「…この世界の住人ではないね」
黒いスーツのような体、蒼白とも言える顔面、焦点があってるのか分からない目を僕に向けて彼は穏やかに話す。
窓付きに触れた瞬間、僕は真っ白な宇宙船の中にいた。
扉の部屋に飛ばされることを想定していたため、いきなりここに来るとも思っていなかったし、何より彼が喋ることに度肝を抜かれてしまった。
「…私が話すのがおかしいかい?君達の世界から見れば私たちはただのオブジェクトかもしれない。だが、ここは彼女の夢の世界。話しても不思議はないだろう?」
それもそうだ。
物語の世界でならモブだろうと、キャラクターとして配置されているなら喋ることは不自然じゃない。
だが、それだけだと僕がここにいることの説明がつかない。
そんな考えを読んでいるかのように彼は続ける。
「フィルターと言えばいいのかな。
もしくは、安全装置というのか。
まぁ、何と言うのが適切か知らないが、この世界に異常が確認された。
だから、私の場所へと招待した。
正体不明の存在に土足で心の中を踏み荒らされては困るからね」
「僕は異常なものとして扱われたのですか」
「そりゃそうとも!
本来君は…君たちは作られた箱庭の中を探索しているだけで、こちらに直接的な干渉は出来ないのだから」
彼はピエロのようにオーバーなリアクションを、取った。
だが成る程、決められた世界を、決められたキャラクターで、決められたエンディングに辿り着くという意味では確かにそうなのかもしれない。
そして、その決められた世界に発生したバグが僕になるわけだ。
「…僕を排除しに来たってことでいいんですよね」
「そうだね、そのつもりだったのだが…少し気が変わったよ」
気が変わった?
何を理由に?
「理由は1つ、君の目的が分かったからだ。
君の目的は別の終着点を見付けること。
厳密には見ることなのかもしれないが、この際どちらでもいい。
あくまでこの世界を荒らし回らなければそれでいい」
「…本来のエンディングに辿り着かないという『バグ』は、この世界そのものを壊しかねないのではないですか?
箱庭の中で決められた道筋を最終的には無視することになるのですから」
「そう、無視出来るのならね。
少々汚い言葉で言うなら『やれるものならやってみろ』ということだ」
言いつつ彼は大きな窓に顔を向ける。
窓の外にはプラネタリウムで見たような宇宙空間が広がっている。
「これから君は『彼女』とこの世界を旅するといい。
君の解釈とは違う部分もあるかもしれないが、それでも大筋はきっと同じだろう。
そして君の思うエンディングとやらを目指すといい」
突如として部屋中にサイレンの警告音が鳴り響き、部屋が赤く点滅する。
急な出来事に狼狽える僕に対し彼は特に慌てた様子もなく、ゆっくりこちらに向き直りこう言った。
「また会おう」
僕が覚えていたのはここまでだった。