ある少年は夢を描いた。
男の子がヒーローに憧れたように、女の子がお姫様に憧れたように、彼も無邪気に憧れたものがあった。
物語を俯瞰的に眺める傍観者ではなく、時には主人公として、時には主人公を支える親友として自分の紡いだ物語を見届けたいと。
そんな夢を抱いたまま、月日は経ち高校生となった彼はこう呟いた。
「そうだ、絵本入り込○靴を作ろう」
「いや、夢の見過ぎだよ。21世紀だとしても叶えるのは無理な願いだって」
「叶わないなんて誰が決めつけたんです?
可能性が多少でも残ってるものを無理と決めつけ諦めるのは馬鹿のやることじゃないですか」
少年は科学研究部に所属し放課後の部活動に勤しんでいた。
勤しんでいた、と言っても特段実験をする訳ではなく、少年を半ば強引に入部させた幼馴染で先輩の遊《ゆう》と共に、部室で各々好きなことをするだけであり、部員の追加募集もしなかったため、部員は2人以外誰もいない。
楽しそうな幼馴染に苛立ちを覚えながら、少年は自分が完成させる予定の発明品の設計図を作り始めた。
映画では片方の靴が脱げると、物語の中から脱出出来なくなってしまった。
安全装置をつけるにしても靴なんて、物語の中でいつ脱ぎ履きするかも分からないものを道具にするべきではないだろう。
「そうだねぇ、著作権的にも問題がありそうだし靴を作ってそのまま名前を付けるのもダメだろうね」
いつの間にか真横に移動していた先輩が設計図を見ながらアドバイスを入れる。
「君の考えることは私には簡単に分かってしまうよ。幼馴染だからね」
今度はくっくっと少し抑えたように笑った。
「でも、どうして君はそんな道具を欲しがるのかな?
そんな道具なくたって、君は物語の分岐を好きなように描けるじゃないか」
自分が物語の登場人物として干渉し結末を見届ける。
確かに妄想の中でならいくらでも分岐させ、夢想することが出来る。
非力でも魔王を倒す物語を描くことも出来るだろう。
「でも、それは結局妄想でしかない。
自分の行動によって起こる分岐を想像することが出来ても、それを確かめる術はない。」
だけど、と遊は続ける。
「もし、その想像を現実に変えることが出来たなら?
自分の行いによって物語として死ぬ運命だった人間を助けられるかもしれない。
君は、想像の中にしかなかった夢物語を実証したいんだね。
だから、そんな理想の道具を作ろうとしている」
「…ダラダラとまくし立てないで下さい。
どうせあなたも僕の夢を笑うんですから」
「そうだねぇ、そうかもしれないね。
でも、夢を描くのは自由だ。
それを笑われたからやめるというのなら、それは夢ではなくただの妄想だ。
けど、君は私や他の誰かに笑われても夢を叶えようとするだろう?」
ふふっと笑い、先輩は最後にこう言った。
「そんな夢を持てた君が、私はとても羨ましいよ」
それからさらに十余年。
高校生だった少年は発明家となり、ついに夢を叶える日が来た。
「ついに…ついに出来た!
これが物語バングルだ!」
外れた場合の弱点を克服し、携帯することが出来、自分の理想を叶えた道具を青年は発明した。
見た目はただの腕輪でも、能力はオリジナルと変わらない。
あくまでも理論上での話なので、実際どうなるのかは使ってみなければ分からないけれど。
「ぶっつけ本番だけど、僕の夢はこれで叶えられる。それを証明するんだ」
青年は夢物語を現実にするため、腕輪のスイッチを入れ意気揚々と物語の世界ヘ飛び込んで行った。
昔自分が結末を何度も思い描いた「ゆめにっき」の物語へと。