ。赤などと……もうひとりいたな? 同じく金髪で…? まあ‥どうでも良いわ」
パーソナルカラーの機体に乗るのは戦闘馬鹿‥失礼。
キシリアには『強力な手駒』との認識しかない。さほど関心がないので機体とパイロット名が一致しないことも日常茶飯事…。彼女が覚えているのは『赤い彗星のシャア』『白狼シン・マツナガ』そして因縁あるラル家の『青い巨星ランバ・ラル』の3つだけだった……
「赤白青…揃いも揃って… 」
多分、嫌いなのだ……
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ドック内に警報が鳴り響いた!
「これは‥何事か? 」
ソフィアは近くにいた技術将校に問い掛けた。警報が鳴り響いているというのに、一向に放送が無いのでは事態が判らないのだ。
「そ、それが‥こんなことは初めてで……もしかしたら誤報かも…」
「誤報かもとは…呑気なものだな? 指令室へ確認する! 内線はどこだ?!」
「こっ、こちらです!! 」
ソフィアに気圧された技術
「残念ながら誤報ではなかったな! 連邦がこのアクシズへ襲来するとはな…それなりの規模の艦隊であろう」
ここアクシズは火星公転軌道の更に外側に位置する。地球圏からは通常の戦闘艦では補給の問題があり、補給艦数隻を擁する大艦隊を編成する必要がある。戦後処理もまだの現状では火星周辺域は旧ジオン勢力下にあり、連邦艦隊が補給を受けられる拠点は存在しない。
襲来する艦隊規模は大方の予想がつく……
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『敵襲だっ!! 総員戦闘配置につけ!! 』
「ユベール! 私のゲルググは出せるか? 」
「ダメです!推進剤がありません! ‥ゼロ・ジ・アールなら整備済みですから、少し時間をいただけたら出れますよ? 」
「…やむを得ん!頼む! アンディ!リカルド!そっちはどうだ? 」
シャアが振り向く先には、戦時中からの部下であるアンディ・デニス中尉とリカルド・ヴェガ中尉が出撃準備を終えていた。
「出撃準備完了です大佐! 」
「私達も出撃準備オッケーです! 」
二人の後ろにはレナ中尉とファビアン曹長が既にノーマルスーツ姿だ。
「ハマーンが先走って出ている! 追いかけてくれ! 私も直ぐに後を追う」
ハマーン・カーン‥マハラジャ提督の次女でニュータイプだ。NT専用機シュネー・ヴァイスに乗り込み出撃したようだ。キシリアとは少なからず因縁のある少女…
「ユベール!まだか? 」
「5分下さい! その間にノーマルスーツをご着用下さい大佐」
「生憎だが‥今回はその時間が無い。必ず無事に帰還する!」
「了解です!シャア大佐!」
あっさり了解するユベールさんである…
「お待ちなさい!」
「「 !? 」」
声に振り返る二人の前に赤色のノーマルスーツを抱えたソフィアが居た。
「いけません大佐! 万が一ということもあります!」
「…そうだな。ソフィアの言うとおり着よう」
素直にノーマルスーツを着込むシャアを横目で見るユベールからはなんとなくだが、侮蔑の視線が…なんとなくだが…
『シャア・アズナブル! ゼロ・ジ・アール!! 出る!!』
見送るソフィアとユベール
「ソフィア中尉の言うことは素直に聞くんですね‥シャア大佐」
「気にするな
シャアにはまだつまらんことで死んでもらっては困るのだ。ソフィアにとって大切な『手駒』なのだから…
作中のアンディ中尉ですが、フルネームがわからなかったので創作です。『アポリー・ベイ』は連邦軍に潜入する際に得た軍籍ですしね?知っている方いたら教えて下さいね。