連邦艦隊襲来により、アクシズ全域に非常警報が鳴り響く! モウサは戒厳令が敷かれ民間人は避難勧告に従いシェルターへ殺到して騒然となっている。
モウサ内にある王宮エリアではミネバ・ザビを護り、侍従と親衛隊が慌ただしく走り回る姿があった。
「カミーラは万が一に備えて脱出の手配を! 」
側近のカミーラ中尉に指示を飛ばすイリーナ中佐は、緊急事態に際してこの場に現れないソフィア中尉が気掛かりだ。
「まさかな…… 」
親衛隊員の経歴は入念に事前調査を行うのだが、ソフィア・メルクロワは…。
軍歴のみならず、その経歴は出自から全て完璧だ。名門サハリン家の傍流ではあるが、血筋は申し分ない為に寧ろ
入隊時の適正訓練では殆どの科目で平均を上回り、特にモビルスーツ操縦の評価はAAAランク判定にも拘わらず体力面で劣ると判定を受け、通信士官としてグワジン級戦艦【グワリブ】に配属される。
狙い澄ましたかのように…常に二三歩引いた絶妙な立ち位置。
――意図して目立たないように?――
ザンジバル級機動巡洋艦【パープルウィドゥ】にはア・バオア・クー防衛戦直前にキシリア少将座乗と同じくして転属している……
―――はたして偶然なのか?―――
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その頃モビルスーツ発進デッキでは……
「ええぃ! 一体どういうことだ! 」
大挙して発進を急ぐモビルスーツ群の渋滞列後方でシャアは憤慨していた。大柄なゼロ・ジ・アールが仇となり、未だ発進することが叶わない赤い彗星である……
「……。シャアともあろうものが渋滞に喘ぐとはな。 飛ばない彗星はただの……ん? 」
見送ったは良いものの、一向に発進しないシャアの姿を見ながら呟くソフィアだが、言いかけた台詞に何故か釈然とせずのみ込んだ。
「それより! 何をモタモタしておるか! つまらんことで期を逃すなど赤い彗星の名が泣くぞシャア!!」
「あのぅ‥大佐を呼び捨てですか? 」
声に気づいたソフィアは……カッ!と振り返り
「非常事態につき敬称略である!!」
「っ!! ………」
20歳そこらの小娘とは思えない迫力に黙るユベール
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――二機のザクを従えて飛翔する
「ハマーン様 後退してください! この先はモビルスーツ交戦域です! 我々は後方からの遠隔攻撃がエンツォ大佐のご命令です! 」
「これだけの数のモビルスーツが交戦しているのよ? 戦闘宙域に突入しなければ戦えない! ついてきて! 」
シュネー・ヴァイスの推進ノズルが閃光を放ち全開加速して行く!
「ハ‥ハマーン様!!」
護衛に付いていたザク二機も慌てて後を追うのだが、FⅡ型とは言えど所詮はザクでは追随は叶わない……
二機の護衛はハマーンを見失った。
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「ビット・キャリアー展開! 」
ビット・キャリアーの外殻が開き8基のビットが放出される。シュネー・ヴァイスのサイコミュコントロールユニットと各基シンクロし姿勢制御が働くことにより正面方向へ俊敏な動作で砲門を向け!? ……2基のビットが沈黙したまま宙を漂っていく!
「えっ!? 3番と8番がシンクロしていない!! 」
ハマーンは出撃を諫めたナタリー中尉の言葉を思い出した。
――『テストも終わっていないのよ! 危険すぎるわ!』――
「もう戦闘は始まっているのよ! たとえ1基になろうともやるわ! 右前方にジム二機! やれるか!?」
「ハマーン様! お待ち下さい!! 」
その時漸く追い付いた護衛のザクがハマーンの左右を護り固めるように飛来した。
ちらりと目を遣り二機のザクが脇を護る姿を確認したハマーンはビットに命令一下!
「やれ! ビット!! 」
ビットの砲門から煌めく長槍が放たれた!! 刹那! ジムは鮮やかな動きでそれを躱す! 光の槍は漆黒の空間に呑み込まれるように虚しく消えていった…
「躱された!? 」
ハマーンはシミュレータを遥かに上回るジムの動きに焦りを感じる。…これが実戦というものなのかと。
ならばと、即座に射撃のタイミングを計り次弾を発射する。
『 ド オ オ ォ ! 』
「直撃! やった! 」
要領を得たハマーンは次々とジムを撃墜して行くのだ。全てのジムを片付け、気づくと護衛のザク二機は撃墜されていた。
ハマーンは孤立した。
この少女は初めての実戦を経験したことで、それまでは漠然とした自身の能力に対する自信が……慢心を帯びた。
「敵の本体…艦隊を叩く!! 」
少女は無謀にも単機で敵艦隊へ殴り込みを掛けるべく突撃して行くのだった。
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その頃、漸く出撃したシャアはノーマルスーツ着用に加えてトレードマークのサングラスを外した姿でゼロ・ジ・アールのコクピットにいた。これ以降彼は出撃に際してはこの姿が定着するのだが、理由は若さゆえの…彼も大人になってきたのだろう。
「アンディ! リカルド! 」
「シャア大佐! お待ちしてました! 」
出遅れ焦るシャアの前に二機のザクが出迎えた。アンディ中尉とリカルド中尉だ。
「レナ中尉とファビアン曹長は何処だ? 」
アンディ中尉の指揮下にいるはずの二機のゲルググが見当たらない。あの二人が容易く撃墜されたとは思えないシャアはアンディ中尉に問いかけた。
「二人にはハマーン様の捜索に先行させました! あの二機の速度にザクではついて行けませんからね」
「そうか、ではアンディは私とハマーン捜索の二機を追う。リカルド隊はアクシズ周辺地域で待機し、こちらに進行してくる敵を水際で食い止めてくれ! 」
「了解しました! お任せください! 」
「では、行くぞアンディ! 」
「了解! 」
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同時刻アクシズ指令室では……
「我が方の損耗率が連邦の3倍を超えました!」
「何だと! どういうことだ!?」
ダリオ小佐の報告に耳を疑うエンツォ大佐!
「帰投した兵によると、ジムの性能が過去のデータを遥かに上回っているそうです! 交戦域がアクシズに接近してきています! 」
逼迫した状況に追い込まれエンツォ大佐は思わず叫ぶ。
「ええぃ! 戦艦を出撃させて一気に殲滅できんのか!? 」
「艦艇発進ベイを開けば狙い撃ちされますよ」
「なっ? なんだお前は!? 」
エンツォ大佐は不意に耳元に囁く声に振り返ると、いつの間に入ってきていたのかソフィア中尉が後ろに居た。
「彼女の言う通りです大佐! それに発進ベイのゲートからモビルスーツに侵入される恐れもあります! 」
モニターから振り向きナタリー中尉もキレかけたエンツォ大佐を止めるべく悲痛な面持ちで訴えた。
「艦隊の砲撃ならまだしも、モビルスーツの接近ごときは戸締りをしておけばよい。赤い彗星が出ておるのだ、外は奴に任せて…いえ、シャア大佐にお任せしましょう!ア・バオア・クーに比べれば敵戦力は微々たる規模です」
エンツォ大佐は横で腕組みし構える小娘が大きく感じ、言われるままに…そして、何故かそれまでの焦燥が退いて行くのだったが……いきなり、語気が普段の小娘に戻り我にかえる。
「も、勿論だ! このアクシズの防備は多少のモビルスーツごときで揺らぐものではないわ! 親衛隊の出る幕でない! 下がっておれ! 」
「いかん! ミネバのことを忘れておったわ! こうしてはおれん! 」
エンツォ大佐に
「なんなのだ! あの小娘! まったくけしからん!」
悪態を吐きながらも、冷静さを取り戻して満更でもないエンツォ・ベルニーニ大佐だった。
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「貰ったぁ! なっ!?なにぃ! 当たらないだと?」
一年戦争を幾度も戦い抜けてきたアンディ中尉の放ったマシンガンの弾丸を華麗な身のこなしでジムは躱した!
後方からその動きを見ていたシャアは気づいた!
「シャア大佐! 一体どういうことですか!? あんな動きをする相手とは闘った事がありません! 」
「だろうな… もし闘ったなら‥恐らく君たちはここに居ないだろう… あの動きはアムロ・レイだよ」
「それ‥って、ニュー‥タイプ… 連邦の」
シャア大佐から告げられたアンディは恐怖した。
【連邦の白い悪魔】と恐れられたガンダム……
―― 勝てない ――
アンディは無意識に思ってしまった。