減音器ってアメリカでも危険すぎて州によって民間人は所有出来ないとかなんとか。
──昔々、あるところに病弱な女の子がおりました。彼女は体が弱いというよりも、強烈な病気が他の病気と合体して彼女の健康を脅かしていたのです。
といっても、それはアタシのことなんだけど。10代半ばに病気を治療できたアタシは、今現在警官として日々職務に励んでいる。そして、この街をそれなりに気に入っていたアタシはギャング対策課に入った。
警官として2年目が過ぎた頃、アタシの治療のために親がヤミ金で多額の借金をしたことを知った。借金の額は利子で膨れ上がっていた。アタシは利子を打ち消す代わりに内部情報の漏洩を命令され、どうしようも無かったアタシは渋々それを受けた。
しかしそれも下っ端では上手くは行かず、結局のところ利子はつき、借金はほとんど減ることがなかった。いっそあの組織を潰してしまえないだろうか。そう大きい組織でもないし、何かいい情報でもあれば全て締め上げることが出来るだろうに。何より裏の借金があることが発覚すれば警官は続けていられなくなる。
そしてまた1年が過ぎた頃、この街の裏社会を揺るがす出来事が起き始めた。
プロダクションは情報統制を徹底しているようで、なかなか尻尾をつかむことが出来なかった。半年かけてわかったことといえば強力な武力を持って居るということだけ。
それも先走った地元者がコテンパンに叩きのめされた挙句に関連組織ごと壊滅状態に追い込まれてシマを乗っ取られたらしい。それを聞いたアタシは、これを利用しない手は無いと、計画を練り始めた。
偽情報を流して組織を先走らせる?無理だ。いくらあいつらがバカでも情報程度で先走ることは無いだろう。ならば、実害が伴ったら?無駄に武闘派な組織だ、きっと頭に血が上るに違いない。
手始めに、借金先組織の系列を調べ始めた。幸いアタシはギャング対策課に居るので、その手の情報を確認するのに事欠かない。その中から小さい事務所を探す。これは成功だ。
そして武器。警官であるので銃器を仕入れる事に大きな障害は無いが、生憎民間用の銃では
そして技術。幸い対策課は課員への訓練をそれなりに実施しているので、少し復習するだけで済んだ。
最後に戦力。いくら突入先が小さいとは言え、一人で正面から突撃するのはバカのすることだ。足がつかないように気をつけながら、弾除け程度の人間を数人雇い入れた。
準備は数ヶ月かけて行ってきた。もう引くことも出来ない。これは必ず成功させるしかないんだ。
* * * * *
最低限の所持品だけ持ってアパートを出た。アタシが次にここに戻ってくるのは全て終わった後か、あるいは死体になってからだ。
予め目星を付けておいた無法者の事務所に、雇った無法者と一緒に殴り込んだ。残念ながら雇った連中は弾除けにしかならなかったが、目標である事務所の殲滅は成功した。
事務所に詰めていた人間を制圧し終わった後、アタシはアタシは生き残ってしまった弾除けを後ろから撃ち抜いた。計画が無事に進んだことに安堵したアタシは、まだ息がある人間に気づけず、額目掛けて飛んできた何かと逃げ出す足音にもう一手間掛ける煩わしさを感じた。
* * * * *
side change : 奈緒
加蓮が無断欠勤を続けるので、加蓮のアパートを訪ねてみた。ベルを鳴らしても返事がないので、合鍵を使って扉を開ける。
電気は付いておらず、カーテンも閉まったままだ。玄関で靴を脱いで上がって廊下を歩く。奥にあるワンルームが彼女の生活圏だが、部屋には殆ど何もなかった。
部屋を見渡すとテーブルの上に黒い塊が置かれていて、見ればそれは支給品の拳銃と
「どういう
あたしは誰に言うわけでもなく、一人つぶやいていた。
署に戻ったあたしを待ち受けていたのは、緊急出動だった。なんでもマフィアの事務所が一つ襲撃されているようで、激しい銃撃戦が繰り広げられているらしい。
あたし達対策課も当然駆り出されるわけで、急ぎ防弾チョッキを身に着けてパトカーに乗り込む。今回は
無線から聞こえてくる情報に耳をすませば、銃撃は落ち着きつつあるらしい。
現場についてみれば、すでに銃声は完全に鳴り止み、辺りは野次馬と、それを近づけまいとする警察官に、事務所から弾が飛んで来るのではないかとにらみ続ける警察官ばかりだった。
あたし達対策課が現場の事務所に突入しても、内には鉛が穿ったのであろう穴と、血と、死体で装飾された前衛的な内装ばかりであった。
扉という扉、家具という家具をひっくり返してもトラップすらなく、鑑識課を呼んで証拠を回収しようと言う段にもなって、あたしは床に薄く残る血痕とそれを追う足跡に気がついた。ただの足跡のはずなのに、あたしはその足跡が気になって仕方がなく、気づけば足跡を追いかけ始めていた。
足跡は歩幅が小さく、足跡そのものも小さい。女性か、あるいは子供。一定の間隔で残っているのを見るに、何か訓練を受けている人物だろう。
足跡を追った先には、血溜まりに沈む一人の男と、その傍らに立っている、よく知っている人物だった。それに驚いたあたしは、足元に転がっている空き缶に気が付かなかった。
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side change : 加蓮
全て殺したと思った敵の中に一人だけ生存者がいたようで、そいつは血を流しながら走っていた。これが偽情報を流すための行動である以上、生きて逃がすわけには行かないので当然アタシも追いかける。途中で血溜まりかなにかを踏んだのか、足跡が残っていくがそんなのお構いなしだ。
相手は弱っていたようで、追いついたところに後ろから蹴りを入れるとすぐに地面に倒れた。トドメを刺すべく銃を向けると、そいつは腰を抜かしたのか近くの壁に這いずって、もたれかかるようにしてこっちを見た。
「殺さないでくれ」だとか「誰にも言わない」とかゴチャゴチャと言っているけど、アタシは何も気にせずに引き金を引く。手に持った拳銃は、
これであの事務所に詰めていた人間は皆死んだ。隠れ家に帰るため、銃をホルスターに戻そうとした時、カランと何かが鳴った。
咄嗟に音のした方に銃を構えると、そこには防弾チョッキを纏った奈緒の姿があった。
「加蓮…?」
奈緒がつぶやく声が聞こえる。アタシが奈緒に銃を向けても、彼女は呆けたままだった。
「ごめん、奈緒。」
アタシは弾丸と一緒に、その一言を放った。
倒れた奈緒をそのままに、アタシが現場を離れて1週間。そして、連中に白昼堂々と拉致されてから多分3日目。アタシはどこかの暗い部屋に、閉じ込められていた。