瀬戸内の提督日誌   作:シヴ熊

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睦月型駆逐艦一番艦睦月ー着任ー

 

 私は睦月型駆逐艦1番艦の睦月です。

 今日も大海原を鋼鉄の船体で波を切り裂き進むのです!

 

 

 ――なーんて、冗談なんですけどねぇ♪

 

 

 昔は本当に鋼鉄の船体に沢山の水兵さんを乗せて、文字通り大海原を駆けまわっていたんですけど。

 ですが! 今は! なななっなんと、違うのです!

 前世では――あ、前世というのは正しくないかもしれないけど、あの時の睦月も睦月だったし、今の睦月も睦月ですからねっ! 

 えーっと、とにかく前は重油を燃料にボイラーで燃やして走り回っていたんですけど、今はちゃぶ台を囲んで美味しいご飯を待っています!

 

 艦娘という存在になった自分に対する動揺とかは別になかったかにゃ? だって前の時も艦艇である自分に疑問なんてなかったから、今回だってありのままの睦月で参りますよぉー!

 

 それにしても初めてのご飯待ち遠しいにゃ。

 今ちゃぶ台を一緒に囲んでいるのは初期艦の叢雲ちゃん、そして同期着任で同じ睦月型の妹ちゃんである望月ちゃん! そして復原艦として同時合流した綾波型の朧ちゃん。

 

 叢雲ちゃんはクールなしっかり者さん。

 望月ちゃんは我が妹ながら可愛くて、ちょこっと恥ずかしがり屋さんかな(身内贔屓)。

 朧ちゃんはちょっと男前な女の子って感じ!

 

 昼食を取るには少し遅い時間みたいなんだけど、早く人として食べる食事に馴染んでもらいたいっていう提督の一声でお昼ご飯を食べることになりました。

 

 工廠から出て本棟というここ児島泊地の母屋? の提督室へ移動しましたよぉ。

 あ、そういえば、工廠を出るときに開発と建造を行うって提督と叢雲ちゃんがお話してました。睦月はそっちも気になったんだけど、ちょっと不安そうにしていた朧ちゃんが気になって沢山お話ししていたので、開発で何が出来たのかは分からなかったにゃ。

 でも工廠を出るときに不思議な光る黒板だけは見てましたよぉ~。確かそこにはこう書かれていたはずです!

 

 

『第一建造ドック 建造完了予定時刻、現時点より00:18:00』

『第二建造ドック 建造完了予定時刻、現時点より01:00:00』

 

 

 一隻は睦月たちと同じ駆逐艦で、もう一隻は提督のお話ですと軽巡の可能性大、だそうです! 

軽巡ですよっ軽巡! 

 今は戦いに出れるのは叢雲ちゃんだけだけど、いずれは睦月たちも戦えるようになれます。そうなればそこに軽巡の人がいてくれれば、それはもう立派な水雷戦隊ですにゃ!

 夢が広がりますね……うふふっ。

 提督や日本の皆さんの為にも、睦月頑張っちゃいますよぉ~!

 あ、噂をすれば提督がお戻りですね。

 

「すまない、遅くなった」

 

 そう言って提督が手に持ったお盆から大皿をちゃぶ台へと置くと、睦月たちは思わず『おぉぉぉ』って身体をちゃぶ台に乗り出して、それに顔を寄せてしまいます。

 あぁ、ほっかほかに炊けたご飯のいい匂いがするにゃしぃ……。

 

「あぁーそっか、最初はこれになるんだったわね」

 

「おぉ~これは……美味しそうにゃしっ!」

 

「おぉー形きれいだなぁ」

 

「とても美味しそうに朧には見えます」

 

 ちゃぶ台の真ん中に置かれた大皿には、沢山の三角形の食べ物がピカピカに光っていて、もわっと上がる湯気が美味しそうな匂いを運んでくれてるにゃ~。

 そう! この食べ物は艦艇時代に睦月たちと一緒に戦ってくれていた水兵さんたちがよく食べていたモノなのです!

 

 その名も!

 

「「「おにぎりっ!」」」

 

 睦月たち目を輝かせながら叫んでいると、叢雲ちゃんがなんだか生暖かい目で見ていました。どうしたのかな~?って睦月は思いましたが、今は目の前で睦月たちと誘惑している魅惑の三角形が気になって仕方がないのです!

 

「提督! 食べてもいいですか!?」

 

 望月ちゃんも朧ちゃんも何だかモジモジしていたので、ここは望月ちゃんのお姉さんである睦月が代表して提督に聞いてみることにしました。

 睦月、偉いにゃしぃ!

 

「あぁ、遠慮なく食べてくれ」

 

 待ちきれない睦月たちを見て、提督が汁椀とお茶を運んできてくれた主計課妖精さんたちを労労いつつ頷いてくれました。

 

「いただきまぁーす!」

 

「いっただきまーす」

 

「いただきます」

 

 手を合わせて挨拶して、早速初めてのおにぎりに手を伸ばします。

 白いつやつやのお米を三角形に握ったもので、持ちやすいように下に海苔を巻いてくれています。手に取ると思っていたより熱くてちょっとびっくりしましたけど、さっきよりも近くから匂ってくるお米の湯気が……湯気が――む、睦月もう我慢できません!

 

「はむっ!」

 

 炊き立て熱々のおにぎりを頬張ると、最初に塩味を舌が感じておにぎりの中に閉じ込められていた湯気に『はふはふ』しながら口の中でお米を噛むと、信じられないくらいの甘みが口の中に広がって、もう――!

 

「おいしいぃー!」

 

「おぉ……めっちゃ美味い」

 

「美味しい……朧、おにぎりがこんな美味しいものだったなんて、思いませんでした」

 

 望月ちゃんも朧ちゃんも、睦月と同じくおにぎりの美味しさに感激している様子です。すぐに二つ目に手を伸ばして食べようとしていると、叢雲ちゃんが『おにぎりくらいで大袈裟ね……』ってお澄ましさんな顔で言っています。

 

「叢雲ちゃんも初めて食べたのはおにぎりだったのかにゃ?」

 

「えぇ、そうよ。もっともここじゃなくて海軍総隊にいた頃の話だけどね」

 

「ならさぁ、司令官のおにぎり特別美味いんじゃねーのぉ? マジでめっちゃ美味いし」

 

「はぁ? おにぎりなんてご飯丸めただけのものよ? そんなに違いがあるわけないじゃない」

 

「叢雲さんも食べてみればいいと思う。本当に美味しいから……多分」

 

「しょーがないわね。でもあんたたちの初めての食事なんだから、私なりに遠慮してたのよ?」

 

 睦月たちに勧められて叢雲ちゃんがおにぎりを一つ手に取ります。

 それにしても叢雲ちゃん。

 遠慮なんてしなくても、皆で一緒に食べるのが睦月は一番だと思います! なんて睦月が思っていると――

 

「なにこれ! 全然違う!」

 

 おにぎりを頬張った叢雲ちゃんが凄いびっくりした顔をしておにぎりを見つめてます。

 どうやら提督のおにぎりは、やっぱりとっても凄いおにぎりだったようですにゃ!

  

                ⚓⚓⚓⚓⚓

 

 大満足なお昼ご飯の後、提督と叢雲ちゃんも泊地内を案内してもらいました。艦艇だった頃の記憶だと鎮守府や泊地には人が大勢いるイメージだったけど、ここには提督と私たち――そして妖精さんたちしかいないそうです。

 あの活気のある港の雰囲気を思い出すと少しだけ寂しい気もするけど、これから艦娘の仲間たちはドンドン増えていくそうなので、睦月は楽しみです!

 泊地は想像していたよりもとっても広くて、睦月迷わないかちょっと心配になりました。でも仲間が増えれば迷っても誰かと一緒できますよね。

 

 一通りの案内が終わって、後は夜まで自由時間ということになりました。

 

「各自一八〇〇(ヒトハチマルマル)まで自由行動とする。泊地の設備を改めて見て回るもよし、グラウンドの整備はそれなりにしてあるので、身体を動かしてみるもよし、好きに行動して人としての体に慣れて欲しい。ただし泊地の敷地からは出ないように」

 

「はーいっ!」

 

「あーい」

 

「はいっ!」

 

 提督の指示にお返事しつつ、自分の恰好を改めて見ると『うふふっ♪』と笑いが出てしまいます。今睦月たちは『体操着』という服を着ているのですが、このブルマという服は動きやすくて睦月とっても気に入っちゃいました。

 他の皆も睦月と同じ格好で、最初に着ていた浴衣よりも動きやすくて嬉しそうです。

 

「あんた、ひょっとして今日も舗装工事の続き?」

 

「そうだな。今後のことを考えて車両が問題なく入れるようにしておきたい」

 

「手伝うわよ」

 

「すまん、助かるよ」

 

 むむむ。

 お話によるとまだ着任二日目の叢雲ちゃんなのですが、提督とっても仲が良さそうですにゃ。

 睦月ももっと提督と仲良くなりたい!

 

 ――というわけで。

 

「はいはい! 睦月も提督のお手伝いしたいです!」

 

「えぇー」

 

「朧もお手伝いします」

 

「えぇー……」

 

 朧ちゃんはすぐに賛成してくれたけど、望月ちゃんは何だか微妙な感じ?

 んー、でも何となく素直になれてないだけな気がします! 

 なので……うふふっ♪

 

「望月ちゃんは提督のお手伝いしたくないのかにゃー?」

 

「え……?」

 

 ちょっと意地悪な聞き方になっちゃったけど、きっと望月ちゃんも本心では手伝いと思ってると睦月は思うんです!

 お姉ちゃんの勘だけど!

 

「うー……」

 

 望月ちゃんは体操着の裾を両手で握って少し俯いて小さな声で唸って、時々提督の顔をチラっと見上げていますね。

 やっぱり最初に乗り気じゃない雰囲気を出してしまったから、睦月に言われて渋々手伝うって印象を提督に持たれるのが怖いのかな?

 うふふっ我が妹ながら可愛い性格ですにゃしぃ。

 ここは一つお姉ちゃんとして助け船を出してあげないといけませんね!

 

「提督も望月ちゃんに手伝って貰えると嬉しいですよね?」

 

「ああ、望月に手伝ってもらえれば大船に乗ったつもりでいられるな」

 

 おぉー!

 一切迷うことなく即答してくれるなんて、提督分かってますね!

 ここで提督が少しでも考えて答えると、望月ちゃんのようなタイプの子は察しがいいのですぐに気を遣われたのが分かっちゃうと思うので、即答してくれると凄く安心すると思うんです!

 

「うー本当かぁ? ……司令官」

 

「勿論だ」

 

「そっか……ん、あたしも頑張る」

 

 俯いていた顔を上げた望月ちゃんの頭を提督がポンと撫でると、照れくさそうに望月ちゃんが微笑んでいます。

 うーん、良かったにゃしぃ!

 

「では、作業を説明するから移動しよう」

 

「はーい!」

 

 嬉しくて元気に声を上げると、望月ちゃんが傍にきて『ありがとな……』って睦月の着てる体操着を指で摘まみながら言ってくれました。

 

 もぉー可愛い!

 

 嬉しくなって思わず抱き着いたら、ちょっと暑苦しがられたけど撫で撫でさせてくれました。

 

                  ⚓⚓⚓

 

 太陽が西のお空に傾いて、暑さが随分柔らかくなってきました。

 泊地の正門から本棟まで伸びる道はガタガタにひび割れていて、車が通るにはよくないそうです。特に重量物を積んだトラックなどには負担が大きくて、積んでいる物資にも影響が出る可能性があると提督が言ってました。

 なので、今睦月たちはその道路の補修作業を行っています。

 

 作業着に着替えた提督が削岩機(コンクリートブレイカー)という機械で、凄い音を鳴らしながら元々敷かれていた痛んだ路面を掘削して、出た破片を叢雲ちゃんと朧ちゃんがスコップですくって台車へと載せ、その台車を私と望月ちゃんで提督に指定された場所へと運んでいます。

 作業としての効率はあまりよくないそうなのですが、現在重機械の乗り入れが不可能なこの児島泊地では、こうやって地道にやっていくしかないそうです。

 

 この身体でどのくらいの作業が出来るのか最初は実感が湧かなくて、ちょっとだけ不安だったんですけど、実際に作業を開始してみると全然へっちゃらだったにゃし!

 提督のお話だと、私たち艦娘は艤装を纏っている時なら艦艇だった頃と同じ馬力を発揮することができるそうなんです。

 その馬力を発揮しても耐えられる身体の謎とか、物理法則の枠を飛び越えているとか、色々と難しいことが偉い学者さんの間でお話がされているらしいのですが、睦月にはよく分かりません!

 他の艦娘()たちも同じような反応だったので、睦月が特別お馬鹿さんというわけではないですにゃ。

 

 えーっと、とにかく睦月たち艦娘は凄く力持ちで提督のお役に立てるってことです!

 あ、ちなみに今は勿論艤装を纏ってはいないのですが、睦月たち艦娘は艤装を纏っていなくても元々の馬力の百分の一くらいは必要に応じて発揮できちゃうそうです。

 でも不思議なことに、泊地を案内してもらっている時に朧ちゃんとグラウンドで駆けっこした時は疲れちゃったのに、その時よりもずっと大変な作業をしている今は全然疲れないです。

 力の加減や疲れ具合とかは艦娘の無意識下でコントロールされているものらしいです。なので人と握手する時に力加減を間違えてしまう――なんてことは、基本的に起きないそうです。

 

 まだこの身体になってから一日も経っていないので、睦月たちもそういった部分の実感とかは全然ないんですけど、不思議と大きな不安は感じていません。

 だってまたこうやって私自身も睦月で居られることが出来て、またお仲間の皆と一緒に居られるのですから、睦月はそういうことよりも嬉しさの方が大きいんです!

 

 鼻歌を歌いながら台車を押していると、提督から『休憩にしよう』と声がかかりました。

 ちょうど台車に石が積まれるのを待っていた望月ちゃんは、そのまま石積みをしてくれていた叢雲ちゃんと朧ちゃんたちとお話しています。

 うん。うん。

 望月ちゃんが楽しそうで睦月も嬉しいですにゃ。

 

「睦月」

 

 三人の方へと駆け出そうとした私に、タオルで汗を拭っていた提督が声をかけてくれました。

 

「なんですかなんですかぁー?」

 

 声を掛けてもらえたのが嬉しくてウキウキしながら聞き返すと、提督は近くに置いてあった青くて蓋だけ白い箱から、不思議な形の水筒のようなものを取り出していました。

 

「これはペットボトルというものだ。ここを捻れば蓋が開いて中の飲み物が飲める。飲み終わったらまた蓋を捻って閉めれば中身を溢さずに携帯が出来る」

 

「おぉー透明な水筒です!」

 

 睦月の視線を感じた提督が、ペットボトルという物の名前と使い方を教えてくれました。原理は水筒と同じだけど、中に何が入っているのかすぐに分かるのは画期的ですね。

 人数分のペットボトルを受け取ると、提督が当然睦月の頭に手を置いて撫でてくれました。

 

「初建造艦が睦月でよかったよ」

 

「本当ですか!? そうなら嬉しいですにゃ!」

 

「ああ、君の明るい性格には今日だけでももう随分助けられている。他の姉妹艦や別型式の駆逐艦たちがこれから増えていっても、皆を助けてやってくれ。頼りにしている」

 

「はいっ!」

 

 提督に大きく一礼をしてからペットボトルを抱えて駆け出す。

 

 多分睦月は戦闘での能力はこれから増えていく艦娘()たちよりも弱いと思う。提督もきっとそのことは知っていると思うし、きっと睦月たち以上に解ってると思う。

 

 それでも――頼りにしている、と言ってくれました。

 

 仲間の下へと駆ける足は軽く、嬉しくて笑顔が止まりません。

 

                  ⚓⚓⚓

 

 夜になり泊地本棟に戻ると、お風呂に入りました。

 初めてのお風呂はとっても気持ちよかったんですけど、四人で入ってもまだ余裕のある浴槽ではしゃぎ過ぎて叢雲ちゃんに叱られちゃいました。

 もう少し艦娘の人数が増えたら宿舎へと移ることになるので、それまでは我慢して欲しいと提督に言われました。

 睦月たちは全然問題ないのですが、もっと大きい浴場があると聞いてとっても興味が湧きました。宿舎に移るときの大掃除も頑張るにゃしぃ!

 

 提督の作った美味しい夕飯を食べていると、カレーの話題が出てこれには皆大いに興味深々でした。カレーは海軍にとって特別な料理なので、睦月もぜひぜひ食べてみたいです!

 それに既に食べたことのあるらしい叢雲ちゃんが、ちょっとだけ得意げにカレーの感想を言っているのを聞いて、夕飯を食べた直後なのに涎が出そうだったにゃ……羨ましい。

 

 明日の流れについて提督から簡単な説明を受けたあと、本棟にある一室で眠ることになりました。

 こじんまりとした部屋にはパイプ組みの二段ベッドが二組置かれていて、そこには既に布団が敷かれていました。

 睦月と望月ちゃんペアと叢雲ちゃんと朧ちゃんペアで別れ、望月ちゃんに上と下どっちがいい? って尋ねたら、少しモジモジして『べつに……どっちでもいいよぉ』って言いながら、視線は二段ベッドの上に向けられているのを睦月は見逃しませんでした!

 

「じゃあ、睦月はお手洗い行きたくなりそうだから下がいいけど、いいかにゃ~?」

 

「う、うん。いいぞ」

 

 嬉しそうにはにかむ望月ちゃんに睦月も嬉しくなって大満足です。

 色々とお話をしていましたが、みんな段々と話すトーンに勢いがなくなってきて睦月もフワフワした気持ちになってきました。

 初めて感じる睡魔というものが心地良すぎて、瞼が重くて大変です。

 不寝番で見張りをしていた水兵さんたちって凄かったんですね……やっぱり私たちと一緒に戦ってくれてた人たちは凄かったんだなぁ~……。

 

 うーん、もう限界なのです。

 

 意識を手放す寸前に、私は早く()()()に会いたくて祈りました。

 

「如月ちゃん……早く会いたいな」

 

 ――提督、おやすみなさい。

  

 




一人称で書くのは学生時代以来でした。
無謀なことをしている気はヒシヒシとしていますが、ぼちぼち書いていきます。
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