瀬戸内の提督日誌   作:シヴ熊

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お久しぶりです。
伊勢改二任務と装備の拡充(牧場ともいう)に精を出してました。
すみません。


復原艦(ドロップ艦)

 

 

「まずは着任を歓迎する。私がこの児島泊地で艦隊の指揮を執る司令官、古島湊だ。よろしく頼む」

 

「初期艦の吹雪型駆逐艦5番艦、叢雲よ」

 

 提督が現れた二人の艦娘に敬礼をすると、その脇に控えていた叢雲も同じく海軍式の綺麗な敬礼をして二人を出迎えた。

 

 二人のキチンとした態度と対応に対し、さすがに今の姿勢のままでは不味いと思ったらしく。新規艦の二人は、睦月が馬乗り状態になっていた望月の上から謝りながら退けて倒れたままの望月へと手を伸ばす。その手をキョトンとした顔で見つめた望月も『まったくよぉー……』と呟きながらも素直にその手を取って引っ張り起こしてもらった。

 

 そんな微笑まし光景の後、二人は建造ドックからシャッター部分をくぐって進み出てくると、提督たちの前に二人並んで立った。

 

「改めましてっ! 睦月型駆逐艦1番艦、睦月です! よろしくお願いします!」

 

「同じく睦月型駆逐艦11番艦、望月でーす……よろしくお願い、します」

 

 建造ドックから出てきた二人は、何故か叢雲が就寝時に着ている白い浴衣を着ていた。

 建造艦は建造が完了するまでどのような艦娘が出来るかは一切不明で、現状建造時間である程度の絞り込みが出来てきてはいるものの、完全な予測は不可能となっている。

 なので完成して建造ドックから出てきた艦娘の制服は、建造結果を海軍省に報告の後に支給という形となっている。

 そういった制服を艦娘の着任――その有無に関わらずあらかじめ支給しておけばいいのでは? という意見は至極当然なものだが、これに関してはいわゆる『妖精案件』というもので、制服を用意するのが妖精らしく、海軍省のお偉いが働きかけても頑として先渡しをしてもらえないらしい。

 

 新たに誕生した二隻の駆逐艦娘が改めて名乗ると、提督は頷き目を細めた。

 挨拶後、睦月は好奇心に目を輝かせて周囲をキョロキョロと見渡し、望月はやる気のなさそうな表情で周りを少し見た後、すぐに提督と叢雲へと視線を向けた。

 

「ふーん、あんたが司令官か……」

 

 少しダルそうなやる気のない表情で見上げてくる望月に、提督は優しさ含んだ視線を向ける。

 

「君が望月か。前大戦における第八艦隊での活躍は記録を読んで知っている」

 

「え……知ってんの?」

 

 艦船だった頃の自分の経歴を言われて、望月は眠たげな目を少し見開いて提督の顔を見つめると、提督は当然だとばかりに頷いた。

 

「部下になるかもしれない君たちのことを、少しでも知っておくのは当然のことだろう」

 

「ふ、ふーん……司令官、そんなことしてくれてたんだ。でもそんなの……面倒じゃなかったのか?」

 

「あの頃と今では海軍における船舶の運用法は随分変わってしまった。そして我々の運用法――というよりは、我々の兵器では深海棲艦には歯が立たなかったんだ。だからこそ君たちの戦いの軌跡を辿ることは、一海軍軍人としても君たちと共に戦う者としても、とても意味深いことだと思っているよ。それに――」

 

 提督が白い手袋をはめた手で望月の頭をポンと乗せると、目を細めて微笑んだ。

 

「姿形は大きく変わってしまっているが、君たちと共に戦えることは私にとって幸運だと思っている」

 

 そう言った提督の顔をポカーンと見上げていた望月は、少し顔を俯かせた。

 

「そっか……司令官は、変な奴なんだな」

 

「――そうか」

 

 頭上から降りてくる平坦だが優しい声を聞きながら、頭に乗っている白い手袋をはめた手に自分の両手を重ねる様に置くと、望月はこくんと頷いた。

 

「あぁー! 望月ちゃんが提督に頭撫でてもらってる! 睦月はズルイと思いますっ!」

 

 見るからに面倒くさがりな印象を醸し出していた限りなく末っ子に近い11番艦にして10番目の妹が発揮した思わぬ積極性に、長女である1番艦は羨ましさを隠そうともせずに急接近する。しかし提督と望月の間に割って入るような真似はせず、二人の近くでニコニコとしながら自分の順番を待ち始める。

 その睦月の様子に我に返った望月は、慌てて頭の上で提督の手に重ねていた自分の両手を引っ込めると、カニのように横へとスライドして提督の手から外れていった。

 すると待ってましたとばかりに睦月が笑顔で提督を見上げてくる。

 

「提督! 睦月も頑張って戦いましたよっ! それに今度も頑張って戦いますにゃ!」

 

 妙な語尾をつけながら屈託のない笑顔を浮かべる睦月に、提督は苦笑しながらその手を睦月の柔らかそうな髪の上にポンと乗せる。

 

「にゃ……えへへ♪」

 

(長女でありながら甘え上手とは、睦月型の長女は得な性格をしているようだな)

 

 撫でられている手の動きに合わせて自然と頭を擦りつけてくる辺り、まるで大きな猫を相手にしているようだ。

 

「こほんっ」

 

 しばらく睦月の頭を撫でていると、不意に後ろ側から咳払いが聞こえてきた。

 何事かと提督が振り向くと、そこには少し不機嫌そうな表情の叢雲が円形の何かを抱えた状態で立っていた。

 

「初建造艦との感動の対面はそこまでにして、そろそろ復原艦の復原もして欲しいんだけど?」

 

「そうだな。二人とも、実はもう一人この泊地に仲間を迎えることになっている。建造と復原での違いはあるが、二人の同期となる艦娘だ」

 

 そう言って提督が叢雲から復原盤を受け取って二人に見せる。

 

「おぉー! その中に睦月たちの仲間が入っているんですかぁー!?」

 

「中に――という言葉が適切かどうか分からないが、この復原盤をこの建造ドックに奉ずると艦娘となって現れると聞いているな」

 

「奉ずるって……え、お供えすんの?」

 

 提督の持つ円盤状の復元盤を望月が見上げていると、また何処からともなく工廠妖精三人組が現れて、先ほどと同じように提督らを見上げてビシっと敬礼をした。

 提督と叢雲に続き、睦月と望月もそれぞれ妖精たちに返礼をする。新たに増えた艦娘二人を見て妖精たちは嬉しそうに相好を崩すが、すぐに提督の前だということを思い出してキリリっと表情を引き締めて敬礼をしたまま向き直る。

 そんな妖精たちの純粋無垢な態度に微笑みを浮かべながら、提督が復原盤を差し出す。

 

「工廠長代理、頼めるか?」

 

 提督の声を聞いた工廠長代理妖精は、クイっと被っていたヘルメットを押し上げて『任せて下さい』とばかりに胸をドンと叩いて、傍に控えていた二人の妖精に指示を出すと三人で受け取った復原盤を掲げるように持ち上げて工廠装置へと走っていく。

 

「えーと、確か復原艦は建造艦のように時間は掛からないのよね?」

 

「ああ、数分と掛からないと資料には書いてあったな」

 

「どんな娘が来るかにゃー?」

 

「あたしらと同じ酔狂な奴なんだろうなぁー」

 

 叢雲が提督に確認を取り、それに頷いて答える提督。その傍で睦月が目を輝かせて望月が両手を頭の後ろに回して少しだけおどけた口調で茶化した。

 

「ま、確かにこんな立ち上げ直後も直後の泊地に来るなんて、酔狂な艦娘でしょうね」

 

 望月の気だるげな軽口に珍しく叢雲が乗って二人を意味ありげな視線を向ける。だが、すぐに睦月が人差し指を顎に当てて叢雲を見る。

 

「およ? でも叢雲ちゃんはそんな出来立てホヤホヤ泊地の初期艦さんだよねぇ?」

 

「な、なによ? 何がいいたいのよ?」

 

「一番酔狂なのって、誰だろなぁーって話だろー?」

 

「んなっ!?」

 

 姦しい声が響く中、工廠装置の心臓部である建造ドックから音が聞こえ始めた。

 

 

 

 ――それは工廠に響く起工の産声。

 

 ――それは港から海へと出でる進水の祝福。

 

 ――それは洋上で聞くカモメの声。

 

 ――それは風を切り裂く鋼の咆哮。

 

 ――それは水底に沈みゆく無音の葬送。

 

 ――それは、水底で朽ちる勇士を讃えた鯨の唄。

 

 

 

 それら一連の不思議な音が止んで提督が後ろを振り返ると、そこにいる三人の艦娘たちは全員目に涙を浮かべて佇んでいた。

 叢雲、睦月、望月の三人が先ほどまでの姦しさを忘れたかのように、少し茫然としたように佇んでいた。

 辛そうにしているわけでもなく、悲しそうにしているわけでもない。

 だが、三人の瞳から透明な雫が生まれて静かに頬を流れていた。

 

「三人とも、大丈夫か……?」

 

 思わず提督が訊くと、三人は不意に我に返ったかのように目を瞬させて、提督の心配そうな顔を見て初めて自分たちが涙を流していることに気づいた。

 

「だ、大丈夫よ……昔のことを急に思い出しただけだから」

 

「睦月も大丈夫です。えへへ、提督は心配性ですねぇー」

 

「大丈夫だよ。だからそんな顔すんなよな、司令官……」

 

 提督がよほど心配そうな顔をしていたのか、三人はそれぞれに大丈夫という意思を言葉に乗せて嬉しそうに口にした。

 

「そうか……」

 

 そんな三人の様子を見て提督は息をついて薄く笑みを浮かべた。

 提督のほっとした顔を見て、三人の駆逐艦娘たちはお互いに顔を見つめ合わせてそれぞれに笑いあった。

 一人の提督と三人の艦娘がまだぎこちないながらも、心を通わせる交流をしていると不意に建造ドックの閉まっているシャッターの中から声が聞こえてきた。

 

『――え? これを着るの? うん、分かった』

 

 聞こえてきたのは真面目そうな少し硬い声。

 睦月たちと同じように中で着替えているらしく、工廠内に衣擦れの音が小さく響く。

 

『着替えた。うん。え? この向こうに提督がいる? そ、そうなんだ……』

 

 今までと違って少しだけ声の硬さが弱まって尻すぼみとなったが、シャッターの中から――パシっ! という両手で両の頬を打って気合を入れる音がした。

 

『――うん、もう大丈夫』

 

 すると、もう先ほどと同様に落ち着いた少し硬い声に戻っていた。その声に呼応するように今度は待たせることもなくシャッターが開いていき、そこに一人の駆逐艦娘が佇んでいた。

 

 秋の稲穂を思わせるような枯草色の髪を、本人の活動的な性格を表すかのような短いショートボブにしている。その下で揺れる琥珀色の瞳には様々な感情が揺れ動き、右目の下――右頬に小さいながらも目立つ傷痕あった。

 

「綾波型駆逐艦7番艦の朧です」

 

 ハッキリとした口調で自分をそう紹介すると、目の前に立つ提督と三人の駆逐艦娘の視線を一身に受けて、少しだけ瞳を動揺に揺らせる。

 だが、すぐに意を決したかのように視線を提督に定めて顔を上げる。

 

「朧、誰にも負けません……たぶん」

 

 やはり締まらない挨拶となってしまったのだった。

 

 




なかなか話進みませんし、投稿ペースも遅いですが、色々なリバビリも兼ねていますので何卒ご容赦を。

伊勢改二……改装航空戦艦でしたね。
これは日向は飛ぶ可能性あるな。
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