瀬戸内の提督日誌   作:シヴ熊

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 どうも。
 せめて一週間に一回くらいは更新したいと思いつつ、なかなか難しいものです。
 冬イベの大まかな開始時期が発表されたので、冬イベに向けての準備をしつつ空いた時間で書いていきます。


第一期第二次建造及び復原

 夏の気の長い太陽が西へと没し、昼間は鳴りを潜めていた夏の虫たちが思い思いに自身の音を発し始め、一定の間隔で繰り返される波の音が聞く者の耳に心地良い。

 

「で、この復原盤も建造艦と一緒に復原するってことでいいのね?」

 

 ここは工廠の地下。

 艦娘を生み出す工廠の中枢機関である建造ドックの前に、児島泊地に所属する一人の提督と総勢四名の艦娘たちは新たな仲間を迎える為に集まっていた。

 

 艦娘を宿した不可思議な円盤を手にしているのは、初期艦の叢雲。

 今日修理した艤装の試運転の最中に、内海まで切り込んできた深海棲艦のはぐれ部隊と大立ち回りを演じた末に、呉鎮守府所属の航空母艦型艦娘が放った艦載機の援護を受けてこれを撃破した。

 その際に復原盤を二枚回収することに成功し、昨日建造を開始した艦娘二人が完成するのに合わせて、新たな仲間を迎え入れようと工廠に集まっている。

 

「叢雲ちゃんも朧ちゃんも無事だったし、新しい仲間も増えて言う事にゃしぃ!」

 

「おぉー仲間増やして楽させてくれぇ~」

 

「新しい仲間……いえ、必要ですよね」

 

 三人の反応に提督が苦笑を漏らしながら、叢雲に頷いて見せた。

 提督の許可を得た叢雲は手元にある二つの復原盤に目を落とす。それはどちらも朧の時と同じ桜の花があしらわれた意匠をしている。

 ということはつまり自分たちと同じ駆逐艦の艦娘であることを示していて、泊地としてはより戦力となる大型艦が欲しいのも事実。だが駆逐艦は元々の数が多いこともあって、泊地にとって縁の下の力持ちであり、何よりもやはり自分と同種の艦種が仲間になるのは叢雲にとって喜ばしいことだった。

 

「じゃ、工廠妖精さんたち建造艦との合流後に復原艦もお願いね?」

 

 叢雲が少し屈んで二つの復原盤を差し出すと、それを受け取った二人の工廠妖精は大事そうに頭上へと復原盤を掲げて持つと、笑顔で頷くと建造ドックの奥へと走り去っていった。

 その後ろ姿を見送った後、叢雲は提督の傍へと歩み寄ると秘書官として控える位置で立ち止まる。それを確認した提督が叢雲に目配せをすると、叢雲は後ろを振り返り並んで立っている三人の仲間へと視線を送る。叢雲の視線を受けた三人がそれぞれの笑顔で頷くのを見て、叢雲も小さく唇を綻ばせると、改めて提督へと顔を向けてもう一度大きく頷いた。

 

 仲間を迎え入れる瞬間というものは、やはり格別の喜びを伴う。

 既に経験している叢雲は当然として、初期建造組の睦月、望月に初復原艦である朧も新たにこの泊地へと加わる仲間を心待ちにしていた。

 

 それは――はじめまして。かもしれない。

 あるいは――久しぶり。ということもあり得る。

 いやいや――また逢えたね! だともっと嬉しいに違いない。

 

 姉妹艦、僚艦、死地を共にした艦、憧れの(ヒト)

 現れる艦に想いを馳せれば、それぞれに逢いたい艦がいる。

 だけど、誰が来ようとも歓迎することには変わりない。

 何故ならば、現れるのはかつて同じ目的の為に、共に骨身を惜しまず海を駆けた仲間であることは、揺るぎない事実だからだ。

 

「工廠長代理、頼む」

 

 提督が建造ドックの排出扉前に立つと、傍に控えていたお馴染みの工廠長代理妖精はドンと胸を叩くと建造ドックの奥へと消える。するとすぐに建造ドックの心臓部である壁一面に広がる機械が休眠状態から覚め、そのまますぐに稼働を開始する。

 いかにも造船所に響いていそうな様々な音が耳朶を打つ中、それらの音がピタリと止んで建造ドックに備え付けられているモニターに表示されていた文字が変化する。

 

『第一建造ドック 建造完了 覚醒作業に移行』

『第二建造ドック 建造完了 覚醒作業に移行』

 

 機械の中から恐らく保護液のようなモノに漬けられていた艦娘を、覚醒前に乾燥させていると思われる風の音がしばらくの間続く。

 その間睦月はワクワクと目を輝かせ、望月はあまり興味無さそうな顔をしつつもチラチラと扉の方に視線を送り、朧は肩に佇む蟹を指で弄りながらじっと扉を見つめていた。

 そして建造ドックの排出用扉、その上にある電光掲示板に『建造完了』の文字が輝く。すると、中から早速声が聞こえ始めた。

 

『ふわぁ~っと、よく寝たぜ。あ? なんだお前』

 

『あ、初めまして……』

 

『おう。オレの名は……え? ここで名前言っちゃダメなのか?』

 

『え? あ、はい。わかりました、妖精さん』

 

『んだよ面倒くせぇーなぁ。あーまぁいいや。そんなことより……フフフ、オレが怖いか?』

 

『……』

 

『……』

 

『……』

 

『……』

 

『おい、なんか言えよ』

 

『え……?』

 

『あんだよ、変な奴だなぁ。無表情だしよぉ……ひょっとして怒ってんのか?』

 

『怒ってなんか、ないですよ? 本当に……』

 

『ほんとかぁ? ま、いいけどよ。で、そのちんちくりんな感じを見るに、お前は駆逐艦だよな?』

 

『はい。睦月型……です』

 

『おう、オレは軽巡だ。水雷戦隊を率いる時には、お前も力貸してくれよな』

 

『……はい。が、頑張ります』

 

『おうっ! っと、え? この向こうに提督と仲間が待ってる?』

 

『あっ……お待たせ、しちゃってますね。早くこれ着ましょう』

 

『あー……だなっ! しっかしどんな提督かねぇ。オレをバッシバシ前線に投入してくれる提督なら言う事ないんだけどなぁ』

 

『皆のこと、大事にしてくれる提督(ヒト)だと、嬉しいです……』

 

『まぁ、駆逐艦(おまえら)はそういう風に考えちまうよな……おし、着たぞっ!』

 

『着ました……』

 

『おい、いいか? こういうのは最初が肝心なんだ。舐められないようにビシっと決めようぜ』

 

『え……ふ、普通で、いいと……思うんですけど』

 

『かー! 分かってねぇなぁ! いいか? 切った張ったの世界は舐められたら終わりなんだぜ? だから最初にこいつは只者(ただもの)じゃねぇ! って思わせないといけねぇーんだよっ!』

 

『あの……言ってることが、よく分からないんですけど……』

 

『いいからいいからっ! ほら、扉が開いたらこうやって――んで、腕をだな――』

 

『え? え? こ、こう?』

 

『そーそー! で、こう言うん――』

 

「妖精さん! とっとと開けちゃいなさい!」

 

 まだまだ続きそうな一人によるもう一人のレクチャーに痺れを切らした叢雲が声を上げると、すぐに扉が上へとせり上がり開け始める。

 

『げっ! まだだってーのっ! ちっ仕方ねぇ! おい教えた通りでいくぞっ!』

 

『わ、分かりました……』

 

 開いていく扉の向こうで焦った声が聞こえてくるが、すぐに腹を括ったような声とその勢いに引きずられてしまった少女の声。

 そして開く扉の向こう側から漏れ出る光。その逆光の中に二つのシルエットが現れる。二人は背中合わせに立ち腕組みをして立っていた。身長差がかなりあって、提督たちから向かって右側に叢雲たちと比べても明らかに背の高い少女が自信満々に胸を張って立ち、その左側に右の少女より頭一つ分は小さいシルエットがぎこちなく腕を組んで立っていた。

 そして扉が開き切ると、二人は目の前に立つ提督たちを視界に入れつつ名乗りを上げた。

 

「オレの名前は天龍。フフフ、怖いか?」

 

「初めまして、弥生、着任……。あ、気をつかわないでくれていい……です」

 

 コンビのヒーローモノのように腕を組んでの背中合わせで立つ二人は、天龍は自信満々な表情で立ち、弥生は無表情に見えるが少しだけ恥ずかしさで顔を赤らめていた。

 

 天龍は前髪が左目を隠すくらいの黒髪ボブカットで、好戦的な光を讃える瞳は金色に光っている。今着ているのは睦月たちと同じく就寝時用の白い浴衣姿なのだが、腕組みした腕に乗っかるほどの豊満な胸が持ち上げられるようにして強調されている。

 天龍の隣で表面上はそうは見えないが、若干照れながら腕を組んでいる弥生は、もみ上げの長いボブヘアーの薄紫色をした髪に、表情に乏しい青い瞳が静かに揺れている。体躯は睦月たちと同様で華奢な少女のそれである。

 

 睦月たちと同じく就寝用の白い浴衣を着た二人は、名乗ったまま分かりやすいドヤ顔と分かりづらい照れ顔をしていたが、すぐに驚いた顔でお互いの顔を見る。

 

「え? お前弥生なのか?」

 

「え? 天龍さん……?」

 

 ビックリした顔でお互いの顔を見つめると、すぐに天龍が破顔した。

 

「なんだなんだっ! 弥生なのかよっ! いやー駆逐艦って沢山いたからよぉ。全然分からなかったぜ! 悪りぃーなぁ」

 

「いえ、弥生も全然気づ――」

 

「弥生ちゃーん!」

 

 同時に建造された相手が思わぬ縁持ちだったことに二人が喜んでいると、口からハートを乱舞させながら睦月が物凄い勢いでダッシュし、弥生にジャンピングハグを敢行した。

 

「弥生ちゃんが来てくれるなんて、睦月は嬉しいにゃしぃ!」

 

「え? む、睦月……なの?」

 

「うんっ! あ、望月ちゃんもいるんだよ!」

 

「うーす、弥生おひさぁー」

 

「望月……凄い、天龍さんに睦月と望月までいるなんて」

 

 相次ぐ睦月型の連続着任に睦月は喜びを爆発させ、望月も唇を綻ばせている。そして弥生も睦月型の中でも特に縁のあるメンバーが二人も居たことに驚きつつも、喜色を浮かべている。

 

「なんだなんだっ! 睦月と望月までいるのかよ! こりゃ第六水雷戦隊が再結成できそうな勢いじゃねぇーか」

 

 また天龍もこの奇縁に驚きながらも嬉しそうに笑顔を浮かべている。

 

「おほんっ」

 

 歴戦の艦艇たち――それも縁深い集まりの再会に水を差すのも悪いと思い、提督が再会を喜び合う艦娘たちを見守っていると、真面目な気質である叢雲が咳払いをして場を制した。

 やんややんや言っていた天龍たちだったが、叢雲の咳払いで改めて正面に目を向ける。視線の先に姿勢を正した立ち姿の、見覚えのある白い軍服を着た人物の姿を認めると、さすがは軍記正しい旧日本海軍の艦艇たちはすぐに私語を止めて、天龍と弥生は連れ立って提督の前へと進み出ると海軍式の敬礼をした。

 

「天龍型一番艦、軽巡洋艦の天龍だ。着任したぜ」

 

「睦月型駆逐艦三番艦、弥生です。着任……あの、よろしくお願いします」

 

 それぞれの挨拶に頷きながら、提督も返礼したまま名乗る。

 

「当児島泊地の司令官、古島湊だ。君たちはこの泊地で二回目に建造された艦娘ということになる。まだまだ発足仕立ての泊地だが、護国の要となるように皆で盛り立てている最中だ。天龍と弥生も先任の叢雲らと共に力になってくれ。君たちと共に戦えることを光栄に思う、よろしく頼む」

 

 提督の言葉に天龍は嬉しそうに唇を吊り上げ、弥生は無表情で提督の顔を見上げた。その視線に気づいた提督は、目を細めると弥生の頭にポンと手を乗せる。

 

「睦月と望月に続いて弥生が来てくれるとはな。先の大戦開戦当時の第三十駆逐隊が本当に再結成できそうだな」

 

「司令官、弥生に気をつかわなくても……」

 

 頭に手を置かれたままじっと提督の顔を見ていた弥生がそう口にすると、提督は口元に笑みを浮かべると弥生の頭を優しくぽんぽんと撫でる。

 

「気をつかっている訳ではないさ。睦月も望月も懸命に人手不足なこの泊地の為に頑張ってくれている。だから弥生も二人と同じように頑張ってくれると、私は思っているよ」

 

「司令官……はい、弥生も二人に負けないくらい、頑張り……ます」

 

 こくんと頷く弥生の頭を撫でていると、隣でそれを見ていた天龍がフフンと鼻を鳴らした。

 

「なるほど、出迎えにしちゃ人数が少ないと思ったけど。まだ出来たばかりの拠点なんだな」

 

「ああ、本格的な出撃任務はまだ受けれていないのが実情なんだが、天龍――君が着任してくれたおかげで本格的な水雷戦隊が組める目処が立った。その時は頼りにさせてもらうぞ」

 

 提督の言葉に天龍は最初驚いたような表情を浮かべたが、すぐに獰猛な笑みを口元に浮かべ戦える喜びに打ち震える様に目を輝かせた。

 

「話の分かる提督じゃねーか。おう、戦闘は俺に任せとけよな」

 

 天龍の力強い言葉に提督が頷くと、残ったメンバーの紹介をするために叢雲たちに目配せをすると、叢雲と朧が頷いて少しだけ前に出る。

 

「この後、復原艦としてあと二人加わるからちゃんとした自己紹介はあとにするわね。私は初期艦の吹雪型五番艦の叢雲よ」

 

「綾波型七番艦の朧です」

 

「よろしく、です」

 

「おう、よろしくな! で、後二人仲間が増えるのかよ。てか復原艦ってなんだ?」

 

 それぞれに簡単な自己紹介をした後、天龍が聞きなれない復原艦という言葉に反応すると、叢雲が復原盤とそれによって復原される復原艦についての説明を行った。すると天龍は感心したように頷くと共に、実に戦闘好きな彼女らしい見解で目を輝かせる。

 

「叢雲はもう戦闘に出て戦果も上げてるんだな。くぅ~オレも早く戦闘がしたいぜ」

 

「言っとくけど、戦闘に出る前にキチンと訓練は受けて貰うわよ? もう既に訓練も碌にしないまま戦闘海域まで出てきちゃった前例があるわけだし……」

 

「すみません……」

 

「べ、別に怒ってるわけじゃないのよ? でも訓練はちゃんと受けるべきだわ。新艦が毎回ぶっつけ本番で戦闘なんて始めたら、命がいくつあっても足りないもの」

 

 顔を赤らめてぷいっと横を向く叢雲に朧がホッとしたような顔で絆創膏の上から頬を掻く。その様子を不思議そうに見ていた天龍と弥生に睦月たちが今日あって出来事を掻い摘んで話すと、弥生は少しだけ目を見開き、天龍はやはり目を輝かせて大笑いした。

 

「中々いい根性してんじゃねーか朧っ! オレはそういうの好きだぜ」

 

「いえ、結果的には却って皆さんに心配掛けてしまって……」

 

「朧。その話はもう済ませたはずだ。君の行動の全てを肯定するわけにはいかないが、アレは私が許可して行ったことなのだから、先に言ったようにもうこれ以上気に病む必要はない。それよりも今日経験したことを糧にしてくれ」

 

「は、はいっ!」

 

 提督に諭されて朧が背筋を伸ばして返事をすると、叢雲が微笑んだままやれやれと嘆息した。そして場にある程度の和が出来たことを確信したので、次へと事を進めることにした。

 

「では、復原艦の復原に移るわ。二人ともこっちへ来てちょうだい」

 

 天龍たちが提督の後ろに移動してから、提督が建造ドックの傍に控える工廠妖精たちに向かって頷くと、妖精たちは頷いてドックの中へと続く妖精たちしか入れない小さな通路へと消えていった。

 すると、すぐにまたあの時と同じように、工廠装置の心臓部である建造ドックから音が聞こえ始めた。

 

 

 

 ――それは工廠に響く起工の産声。

 

 ――それは港から海へと出でる進水の祝福。

 

 ――それは洋上で聞くカモメの声。

 

 ――それは風を切り裂く鋼の咆哮。

 

 ――それは水底に沈みゆく無音の葬送。

 

 ――それは、水底で朽ちる勇士を讃えた鯨の唄。

 

 

 提督がチラりと背後に視線を向けると、あの時と同様に叢雲たち先任組は勿論のこと天龍と弥生も目に涙を浮かべてその音に聞き入っていた。

 人間が聞いても心に訴えかける神秘的な何かを感じる程なので、きっと艦娘たちにとっては心や魂を揺さぶる何かがあるのだろう。

 音が止んでしばらくすると、建造ドックの排出扉内から二種類の声が聞こえてきた。

 

『やあ、はじめまして』

 

『うん、はじめまして』

 

『まずは自己紹介をしないといけないな。私は――』

 

『あ、妖精さんがプラカードにダメって書いてるよ』

 

『――本当だね。ここで名前を言っちゃダメなのか……。じゃあ自己紹介は後で改めてすることにするよ。それでいいかい?』

 

『うん、僕はそれでいいよ。でもせっかくだし、握手くらいはしとこうよ』

 

『ああ、それはいい考えだ。うん』

 

『――君の手は何だかひんやりとしてて気持ちいいね』

 

『そうかい? そういう君の手はしっとりしてるね』

 

『え……そうかな?』

 

『うん。でも悪い意味じゃないんだ。乾燥してなくて滑々してる。いい手だと私は思うな』

 

『そう……なのかな? うん、ありがとう』

 

『それに何となく君と私は境遇が近いんじゃないかな……勘だけどね』

 

『うん、それは僕も何となく思ったかな……でも、多分君の方が頑張ったんじゃないかな。僕も勘だけどね』

 

『ふふっ、本当に似た者同士みたいだな、私たちは』

 

『あはは、うん。本当だね』

 

『あ、どうやらこの扉の向こうに司令官がいるみたいだよ』

 

『わっそうなんだ……どんな提督だろう』

 

『きっと良い司令官さ。私の勘だけどね』

 

『うん、君の勘を僕は信じてみるよ』

 

『うん、信じてもらっていいさ。でも君の勘がどうなのか、私は知りたいかな?』

 

『あはは、そう来たか。うん、大丈夫だよ。僕の勘もきっと良い提督だって言ってる』

 

『そうか……安心したよ。じゃあこれを着てしまおう』

 

『うん、あまり待たせちゃ悪いものね』

 

 扉の中から衣擦れの音が聞こえてくる中、叢雲が半眼で後ろに並ぶ艦娘たちに目をやる。

 

「なんで建造組に比べて復原組はいつも大人しいのかしらね?」

 

 憶えのありまくる睦月と望月、天龍がそっぽを向いて口笛を吹いて、朧と実質とばっちりの弥生はきょとんとした顔をしていた。

 そうこうしている内に建造ドックの扉が開き始めた。

 先ほどの建造組の二人みたいな決めポーズを取っているわけでもなく、開き切った扉の向こうには二人の少女が佇んでいた。

 

「僕は白露型駆逐艦、時雨。これからよろしくね」

 

「響だよ。その活躍ぶりから不死鳥の通り名もあるよ」

 

 そこにいる全員に向けてそう言うと、二人はお互いに向き合ってもう一度握手した。

 

「君は響だったんだね。『不死鳥』の噂は僕も知ってたよ」

 

「そういう君はあの『佐世保の時雨』だったんだね」

 

 お互いに自身の異名に思うところがあるのか、その異名を聞いて少しだけ表情を曇らせたがそれさえもお互い様であることが分かってしまい、二人して苦笑を漏らした。

 そうして二人は握手を交わした後、視線を戻して自分たちを待ってくれている司令服に身を包んだ提督の下へと進み出た。

 

「白露型駆逐艦二番艦、時雨です」

 

「暁型駆逐艦二番艦、響だよ」

 

 時雨は黒髪をセミロングも伸ばして後ろで一つの三つ編みにしている。瞳は穏やかな優しさを映すスカイブルーの光を讃え、体躯は睦月たちよりも朧に近い。

 響は白い雪のような髪を長く伸ばし、青く涼し気な瞳は氷のような透明感がある。こちらの体躯は睦月たちよりも幼く感じるほどに小さく華奢だった。

 

「この泊地を預かる司令官、古島湊だ。歴戦の経歴を持つ時雨と響を迎えられて光栄に思う。まだ出来て本格的な運営に至っていない泊地だが、皆の協力を持ってこの国を守るに足る場所にしていきたいと思っている。よろしく頼む」

 

 二人は自分たちの目をしっかりと見ながら話す提督の顔をじっと見ていた。そして響が小首を傾げて周囲を見渡す。

 

「司令官……あの、私の姉妹たちはまだ着任していないのかい?」

 

「ああ、特型の先輩としては叢雲と朧が着任してくれているが、暁型は響が最初だ」

 

「そうか……うん。大丈夫さ、待つのはこう見えて得意なんだ」

 

「建造は本営の計画もあるが、基本的には順次行っていく。すぐに君の姉や妹たちも着任するさ。だから最後まで残った君が、今度は彼女らを迎えてあげよう」

 

「司令官……うん。うん……そうだな、私の姉妹たちに沢山教えてあげられるように頑張るさ」

 

「ああ、そうだな」

 

 響が提督に好印象を持つ中、時雨はじっと提督の目を見つめ続けていた。

 

「時雨も――時雨?」

 

 一心に提督の目を見つめ続けていた時雨は、自分の方に目を向けた提督に歩み寄ると両手を上げて提督の両頬に添えると、グッと提督の顔を寄せて自身も踵を上げて背伸びをし、キスでもするかのような近さで提督の目を間近で覗き込んだ。

 

「――どうした、時雨」

 

「提督……提督は――」

 

「だぁーもうっ! 何やってんのよ!」

 

 超至近で見つめあう二人に怒った叢雲が割って入った。物理的に分断されて時雨が後ずさるとその背を響が支えた。

 

「時雨、大丈夫かい?」

 

「――え? あ、うん。僕は大丈夫だよ」

 

「それは良かった。でも急にどうしたんだい? 司令官の顔に変なところでもあったのかい?」

 

「えぇ? そ、そんなことないよ……あ、僕そんなに近かったのかな?」

 

 叢雲に『アンタがちゃんと叱らないとダメでしょう』とか『復原直後で精神が不安定なのかもしれないけど』とか言われている提督をチラリと見ていると、顔を赤らめた睦月がスススっと時雨の傍に寄ってきた。

 

「もぉー睦月、時雨ちゃんが提督にいきなりキスでもするかと思ってドキドキしちゃった」

 

「え、えぇ!?」

 

「そーそー、あたしもそのままぶちゅ~っていくのかと思ったぜぇー?」

 

「そ、そんなことしないよ……」

 

「いやぁー攻めの姿勢ってのは大事だよな。オレは良いと思うぜ?」

 

「ち、違うんだ……本当に」

 

「朧も見習うべきかな……どう思う?」

 

「うぅー本当に違うんだよ……提督、ごめんね?」

 

 睦月の言葉に驚き、望月の言葉で着ている浴衣の膝を両手でぎゅっと握って縮こまり、天龍の台詞で更に狼狽え、朧が蟹に相談しているのを聞いて顔を真っ赤にして撃沈した。

 

「時雨、私は気にしていないから大丈夫だ。皆も時雨をあまりイジメないように。すぐに注意しなかった私も悪いんだ」

 

 提督の言葉にやんややんや騒いでいた艦娘たちはすぐに静かになった。その様子に頷いた提督は傍にいる叢雲に指示を出す。

 

「叢雲、ともかく上へ上がろう。私も次の建造を手配したらすぐに行く」

 

 提督がバッサリと切り替えると、叢雲もすぐに切り替えて肩を竦めると他のメンバーに振り向いた。

 

「仕方ないわね。そういうことにしてあげるわ。さ、すぐに夕飯の時間だしそれまでに四人に泊地の状態とか簡単に説明するわ。行きましょう」

 

 叢雲に促されて泊地本棟へと繋がるエレベーターへと向かう中、一人暗い建造ドックへと残る提督の姿を時雨はじっと見つめていた。

 

 

 




 とりあえず初期の着任ラッシュだけでは話の厚みが出ないので、艦これ本家でいうところのNewソート1ページ10隻を一つの区切りにして、一度新規の着任を止めて今いるメンバーでの話を書こうと思っています。
 現状叢雲、睦月、望月、朧、天龍、弥生、時雨、響の8隻が着任したので、あと二隻ですね。提督が次の建造を行っているので、その完成を持って第1期着任組が完成します。

 というわけで、次話をお待ちください。
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