オリ提督採用しています。
基本的には提督は艦娘に好かれます。
艦娘の着任順は筆者の艦これに順守しています。
史実等の知識は無知か付け焼刃なので、あまり鋭い突っ込みはご容赦下さい。
コンクリートで舗装された堤防の上を一人の少女が歩いていた。
季節は夏の真っ只中、世間では盆の時期に差し掛かろうとしている。しかし先祖もいなければ家族も――ごく一般的な肉親という意味ではそれが
少女は不意に足を止めると、手に持っていた真新しい鞄の取ってを握り直す。そして少女の実直で遠慮のない性格が反映されたかのように、まったく癖のない流れるような銀髪が今は汗で額に張り付き、それを少女は鬱陶しげに跳ねのけて不機嫌そうに溜め息をついた。
鞄の外部に添え付けられた小さな収納袋から一通の封筒を取り出すと、そこに収められた書類をまるで壊れ物を扱うように大事そうに取り出そうとし、自分の手が汗ばんでいることを思い出すと慌てて鞄からハンカチを取り出して丁寧に手を拭いてから、もう一度封筒から一枚の書類をそっと取り出して、書面に目を落とす。
そこに書かれていることを簡潔に要約すれば以下のようになる。
着任辞令
第**期建造 吹雪型5番艦 『叢雲』
貴艦に対し日本国防人海軍省は、新設される『児島泊地』への着任を命ずる。
同、児島泊地は攻勢を強める深海棲艦に対して故国の防衛を固めつつ、同泊地の発展と所属する艦娘の成長を持って、反撃の一矢となることを期待し、この度新たに新設される運びとなった。
貴艦にはこの新たなる泊地の栄えある初期艦として、新たに着任する提督をよく補佐し、勇猛果敢なる奮戦と戦果を期待する。
尚、この度の貴艦の着任は、新たに着任する提督の希望によるものである。
以上
それは自分―――吹雪型駆逐艦5番艦 『叢雲』という艦娘がここに存在する全理由がそこにあった。
鉄の塊として生まれた前世の記憶は曖昧で薄ぼんやりとしているが、確かに自分は数百人の水兵たちをその身に乗せて、大勢の仲間と大切な僚艦と共に戦い抜き、そして戦いの果ても薄暗い水底へと没した。
そのことを深く思い出そうとすると身体が竦み足が震えてしまう。だがそれでも、自分たちはとんでもなく姿形を変えてしまったが、それでも再びこの世に生まれでた。
そう、自分たちは再び生まれたのだ。
大気の変化を感じて見上げれば、突き抜けるような晴天の空はどこまでも青く、風を感じて目を向ければ地平線の彼方まで広がる海もまた、どこまでも碧い。
潮騒が繰り返し何度も鼓膜を打つが、それが心地よくてすっと目を瞑れば、もう汗は引き風がさらさらと前髪を弄んでいく。
もう二度と感じることは出来ないはずだった澄んだ大気の心地よさも、広大な海の上を往く解放感も再び手にすることが出来た。
そして何よりも――。
叢雲は再び辞令に書かれた一行の文に目を落とす。
『尚、この度の貴艦の着任は、新たに着任する提督の希望によるものである』
自分を必要をしてくれる
そのことがたまらく嬉しく感じられるのは、恐らく全ての艦娘にとって共通する
単なる兵器であり軍艦でしかない自分と運命を共にすることを選んだ提督は数多いた。多くの水兵も勿論同じだが、それでも艦にとって――艦娘にとって提督という存在は特別なものだった。
風が立ち止まった背を押すように強く吹き、そこで我に返った叢雲は手紙を仕舞うと時計を見て少し慌てた声を上げる。
「いっけない私としたことがっ! このままだと着任当日に遅刻だわっ!」
鞄取ってをぎゅっと握り直すと、長い髪を風に遊ばせながら叢雲は慌てて泊地に続く堤防を駆けていった。
⚓⚓⚓⚓⚓
児島泊地は瀬戸内海上にある児島という島に新設された新たなる日本の防衛拠点であり、内海にあることを考えれば最前線とは言い難いように感じるが、位置的には太平洋に程近く泊地を出れば外洋へとすぐに抜けれる位置にあった。
つまりは敵の侵攻がもし内海の奥へと及びそうになった場合、それを防ぐ最後砦としての役割を担うことと重要な泊地なのである。
だがそれらの任を果たすには、今はまだ全てにおいて準備不足であり、泊地のその姿はまさに出来立てのソレに他ならなかった。
泊地は背面部に森を背負い、敷地の周囲を二メートルほどの低い壁で囲んでいる。数棟の建物を擁する泊地主体部の正面には小さな湾があり、そこには湾を補強するように形作られた堤防が築かれている。泊地の敷地を囲む壁もぐるりと泊地の主体部を囲んだ後、この堤防と合流する構造となっている。
島の西部にある船着き場に本土からの臨時便でやってきた叢雲は、島南部の沿岸を半ば囲むように作られた堤防を沿うように歩いて泊地へとやってきた。
これだけ小規模ながらも立派な泊地があるのであれば、船で直接くればいいようなものなのだが、実のところこの『児島泊地』はまだ正式な稼働条件を満たしていない。
現行の海軍要綱では、泊地に提督と艦娘が正式に着任することによって、その鎮守府ないし泊地は正式な認可を受けたということとなる。
叢雲は堤防と合流した泊地の白い壁に沿って更に少し歩くと、不意に立ち止まった。目の前には大きく開け放たれた門扉があり、その奥には運動や集会をするためのグラウンドやいくつかの建物があるのが見てとれた。
「ここが……児島泊地」
視線の先にある建物――ここが自分の所属する泊地。
そして振り返ればそこにある海――そこが私の戦場。
目を閉じれば再び感じる潮風と潮騒の音。
「うん……大丈夫、よね?」
自分自身に尋ねるように声を漏らすと、その声音に弱気な部分を見つけてしまい慌てて首を横に振る。
――こんなの私らしくないわっ!
緊張で少しだけ竦む足を気持ちで奮い立たせ、叢雲は泊地の門を超えた。
泊地の門は、門といっても通り抜けるようなものではなく当然泊地内への車両の通行を想定された作りになっており、レール上をスライドさせるタイプのもので今は壁際まで引かれて収納されている。
門の傍には守衛室と思われる小さな小屋が建っていたが、そこは無人で小屋自体もかなり痛みが目立ち、しばらく使われていなかったのがすぐに分かる。
車両用に舗装された道の横に歩行者用の石畳が奥へと続いており、叢雲はそこを歩きながら周囲をキョロキョロと見渡していた。
門から続く道は真っすぐに伸びて泊地の本棟まで続き、その途中で別棟へと別れて伸びている。恐らくその先にあるのは工廠や倉庫などだろう。
敷地の西半分はグラウンドや演習場などが占めていて、道路を挟んで東側には宿舎と思しき棟が数棟立ち並んでいた。
本棟へ向かう道すがら叢雲が感じたことは、施設の老朽化が随所に見て取れるということだった。最初に見た守衛小屋同様に、宿舎は遠目から見ても古めかしく建材に痛みが見て取れた。他にも今叢雲自身が歩いている石畳の歩道や隣にある車両用の道路も、石材やアスファルトにひび割れや陥没があるのが分かった。
この泊地は元々は海洋学の研究施設として作られ、その後旧守備軍に徴発されて軍拡化が施されたのだが、四国が侵攻を受けその一部が占領された際に一度放棄された。その後四国を完全に奪還するまでの間、ここは無人で放置され今に至る。
放置された月日はそう長いものではなかったのだが、やはり人が出入りしなければ人工物は痛むのが早いのだろう。
だが不思議なこともあった。
グラウンドも当然長らく整備がされていないはずなのだが、明らかにローラーを使って整備された跡があり、隅々まで草の一本も生えておらず綺麗に均されていた。
(本営から施設課が入っているのかしら……?)
そんな疑問を浮かべながら本棟付近まで近づくと、そこで今まで周囲の様子を見るのに気を取られていて気付かなかったが、大きな音が聞こえてくることに気付いた。
耳朶を打つのは『ガガガッ!』という人一人が扱える範囲の機械の音。何事かと視線を向ければ、一人の男が粉砕機を手に車両用道路をカチ割っていた。
真新しいながらも既に汚れが目立つ海軍章の入ったツナギを腰まで下ろして邪魔にならないように袖を腰で結び、上半身は黒いタンクトップ姿で頭にはフィールドキャップを被っている。
蝉の鳴き声を搔き消すような掘削音に目を白黒させながらも、叢雲は我に返って声をかける。
「あ、あのっ! そこの人!」
粉砕機の音に負けて声は掻き消されてしまう。
「ちょっと! ねぇってば!」
頑張って声を上げるのだが、如何せん『ガガガッ!』という音の壁に阻まれる。
そこで『むぐぐ』と叢雲の顔が紅潮し、同時に後頭部付近に浮遊しているデバイスが赤い光を点滅させて本人の怒りを代弁する。叢雲は夏の熱せられた空気をすぅっと頬を膨らませるほどに吸い込むと、生まれてこのかた出したことのない声量で叫んだ。
「ちょっとアンタっ! 返事しなさいよっ! というより、いい加減こっちに気付きなさいなっ!」
叢雲が艦娘として生まれてからこのかた、今まで出した声量の中でぶっちぎりに一番の大声は大気を震わせるほどのもので、そこでようやく男は叢雲に気付いて機械を止めた。
最初は『ん?』という顔で叢雲を見たのだが、その後頭部付近に浮遊するデバイスを見てすぐに叢雲が何であるかを理解したようだった。
その様子に満足し、叢雲は喉を整えるように咳払いをする。
「こほん。私は海軍総隊から本日付けでここ児島泊地に着任となった吹雪型5番艦の叢雲――」
――ここの司令官は何処に?
と続けようとした叢雲の言葉よりも前に、男が口を開いた。
「私はこの児島泊地の司令官――いや、提督の
そう言って敬礼した。
それを見て脊髄反射的に叢雲も敬礼を返したのだが。
「そう、あんたが司令官ね。ま、せいぜい頑張りな……さい?」
ふふんと鼻を鳴らす勢いで言っていたのだが、途中で疑問符になりながら固まる。そして目の前の男を改めてみて、男の言葉を口の中で反芻してようやく理解した。
「えぇぇぇぇぇぇ! アンタが司令官っ!?」
わずか数秒で自身の大声新記録を塗り替える声量を叩き出しながら、叢雲は叫んだ。
それが初期艦叢雲と提督古島 湊との出会いだった。
叢雲がヒロインというわけではありません。